この記事を共有する:

- 1 デジタル ディスラプション時代の「見えない顧客」をつかむには
デジタル ディスラプション時代の「見えない顧客」をつかむには
2018年04月03日
【POINT】
- 企業は「情緒価値」「自己実現価値」といった高度な体験の提供が求められている
- 顧客を「観察」し、そのニーズを「洞察」する必要がある
- 「洞察」が競合との差別化要素になる
【RESOURCE】
質の高い顧客体験で結果を出すために

「顧客中心」、「顧客の声に耳を傾ける」、「顧客ニーズにこたえる」――。多くの企業は以前から、こうしたスローガンを打ち出している。
しかし、顧客ニーズが多様化する中で、多くの企業が苦戦を強いられている。一方、この状況をチャンスととらえ、従来の産業分類の枠を超えて新たなニーズを牽引するグループも生まれてきた。
すでに、多くの企業は顧客体験の重要性を十分に認識している。そして、体験の質をさらに高めようと日夜取り組んでいる。では、結果を出すためにはどうすればよいのだろう。
自分でも気づいていない「本当のニーズ」を充たすには

現在は、モノや情報が飽和した状態にある。モノが行き渡った結果、消費者はモノに囲まれ、ある程度満ち足りた状態で生活している。そこで大量に生まれたのが、「明確な購買動機の持たない消費者」だ。企業は、彼らの心を動かすために、彼らの気づいていないニーズを充たす必要が出てきた。
そこで求められるのが、「買ってよかった」、「利用して便利だった」、「今までにないことで嬉しい」と思わせることだ。情緒価値、自己実現価値といった高度な体験の提供が、これにあたるだろう。では、どうすればそれを提供できるのか。その答えを探るためには、個々の顧客を深く知らなければならない。具体的には、以下のような問いに答えられる情報を整理することになる。
- 顧客はどんな人なのか、どんな生活を送っているのか
- 顧客の生活を豊かにするために、自社のサービス/製品がどのように貢献できるのか
- 提供した「新しい体験」が、顧客の潜在ニーズを満たすものになっていたか
隠れたニーズを把握する

これらを理解するためには、まず顧客を「観察」し、そのニーズを「洞察」しなければならない。多くの企業は、膨大なVoice of Customer(以下VoC)を収集している。一方、「VoCの多くはクレームである」ということもまた事実。「このサービスの顧客満足度は高い。なぜなら問い合わせが少ないから」という逆説的な意見も出てくるほどだ。
しかし現在は、満足の声をソーシャルメディア(以下、SNS)でつかめるようになった。「問い合わせが少ない」上に、「SNSで好評が拡散している」のだから良い傾向である、という指標を設けることもできる。
これらの顕在ニーズだけでなく、潜在ニーズも探らなければならない。そのためには、顧客の行動データを分析することに大きな価値がある。無意識の行動の中に、何らかのサインが隠されているかもしれないからだ。これは「インテントデータ」と呼ばれる。
webサイトの閲覧、メールの開封、実店舗への来店など、さまざまな行動をデータ化し、分析することは、すでに技術に可能。顧客がどのようなタイミングでどのようなアクションを起こしているのかを「観察」し、さまざまな場面で顧客が無意識に求めていることを「洞察」できれば、隠れたニーズを掘り起こすことができるはずだ。
そして体験の創造へ

データから洞察を得て、潜在ニーズを予見できれば、次の施策に役立てることができる。例えば、潜在ニーズを充たす製品やサービスのデザインだ。誰もが欲しいと思うような製品やサービスは、世の中にあふれている。そうした観点は重要ではあるが、競合から抜け出すのは難しい。「よかった」「便利だった」「今までにない」といった顧客体験につながるような、まだ明確に認識されていないニーズを洞察、予見し、デザインすることができれば、顧客の期待を超える価値を提供することができるだろう。
多くの企業は、他社とのAPI 連携のような新たな機能価値、サブスクリプションモデルのような提供形態、オンデマンド配送のような物流モデルなど、自社内から生まれた発想と社内外におけるイノベーションを、新製品開発や新サービス開発に生かそうとしている。なかでも、最も大きな可能性があるのは、デジタルインタラクション(デジタルによる顧客対応)の組み込みだ。
デジタルインタラクションの対象は、webやモバイル、ソーシャルに加え、ビーコンやIoT、VRやスマート音声デバイスなど多岐にわたる。デジタルの特性は、いつでもどこでも、自分のペースで利用できる点にある。こうしたデジタルの特性を製品やサービスのデザインに組み込むことで、顧客の反応や所在地などの状況に応じて提供されるサービス、顧客の視点に立ってきめ細かに提案するサービス、顧客が望んだ時にメリットを提供きるサービスなどが生まれる。
「洞察」が競合との差別化要素になる

これらには、すでに先行企業があり、差別化にはつながらないと考えるかもしれない。しかし、「洞察そのものはオリジナルである」というポイントは大切だ。全く同じデジタルインタラクション機能を備えた商品をライバル企業がリリースしても、顧客がそれを使って得られる体験価値は、目に見えない「洞察」の部分に左右される。それこそが、デジタル時代の差別化要素になるのだ。
言うは易く、行うは難し。しかし、行動しなければ、成果を得ることはできない。独自の洞察を錬成し、デジタルインタラクションを組み込んだイノベーションを起こすべき時ではないだろうか。だがこれは、企業のある一部門だけで成し遂げるのは難しい。全社一丸で取り組む総力戦となるだろう。そこで、顧客体験中心の組織を作ることが重要だ。

アドビが提供しているガイド『競争優位の行方:市場変動の時代に、競合から差別化するための経営施策とは』では、顧客から「この企業の商品やサービスには、自分の期待している/期待以上の価値がある」という印象を持ってもらう施策について知ることができる。さらに、本ガイドでは、リーダーの役割や、新しい時代の理想のリーダー像についても解説している。デジタル時代の顧客体験でライバルに差をつけるために、ぜひ一読をおすすめしたい。
UNITE編集部
関連資料
デジタル時代の顧客のニーズを満たす「顧客体験のあり方」とは。一橋大学 神岡太郎教授取材協力のもと、企業が抱える課題を整理し、「真の顧客視点」による競争力強化への方策を探ります。