基礎から押さえる:「DMP」を整備して顧客理解を深めるための4つの勘どころ

2017年06月20日


 

【POINT】

  • 顧客体験をより良くするためのデータ管理に求められるのは、顧客一人ひとりについて、あらゆる情報を集約する必要がある
  • “データの集積地”を設け、あらゆる担当者が同じデータを扱えるようにするべきだ
  • 自社データに加えて外部データも活用すると、質の高い新規見込み客獲得につなげることができる

 


DMPとは?

多くの企業でデジタルマーケティングの認知が進み、従来のマーケティングを拡張する様々な概念や用語が使われ、議論されるようになった。そのひとつが「データドリブン型マーケティング」であり、データを活用するための基盤である「データ管理プラットフォーム(DMP)」だ。DMPとは、あらゆる顧客(匿名の潜在顧客から既存顧客まで)に関するあらゆるデータ(自社内から社外まで)を収集、整理し、活用できるようにするための仕組みである。このように一言で説明した中に、DMPを特徴づける重要な要素が様々に含まれている。なぜDMPが注目され、企業にとって重要なのだろうか。既存顧客リストにもとづいた「データベースマーケティング」とは何が違うのだろうか。

そのカギは「データ管理」という言葉に込められている。データ管理は「それをどう使いたいか」という思想と密接に関連する。データ管理の目的は、顧客体験をより良くするために一人ひとりを深く理解することである。そのためには、顧客一人ひとりについて、あらゆる情報を集約する必要がある。そして、すべてのデータは関係者で共有され、だれもが好きなときに利用できるようにする。さらには、パートナー企業や他社が保有するデータも活用できれば理想的だ。

本稿では、DMPを整備して顧客理解を深めるために、データ管理の「勘どころ」4つを紹介する。

DMPを整備して顧客理解を深めるための勘どころ (1) :

誰もが同じデータを扱えるようにすること

マーケティングデータを整備するときに、まず考えなければならないのは「顧客接点となるあらゆる関係者が利用する」という視点だ。特にマーケティング部門と顧客との接点は、広告やweb、ソーシャルメディアなどさまざま。しかし多くの場合、それぞれの施策は担当者やチームが個別に行っている。担当者それぞれが必要なデータを取得していても、ほかの担当者は有効に活用できないのだ。

たとえば、以下のようなケースを考えてみよう。顧客データ分析のためにCRMシステムを導入し、購買履歴に基づくRFM分析が可能になった。一方、ソーシャル担当者は、大規模なキャンペーンを成功させ、大幅にフォロワーを増やした。そのころ広告担当者は、リターゲティング広告を活用して商品ページへの流入量を増やしていた。しかし、これらの情報は分断されている。CRMシステムに登録されている情報は、既存顧客が中心。ソーシャルメディアでフォロワーが増えても、それがいったいどういう人たちなのかはわからない。広告戦略はあるものの、データ収集は代理店任せになっているのが実態だ。

本来、これらの情報はつながっているべきだろう。自社全体で使える“データの集積地”があれば、担当者/チーム間で分断されていた情報はきれいにつながる。先の例でいえば、ソーシャルのフォロワーの中にCRMシステムに登録されている顧客がいれば、彼/彼女の購買行動をより深く分析できるようになる。広告から流入してきた顧客が、以前から自社サイトとの接点があるかどうかは、Cookieを通してわかる。CRMシステムに登録されていない潜在顧客たちの行動を、Cookie情報でパーソナライズして分析することもできるようになる。

DMPを整備して顧客理解を深めるための勘どころ (2) :

データをいつでも好きなときに利用できるようにすること

顧客の情報を集積するからといって、「データウェアハウスのように大がかりで複雑なデータ管理が必要になる」と考えてしまうのは早計だ。なぜなら、極めてシンプルにマーケティングデータを“利用”する仕組みである「DMP」を活用すればよいからだ。データウェアハウスはあれば便利だが、不可欠な存在でない。

