クリエイティブなCMOに求められる12の資質(前編)

2016年10月13日


 

「データドリブン」なマーケティングの時代を迎えた今、クリエイティブなマーケティングリーダーの価値が下がりつつある、というような印象を持ったことはないだろうか。

実際には、マーケターがクリエイティブなスキルと能力の発揮すべき状況は、新たな局面を迎えている。競争と変化の激しい今日の市場環境のなかで、クリエイティビティは大いに役立つものだ。

米調査会社Forrester Research(フォレスター社)のVP兼主席アナリストであるジェームズ マクイヴィ氏は、「非線形思考法(ノンリニア思考法、すなわち、因果関係にとらわれすぎない考え方)が、今日においては非常に有用だ」と述べている。

「製品開発において、マーケティングにおいて、そして顧客体験においても、大きなイノベーション(革新)が必要となっている。この革新は、線形思考法、つまり、これまでのマーケティング施策の延長だけで実現できるものではない」

むしろ、クリエイティビティを発揮できるかどうかが、革新を生み出す重要な差別化要因となってくる。例えば、データの独創的な解釈、これまでにない仕組みの制度化、予算配分の戦略転換、といったことだ。従業員のスキルに関する世界経済フォーラムの最近の報告によると、「クリエイティビティ(創造性)」は、2020年までに「複雑な問題を解決する能力」と「クリティカルシンキング(批判的思考)」に続く3番目に重要なスキルになると予想されている(2016年時点ではクリエイティビティの重要度ランクは10位)。

「データ、モバイル、動画といったデジタルの爆発的な進化により、消費者の関心を得るためのマーケティング競争は激化の一途を辿っている」と、AdobeのエグゼクティブVP兼CMOであるアン ルネス氏は述べている。「この世界で抜きん出るには、マーケターは基本に立ち返る必要がある。つまり、クリエイティブかつパワフルなコンテンツで、一人ひとりの顧客に訴える意義深いエンゲージメントを生成していくということだ。この点は今も昔も変わらず、クリエイティビティは優れたマーケティングの核であり続ける」。

しかし、マーケティングの効果を高めるための選択肢が非常に多くなり、しかも、こうした選択肢のコストが下がり、ハードルが低くなる中、何を追求していくべきなのかという判断は難しい。そこで役に立つのが「データ」だ。データとクリエイティビティを融合すれば、さらに望ましい。B2Bマーケティングのベテランであり、マーケティング戦略コンサルタントファームChief Outsidersのパートナー兼CMOであるケニー ドライバー氏は、これを「インフォームド クリエイティビティ(裏付けを備えた創造性)」と呼んでいる。また、クラウド型BIダッシュボードなどを提供するGoodDataのCMOであるブレイン マチュー氏は、「コネクテッド インサイト(首尾一貫した洞察力)が望ましい」という表現で、その重要性を語っている。

「データというものは、そこに意味を見出してこそ価値がある」とマチュー氏。「我々人間の仕事は、創意を凝らした方法でデータを活用し、望ましい顧客体験やビジネスの成果に反映させていくことだ。デジタルビジネスの現状は、我々の真の創造性を表現するためのキャンバスのようなものだ」。

もちろん、2016年現在活躍しているクリエイティブなCMOは、今から20年前、または数年前と比べてさえ、大きな変身を遂げているだろう。この記事では、さまざまな業界で活躍しているマーケティングリーダーに問いかけ、クリエイティブなCMOがデジタル時代に成功するうえで必要な資質について意見を集めた。以下、彼らの意見をシリーズ「パート1」として紹介する(パート2は追って公開予定)。

クリエイティブなCMOに求められる資質1:顧客に対する共感力

クリエイティブなCMOはいま、顧客を理解する能力を備えており、企業において「顧客の声の代弁者」となり得る。「一般的に、企業には共感力が足りないという欠点がある」とマクイヴィ氏。「しかし、ブランドの構築に責任者として携わってきたCMOは、顧客を深く理解しており、顧客の声に命を吹き込める唯一の存在となり得る」。

クリエイティブなCMOは、顧客知識をビジネス要件と技術力に結びつけて考え、イノベーションの原動力にする。クリエイティブ業界を対象に3D印刷技術を提供するMcorでCMOを務めるディードル マコーマック氏は、「顧客の身になって考えること」が非常に重要であるという。例えば、同社の顧客は非常に美意識が高い。この点をよく承知しているマコーマック氏は、製品デザインにも参加している。「カスタムスキン(好みのデザインにカスタマイズできる機能)を提案し、エンジニアリングチームとの緊密な連携でこれを実現した」と同氏は述べている。

