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- 1 「B2C」に代わるマーケティングの新常識、「B2Me」への転換とは | Adobe Insights
「B2C」に代わるマーケティングの新常識、「B2Me」への転換とは
2017年09月26日
【POINT】
- 先進的なビジネスリーダーは、「B2C」に代わる新たな概念「B2Me (Business to Me)」 の出現を好機と捉え、これに合わせて自社を変革させている
- CI(Consumer Intimacy)と呼ばれるマーケティングの新しい領域が確立しつつある
- 「リビングサービス」の時代には、ROI(投資利益率)という言葉にReturn on Individual (個人からのリターン)という意味が加わる
CMOをはじめビジネスリーダーが立ち向かうべき市場環境は、変化と不確実性に満ちている。デジタル技術が高度な進化を遂げ、消費者との関わり方は大きく変わった。同時に、消費者の行動は流動的かつ試行的になり、予測が困難になってきている。ビジネスリーダーたちは、こうした課題に企業が対応できるようにするだけでなく、すべての予算投資から利益を回収しなければならない。これは、マーケティングの「新常識」だ。
革新的でデジタルに秀でた競合他社が市場を賑わすようになったことで、企業の課題はより大きなものとなっている。革新的な企業の例として、ニューヨークのNomi Beautyを挙げよう。同社はアプリやホテルのコンシェルジュサービスを介して、顧客が滞在するホテルの部屋にヘアスタイリストやメークアップアーティストを派遣する「オンデマンド美容プラットフォーム」を展開している。質の高い製品、利便性、そして安価なサービスの組み合わせがヒットし、この企業は、“超”のつく有名人を含む大物顧客の獲得に成功した。
消費者一人ひとりをターゲットとし、個人に特化した体験を提供するNomi Beautyのようなブランドは、「マーケティングの新常識」を体現している。それは、「B2C(対消費者ビジネス)」に代わる、「B2Me(対”私”ビジネス)」と呼ばれる概念だ。B2Me企業は、消費者との間に極めて価値の高い関係を確立し、これまでのマーケティングでは難しかったレベルの親密さ(インティマシー)を実現している。
先進的なビジネスリーダーは、B2Meの出現を好機と捉え、これに合わせてマーケティングのやり方を変えている。マーケティング、営業、顧客サービスという分業が、今時のビジネスにはそぐわなくなったという認識のもと、先進的なCMOたちは、チーフ“マーケティング”オフィサーからチーフ“カスタマー”オフィサー(CCO)への脱皮を試みている。CCOの目標は、B2Meを通じて顧客とより親密な関係を構築するだけでなく、あらゆるチャネルでビジネスの成長を促進しながら、新たな顧客中心時代における水先案内人として、自社を成功に導くことだ。
「顧客体験」から、「消費者親密度」へ

この変革を行う上で最も重要な要素のひとつが、パーソナライゼーションという基盤だ。「自分好み」のより良いサービスと引き換えに、個人データを提供することを厭わない消費者は増えてきている。革新的なブランドは、このトレンドに目をつけ、心をつかむ顧客体験を提供するようになっている。
しかし、顧客体験は最初の一歩にすぎない。CCOたちは、さらに CI(Consumer Intimacy)と呼ばれるマーケティングの新しい領域を確立しつつある。CIとは「消費者との親密性」のことで、消費者との新しい関わり方を示している。あらゆる機会において顧客体験を意識し、ブランドへの愛着をもたらす親密な関係の創出に、消費者の側から積極的に参加できるようにする、という考え方だ。
CI志向のマーケティングを展開する企業の出現によって、「自分だけのブランド体験」を作り上げようとする消費者を受け入れる企業が、これからの市場リーダーとなっていくだろう。個々の顧客に関して、何が好みでどんなニーズがあるのか、どんな点に熱心なのかを、取引の履歴や購入製品の特徴(製品DNA)を分析することによって、消費者の暮らしぶりを描き出す情報、すなわち“リビングプロファイル”を得られる。これをコンサルティング企業 アクセンチュア インタラクティブでは、「顧客ゲノム」と呼んでいる。市場リーダーとなる企業は、常に消費者と関わり合い、顧客ゲノムの獲得と分析を通じて、単に顧客が何を購入/消費したかを把握するだけにとどまらず、なぜ彼らがそうした選択をしたのか、理解を深めている。
変動する消費者の期待に応え、恒久的な関係性を築く「リビングサービス」

