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- 1 「本当に自分好みのコーヒーを見つける」体験提供でファンを増やす、コーヒーブランドの戦略
「本当に自分好みのコーヒーを見つける」体験提供でファンを増やす、コーヒーブランドの戦略
【POINT】
- デジタルならではの優れたエクスペリエンスを製品の一部に取り入れることで、消費者との距離を埋めることができる
- コーヒーブランド キューリグは、すべてのラインナップの中から最も好きな銘柄を見つける体験を顧客へ提供するために、デジタルを活用した
- IoTの開発においても、顧客と自社商品との関係に目を向けると、新しい可能性が見えてくる
コモディティ商品分野にも、デジタルで差別化のチャンス
食品や飲料、生活雑貨などの日用品、非耐久消費財は、消費者の購買習慣、つまり「いつも買っているあのブランド」というポジションを獲得できるかどうかで差別化される、と思われがちだ。そうなると、商品の機能性や利便性の些細な違いよりも、CM大量投下と量販店SP、あるいは値引き競争という消耗戦に陥る。目に触れやすいリアル店舗で、消費者との距離を埋めようという訳だ。しかし、「モノ商品」の位置付けをデジタルで拡張する、いわゆる「コト商品」化することが、差別化の突破口となり得る。
新しい顧客体験の提供で「コーヒーという名前の飲み物から脱却する」ことを目指す

ここに、飲料業界の面白い事例がある。「あなた好みのコーヒー」を届けるための、Keurig Green Mountain Coffee(以下、キューリグ)の試みだ。キューリグは、米バーモント州に本社を置き、K-Cupと呼ばれるカプセル式コーヒーと抽出機を展開する企業。バラエティあふれるコーヒーブランドや風味のK-Cupを、自社含む各種ECや一般の量販店で展開している。消費者はまず抽出機を購入し、任意のチャネルで好みのカプセルを購入することで、家庭やオフィスで本格ドリップコーヒーを楽しむことができる。業務用の抽出機もラインナップしており、飲食店向けのビジネスも展開。リサイクル可能なK-Cupを開発するなど、社会や環境への貢献にも積極的だ。
同社のDigital and Innovation担当バイスプレジデント、ライアン スコット氏は、「私たちのお客様は、コーヒーが大好きです」と話す。「しかし、“コーヒーが好き”な状態で満足しているお客様がほとんど。たとえば、ワインが好きな人は、ぶどう品種や産地、作り手、さらにはラベルに込められたメッセージなど、自分の好きなものについて深く知っています。コーヒーでもそれと同じように、自分が本当に好きな風味やストーリーを探してほしい、そしてもっとコーヒーを好きになってほしいと我々は考えました」(スコット氏)。
同社は、スターバックスやタリーズなど有名ブランドとのコラボレーションK-Cupをラインナップしており、その数は530種以上にも上る。しかし、多くの顧客は定番品を注文する傾向にあり、それである程度満足していた。しかし、それではコーヒーは単なる“コーヒーという飲み物”に過ぎない。すべてのラインナップの中から最も好きな風味のものを選んでもらう機会を提供できれば、新たなニーズを発掘できるだろう。また多様なニーズをつかむことは、当初「カプセル式」に飛びついた「先進層」だけでなく、「大多数の普通の層」へとリーチを拡げる、すなわち「キャズムを超える」ための重要な一手にもなる。そのために、同社はデジタルを活用することにした。
デジタル&リアルのコミュニケーションで、顧客自身も気づかなかった「本当に好きなコーヒー」を探し当てる

キューリグが提供したのは、ゲーム感覚でクイズに答えることで、顧客が自分好みのコーヒーを探せるようにする仕組みだ。消費者は、同社のwebサイトから、好みの味や、飲み方(砂糖入り、ミルク入り、ブラックなど)、香りなど、5つの質問に答える。答えは、4つ以下の選択肢から選ぶだけでよい。たとえば、香りは「フルーツ」、「ナッツ」、「キャラメル」、「チョコレート」の4つから選ぶ。すべての質問に答えると、4つのおすすめ商品が表示される。

「4つのおすすめ商品」の例
この段階で個別の商品をオーダーしてもいいのだが、面白いのはここからだ。顧客は「自分で考えている自分の好み」を知ることができたが、さらに「真の好み」を知ってもらうために、「ブラインドテイスティングキット」も用意している。ワインやウイスキーの世界では、銘柄を当てるゲームのように取り上げられがちなブラインドテイスティングだが、本来は先入観を排除して本当の自分の好みを知るために行う。それをコーヒーに応用したのである。

ブラインドテイスティングキット
顧客に届けられたキットに含まれるのは4銘柄だ。すべてが質問回答後に表示されたおすすめ商品と同じというわけではなく、K-Cupの包装は真っ白。AからDまでの記号だけが振られている。顧客はキューリグのwebサイトにログインし、それぞれについて「いまいち」「まずまず」「良い」「大好き」の4段階で評価し、登録する。

届けられた銘柄を4段階で評価
4つの登録が終わったところで、銘柄が種明かしされる。たとえば、おすすめ商品をブラインドテイスティングでも「大好き」と評価していれば、自分が把握しているとおり、それが好みのコーヒーである可能性が高い。一方、最初に登録した自分の好みから遠いカテゴリーにある商品を「大好き」と評価していれば、そこで新たな自分の好みを発見することにつながる仕掛けだ。

届けられた銘柄の種明かし
キューリグは、これらのデータをすべて蓄積し、顧客へのレコメンドに役立てている。顧客側もこの仕組みを面白がっているようだ。何度もテイスティングキットを注文して自分の好みをキューリグに知ってもらい、バラエティに富んだ商品をおすすめしてもらおうとする顧客も少なくないという。これは、抽出機を購入してくれた顧客と、長く良好な関係を継続することに役立ちそうだ。
顧客をより深く知るためのIoT活用

同社はIoTの仕組みも取り入れ始めた。現在、IoT機能を持たせた抽出機を、1万5000人の顧客が試用中だ。これにより、キューリグは、顧客が「いつ」、「どのK-Cupを」、「どんな設定で」利用したかをつかめるようになる。そうして得た情報は、顧客をより深く知り、より優れたレコメンデーションに役立てられる。

レコメンデーションされた銘柄
「私たちの理想は、お客様と毎日会話できるような関係の構築です。これら一連の取り組みを、“Perfect is Personal”と呼んでいるのですが、お客様それぞれに最高の体験を提供することを目指しているためです」(スコット氏)

一連の取り組みを通じて最高の体験を提供
IoTでは、こうしたケースにおいて、消耗部品の早期保守のようなサービスに真っ先に目が向くかもしれない。もちろん同社もそうしたサービス提供を想定しているだろうが、顧客と自社商品との関係に目を向けると、新しい可能性も見えてくる。単に“コーヒーが好き”だった顧客を、“今日は楽しい日だったから、このK-Cupを飲んでみよう”と行動してくれる顧客へ成長させることができる。そのために、同社は顧客を深く知るアプローチを今後も強化していく。
UNITE編集部
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