顧客中心へと舵を取れ。エクスペリエンスビジネスを実現する戦略の二軸

2016年12月13日


【POINT】

  • モバイル利用の普及により、消費者や電子メールやインスタントメッセージなどに多くの時間を費やしている
  • そもそもメールアドレスを持たないような世代にリーチするには、LINEのような新たなチャネルの併用が欠かせない
  • 企業が備えるべきコミュニケーション戦略は二軸あり、課題を乗り越えるカギは、クロスチャネルマーケティングへの取り組み、データの活用である

モバイル端末の普及、多様なコミュニケーションを提供するSNSなど、デジタル化のトレンドは消費者の「選択の自由」を拡大した。「いつでもどこでも自分のペースで情報にアクセスでき、欲しいものがすぐ手に入る」のが、消費者から見える今の世界だ。

それに従い、企業と消費者のコミュニケーションのあり方も様変わりした。企業の側から見ると、テレビ離れ、PC離れ、際限のない新興チャネルの登場と多様化、といった課題として映るだろう。その本質は、どのチャネルを企業が選ぶか、ではない。消費者は企業の思惑通りには行動しない。
消費者の選ぶチャネルが、企業の対応すべきチャネルなのだ。

デジタルの利便性に慣れ、それを当たり前だと捉えている消費者を相手に、企業はいかに接するべきだろうか。消費者の求める適切なエクスペリエンスを提供することのできる「真に顧客中心のビジネス」とはどのような姿で、そして企業が備えるべき戦略とは何だろうか。

消費者コミュニケーションの実態

まずは消費者の動向を押さえよう。企業の発信する情報を、消費者はどのように受け取っているのだろうか。アドビの調査した米国のホワイトカラーとミレニアル世代(18~34歳)の動向(※1)によると、モバイル利用の普及により、電子メールやインスタントメッセージに費やされる時間の増加、という行動の変化が見られる。ホワイトカラーでは、電子メールに費やされる時間が前年比で17%増加したと回答している。またミレニアル世代は、他の年齢層と比べて電子メールに費やす時間が最も長く、90%がモバイルを利用している。

同様の傾向は日本の消費者にもあてはまるだろう。20~40代のモバイルユーザーを対象とした、日経デジタルマーケティングの調査(※2)を見てみよう。「企業から情報を受け取る際の手段」を複数回答可で聞いたところ、もっとも利用者の多い手段は電子メールであった。

企業・ブランドからの情報を受け取る手段

一方で利用頻度を見てみると、「もっとも利用するサービス」はLINEが電子メールを抜いてトップとなったという。

企業・ブランドからの情報を受け取る手段

電子メールの存在感は大きいが、日本を含むアジア地域に特徴的なLINE、Facebook、Twitter、Instagram、Google+と、他のチャネルも見逃せない。この調査ではカバーしていない、webサイトやモバイルアプリ、あるいはウェアラブルのような新興チャネルも考慮すべきだろう。

存在感を増すLINE

なかでもLINEの存在感は大きい。調査結果を年代別に詳しくみると、20~24歳では70.3%、25~29歳では74.6%、30~34歳は59.3%が、「最も使用する」ツールとしてLINEを挙げている(35歳以上は65.9%が電子メールと答えている)。年代別の差が顕著だが、今後も若い層を中心にLINEの使用率は伸びると予想される。

「現在、スマートフォンのヘビーユーザーである10代は、リアルタイム性に欠けるメールを使っていない。そもそもメールアドレスを持っていない人もいる」と、LINE株式会社 上級執行役員 コーポレートビジネス担当 田端信太郎氏は指摘する。

LINE株式会社 田端信太郎氏

田端氏によると、LINEでメッセージを送ると、その数分後には読まれる可能性が高いという。スマートフォンの普及とともに、SNSを通じてリアルタイムかつ相互にやりとりする双方向コミュニケーションを当たり前ととらえる層が、10~20代を中心に増えていることがうかがえる。

LINEをはじめとするモバイル端末とモバイルアプリの組み合わせは、マーケティングの新たな可能性を拓く。いつでも個人との双方向コミュニケーションを行えるということは、企業から見ると、一人ひとりの顧客、すなわち「個客」マーケティングの機会へと容易に手が届くようになったことを意味する。