クリエイティブなCMOに求められる資質2:エキスパート集団を統べる能力

今日ではマーケティングにおいてさまざまな分野にまたがる知識が必要とされるようになった。ひとりのCMOが組織の運営に必要なあらゆるスキルを備える、などということは不可能だ。その課題に対する答えとしてマクイヴィ氏は、「優秀なチームを作ることが秘訣だ」と語る。

Russell Reynolds Associatesでグローバルリテール、マーケティング、デジタル化事業を指揮するノーム ヤスチン氏は、近年、分析力の高いCMOが直属の部下としてクリエイティブ担当役員(チーフクリエイティブオフィサー)を雇うケースを見てきたという。「逆に、クリエイティブなCMOの場合は、右腕としてデータ脳を持つ人材を選ぶのがふさわしい」とヤスチン氏は述べている。

そのほかにも、CGO (Chief Growth Officer)、CRO(Chief Revenue Officer)、CDO (Chief Digital Officer) といった新しい役職を設置することで、データにまつわるギャップを埋めていくことが可能だ。「突っ込んだデータ分析ができる人材を味方につけ、データポイントにもとづいたクリエイティブな思考で戦略的な判断をする。そんな組織を作れるCMOが成功を収めるだろう」と、LiquidHubパートナーであるハンク サミー氏は述べている。

クリエイティブなCMOはまた、いかにエキスパートの集団を集め、定着させ、彼らにインスピレーションを与えていくかについて頭を働かせなければならない。「次なるビッグストーリーを紡ぎ出せる優れた広報担当のスキルは、最強の新webサイトを作れるデザイナーのそれとは全く異なる。それはまた、最新の広告技術(アドテクノロジー)を実装できるマーケティングITの専門家が持つスキルとも全く違う」と、ThoughtSpotのCMOであるスコット ホルデン氏は述べている。「多様な役割を持つマーケターの集団を率い、彼らを鼓舞していくには、CMOに柔軟なマネジメントスタイルが求められる」。

クリエイティブなCMOに求められる資質3:データを最大限に活用できる能力

顧客の関心を引くことは、これまでになく難しくなっている。「B2Bマーケターとしては、ノイズの海を突破するためにクリエイティビティを発揮しなければならない。しかし、適切な場所とタイミングで狙い通りの相手にクリエイティブを届けられるかどうかは、すべてデータとインサイトにかかっている」と、Aventionの現CMOであり、かつてZipcarでもCMOを務め、自らリサーチ会社を経営した経験もあるビクトリア ゴッドフレイ氏は述べている。

CA TechnologiesのCMOであるローレン フラハティ氏にとっても、マーケティングの判断を行う上でデータが不可欠だ。「テクノロジーを活用すると、特定のメッセージを対象の見込み客と結びつける作業を通じて、より狙いが正確になり、よりクリエイティブにもなれる」

同社の ”app culture” マーケティングキャンペーンは、恋愛から買い物まで、あらゆる場面でソフトウエアを活用するという、非常にクリエイティブな取り組みだった。「(しかし)その裏側では、どんなクリエイティブが我々の狙った相手の共感を呼ぶかを判断するために、アナリティクスと膨大なデータ収集が行われた。この取り組みが、どこでどのように広告枠を購入するかという戦略に深く関わっている」とフラハティ氏。

クリエイティブなCMOは、データをコントロールするのではなく、データから学ぶ姿勢が求められる。「自分が見たくないものや、理解するのが難しそうなものから目を背けるマーケターもいる。データが非常に面白いことを教えてくれているかもしれないのに」と、MediaMathのCMOであるジョアンナ オコネル氏は述べている。

クリエイティブなCMOに求められる資質4:マーケティングのインパクトを計測する能力

CMOには、データに対するクリエイティブなアプローチが望まれる。「しかし、それよりも重要なのは、データを活用してクリエイティブの成功度を計測する力だ」と先述のゴッドフレイ氏は述べる。「マーケティング施策にしても、広告施策にしても、目標の設定と結果の計測計画が(常に)不可欠だ」。新製品の場合、目標として売上や市場シェアが考えられる。ブランドキャンペーンの場合は認知度ということになる。