DMPとDatawarehouseの違い

データウェアハウスとDMPの違いは何だろうか。平たく言えば、データウェアハウスは既存顧客や見込み顧客の“完全な情報”を蓄積する場所だ。購買履歴やサポート履歴、顧客の個人情報を含むCRMシステムのデータ構造がそのベースになる。そこにwebログや会員ランク算定システム、POSなどから得られた結果を付加する。一方、DMPは“利用すること”に主眼を置く。顧客の氏名など「個人を特定する情報」は持たせず、潜在顧客向けにマーケティング施策を実行するために利用する。もちろん、データウェアハウスがあれば、そこに蓄積されたデータをDMPで利用することは容易だ。しかし、データウェアハウスがない場合でも、必要なシステムからデータを取り出し、DMP上で施策に最適なセグメントを切り出して実行できる。

例えば、米モルガン スタンレーでは、webサイトへの流入経路ごとにセグメントを切り分け、顧客ごとに異なるレイアウトのトップページを表示している。こうしたテクニックを使いたい場合、まずはDMPがあれば十分だ。

DMPを整備して顧客理解を深めるための勘どころ (3) :

データを、デバイスではなく人にひも付けること

DMPでセグメント化と施策実行は可能になるが、問題になるのはデバイスの多様化だ。たとえばアドビのサイト「adobe.com」には、月間3億5000万人のユニークユーザーが訪れる。ユニークユーザーはCookieでカウントするため、PC、スマートフォン、タブレットの3つのデバイスを使って訪問してきた1人の顧客を、3人分のユニークユーザーとみなしてしまう。

こうした状況は、テクノロジーの活用によって打破できる。アドビでは、Adobe Audience Managerを利用しつつ、ログインデータとCookieをひも付け、デバイスIDを顧客プロファイルにひも付けている。すべてのCookieがひも付け可能ではないため推定値になるが、Adobe Audience Managerが把握するadobe.comを訪れる“人”の数は、2億1000万人程度だ。

とはいえ、注意しなければならないのはデバイス共有だ。たとえば、家族間で共有するタブレットがあり、夫婦のどちらも顧客だった場合、顧客体験を損なうパーソナライズをしてしまうかもしれない。こうしたケースには、運用ルールを決めることで対処することになる。「顧客がログイン中に収集したデータは、ログイン後にだけ利用する」、「ログイン前に収集していたデバイスにひも付くデータを利用しない」などが考えられる。もちろん、リスクを承知で「すべての情報をひも付けて利用する」という選択もあるだろう。

DMPを整備して顧客理解を深めるための勘どころ (4) :

自社のデータだけでなく、外部データも活用できるようにすること

セグメントを絞ってマーケティング施策を実行したい場合、セグメントのサイズに気を配る必要がある。絞れば絞るほど施策が“当たる”確率は高まるが、十分な対象数は確保できない。一方、量を増やすために絞り込み条件をゆるめれば、顧客体験を損なうリスクも増す。

マーケティングセグメントの4象限

絞り込まれた品質の高い条件で、量を増やすためには、社外のデータを活用することが必要になる。良く行われる手法は、自社DMP(プライベートDMP)と媒体社のDMP(パブリックDMP)を連携させ、自社で保有している優良顧客セグメントに類似(look-alike)した非個客へと広告を通じてリーチすることだ。これにより、質の高い新規見込み客を獲得することができる。これを「オーディエンス拡張」と呼ぶ。また、子会社や関連会社のデータを利用する、あるいはデータプロバイダーから購入することを検討したい。これらはセカンドパーティデータ、サードパーティデータと呼ばれる。

入手データに個人情報が含まれている必要はない。個を特定しないデータにも大きな価値がある。たとえば、オーストラリア政府観光局では、同組織のwebサイトを訪れた人(デバイス)のデータを航空会社に提供している。パートナー航空会社のwebサイトで航空券を予約しようとする人が、最近メルボルンの情報を閲覧していれば、関連するオファーが表示される。これは、観光を促進したい同組織、的確なプロモーションを打ちたい航空会社、そして自然な形でオファーを受け取れる顧客、3者のだれもがメリットを感じられる仕組みと言える。

同組織は、それをさらに一歩進めた。パートナー航空会社からデータを提供してもらい、フライトを予約済みの顧客に対しては広告出稿を停止しているのだ。これにより、同じ広告予算でより幅広い顧客にリーチできるようになり、顧客も予約済みの広告を見てイライラせずに済む。

アドビは、個人情報を含まないこれらのデータをやり取りできるAudience Marketplaceを提供している。こうした仕組みを通して品質の低く、量の多い“有象無象”のデータを補強し、「優等生」にすべく育成していくことで、マーケティング施策はさらに進化するはずだ。

 

UNITE編集部


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