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- 1 デジタル変革を展開するためのリスクマネーを確保する近道とは
デジタル変革を展開するためのリスクマネーを確保する近道とは
2017年10月05日
デジタル変革へのIT投資はしばしば、あらかじめ具体的な投資効果を算出し、投資コスト総額を正確に見積もることが難しい。そのため、デジタル戦略を進めようとする多くの企業で課題となることが多い。自社のビジネスのあり方を「変革」するためのIT投資の位置付けを社内で正しく説明し、適切なコスト管理を行うには、どうすればよいだろう。
すでに12%の企業が、デジタルビジネスで成果を上げている

ITアドバイザリー企業のガートナーは、IT投資を「変革」、「成長」、「運営」の3つに分類して考えることを提唱している。例えば、ネットワーク基盤やセキュリティ関連などは、「売り上げの創出に直接貢献しないものの、ビジネス運営には不可欠」という目的から、「運営投資」に該当する。また、経営ダッシュボードやCRMなどは、「既存業務の強化や効率化」が目的となるため、「成長投資」となる。これに対して、オムニチャネル化やサブスクリプションモデルへの移行など、「競合他社とは異なる顧客体験の実現」を目的としたデジタル変革は、ゆるやかな成長ではなく、ビジネスの大きな飛躍を狙うことができるため、「運営投資」「成長投資」とは根本的に性格のことなる投資だ。各企業の置かれた業界、自社のビジネスモデル、あるいはデジタル成熟度によっても異なるであろうが、デジタル変革のためのIT投資は、「変革投資」と位置付けたほうが理解しやすい。
デジタル変革に着手し、あるいは変革を成し遂げたビジネスのあり方を、ガートナーは「デジタルビジネス」と定義している。年商1,000億円以上の日本企業に対して同社が行った調査によると、デジタルビジネスに向けたプロジェクトを実施済みの企業は15%、実施中および計画中の企業が52%を占めており、2020年までには多数の企業で何らかの関連プロジェクトが開始される可能性があるという。もはや「デジタル変革に着手すべきか」という段階は過ぎており、「いつ、どのように変革すべきか」が問われているのだ。
しかし当然ながら、経営資源には限りはある。不確定な投資に対して、経営陣も安易に承認を下すことはできないだろう。何らかのリスクテイク、つまり、ある種の「賭け」に出なければならないからだ。そのデジタル変革になぜ賭けるのか、社内外への説明責任も問われる。
デジタルビジネスに向けた変革という、成功が約束されている訳ではない不確定なプロジェクトについては、それを推進しようとするビジネスリーダーも、決裁する立場の経営陣も、不安を覚えるかもしれない。それでもデジタルビジネスへの取り組みは、前へ進めなければならない。先の調査によると、実施済と回答した15%の企業の8割に当たる、調査対象企業全体の12%は、すでにデジタルビジネスで何らかの成果を手に入れている。すでに成功した先行者たちに追いつくためにも、いち早く手をつけなければならない分野なのだ。
予算獲得には、「変革投資」の“特殊な性格”をつかめ

変革投資とは、運営投資や成長投資とは根本的にことなる性格を持つものであることは、既に述べた。では、どのように違うのかを見てみよう。そこに、変革投資を引き出すヒントが隠されているかもしれない。
成長/運営分野への投資プロセスでは、既知の経営目標達成/課題解決のために、システムやビジネスプロセスを関係部門が提案することでスタートする。組織されたプロジェクトチームは、コストおよびリスクを評価して優先順位付けを行い、さらに詳細を詰めていく。リスクを最小化しながら、システム基盤や外部パートナーの選定などを行い、本格投資に移行する。
これに対して、変革への投資プロセスは、デジタルビジネスの可能性に社内の一部のリーダーが気づくことから始まる。彼らは社内の啓発活動に取り組み、デジタルビジネスの実現を目指すプロジェクトを立ち上げる。プロジェクトは、社内の業務プロセスやワークスタイル、そして社外の顧客やさらには社会全体にも目を向け、まだ発見されていない課題を見つけようとする。
課題は複数発見されるだろう。そこで、プロジェクトメンバーは課題解決のためのアイデアを出し合い、さらにそのアイデアに自社のビジネスが貢献できるかどうかを探っていく。絞り込まれたアイデアに対してPOC(Proof of Concept:概念実証)を実施し、効果が高そうなものに対してプロトタイプを作成し、予算獲得を目指す。このように見ていくと、大きな違いが浮き彫りになる。前者はすでに実績のある分野であり、課題が共有されている。運営投資の分野であれば、コスト削減や効率性向上を目指し、成長投資の分野であれば、投資規模が大きくてもその期待成果が大きければゴーサインが出そうだ。一方、変革投資はハイリスク&ハイリターンになる。そのため、前述のように不安が出てきてしまうのだ。
「変革投資」の不安を最小化するには

ハイリスクの投資に対して経営陣がゴーサインを出すのは、どのような場合だろうか。それは、スモールスタートのアプローチと、実現後のビジネス規模の明確化だ。
スモールスタートは、リスクを最小化するために最適な投資スタイルだ。シリコンバレーのベンチャー起業者から広まった「リーンスタートアップ」の手法も、これに通じるものがある。ベンチャー起業と同様に、デジタルビジネスは事前に明確な効果が見えないため、どれだけコストをかけてよいかを算出することが難しい。その上、効果を得られなかった場合には、すべてが無駄なコストになってしまう。
デジタルビジネスの本格展開にあたっては、IT以外にも大きなコストがかかってくる。プロジェクトチームには、あらかじめデジタルビジネスへの変革にかかる総コストを定量化し、スモールスタートによる実施方法およびそれにかかるコストも見積もることが求められそうだ。
デジタルビジネスへの変革によるビジネスインパクトは、変革シナリオによって想定される売上増加額を試算することで、ある程度定量化できるかもしれない。あるいは、変革に着手しないことによる機会費用や機会損失、既存ビジネスモデルにおける持続可能性のリスクによって、変革の妥当性を説明できるかもしれない。
デジタルビジネスを武器にした異業種参入やスタートアップによって、既存ビジネスモデルが成立しなくなり、変革に乗り遅れた既存企業が撤退や破綻に追い込まれる事例は、国内外問わず枚挙にいとまがない。とはいえ、業界変革の只中で逆風にさらされるまでは、それを自社のこととして捉えるのは難しい。まして、どのように変革シナリオを描き、リスクマネーへの投資を決断すべきかは、容易なことではない。しかし、デジタル変革が起きないことの保証された業界など、どこにもないのだ。「変革投資」と従来の投資との性格の違いを前提に、リスクをチャンスに変える道筋を描くのは、まさに今だ。
UNITE編集部
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