「これまでクリエイティブなマーケターといえば、黒のタートルネックでキメて会議室に閉じこもりアイデアを練っている人たち、というイメージがある。しかし、マーケティングの仕組みは、今も昔もデータドリブンなものだ。昔ながらの広告代理店だろうと、最も成功してきたのは、使える限りのデータから知見を引き出してきた会社だ。昔と変わった部分といえば、使えるデータの量と、顧客にとって多様な選択肢が増えたという点だけだ」と、LionbridgeのCMOであるクリント プール氏は述べている。

MakeerlyのCEOであるサラ ウエア氏によると、クリエイティブなCMOに求められる最も重要なスキルは、「ダイレクトレスポンス(直接把握できる反応)を生まないキャンペーンを実施する際に、長期的な成果を予想する先見性」であるという。「コンバージョンやソーシャルのインパクトは、すぐに表れるものではない。クリエイティブキャンペーンには忍耐が必要だ」。

さらに、クリエイティブなCMOには、ビジネスにとって重要な指標を見極めるにあたり、いままでとは違う考え方が必要とされる。「現在、マーケターがこれまで使ってきた指標(広告の閲覧数やインプレッション数など)の多くに疑問が投げかけられている。今も変わらず価値がある指標はどれか。あるいは、消費者との新しいコミュニケーション方法に基づき、何を新しい計測の仕組みとして採用するか。それらを考える際に、クリエイティビティが必要となる」と、 SpredfastのCMOであるジム ルッデン氏は述べている。

クリエイティブなCMOに求められる資質5:仮説を立て、検証する能力

Blipparのグローバルマーケティング部長であるオメイド ハイウェジ氏は、学生時代に数学を専門としていたが、その後アートディレクターの職も経験している。「直感と分析の両刀使いには、面白い解決策を素早くひらめく力があり、しかもその解決策は確実性も高い」とハイウェジ氏。彼は「マーケティング幹部にとって一番重要となるクリエイティブな手順は、マーケティングの在り方の変革につながるような仮説を立てることだ」と述べる。

これは、データを見ながら同時に「もしこれがXXだったら?」と勘を働かせる能力を意味する、とハイウェジ氏は付け加えている。その次のには、直感で得た仮説を検証していく。「通常のマーケティング業務を滞りなく進めていくことが、リーダーの役割の要であることに変わりはない。しかし、ブランドの成長につながるような商機の発見に常に目を光らせておくことも、ますます重要になってきている」。

クリエイティブなCMOに求められる資質6:臨機応変に対応する能力

CMOは通常、パフォーマンス指標とデータを元に判断を行うよう求められるが、「パフォーマンス指標」と「データ」は、「従来的な意味ではクリエイティブと対極にある」と、ソーシャルインサイトプラットフォームBrandwatchのウィル  マキネスCMOは述べている。「指標やデータといった課題に対し、クリエイティブに取り組むことができれば、他社との差別化が図れる。クリエイティビティは、スピードや自信といったものにつながっているからだ。クリエイティブなCMOが、データドリブンな解決策を認識できないから答えを出せない、などという事態はあり得ない」と彼は続ける。

2013年のスーパーボウルで停電が発生した際、クッキーブランドのオレオが実に迅速に動いたのは有名な話だ(※)。しかし、ここで重要なのは、オレオが「極めてクリエイティブに対応し、一般的ではない場面で、魅力的なな方法によるブランドポジショニングそのものをソーシャルメディアのフォロワーに展開した」点であると、行動マーケティングエンジンZaiusのマークギャリーCEOは述べている。「大胆な考えを実現し、すべてのチャネルで創造性を発揮するには、クリエイティブなCMOがあらゆる可能性を考慮しなければならない」。

(※)停電中に「Power out? No problem.(停電? 問題ない)」というツイートに合わせて、暗闇の中のオレオに「YOU CAN STILL DUNK IN THE DARK(暗闇の中でもダンクできる=暗闇の中でもオレオをミルクに浸せる)」というキャプションをつけた画像を投稿し、多くのソーシャル拡散を成功させた。

また、マーケティングプラットフォームベンダのSpringbotでは、社内的なマーケティング手順を著しくスピードアップさせたという。「アジャイル開発という概念は、製品チームだけのものではない。マーケティング計画のアプローチにも応用できる」と、エリカ ジョリー ブルックスCMOは述べている。

後編へ続く

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米調査会社であるForrester Research(フォレスター社)によるこのレポートでは、あらゆるデジタルプロジェクトで、ブランド属性とビジネス目標を適合させる方法を、判りやすく解説しています。


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