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- 1 顧客中心主義時代の成功に不可欠な「企業文化」を醸成せよ
顧客中心主義時代の成功に不可欠な「企業文化」を醸成せよ
2017年08月10日
【POINT】
- 企業と顧客のあらゆるタッチポイントでは、必ず人間の感情が動いている
- 企業のブランドに明確なパーソナリティが込められていると、「自分が望むものを提供してくれる存在」として信用され、選ばれる可能性が高い
- 消費者の注目を得るひとつの方法は、お決まりのパターンや慣習を破り、ありふれた言い方をしないこと
ビジネスを成功に導く方策として、「顧客に寄りそった対応」の重要度が増している。企業幹部に課されるROI(投資回収率)を達成するための新たな軸として認識されるようになったのだ。顧客の声に耳を傾け、変化する市場状況と消費者の意図を理解し、利益を確保しながら迅速に顧客のニーズに合った対応を行う、それが顧客満足という間接的な価値だけでなく、顧客の獲得と維持という直接的なビジネス価値を生む、という考え方だ。
さらに、ビジネスを行う上で、顧客の利益を第一に考えない企業は、評判を損ねるリスクだけでなく、行政からの改善要求というプレッシャーにも直面することになる。
それでは、自社のブランドが顧客にとってのメリットとなるように、ポジティブな成果を継続的に上げていくにはどうしたらよいのだろうか。また、顧客の獲得と維持を達成していくには、どんなビジネス戦略が必要となるのか。
その答えとして、“企業文化”の効果が認識されるようになってきている。優れた顧客体験、イノベーション、責任あるリーダーシップ、継続的な成長には、「顧客中心の企業文化」がカギになる、という考えだ。先進的なブランド企業の多くでは、顧客戦略の核として積極的に企業文化の管理に取り組んでいる。この戦略は、業績だけでなく、企業成長の管理や不確実要素の軽減においても、明確な効果を生み出している。
顧客中心主義の意思決定による効果

単なる顧客重視というだけでなく、真の意味で顧客中心主義の企業文化が醸成されると、顧客の期待や市場動向に合致した経営判断が可能になる。一定の態度や行動規範を自社の文化理念として全社員に浸透させ、それによって業績を伸ばしていく会社では、組織に深く根ざした考え方が結果に現れる。
例えば、アマゾンCEOのジェフ ベゾス氏は、株主に向けた今年の書簡で、独自の「Day 1」「 Day 2」という考え方に言及している。Day 1 とは同社が起業した「初日」を意味する。対してDay 2は初日が過ぎ去ったことを意味する。「初心を忘れてしまうと、一夜明けた2日目にはあっという間に衰退が始まる」という、同氏の哲学を象徴する表現だ。
アマゾンがいかにして成長を続け、バリューを継続的に生み出す「Day 1の文化」を維持しているか。また、ピークを迎えたビジネスの慢心とコモディティ化(付加価値の喪失)によって衰退が始まる「Day 2」の到来から会社を守っているか、ベゾス氏は次のように語っている。
「Day 2とは、停滞である。停滞の次には、市場や顧客との乖離が発生する。その後に長く苦しい衰退が訪れ、ついには死に至る。ゆえに、(アマゾンは)常にDay 1であり続ける」
同氏の見方によると、顧客に尽くす文化こそが、Day 2の訪れを避ける最善の策だという。顧客は常に「より良いもの」を求めている。顧客中心の企業文化が根付いた会社では、新しい高付加価値のソリューションを考案する準備が常にできているのだ。
将来の顧客のニーズへと対応するために

デジタル変革や顧客体験の改革は、より効率的なカスタマージャーニー、簡素化、サービスコストの軽減などによる全体的な顧客体験の改善を主な目標としている。しかし、こうした顧客体験の改革においては、企業文化の転換を促すことも重要となる。つまり、顧客の「将来の意図」を理解し、いかに彼らの心を惹きつけることができるかを考える「文化」の形成だ。この努力を怠った企業は、業界内で取り残されることになる。業界他社の大部分がデジタル基盤の統合を完了させ、各社の顧客体験が顧客にとっての基準になるので、努力しなかった企業のブランド力は相対的に落ちるだろう。
将来的な伸びしろを見つけ、常に改善を続けていく企業は、時代に遅れを取ったり、時代が求める最低限の対応に四苦八苦したりする事態には陥らない。
企業文化に変革をもたらすリーダーシップ

