TSUTAYA、データドリブン組織実現に向けて立ちはだかった壁

(Data Driven Forum 2016 レポート)

2016年09月01日


【POINT】

  • One-to-Oneでの顧客体験向上のためには、各部門が独自に管理している顧客データを統合する基盤整備が必要
  • 事業ごとにバラバラの組織体制とデータマネジメントを改めるには、データ民主化と、PDCAサイクルを定着させるトレーニングの充実が重要な役割を果たす
  • データや顧客インサイトは、PDCAサイクルを回すだけに留まらず、今以上に優れた顧客体験を提供するために役立てるべき
 

データアナリティクスを顧客体験向上に活用する。その実現には、組織風土や体制、業務プロセスなど、様々な課題が立ちはだかる。株式会社TSUTAYA(以降、TSUTAYA) ネットカンパニー マーケティング本部 サービス基盤推進ユニット ユニット長の大畠崇央氏は、Adobe Data Driven Forum 2016 の事例講演に登壇し、同社ネット事業が提供する様々なオンラインサービス利用者それぞれの顧客体験を向上させるうえで直面した、課題と解決方法について語った。

TSUTAYAがデータドリブン型マーケティングに舵を切った動機は?

TSUTAYAの事業形態は大きく「書店/レンタル」「Tポイント」「ネット」の3つに分かれる。大畠氏が所属するネット事業は、エンターテインメント分野の店舗情報の提供から、宅配レンタル、映像配信、音楽配信、通販といった事業、ライフスタイル分野のオウンドメディア運営、就職/アルバイト情報の斡旋、ベンチャー支援事業まで多岐に渡る。

国内で1年間にリリースされる新作コンテンツは、DVD、書籍、音楽を合わせて11万タイトルあり、過去作品を含めると約1,000万タイトルがTSUTAYAの作品データベースにストックされている。ここまで作品データベースが大きくなると、会員が自分好みのコンテンツを短期間に選ぶのは難しく、面倒な作業になる。そこで、リピーターを惹きつけるためには、TSUTAYAは会員それぞれにOne-to-Oneで的を射たコンテンツのレコメンドを行うことが効果的と考えた。そのしくみを作るためには、TSUTAYAのネット事業で提供する各種サービスの利用履歴を横断的に把握できるデータ基盤の整備が欠かせなかった。また前提としてWebサイトリニューアルを行う必要があった。

TSUTAYAが抱えていた「縦割り」の問題を解決した方法とは?

One-to-Oneレコメンドを実現しようとすると、あるユーザーが関心を持った芸能ニュース、その芸能人が関連するコンテンツの店舗在庫、宅配レンタルや映像配信サービスの利用実績のように、関連する全データを可視化するしくみが必要となる。大畠氏はそのしくみを実現するためには、当時のTSUTAYAは組織、データ、スキルの3つの領域で課題があったと振り返る。そして、この課題解決を支えたのがAdobe Analyticsであった。

組織

大畠氏は、元々の組織は事業ごとに縦割りだったが、「サービス基盤推進ユニット」と呼ぶ事業横断型組織を作って改善したと説明。このユニットは一元化されたデータを解析するサービス基盤推進チームと、各事業に対してデータアナリティクスのコンサルティングを行うコンサルティングチームに分かれる。

アナリティクスのための組織を作るには、参謀タイプ(マーケティング部門に所属してアナリティクスを行う)、導入支援タイプ(IT部門に所属してアナリティクスを行う)など、方法は複数ある。TSUTAYAでは、マーケティング部門の中に推進チームを置き、ITとアナリティクスの両方を行うという、参謀タイプと導入支援タイプの中間アプローチを選択した。

データ

組織が縦割りだったことは、データマネジメントのサイロ化にも影響していた。そこで各事業のデータを統合すれば、「誰が」「いつ」「何を」「どこで」「購買/レンタルしたか」を把握できるようになる。TSUTAYAは、データ分析基盤を構築し、レコメンド、ランキング、統計データなど全データを網羅的に解析し、各事業に結果を返すしくみを構築した。特に「いつ」「どこで」に関するアクセス履歴の一元化に貢献したのがAdobe Analyticsである。

データのサイロ化の問題は、事業ごとにKPIの考え方が異なることが原因であった。例えばエンターテインメント分野のサービスの場合、情報コンテンツだけを扱うライフスタイル分野のサービスと異なり、配信サービスや通販では購入、宅配レンタルでは契約をコンバージョンとみなす。バラバラのKPIで事業を評価するなら、データ連携を行う意味がない。