こうした企業のニーズに対応するため、LINEでは「ビジネスコネクト」というサービスを2012年から提供しており、以下のような形で活用されている。

みずほ銀行

みずほ銀行のLINE上で同行キャラクターのスタンプを送ると、スタンプの種類によって、残高や入出金明細の照会結果を受け取ることができる。

ドミノ ピザ

LINEでトークするようにピザを注文することができる。配達住所はスマホからの位置情報送信でその都度指定可能。

ヤマト運輸

チャットボットとのメッセージのやりとりで、荷物の配達予定の確認や、受け取り場所の変更、再配達指定の手続きを完了できる。

コミュニケーション戦略の二軸

消費者の動向を押さえたところで、次は、企業が取り組むべきコミュニケーション戦略のあり方について考察していこう。これは、リーチとエンゲージメントの二軸から検討すれば、戦略を立てやすいだろう。

消費者とのコミュニケーションに関する企業の動機として、まずはビジネス機会を捉えるため、ターゲットとなる消費者のなるべく多くへと到達(リーチ)したいだろう。また、その機会を収益化するため、消費者を自社と密接な関係へと導きたい(エンゲージメント)と考えるだろう。多くの消費者へリーチし、優れた顧客体験によってエンゲージメントを高めれば、ビジネスを成功へと導く可能性は高まる。逆に、顧客体験が相手の期待するものでなければ、消費者は離れていき、ビジネスは危機に陥る。

では、まず「リーチ」という軸を考察する。リーチの手段としてはこれまで、伝統的な顧客接点としての広告や対面、またデジタル顧客接点としてのwebサイトや電子メールなど、それぞれのチャネルについて個別の対応と改善が図られてきた。それぞれにコミュニケーションの担当部門が設置されているかもしれない。一方で、多様なチャネルを使い分ける消費者へとリーチするためには、チャネルを横断したコミュニケーションの取り組みが求められる。消費者はいつ、どのチャネルを通じて企業へと接触してくるかわからないからだ。企業は、利用される可能性のあるチャネルへと全方位的な対応を迫られている。任意のチャネルを通じて顧客に対応する取り組みを「クロスチャネルマーケティング」と呼ぶ。当然ながら、一筋縄ではいかない。

次に「エンゲージメント」という軸だ。あふれる情報の中から消費者に振り向いてもらうには、相手の興味関心に近しい提案内容を、相手の都合の良いタイミングで届けなければならない。相手を引き付けるには、どうすればよいだろうか。

相手を引き付けるのは、タイミングと提案内容

例えば消費財を扱う小売店を想像してみよう。LINEのような消費者へリーチできるアプリと、天候データや位置データを組み合わせれば、外出中に突然雨が降り傘を持ち合わせておらず困っている消費者のモバイル端末に、「傘を売っている最寄りのショップを通知する」ことができるだろう。このように、時間帯や場所、状況などの要素にもとづけば、相手の状況に応じたメッセージを届けられる。消費者が必要と思った瞬間に、驚くようなうれしいオファーを提示できれば、相手の満足度を高める体験になるだろう。

これも実現は容易ではないが、方法はある。顧客に関するデータを取り扱う仕組みを整え、データと顧客体験を結びつけることだ。個人プロファイルや購入履歴のような属性データ、位置情報や情報探索履歴のような行動データなど、デジタル顧客接点では消費者の属性や行動をデータとして把握することが容易にできる。重要なのは、これをきちんと系統的に蓄積/分析することのできるデータ基盤を整えること、そして顧客体験を届ける仕組みと組み合わせることだ。ひところビッグデータが話題になったが、ポイントはデータ量ではなく、データの活用だ。データに基づいたスマートなコミュニケーションが、相手の求めるタイミング、求める内容に沿った提案を実現し、消費者にとって適切な体験となるだろう。

あるべき消費者とのコミュニケーションに向けて

多様なチャネルとデータを組み合わせて柔軟に活用し、一人ひとりとのコミュニケーションを推進することが、クロスチャネルマーケティングを実現するうえで欠かせない。LINEビジネスコネクトのような新機軸のマーケティング施策にも、柔軟に対応できなければならない。

この領域でアドビは、Adobe Campaignを中核とした、クロスチャネルマーケティングを実現することのできるデジタル基盤を提供している。自社に適したコミュニケーション戦略、組織や体制を整えるリーダーシップ、デジタル基盤が三位一体になれば、消費者の期待に応える体験の提供は、困難なことではない。一人ひとりのために最適な顧客体験を提供する能力を磨くことによって企業は、顧客を中心に据えた「エクスペリエンスビジネス」を力強く推進していけるだろう。

 

UNITE編集部


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