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- 1 基礎から押さえる:「エクスペリエンスビジネス」の時代に向けた企業変革4つのポイント
基礎から押さえる:「エクスペリエンスビジネス」の時代に向けた企業変革4つのポイント
2016年11月17日
【POINT】
- デジタル技術の進展により、顧客と企業の関係は逆転した。顧客の感じる体験の質が、ビジネスの成否を分ける
- マーケティングリーダーは変革の旗手となり、デジタル変革プランの策定に着手すべきだ
- デジタル化の波は、未曾有の勢いで進んでいる。ビジネスケースは今すぐ作成を始めるべきだ
デジタル技術の進展により、企業を取り巻く環境は大きな変化の時代を迎えている。特に顧客接点の領域における変化が急激だ。デジタルによって、顧客と企業の関係は変わり、いまや顧客の能動的な行動がビジネスの成否を握っている。主導権は顧客にある。そして顧客の購買行動が企業の側へと近づくほど、企業は他社との厳しい競争に直面することになる。その結果、企業側の都合やペースで顧客とコミュニケーションを展開する、という贅沢は許されなくなってしまった。顧客が購買行動のどの段階にいようとも、企業は見込み客を見分け、一人ひとりが共感できるような対話を交わし、自社へと引き込んでいなかければならない。顧客接点での対話において、顧客の感じる体験=「エクスペリエンス」の質が、ビジネスの新たな通貨となるのだ。この未来はすぐそこに来ている。
企業におけるマーケティングの役割そのものが大きく変わりつつあるという見方に、異論を唱える人はまずいないだろう。かつてマーケティング部門が、広告宣伝や販売推進を担った。その後、データベースマーケティングが現れ、次にデジタルマーケティングが登場した。いま企業に求められているのは「顧客体験マーケティング」だ。しかもそれは特定部門だけに課せられたものではない。「顧客体験を最重視するマーケティングマインド」を、組織全体で共有できなければ実現できない。
エクスペリエンスという通貨を基軸に、顧客と企業が取引を行う。この事業構造を「エクスペリエンスビジネス」と呼ぼう。そして、エクスペリエンスビジネス時代に突入しようとする企業にとって急務となるのが、デジタル時代に自社を適合させるための変革、すなわちデジタル変革だ。デジタル変革には、自社の経営理念、商品やサービスのあり方、組織風土と人材、業務プロセスとそれを支える情報基盤まで、あらゆる領域が対象となる。
エクスペリエンスビジネス時代に向けて、自社のあらゆる経営資源をデジタル変革させるには、戦略、投資、そして痛みが伴うだろう。とうてい一筋縄ではいかないが、遅かれ早かれ、着手しなければならない。自社と顧客とに精通したCMOに代表されるマーケティングリーダーに求められているのは、その変革を牽引する旗手となることだ。
変革成功へのカギ
変革を推進するマーケティングリーダーにとっての出発点は、全社の賛同を得られる「デジタル変革プラン」の策定だ。以下、企業のデジタル変革における4つのポイントを挙げる。
デジタル変革プランのポイント1. あるべきブランド体験に向けた道筋をロードマップに落とし込むこと
まずは変革の道筋を明確にする必要がある。自社の顧客にとってブランド体験はどんなものであるべきか、達成ゴールを定義し、これを実現するための戦略と方策をロードマップとして落とし込むのだ。自社の強みと弱みを見つめ直し、その要因を強化/改善すべき、あるいは「破壊的創造」すべき領域を構想する。そして初年度に達成すべきこと、2年目、3年目にはどの段階まで進行していくべきか、といったビジョンを明文化する。中期経営計画と同義かもしれないが、ポイントはエクスペリエンス、すなわち顧客体験を起点とすることだ。また重要なことは、柔軟性である。市場環境は変化し、これにあわせて優先度も変えるべきだからだ。マーケティングリーダーにも経営陣にも、変化に対する深い洞察力、高い適応力、そして素早い対応力が求められる。
デジタル変革プランのポイント2. 戦略の核を確立すること
様々な顧客接点でデジタル時代に即したエクスペリエンスを実現しようとすると、新たなスキルやプロセスを多様な部門と人材に組み込まなければならないことに行き当たるだろう。顧客の求めていることを深く理解し、すばやく対応することが求められる。組織の横の連携もこれまでとは違ったレベルに引き上げなければならない。限られた経営資源という制約のなかで、どの領域が戦略的に重要で自社内の能力を鍛えるか、どこを外注できるか、といった判断も問われる。変革の中核領域を特定すべきである。
デジタル変革プランのポイント3. 十分な投資資金を確保すること
変革にはコストが伴う。デジタル変革も例外ではない。経営陣や株主の投資判断と決済をうながす「ビジネスケース(予算判断のもととなる計画/企画書)」が欠かせない。成熟した市場環境の中で新規投資を確保するには、変革の進展に伴う収益モデルを描き、投資効果を示さなければならない。まず優先して訴求すべきは、デジタル変革によって可能となる長期的なコスト効率の向上が挙げられる。市場競争で勝ち残るために企業変革は不可欠なため、時流の変化に対応することも、ビジネスケースに反映すべき重大目標だ。
デジタル変革プランのポイント4. 変革推進のエンジンを獲得すること
何事も変革を支えるのは人材であり、彼らを支える事業環境である。エクスペリエンスビジネスを推進するには、あらゆる顧客接点で全社が一丸となって、顧客一人ひとりの期待に応えなければならない。新しいスキル、新しい業務プロセス、その効率化をうながすテクノロジーであるデジタル基盤、こうしたものの総体が、変革のエンジンとなるはずだ。あらゆる顧客接点で顧客の発するシグナルをすばやくとらえ、分析力と共感力を生かし、また創造性を発揮しながら、顧客との感情的なつながりを深めるような体験を提供することが、顧客にとってのブランド価値となり、顧客体験という通貨交換が収益を生む。こうした事業構造へと至るには、エンジンとなる人材を育成ないし獲得し、デジタル基盤を整備しなければならない。
この先数年に渡り、すべての業界で新たな勝ち組と負け組が明らかになっていくだろう。データドリブン、顧客中心といった最新のアプローチをブランド戦略に取り入れていけるかどうかが、会社が勝ち組と負け組どちらになるかを左右するだろう。
変化の規模は大きいが、恐れる必要はない。これまでに見てきたように、コストを意識した強固なビジネスプラン、あるべきブランド体験に向けたロードマップ、変革期間の全体を通じて柔軟に現実を見つめる姿勢があれば、エクスペリエンスビジネスの時代にもその企業は成功を収めるだろう。マーケティングリーダーがなすべきは「迅速な行動」につきる。デジタル化の波は、未曾有の勢いで進んでいるのだ。今すぐ、ビジネスケースの作成を始めよう。
CMO.com
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