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2017年、マーケティング領域を動かす技術革新は?
2017年01月24日
【POINT】
- 消費者は企業に、単なる取引ではなく信頼関係を求めている
- 複合現実には、漸進的な採用アプローチを取るとよい
- 「デバイスグラフ技術」の進歩により、複数デバイスを使用するユーザーをより正確に認識できるようになっていく
2016年のテクノロジー領域の変動
テクノロジーの情勢は2016年に大きく変わった。特にデジタルマーケティングと広告に関わる分野で大きな変動が起きている。
例えば、以下のような動きが挙げられる。
- Nokiaブランドを売却したMicrosoftが、LinkedInを260億ドルで買収
- Samsung Gear VR ヘッドセットのアクティブユーザーが毎月100万に到達。Facebookでは20万件以上の360度写真/動画のライブラリが作成された
- Appleと米国連邦政府が個人用デバイスのデータ暗号化をめぐり対立、法廷闘争に発展
- 世界中の自動車メーカーが、高級モデルからエコノミーモデルまで、車載テクノロジーに注力。Apple CarplayやAndroid Autoといった、車内でのスマートフォン使用を安全に行えるセンサーシステムの採用が増加。可用性が高まり自動運転への応用が進んでいる
2016年を振り返ると、5つの重要な技術が世の中の進歩に大きく関わった。しかし技術進化のスピードにはばらつきがあり、中には期待されたほどの伸びを見せなかったものもある。それらの伸びをわかりやすく信号にたとえ、2017年の動向を予想してみよう。
※筆者の主観(科学的根拠なし)に基づき、以下のように5つの技術の現状を評価していく。
赤:2016年に進歩がほぼまったく見られず、2017年も強い向かい風が続く見込み
黄:2016年にほどほどの進歩が見られたものの、2017年の先行きは不透明
青:2016年に大きな進歩があり、2017年も見通しが明るい
2017年の技術動向1

広告から顧客体験へ

(写真)大きな声を上げるだけの広告ではなく、顧客とブランドの間に真の関係性を築けるような、有意義で適切なコンテンツはどうやったら開発できるのだろう?
現状
米国の消費者は、1日に3千件から5千件の商用宣伝メッセージに触れているという調査結果がある。マーケティングキャンペーンの企画に多額の資金と努力を費やしているマーケターにとっても、大量のノイズとの戦いを余儀なくされていることを意味する。
さらに、2016年4月から延べ2億人のユーザーが広告ブロック(アドブロック)を導入。ビジネスニュースサイトBusiness Insiderによると、これは2010年から数百パーセントの増加に当たるという。広告ブロックの人気は高まる一方だ。さらに8月、Facebookニュースフィードの広告ブロックをめぐり、FacebookとAdBlock Plusの間で、公然と争いが展開された。これを見ても、適切な広告収入モデルの線引きはどうあるべきか、という課題の難しさがわかる。
加えて、蔓延する虚偽広告と透明性の問題があり、マーケターが広告キャンペーンの有効性を正確に把握できない状況が続いている。
2017年に向けての留意点
デジタルチャネルは、従来のメディアチャネルには存在しないクリエイティブ機会を提供している。それにもかかわらず、多くのブランドではこうした新しい機会をフルに活用していない。スマートフォンが持つ双方向性や、コンテンツに関連する個人化されたメッセージを織り込む方法などは、もっと活用されるべきだろう。
またマーケターは、消費者の影響力が拡大しており、企業からのメッセージを拡散する力を持っている、という点も忘れてはならない。デジタルの世界では、あるブランドメッセージが消費者に賞賛されたと思ったら次の瞬間には叩かれる、といった状況が発生する。コンテンツを開発する際には、正確さを期すこと、世の中の空気に気を配ることが大切だ。
しかし、2017年に向けた最も大きな留意点は、カスタマージャーニーのレベルアップという点につきる。消費者は企業に、単なる取引ではなく信頼関係を求めている。従来は不可能だった消費者コミュニティのあり方が、いまならデジタルチャネルによって実現できる。そして、消費者同士のコミュニケーションを促進する施策は、マーケティングにおいて重要な位置を占めるようになった。一方でブランド企業としては、ひとときの盛り上がりだけでなく、より長期的な成果も生み出していかなければならない。「消費者とつながる」とは、単に製品やサービスを買ってもらうことではない。購入された製品やサービスの長期的な使用、保守、サポート、リニューアル、買い替えを視野に入れてこそ、真の意味で消費者とのつながりが可能になるのだ。
2017年のキャンペーンを考えるにあたり、購入成立が主要目的となる部分と、ターゲットユーザーとの長期的な信頼関係構築を重視する部分を考慮していくべきだろう。
2017年の技術動向2