CCOにとって、その次の注力分野が、自社ビジネスの「サービタイゼーション(サービス化)」となる。ビジネスのサービス化とは、顧客ゲノムのマッピングから得られた知見にもとづいて、極めて利便性の高いサブスクリプションベース(加入型)のサービスを提供することだ。これによって、消費者を恒久的に取り込むことができる。ユーザーの置かれた状況を認識して自己学習を行い、変動する消費者の期待に応える「リビングサービス」からは、大きな見返りが期待できる。
あらゆる分野でデジタル化し、顧客ゲノムの理解をかつてない水準で進めるビジネスは、B2Meの夢である「マスカスタマイゼーション」を実現するだろう。こうした企業が提供する「リビングサービス」は、個人を軸として適応と進化を続け、顧客体験を根本から革新していくはずだ。
「リビングマーケティング組織」は5つの要素から成る

この革新を、時代が求めるスピードで実現するには、ビジネスリーダーが「リビングマーケティング組織」を育てていく必要がある。リビングマーケティング組織では、すべてのメンバーがブランドの活性化に一役買い、より優れた顧客体験の促進に向けて適応を続けていく。このような組織は、以下の5つの要素から構成される。
(1)「生きたクリエイティブ力」
消費者の期待を超え続け、求められるコンテンツ制作のスピードについていける
(2)「生きたコンテンツ」
更新、計測、分析が常に行われ、改善に繋がる知見を獲得する
(3)「生きた企業組織」
絶え間なく変化する消費者の要求を予測し、迅速なマーケティング施策の展開を可能にする
(4)「生きたチャネル」
従来の購入経路に工夫を加え、新しい方法で消費者との親密性を構築する
(5)「生きた基盤」
連携エンジンとして作用し、すべての接点においてシームレスな消費者体験を実現する
問われる各方面との調整力

新しい「マーケティングの常識」は、これまでの常識に比べ、桁外れに複雑になっている。消費者の期待に応え、個別市場の状況を熟知し、ビジネス成果を上げていくには、CCOのようなビジネスリーダーが極めて多岐にわたる関係者を統率し、マーケティング、営業、顧客サービスの各部門がシームレスに連携して、タイムリーに体験を提供できなければならない。社内の各部門との調整はもちろん、IT部門や社外の代理店や制作会社などの取りまとめも必須となる。
こうした変化に伴い、人材戦略においても新しいアプローチが必要になる。まず、「新しい常識」に対応できる敏捷で最高クラスのマーケティングチームを組成するには、人的スキルとロボティクス/AIスキルのバランスをとることだ。これにより、データドリブンでありながら、人間的な共感を呼ぶ体験を提供できる。次に、消費者の心に響くワンツーワンのキャンペーンを提供するには、ビジネスリーダーが社内と社外のリソースのバランスを絶えず調整していく必要がある。
「新しい常識」としてのROI

「リビングサービス」の時代には、ROIという言葉が新しい意味を持つようになる。Return On Investment(投資からのリターン)に加え、Return on Individual (個人からのリターン)である。個人からのリターンには、ブランドへの提言や有益な貢献(例えば好意的なレビューの拡散)など、いわゆる無形の価値も含まれる。さらに、CCOが社内外のリソースを調整する際、社内の人材、代理店、基盤を提供するパートナーの全員が、要請する予算の根拠として、ROIの試算を提示することが求められるだろう。
これはビジネスリーダーにとって、例えば以下のような見積もりを意味する。
「我々は、毎年顧客一人につき2万円の売上を出している。顧客体験を向上させるには、顧客一人当たり2千円の投資が必要となる。この投資によって、顧客一人当たり毎年3万円の売上が見込めるようになる」。
現在多くの会社では、CMOに対して、計上する予算の根拠提示は求められても、リターン見積もりが求められるまでには至っていない。この現状とは対照的に、上記のようなリターンの提示が、新しい常識になるだろう。
「マーケティングの新しい常識」と、CCOのような新たな役割のビジネスリーダーの出現により、これまで事業コストとみなされてきたマーケティング部門が、プロフィットセンター(利益を生む部門)へと変貌を遂げる機会が拓けている。CCOたちは、これまでよりもずっと多くの責務を負い、企業が変化の時代を乗り切るためのリーダーとして活躍していくだろう。
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