顧客中心主義で市場に敏感な企業文化は、トップダウンのリーダーシップを通じて生まれる。変化の激しいビジネス環境において競争力を磨くにはどうしたらよいか、自社のすべての部門が素早く見極め、新しいバリューの創出を推進する環境を作れるかどうかは、経営トップの姿勢にかかっている。
企業変革のリーダーたちは、文化の転換を通じて、社員の積極的な参画と迅速な対応を促進してきた。リーダー一人ひとりのスタイルは違っても、経営トップのそうした姿勢は、強い目的意識に基づいた顧客中心主義の企業文化を醸成するために不可欠だ。
企業文化は、ビジネス戦略における抽象的な側面と考えられることが多いが、実際には主に社員行動とその結果を示すものだ。明確な目標に向かって社員が動く会社では、実に目覚ましいビジネス成果を出している。
顧客との関連性が高く、差別化されたブランド体験を迅速に提供できる企業づくりを行うには、幹部がこれまでとは異なる顧客中心主義の心構えを持つことが求められる。そして社員には、新しい役割、スキル、行動が求められる。
企業文化の管理と育成

しかし、自社の「顧客中心主義」具合がどんなレベルにあるのかは、どうしたらわかるのだろうか。
多くの企業とマーケターは、自社の現状を過大評価しがちだが、その評価を裏付ける具体的な根拠を持たない。実際、会社の自己評価と、顧客が実際に体験する現状との間には、乖離が見られることが多い。自社のパフォーマンスを計測しないことには、マーケティングと顧客中心主義をバックアップしてもらうだけの根拠を示したり、指導を行ったりすることはできない。
さいわい、グローバルデータベースを利用し、CMOら経営幹部が自社のレベルをベンチマーク比較できる検証ツールが存在する。MRI(Market Responsiveness Index)と呼ばれるものだ。
MRIは、市場に対する企業の反応性を示す指標であり、マーケティングを含む自社の各部門の評価、および全社的な評価に役立つ。MRIは具体的で計測可能なベースラインを提供するため、ここから顧客文化を強化するためのアクションを見極め、顧客維持、顧客支援(アドボカシー)、継続的な増収につなげていくことができる。
市場の変化にうまく適応するには、社内的な連携を強化すること、自社の理念を組織の末端まで行き渡らせること、協力体制を推奨することが不可欠となる。多くの企業では、こうした変革をどう促進するかが課題になっている。「変革を成し遂げればそれだけの見返りがある」という証拠がないと、組織は動き出さないことが多い。
顧客中心主義における自社のパフォーマンスを計測すると、他社と比較した場合の現状がわかり、どの部分で変革が必要なのか明らかになる。また、変革イニシアチブが社員に求める行動規範は、優れた「顧客アウトカム(顧客への影響度評価)」とビジネス上の成果につながるということを、すべての関係者に知らしめることができる。
ミレニアム世代の有能人材の確保

有能な人材は、勤め先を選ぶにあたり、企業の価値観やブランドの評判、顧客対応のあり方を見るようになってきている。顧客に尽くし、純粋に顧客のためになりたいと努力している企業は、有能な人材にとって最も望ましい職場環境を提供する、という認識が進んでいるのだ。これは特に、今非常に需要が高いデジタルスキルを有した“ミレニアル世代”(2000年以降に成人した世代)に顕著な傾向だ。
また、スキルが高く熱心な人材の獲得競争は、市場の変化につれてより熾烈になり、「良ブランド」と「最優良ブランド」のギャップはますます広がっていく可能性が高い。顧客と社員の両方の期待に応えるような顧客中心主義文化を積極的に形成していく努力は、「いつの日も、Day 1であり続ける」ことにほかならない。
現在そして未来において、企業がどのように顧客の生活に貢献していくのか。マーケティングと顧客体験のリーダーは、自社のエネルギーをこの点に集中させていく責務を負っている。変革リーダーたちが、顧客中心主義の根底にある主意を強調し、積極的な舵取りを行う会社では、サステナブル(持続可能)な成長について経営陣が考え方を見直し、顧客の利益を第一に考える文化を醸成していくことができるだろう。
CMO.com
関連資料
アドビは2017年6月、小売/銀行分野における消費者の購買行動に関する調査を実施しました。現代の消費者を取り巻く情報環境や消費行動を把握し、カスタマージャーニー、提供している顧客体験のあり方を見つめ直すヒントとしてぜひお役立てください。