この問題を解決するために突破口となったのは、Adobe Analyticsのカスタムイベント設定を用い、事業共通KPIを作ることだったという。この結果、「店舗情報でCD視聴した人がその後音楽配信でダウンロードしたか」「ニュースを見てその後レンタルしたか」といった、事業をまたいだ顧客の行動成果が把握できるようになったと大畠氏は評価する。そして、事業共通KPIが可視化された結果、「『おせっかい文化』が浸透した(大畠氏)」。TSUTAYAで言う「おせっかい」とは事業間の相互協力体制のこと。互いのデータが見えるので、互いの成功事例や問題点がわかる。協力に対する効果も明確に現れるわけで、Adobe Analyticsを利用したデータ統合は、事業間の協働を促進する役割を果たしている。

スキル

ネットカンパニー社員数を100%とすると、TSUTAYAのAdobe Analyticsアカウント発行数は99%。1ヶ月以内に利用したユーザーが6割以上、1週間以内に利用したユーザーが3割以上と大畠氏は胸を張る。アカウントをただ持っているだけではなく、実際に使っているわけで、データ民主化とPDCAサイクルが定着していることの現れと言えるだろう。

また、ツールの利用方法について学ぶ機会が豊富だ。例えば、ネットカンパニーの新卒教育プログラムでは、入社式が終わった直後の新入社員の研修で、1週間のうち半分をデータに関連することやアナリティクスに関連することを学ぶカリキュラムを組んでいる。このトレーニングを受けた後、各事業に本配属となるわけだ。さらに、既存社員向けのAdobe Analytics勉強会もある。社員全員向けの基礎編、事業長が指名した人向けの上級編、マーケティング担当者向けにもっと詳しい使い方を学ぶ事業解析編と、業務内容と必要性に応じた場を提供している。

さらに、ツールの使い方だけでなく、課題発見を目的としたワークショップの実施や定例会議で、各事業が抱える課題認識と解決を促す施策も展開している。その材料として、全社メールで、Adobe Analyticsのデータを基にした現状をレポートし、アナリティクスを日常の身近なものにしてもらうよう工夫している。

データ起点で意思決定のPDCAサイクルを回す方法とは?

大畠氏は、課題発見、深堀分析、レポート、レコメンドの4つの分野でAdobe Analyticsを役立てていると語る。

課題発見:

宅配レンタルサービス加入のDISCASのパス(経路)解析を実施した。パス解析は、Webサイト訪問者がどのページを見て、その後に何をしたかを詳しく見るもの。例えば、アフィリエイト経由で入会した利用者が継続する場合とすぐ辞める場合の行動の差を明らかにできる。

深堀分析:

「映画『スターウォーズ』を視聴した」「DISCASのサイトに2回訪問してから入会した」など、特定のセグメントでその後の行動を分析するもの。例えば、映画『千と千尋の神隠し』のページを見た人はジブリのアニメを好きなのに対し、映画『アナと雪の女王』のページを見た人はヒット作が好きという傾向の違いを把握することができる。

レポート:

2015年10月に顧客動向調査を実施した。「地域別」「年齢別」「DISCAS会員/非会員」などの属性分析からコホート分析まで、かなり大規模な調査であった。毎月同様の規模の調査を実施するのは難しいが、日次で概況を把握するためのダッシュボードを作り、誰もが情報をドリルダウンで見られる環境を提供している。

レコメンド:

TSUTAYAの場合、セグメント別のランキングは、レコメンドのためのデータになるだけでなく、利用者に向けた情報コンテンツにもなる。分析してPDCAサイクルを回すだけでなく、コンテンツ制作でもAdobe Analyticsを役立てている。

完全な顧客体験提供で重要になるのは、オンライン/オフラインのデータ連携

大畠氏は、今後に向け「店舗との連動が一番の課題になる」と見ている。Adobe Analyticsで取得したネット事業のデータと店舗のPOSデータを連携させ、リアルタイムでの行動予測につなげていく考えだ。実現すれば、オフラインとオンラインの顧客体験をつなげ、完全なOne-to-Oneマーケティングのしくみが完成する。大畠氏は、「データは結果報告のためのものではなく、お客様の将来の行動を知るための道しるべ」と強調する。

TSUTAYAの取り組みでは、まずネット事業という絞り込んだ範囲で成功体験を得ている点が見逃せない。取り組みを通じて得た知見は、店舗データとの連携に取り組みを拡大する際に役立てることができる。このアプローチは、データドリブンマーケティングをどこから始めればいいか悩む企業の参考になるだろう。また、しばしば忘れがちなデータや顧客インサイトの民主化にきちんと配慮しており、データアナリティクスを組織の中で定着させた効果は大きいと言えるであろう。

 

UNITE編集部


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