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- 1 顧客の定性分析が企業存続の生命線:4社の事例から読み解く
顧客の定性分析が企業存続の生命線:4社の事例から読み解く
2016年09月06日
【POINT】
- 消費者理解に際し、時代に取り残されないようにするには、顧客を「セグメント」や「デモグラフィー」のような「面」ではなく「点」、つまり個人を理解するのが大切だ
- エスノグラフィック調査を行っているのは顧客体験に携わる担当者の16%にすぎず、それを考えると、顧客体験を極めるにはまだまだ長い道のりがある
- 消費者にロイヤルティを抱いてもらうという考え方では、もはや通用しない。今は企業側が顧客に対してロイヤルティを抱かなくてはいけない
消費者の行動を決めているものは何なのか。これを知るために「マーケターは定量分析と定性分析のバランスを取る必要がある」と、リサーチ会社であるフォレスター リサーチのアナリストたちは説いている。
そのフォレスターの主席アナリストであるトニー コスタ氏によると、消費者とそのニーズに関して、マーケターがこれまで当たり前としていたことが、今では時代に合わなくなっているという。「そのためか社会的な地位や状況ではなく、ライフスタイルに基づいて消費者を理解しようという動きが見られる。今までのような前提に基づいたままのマーケターは、消費者を理解する際に死角ができかねない」とコスタ氏は忠告している。

では、この死角をあぶり出し、時代に取り残されないようにするにはどうするか。そのためには、消費者を「セグメント」や「デモグラフィー」など、「面」として理解するのではなく「点」、つまり個人として理解するのが大切だとコスタ氏は主張する。つまり消費者を社会的な存在としてとらえ、彼らに対してより深いリサーチを行うべきなのだ。
最近のフォレスターの調査によれば、顧客体験の担当者が行っているリサーチは、非常に浅いデータセットに依拠していることが明らかになっている。これについてコスタ氏は「リサーチ担当者は、消費者のごく小さな部分しか見ていない。つまり『顧客体験』というコンテクストをまったく考慮していないのだ」と述べている。
実際、コスタ氏によれば、エスノグラフィック調査(※)を行っているのは顧客体験の担当者の16%に過ぎない。それを考えると、顧客体験を極めるには、まだまだ長い道のりがあると言っていいだろう。
(※UNITE補足:エスノグラフィック調査とは、特定グループにおける社会心理や行動の特徴について、実地での観察や面談など通じた定性分析を行うこと)

では、積極的に定性分析をマーケティングに活用している企業にはどのようなものがあるだろうか。
企業研究1:アディダス(Adidas:小売業)
アディダスでは、エクササイズ用ウェアに関する女性の好みを理解するために、社会心理学的調査を行った。その結果、ヨガなどのグループエクササイズでは、外見的な満足感も女性には重要であることがわかった。そしてこのインサイトは、ファッションデザイナーのステラ マッカートニーとの提携につながったのだ。
企業研究2:ジョン ディア(John Deere:製造業)
重機メーカーのジョン ディアも、同じく成功事例としてあげられる。同社ではインド市場への進出で苦戦し、業績が伸び悩んでいた。そこで現地調査を行ったところ、トラクターなど同社の製品は、インドでは農家とその家族に、基本的な移動手段としても利用されていることがわかった。ところが、ジョン ディア社のトラクターは座席がひとつしかない、そこが問題だったのだ。まさにこの点を改良したところ、同社の売り上げは伸び始めた。
企業研究3:マリオット インターナショナル(Marriott International:ホスピタリティ業)
ホテルチェーンを展開するマリオット インターナショナルでも、エスノグラフィック調査を行い、顧客ロイヤルティという概念の見直しに役立てている。マリオットで顧客ロイヤルティ部門を統括するトム コジック副社長は、以下のように述べている。
「消費者に、自分たちのブランドに対してロイヤルティを抱いてもらうという昔ながらの考え方では、もはや通用しない。今は、企業側が消費者に対してロイヤルティを抱くという発想の逆転が必要だ。市場シェアを勝ち取るには、企業が消費者へのロイヤルティと感謝の姿勢を見せなければならないのだ」
しかし、毎月毎月投資家に業績を評価されるマリオットのような企業にとって、個人レベルでの消費者理解に取り組むのは難しい課題だ。しかし、ひとたび個人としての消費者を知ると、その理解レベルは極めて深いものとなる。そのことを、コジック氏はこう述べている。
「行動データをどれほど集めたところで、我々が定性リサーチで得た理解レベルを達成することはできない」
企業研究4:Etsy (小売業)
ハンドメイド製品のオンラインマーケットを展開するEtsyでは、バランスの取れた顧客理解を重視している。EtsyでUXリサーチを率いるアレックス ライト氏は、3年前にカスタマーインサイトチームの構築に着手した。ライト氏は現在、UX/マーケティング/製品/顧客体験/カスタマーインサイトを総合し、インターフェイス設計から戦略まで、Etsyビジネスのあらゆる領域へ情報提供を行っている。ライト氏によると同社では「消費者をより深く理解することは、Etsyブランドへの共感につながる」という信念のもと、カスタマーリサーチに多大な投資を行ったという。
またライト氏はこう語っている。
「Etsyにはデータを重んじる意識が根付いている。我々は堅牢なA/Bテストプラットフォームを開発しているが、それはA/Bテストを継続して実行し続けることで、問題の所在が明らかになるからだ。当社では、バイヤーとセラー双方の理解に全力を尽くしていて、いまだ満たされていない消費者のニーズや機会、カスタマージャーニーにおける感情の起伏などを特定する目的でリサーチを活用している」
(2016年6月21日 CMO.comの記事より)
Giselle Abramovich (CMO.com 戦略担当副編集長)