この記事を共有する:

- 1 顧客体験を売上向上に結びつけるには?「長距離マラソン」アプローチの必要性
顧客体験を売上向上に結びつけるには?「長距離マラソン」アプローチの必要性
2017年02月16日
【POINT】
- トラッキングした指標のすべてが売り上げに直結していても、消費者の「体験」を考慮しなければ「木を見て森を見ず」状態になってしまう。
- 「カスタマージャーニー」に即した体験で消費者を喜ばせることが、ブランドへの信頼、愛着心、他者への推薦など望ましい消費者行動につながる。
- 定量的/定性的データの両方を収集し、消費者を深く理解して「カスタマージャーニーマップ」を作成する。
売上目標の達成に誰もが腐心する決済月、マーケティング部門にも成果指標の提出を求められる。四半期ごとに営業データにかかりきりになる部門責任者も多いだろう。たいていの企業にとって増収は共通の目標だ。毎年売り上げを伸ばしていくための方策を模索し、営業データやパフォーマンス指標に振り回されてしまうのは、よくある状況かもしれない。
おそらく、マーケティング部門に報告義務が課されている指標は、顧客の一回あたりの平均購入額、新規顧客の獲得コスト、製品の返品率…など、売り上げと直接的に結びついたものになっている。こうした数字が重要であることは言うまでもない。しかし、キャッシュが入ってきたか否か、という「トランザクション」のみに気をとられていると、「木を見て森を見ず」な状態に陥ってしまうだろう。この場合、「森」にあたるのが全体的な顧客体験だ。つまり、消費者が最初にブランドを認知してから、購入、リピート購入、そして満足度の高い消費者というステータスになるまでにどんな体験を経ているか、という総合的な理解である。
“顧客体験の断片化”が、長期に渡る持続的な成長を妨げる
企業という組織は、各部門が自己完結的な縦割りの体制、いわゆる「サイロ」になりがちだ。マーケティング部門も例外ではない。各部門が異なる視点で消費者の行動を捉えており、消費者の心理にどう反応するかは、どの部門で働いているかによって変わってくる。さらに、同じ部門で働いている同僚でも、担当する作業内容によって達成すべき指標が異なり、それぞれが四半期報告での業績向上を目指している。マーケター、制作部門、営業部門などすべてが四半期ごとの目標を達成し、結果として増収につながれば、理想的な話かもしれない。しかし、各部門が自部門の業績向上だけに専心していると、企業全体で一貫した顧客体験を提供できない、“顧客体験の断片化”を招いてしまう危険がある。
断片化した顧客体験と引き換えに、短期的な増収は達成できるだろう。しかし、統一のとれた顧客体験を考慮せずにいると、長期的な成長を犠牲にすることになる。もちろん、バランスをどう取るかという問題だが、長期的な増収を目指したいのならば、短距離ダッシュではなく、マラソンに勝つ心構えが必要となる。自社顧客の特性や製品購入までの道のりを良く理解し、個人の嗜好やニーズを考慮した体験を提供することこそ、長期に渡る持続的な成長のカギとなる。
トランザクションと顧客体験、2つのバランスで業績指標を捉える
EC事業の指標を例にとると、商品ページから買い物カゴへの移動率、商品が買い物カゴに入ったまま放置される「カゴ落ち率」など、「トランザクション」指標の把握はもちろん大切だ。しかし、こうした指標のすべてが売り上げと直結していたとしても、トランザクション偏重型の企業は、カギとなる要素が抜け落ちていることに気づかないことがある。
そのカギとなる要素が「顧客体験」だ。これを理解せずして、顧客満足を実現する方策を理解することはできない。今の時代、ブランドと消費者の間では、非常に高いレベルの「結びつき」が可能になっている。しかし、可能というだけで実際に結びつきが達成できているとは限らない。
消費者一人ひとりの状況やニーズに即した体験が提供できなければ、リピート購入してもらえる可能性は薄く、ブランドへの愛着心も期待できない。消費者がブランドとの関わりでどんな体験をしているか、どの程度熱心な客なのかという実情を理解しなければ、顧客満足度やブランドへの愛着を把握することは難しい。
顧客体験の重視が、リピート購入やロイヤルティ向上につながる
「ポジティブな体験」にフォーカスした顧客体験の最適化は、顧客満足度とブランドロイヤルティの向上に直接的なインパクトをもたらす可能性が高い。メール配信や広告などの体験が適切にパーソナライズされたものならば、既存客からの売り上げアップにもつながっていく。
消費者が商品をリピート購入したり、サービスを定期的に利用したりする理由は何か。それは、リピートや定期利用をしない客に比べ、はるかに満足度の高い体験をしているからだ。モバイルアプリなりwebサイトなりが相手のニーズを満たしていると、それはリピート購入/利用という行動につながっていく。また、ブログやソーシャルチャネルに関しても同じことが言える。ソーシャルでポジティブな体験をしたユーザーは、そのブランドを信頼する傾向にある。その結果、「将来的に実際の購入に至る」「定期的にリピート購入する」「友達達に勧める」といった行動につながる可能性が高い。簡単に言うと、個人の状況を考慮して最適化された体験は、喜びと信頼につながり、愛着心や他者への推薦といった見返りが期待できるのだ。こうした消費者行動は、個々のトランザクションを通じて得られるものではない。
心に残る顧客体験を生成するには
消費者を深く理解する。すべての部門が足並みを揃えて理想的な体験を開発する。満足度の高い客を長期的に保持する…頭では理解できるが、いったいどうしたら実現できるのか、と思うかもしれない。取るべき戦略は至ってシンプルだ。
消費者の心理や行動を「旅(ジャーニー)」になぞらえ、その旅の「地図」となるカスタマージャーニーマップを作ること。マップの作成にあたっては、定量的/定性的データの両方を収集し、消費者像の理解に努めること。ユーザビリティ研究、消費者インタビュー、フィールド調査、ウェブサイト/FAQ検索ログ、アンケート、顧客サポート/苦情ログ、web分析、ソーシャルメディアリスニング、競合分析、A/Bテスト、多変量テストなどは、すべて消費者像の理解と検証に役立つ有効な手立てとなる。
その次の重要ステップは、マップに書き出したカスタマージャーニー戦略と、各部門が四半期ごとに達成すべきパフォーマンス指標を、共通の最終目標に関連づけることだ。その最終目標とは、「購入などのトランザクション体験も視野に入れた、長期的に整合性の取れた顧客体験」を指すことになる。マラソン並みの長期戦になるとお分かりいただけるだろうか。
終わりに
“売上報告の数字に過ぎない存在”として扱われて喜ぶ消費者はいない。「買い物という体験はこうあるべきだ」という消費者の期待値を満たす(あるいは超える)のは、「一人の人間として扱われた」という実感だ。この実感が得られてこそ、消費者は「このブランドは、リピーターになってあげる価値がある」と思うようになる。自分のニーズを本当にわかってくれている、という消費者の実感がブランドへの信頼につながり、相互に利益をもたらす長期的な関係の構築が可能となる。トランザクションよりも体験を重視する戦略こそ、勝に続けるための戦略と言えるだろう。
UNITE編集部
関連資料
消費者は顧客ライフサイクルの各フェーズにおいて、それぞれの目的に合った様々な顧客接点を利用します。その行動は、消費者や商品のタイプによって大きく異なります。CMOはそうしたカスタマージャーニーを正確に把握したうえで、的確な対応を取らなければなりません。