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- 1 金融機関が消費者との共通価値を生み出すための条件とは
金融機関が消費者との共通価値を生み出すための条件とは
2017年02月16日
【POINT】
- 金融機関は、顧客との「共通価値の創造」を目指したビジネスモデルへ変革することが求められている
- これから金融サービスを利用する若年層は、デジタルネイティブ世代であり、サービスは彼らの行動様式に適した方式でなければならない
- 消費者は手続きの手軽さ、簡便さを求めている。申込フォームのデジタル化はそれを叶えるだけでなく、金融機関の業務簡素化にも貢献する
【RESOURCE】
金融機関は、いまこそ顧客本位のサービスを
あらゆる産業で、「モノ」から「コト」を扱う「ビジネスモデルのサービス化」、という現象が起こっている。そうした中でも、金融業界はそもそも無形財を扱うビジネス形態のため、サービスの先進業種としての素養を秘めている。ただこれまでの金融機関は、規制業界としての行動を余儀なくされてきた現実がある。
ところが、全産業のサービス化の流れのなかでFinTechに注目が集まるように、金融業界にもビジネス変革の機運が顕在化している。金融機関にとってこれは、新たなイノベーションによる差別化の機会とも言えよう。
国内の市場環境を見渡すと、顧客行動の変化ばかりでなく、金融庁自身が新たな行政方針を打ち出し、業界変革を促している。顧客との「共通価値の創造」を目指したビジネスモデルへ変革することが、金融機関に求められているのだ。つまり、いま市場から求められる、顧客本位の金融サービスをいかに提供するか、その真価が問われていると言える。
消費者が金融機関に真に求めているもの
人の一生涯には様々なライフイベントがあり、その時々によって金融ニーズは異なる。ライフスタイルも多様化しており、事情も人によって様々だ。
そのため、金融業界が、最大公約数のニーズを満たすことが前提の一律なサービスをいまだに提供しているようでは、結局、誰のニーズも最大限に満たせない。
また、いま初めて金融サービスに触れる若年層は、デジタルネイティブ世代である。金融機関のサービス内容も、この世代の行動様式に適した方式でなければ見向きもされない。
ファミリー層の住宅融資、ミドル層のマイクロペイメント活用促進、シニア層のNISA取引、学生層の新規口座開設、レジャー保険...こうした商品に対して、一人ひとりの消費者に関心を持たせ、利用してもらうために、金融機関はどのようなサービスを提供すべきであろうか。
金融商品が持つ特性と、消費者の心理
一般の消費者にとって、金融商品は、特性や利用条件が複雑であったり、一定の前提知識が必要であったりして、しばしば敷居が高い。それでも、もし具体的な必要性に迫られていたなら、詳しいスタッフのいる店舗窓口を訪れる可能性もあるだろう。
しかし、専門家が親身になって丁寧に提案すれば新規顧客を獲得できるだろうと予測し、来店促進と窓販強化を行っても、それだけが最適解とは限らない。
一般の消費者が、どの商品が自分にとって適切だろうかと関心を持ったとき、手始めに取る行動は、店舗のスタッフに聞くことではなく、webなどで情報収集することではないだろうか。
アドビの調査によると、「金融商品の利用や検討時に取る行動」として、窓口に相談する人は32.1%に対し、 金融機関のサイトや他のサイトを訪れる人は66.6%に上る。
またこの調査結果からは、検討時に「売り込み」を感じさせてしまうこと、あるいは申し込みの手続きが面倒だと思わせてしまうことが、金融商品から消費者を遠ざけてしまうという事実も読み取れる。消費者は、商品についてじっくり調べて納得してから、自発的に、かつ簡潔に申し込みをしたいと考えているのだ。
こうした、消費者が感じるだろうことを起点とし、消費者が取るであろう行動を軸に、ビジネスプロセスを問い直してみる必要があるだろう。
匿名訪問者が発するシグナル
消費者が金融機関のサイトを訪れたとき、彼らが何を求めているかをあらかじめ知るのは非常に難しい。それでも、例えば消費者の流入経路からある程度訪問きっかけを推測できるし、サイト内での行動履歴から、彼らの期待を絞り込んでいくこともできる。
