顧客の志向を読み解き、感情を揺り動かすことが、最高の体験を生む

2017年4月11日


【POINT】

  • 顧客にフォーカスした戦略が、企業を成功に導く
  • 一人ひとりのコンテクスト(文脈)をつかみ、そのコンテクストを充たすアプローチを行うことが、優れたエクスペリエンスを実現する
  • ビッグデータを紐解くことで、顧客一人ひとりのコンテクストを深くつかめるようになる。それには人工知能が大きな役割を果たすようになる

デジタルエコノミーの恩恵をだれもが享受するこの時代に、企業はテクノロジーをどのように生かし、どうやってライバルに差をつけるのか。その方向性を探るビジネスカンファレンス「Adobe Summit 2017」が3月21~23日(19日からのPreconferenceも含め5日間)、ラスベガスで開催された。世界45カ国から、過去最多となる12,000人以上の参加者を集めた今回、カスタマー エクスペリエンス(顧客体験)の在り方が議論された。また、その実現のカギとなる「人工知能」にも注目が集まった。

デジタルエコノミー時代の顧客戦略

Adobe Summit初日。注目された基調講演のテーマは、昨年からフォーカスされたエクスペリエンス(顧客体験)だ。今年はより実践的で、話題の中心になったのは、「顧客の感情に訴えかける体験を提供する」ことだった。

アドビは、デジタルエコノミー時代にあわせて大きくビジネスモデルを変革させた企業として真っ先に名前が挙がる存在だ。初日の基調講演に登壇した会長兼CEO、シャンタヌ ナラヤンも「私たち自身、長くデスクトップパッケージとして販売してきたAdobe Creative SuiteをAdobe Creative Cloudとして提供するという変革を成し遂げました」と当時を振り返った。

デジタルエコノミー時代の顧客戦略

「単に売り方を変えたのではありません。デジタル時代に求められるエクスペリエンスを突き詰めた新戦略でした。そのために、組織のあらゆる機能を見直し、再定義しました。変革は、オール オア ナッシング。不退転の決意で取り組みました」(ナラヤン氏)

顧客にフォーカスした戦略が、企業を成功に導く

エクスペリエンスをビジネスモデルの中核に据える変革によって成功した企業は数多く出てきている。その筆頭が米国の携帯キャリアであるT-Mobileだろう。同社はアドビのソリューションを幅広く活用して大きな成果を挙げているが、同時に戦略の中心を優れたエクスペリエンスの提供に置いている。今回の基調講演にはSenior Vice Presidentのニックドレイク氏が登壇し、「当社の戦略はシンプル。顧客にフォーカスすることです」と語った。

顧客にフォーカスした戦略が、企業を成功に導く

同社のユーザー数は2012年の段階で3,300万人だった。アドビのソリューションを採用しつつ、顧客の自由度を高める料金プランの設定など、さまざまな側面からエクスペリエンスを刷新する施策を展開した結果、いまでは7,200万人と倍以上に伸びている。きめ細かな努力も重ねた。同社の提供するスマホアプリ「T-Mobile App」は、当初不人気で、アプリストアの評価は5段階中1.2にすぎなかったという。

「最優先に取り組むべきなのは、顧客の不満を解消することです。迅速なバグ修正は当然。アプリユーザーからのコメントにきちんと返信して顧客との距離を近づけ、新機能は顧客ニーズの高いものから提供するようにしました。その結果、評価を4.5まで持って行くことができました」(同氏)

同社では、SNSを通じた顧客サポートなど、顧客にとって最も気軽な方法でコミュニケーションできるようにする施策も高く評価されている。

ビジュアルの持つ圧倒的パワーで消費者を引き込む

デジタル変革の影響を大きく受けた産業のひとつがメディア業界だ。ナショナル ジオグラフィック パートナーズのCMO、ジル クレス氏は、同社の長い歴史の中で蓄えてきた優良なコンテンツというレガシー(資産)を生かし、「ビジュアルストーリーテリング」を事業の中核とすることでブランド価値を高めていると語った

ビジュアルの持つ圧倒的パワーで消費者を引き込む

「メディア企業にとって、コンテンツのサプライチェーンをきちんとデザインし、それを実行できる環境は大切です。注力しているSNSはInstagram。現在、7,200万人以上のフォロワーを抱えるまでに成長させました。優れたコンテンツにより、世界中の消費者と感情的なつながりを築いているのです」(同氏)

優れた顧客体験に向けて、ソリューションも進化する

今回のカンファレンスでアドビは、クラウドで提供する自社のマーケティングソリューションから、“ユーザー企業がカスタマー エクスペリエンスの向上を実現する仕組み”であると位置付けを拡げる明確なメッセージを発した。