複合現実

(写真)NBA(北米バスケットボールリーグ)では、2016年10月後半より、週一の頻度でVRでの試合中継を行っている。
現状
仮想現実(VR)と拡張現実(AR)の組み合わせである「複合現実」は、2016年の初めに大きく取り上げられた。特に注目されたのが、Samsung Gear VRおよびOculus VRヘッドセットの初期売り上げ業績である。またGoogleでは2016年1月、Cardboardビューアの売り上げ500万台を報告した。さらにSteamの発表したデータによると、2016年7月の時点でHTCは約10万台の複合現実ヘッドセットを販売したという。
筆者は2016年7月に、複合現実について以下のように考察した。
- 直近では、消費者は主に360度写真と動画を通じて複合現実に触れるようになる。作成が簡単なこと、コンテンツの制作と消費に必要な装置のコストが比較的小さいことが主な理由だ。
- 2017年に向け、視覚的によりパワフルなVR体験が利用できるようになると思われる。しかし、こうしたコンテンツの制作が高くつくことには変わりなく、ヘッドセットが高価なこともあり、オーディエンスは限られるだろう。
- 拡張現実(AR)は、複合現実のなかで最も魅力的なユースケースとなる前兆を見せている。しかし、ハードウェアの大部分は現在も開発中であり、こうしたデバイスの消費者向けのリリースはまだ先の話になる。しかしながらARの応用は、ヘルスケア、軍事、産業、製造などの分野で進歩を見せている。

(写真)DAQRIのスマートヘルメットは、多くの建設/産業系企業で試験運用が始まっている。
2017年に向けての留意点
複合現実には、漸進的な採用アプローチを取るとよい。複合現実を使った実験的なキャンペーンに興味があるクライアントがいて、さらに実行手段があるならば、先駆者として認識されるチャンスだ。また、より慎重な企業ならば、2016年の歳末商戦の結果を見守るべきだ。消費者が最新のハードウェア(PlayStation VRなど)にどんな反応を示したか、画期的な体験が複合現実オーディエンスの拡大につながったか、などの点に注目しよう。
ちなみに、2017 GLSスポーツカーを使ったMercedesの360度動画など、話題になったマーケティング事例も要チェックだ。その上で、2017年の初めに再検討することが望ましい
2017年の技術動向3

モバイル

(写真)Androidスマートフォンプラットフォームを刷新するGoogleの最新スマートフォン、Pixelが2016年10月に登場。
現状
モバイルは今や、デジタルライフの中核を成すようになった。しかし多くの企業では、モバイル端末体験をいまだにデスクトップwebの延長として捉えている。
これは大きな間違いだ。モバイルを前提としたブランド体験の構築を当たり前なことにしていく必要がある。ただしその際に、留意すべき点がいくつかある。
- ネイティブモバイルアプリの設計、開発、市場投入には、平均で27万ドル(約3,000万円)のコストがかかる
- モバイルアプリの3分の2は、一年以内のダウンロードが1,000件にも満たない
- 23%のユーザーは、たった一回の使用でモバイルアプリに見切りをつける
- Appleでは2016年10月、3期連続の減益を報告。iPhoneの売り上げ低下によるところが大きい
こうした数字は警告として受け止めるべきだろう。さらに、調査会社Gartnerでは、スマートフォンおよびタブレット市場の成長は停滞し、タブレットに関しては、MicrosoftのSurfaceのような2in1タイプの端末がより人気を集めると予想している。
ただし、モバイル端末が人々のデジタルライフの中心になることには変わりはない。Nakano Researchでは、世界中に25億人以上のスマートフォンユーザーがいるとしている。Nielsenによると、この数字には米国における成人の81%が含まれる。また、米国内におけるスマートフォンの使用は、2014年から倍増している。
2017年に向けての留意点
市場が飽和状態にあるとはいえ、消費者のインターネットアクセスおよびデジタル体験の主要舞台となるのはモバイル端末だ。画素数、端末の縦横方向、タッチなど、各デバイスタイプの強みを引き出すマルチサーフェス(デスクトップ、スマートフォン、タブレット)対応を続けていかなければならない。
さらに重要なこととして、デバイスグラフ技術の進歩がある。複数のデバイスを一人が使い分けていることを識別する技術だ。この技術によってマーケターは、より的確なセグメント作成、キャンペーン施策、コンバージョン改善を図ることができるだろう。
2017年の技術動向4