知りたい人に知りたい情報を適切に提供することができれば、それだけ消費者が興味を持つ可能性も高まる。
逆説的に言えば、「自分は興味がない」と思っている商品なのに、「いまならキャンペーン実施中です!」としつこく押し付けられるようなことがあったならば、消費者がその商品に関心を寄せる可能性は下がるだろう。
相手を不快にさせるような過度なパーソナライズではなく、さりげないおもてなしに感じさせる見せ方が望まれているのだ。
デジタル接客こそが、消費者の行動を促す
消費者が金融商品に価値を感じたなら、消費者を次の行動へと自然に導こう。
もちろん、すぐに口座開設や取引開始へ至ればすばらしいが、まずは少しずつ歩み寄りやすい施策を設けておくのが親切だ。
一般的な施策としては、資料請求、オンライン取引シミュレーション、チャット、コールセンターや店舗での個別相談などがある。
ただこの段階になると、消費者の前に高い敷居が訪れる。氏名や連絡先、希望する内容などの個人的な情報を、金融機関に届けなければならないからだ。
顧客接点が対面のみであった時代には、消費者は複数の書面に記入し、本人確認のために捺印や添付書類を提出していた。ただし、一度申し込みを決めたら、面倒な手続きながらも否応なし完了させるという流れがあった。もしほかの金融機関を選んだとしても、面倒な手続きが発生することは変わらなかったからだ。
しかしいま、これらの手続きには、技術的にも法制的にも、そして消費者自身の心理的にも、デジタル化が求められており、浸透してきている。以前と比較し、手続きの敷居が低くなっているのだ。しかし、敷居は低くなったかわりに、少しでも面倒であれば容易に手続きをあきらめてしまう可能性もある。
デジタルなら、利便性でスムーズに消費者を後押しできる
そこで求められるのは、手続きの手軽さ、簡便さであろう。申込フォームをデジタル化すれば、条件によって記入項目が変わるような書式でも、分かりやすく記入を支援できる。また、モバイルなどからいつでも手軽に記入できるようにすれば、機会を取り逃さない。本人証明書類はデジカメで撮影したものを添付し、捺印のかわりに電子サインを活用してもよいだろう。
こうして次の行動を取りやすくすれば、消費者に優しいサービスを提供することができる。それだけでなく、金融機関の業務も簡素化される。
デジタル接客の価値はデジタルだけに限られない
このようにデジタル化によって消費者から金融機関に届いた情報を有効活用すれば、その後のサービス提供もスムーズになる。かつてのように、消費者が資料請求して受け取った詳細なパンフレットとともに、白紙の申込書が封入されていたら、申込機会を高めることはできないだろう。
同様に、取引シミュレーションで記入した条件、相談会申込で記入した条件なども、金融機関は以降の接客プロセスで活用すべきだ。
ちなみに、デジタル接客のメリットは、オンライン専業の業態、あるいはオンライン事業領域に閉じたものではない。デジタルは様々な顧客接点のひとつであり、店舗、代理店や提携先などの従来の顧客接点との相乗効果をデザインすることが重要だろう。小売業のオムニチャネルの取り組みはいま、任意のチャネルを行き来する消費者への対応「クロスチャネル」へと進化している。
金融機関にとっても、オムニチャネル、クロスチャネル対応が喫緊の課題となるだろう。
いまこそ金融機関に求められているデジタル変革
これらを実現するには、特定部門や業務領域の改善ではなく、金融機関の各組織を横断しての変革が欠かせない。様々な組織や職務、業務フローや接客手順、各種システムとの連携などを、バランスよく見直す必要があるのだ。
まずはできるところから着手し、消費者のためにも業務のためにもなるという理解が得られれば、各部門の賛同も得やすい。そこから、部門横断の業務プロセスの抜本的な見直し、データ統合やシステム統合などにつなげていくとよいだろう。
これは容易なことではないし、大きな変革はときとして、投資リスクだけでなく、組織的な軋轢も伴うかもしれない。しかし、真に顧客本位のサービスへと変革した金融機関には、おのずと消費者からの信頼が集まるだろう。
こうしたデジタル変革の推進こそが、金融機関の競争力強化につながるはずだ。
UNITE編集部
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