優れた顧客体験に向けて、ソリューションも進化する

その仕組みとして、アドビは新たなブランド「Adobe Experience Cloud」を提供することを、ナラヤン氏が明らかにした。最上位の概念は、エクスペリエンス。それを実現する構成要素として、大きく3つのソリューションを提供する。ビッグデータ収集と分析/活用を行う「Analytics Cloud」、広告配信/最適化を行う「Advertising Cloud」、コンテンツ配信やパーソナライゼーション、クロスチャネルキャンペーン管理など高度なマーケティング施策機能を提供する「Marketing Cloud」の3つだ。企業は、自社の顧客もしくは潜在顧客に最高のエクスペリエンスを提供するために、これらの機能を自在に組み合わせ、活用できる。

また、Creative CloudおよびDocument Cloudとのシームレスな連携も実現している。これにより、コンテンツ制作から配信、最適化までを一連のプロセスとして実行できる。

テクノロジー面では、「Adobe Sensei」と名付けられた人工知能技術の実装を強化していくことが発表された。人工知能/機械学習の仕組みをさまざまな機能に組み込むというもので、ユーザーの意思決定を人工知能によって支援できるシーンが増えそうだ。

マイクロソフトとの提携拡大も発表された。セールスやサービスプロセスを担う同社のソフトウェアとの相互補完関係により、企業におけるビジネスの進め方の変革をサポートしようという狙いだ。

顧客のコンテクストをつかめ!

では、具体的に顧客に最高のエクスペリエンスを高めるために、企業はどうすればよいのか。そして、テクノロジーは何を支援してくれるのか。それを考えるにあたって、2日目の基調講演に登壇したジョン メラー氏は、「コンテクスト」「エモーション」という2つのキーワードを使って解説した。

顧客のコンテクストをつかめ!

「コンテクスト」は、文脈という意味。ある時点での顧客の志向、と解釈すれば分かりやすいだろう。あるひとつの商品に対しても、それを購入するに至るまでの心の動きは一人ひとり異なる。単に安売りすればよいのではない。顧客に好ましく感じてもらうエクスペリエンスを届けることが、顧客の行動を促す。

たとえば、アパレルショップを考えてみるとわかりやすい。店員が細かくアドバイスしてくれることを好ましく感じる顧客と、自分で選びたいと考えている顧客には、適切な対応が異なるはずだ。ベテラン店員ならば、“空気を読む”ことで、顧客に心地よく感じてもらう接客をする。一人ひとりのコンテクストをつかみ、そのコンテクストを充たすアプローチを行うことで、顧客に心地よくなってもらう。すなわち優れたエクスペリエンスを実現することができるのだ。

そして、エモーションに訴えかける

ふたつ目のキーワード「エモーション」は、感情を意味する。従来、顧客の感情を揺り動かすのに、デジタルな取り組みは向かないと考えられてきた。何らかの課題を抱えていたり、何かを欲しいと考えていたりする顧客に対して、最も優れたアプローチは、人が実際に対面して話を聞き、そのニーズに最適な提案を行うことだった。

それが、デジタルエコノミーの時代に入り、大きく変わってきている。T-MobileのSNSによる顧客サポートはその代表的なものだろう。だれもが、SNSを日常的に使うようになった現在、顧客は使い慣れたSNSを通じて、いつでもどこからでもサポートを受けることができる。そして、それこそがすばらしいエクスペリエンスであると受け止められるようになった。もちろん、対面を好む顧客には、そのための手段を用意しておく。コストとのバランスを取りながら、さまざまなコンテクストの顧客に対し、デジタルを使ってエモーションに訴えかける施策を立案し、実行できる時代が来たことになる。

顧客情報は、デジタルな世界に大量に蓄積されている。そのビッグデータを紐解くことで、顧客一人ひとりのコンテクストを深くつかめるようになる。緊密な付き合いのある顧客であればあるほど、企業は顧客のことをより深く理解し、より良いエクスペリエンスを提供できるようになる。

それを可能にするための技術要素として、Adobe Senseiがある。Adobe Experience Cloudはクラウドで提供されるため、Adobe Sensei由来の機能は、迅速に実装され、今後も次々にリリースされるだろう。ユーザー企業は、最新の技術をいち早く取り入れ、ライバルに差をつけるための施策を展開することができる。

Adobe Experience Cloudという新たなブランドでアドビが発したのは、「とにかく売る」ことが正義の世界ではない。顧客が企業と接するときに感じるエクスペリエンスを常に最高のものとするために、長期的な取り組みをスタートしようというメッセージなのだ。


UNITE編集部


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アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。