人口知能(AI)/機械学習

(写真)Amazon Echoのようなデバイスでは、音声のやりとりによるサービスを提供するために、機械学習を使用している
現状
人間の知能を必要とする作業や活動の多くが、技術革新によって大きく変化する途上にあることは間違いない。AIはすでに私たちの生活の中に入り込んでおり、おなじみの存在となっている。
AppleのSiri、MicrosoftのCortana、iRobotのルンバ、自動車に搭載されたアダプティブクルーズコントロール、音声によるカスタマーサービスシステムなどが良い例だ。
次に来るAI進化の大きな波で、作業の自動化がさらに進むのか、あるいは完全に人間の介入が不要となってしまうのか、それはまだわからない。しかし、いくつかのデータポイントが参考になる。
- 大手自動車メーカーの大部分が、自動運転技術に取り組んでいる
- 2016年10月、Uberの自動運転トラックが、約240kmの距離で最初の物資輸送を完了
- Google、Facebook、IBM、Adobeなどの企業が、ビジネスおよび家庭での活動を予測し自動化する技術に多大な投資を行っている
2017年に向けての留意点
AIと機械学習は、クリエイティブ活動と顧客体験の両方に影響する可能性がある。
日常的なクリエイティブ作業は自動化が進み、コンテンツ開発やキャンペーン展開はスピードアップすると思われる。同時に、顧客グラフ、ソーシャルグラフ、データグラフなどがAIによってデジタル顧客接点に適用され、顧客体験の向上につながるというシナリオも考えられる。
現在、機械学習が使われているのは、プログラマティック広告(自動広告運用)、マーケティングミックスのモデリング、セグメント作成などの分野だ。しかし、機械学習が持つ途方もない可能性は、今後マーケティングという概念を根本から変えていく可能性がある。
2017年の技術動向5

IoT(モノのインターネット)

(写真)Samsung製「ファミリーハブ冷蔵庫」。スマートフォンに接続できる大画面を搭載している。一般消費財メーカーが自社ブランドと消費者行動についてのデータを集め、マーケティングに活用できる可能性を秘めている。
現状
2016年1月のCES(コンシューマー エレクトロニクス ショー)や2月のモバイルワールドコングレスでは、実に多様な「コネクテッド」デバイスが展示された。冷蔵庫から自転車、玩具まで、あらゆる物理的商品がインターネットに接続される可能性を秘めている。また、家庭におけるIoTデバイスの増大により、IoTデバイスメーカーとの提携や新体験の創造など、新しいマーケティング機会が関心を集めるようになっている。
2016年、IoTデバイスの展開には、大きなばらつきがあった。スマート空調管理Nestサーモスタット、Wifi監視カメラのDropcam(両者ともAlphabetが買収)などのデバイスはピークを迎えたようだ。同時に、Amazon Echo、Google Homeなどの家庭用ハブへの関心が高まっている。
IoT対応デバイスはまた、園芸潅水システム、乳幼児モニタリング、ホームセキュリティ、ペットケア、高齢者介護、ドアや窓の施錠システムなど、多くの用途で活用されるようになった。
2017年に向けての留意点
2017年に考えるべき点がふたつある。ひとつは、新しく登場してきたIoTデバイスの中に、マーケターが活用できる新しいチャネルとなり得るものがあるかどうか。もうひとつは、IoTのセンサーやデバイスが収集するデータをマーケティングに活用できないか、という点だ。センサー搭載デバイスには、これまでに収集されたあらゆる行動データに匹敵する家庭内データグラフの提供という、極めて大きな可能性が潜んでいる。また、IoTのB2B側面も無視できない。商用分野でのIoTは、街灯ネットワーク、害虫/有害生物検出、公共サービスネットワークなどに応用されており、自治体の行政サービスに役立ちそうな新しいコミュニティデータを生成している。マーケターの扱うサービスポートフォリオのひとつとして、こうしたデータチャネルを考慮する必要が出てくるかもしれない。
(2016年12月09日 CMO.comの記事より)
Mark Asher(head of market intelligence & strategy at Adobe)
関連資料
アドビは2017年6月、小売/銀行分野における消費者の購買行動に関する調査を実施しました。現代の消費者を取り巻く情報環境や消費行動を把握し、カスタマージャーニー、提供している顧客体験のあり方を見つめ直すヒントとしてぜひお役立てください。