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- 1 人工知能が実現する、クリエイティブ豊かなキャンペーン展開
人工知能が実現する、クリエイティブ豊かなキャンペーン展開
2018年04月24日
(Adobe Summit 2018 基調講演より)
【POINT】
- 「人と人工知能の協業」の実現が期待されている
- 人工知能との協業により、人間はよりクリエイティブ力を活かすことに専念できる
- 将来、ビジュアルもパーソナライズできるようになれば、ブランディング戦略でクリエイティブの果たす役割が変わる可能性は高い
人と人工知能の協業でキャンペーンクリエイティブを創る未来
2018年3月に開催されたAdobe Summitには、数多くの組織幹部が来場した。初日の基調講演では厳選されたExperience Maker(体験を創る人)たちが登壇し、自社の成功事例について語った。トップを切ったのは、Super Bowlでの広告が話題を呼んだオーストラリア政府観光局だった。壇上では、組織のマーケティングへの考え方を来場者にシェア。隣国ニュージーランドとの比較を交えながら、オーストラリアのすばらしさをアピールし、来場者はしばしば脱線するトークも楽しんでいた。

その流れを受けて披露されたのは、同組織のアセットを借用してアドビが構築した、あり得べき未来の架空キャンペーンのビジョンデモだ。来場者からの反応が最も大きかったこのデモは、オーストラリア観光をテーマに、「ラフスケッチから半自動でポスターを作る」というもの。マーケターと広告会社のデザイナーの打ち合わせを想定し、スケッチからビジュアルなポスターが完成するまでの一連の流れが披露された。カギとなるテクノロジーは、アドビが向かおうとしている近未来、人と人工知能の協業を可能にする「Sensei Agent」だ。
ラフスケッチの内容をAIが認識

まず画面に映し出されたのは、マーケターの想い描くイメージを手書きであらわしたスケッチだ。コアラやカンガルー、ディンゴなど、オーストラリアを代表する動物の絵が描かれている。それぞれの動物に手書きで説明書きが添えられ、動物が何であるかはわかるようにしてある。

クリエイター向けツールとの連携

次にスケッチをスマートフォンで写真に撮り、デモ版のAdobe Scannerで読み取る。Adobe Scannerに組み込まれたSensei Agentは、スケッチとメモの情報から、個々の動物を識別し、タグを自動生成する。
興味深いのは、タグに「オーストラリア」が含まれていること。これは、ラフスケッチになかった言葉だ。Adobe Senseiは前記の動物や背景の構成要素からオーストラリアを連想し、タグに加えたことになる。

必要な情報がそろったところで、内容をAdobe Experience Managerに送るようAdobe Senseiに指示する。Adobe Experience Managerを起動し、Sensei Agentを呼び出すと、ラフスケッチとタグ情報など、Adobe Scannerが生成した情報が引き継がれている。そこで、画面に表示されているタグを選ぶ。
例えば「CLOUDS」というタグを選ぶと以下のように、Senseiが自社所有のアセットとAdobe Stockの保有する膨大なアセットの中から、最適な画像を推薦してくれる。

そこでキャンペーンのイメージに合いそうな背景や動物たちを次々に選んでいく。その際、動物たちの元画像からは背景が自動的に切り抜かれ、動物だけの画像が生成された。

必要な素材が揃ったら、Adobe Photoshopでのレイアウト作業に移る。Adobe Photoshopでは、Adobe Experience Managerに登録されているアセットをシームレスに利用できる。ソフトウェアが立ち上がると、選択した背景、ラフスケッチ、切り抜かれた動物たちが乱雑に配置された状態となっている。

そこでAdobe Senseiに動物たちをラフスケッチに合せて配置するよう指示すると、位置がおおよそ整う。

そして、最終的には人が調整してポスターを完成させる。

最終データは、保存するだけでAdobe Experience Manager上で扱うことができるようになる。
ここでポスターは完成したが、サイズは屋外掲示用のものだ。キャンペーンに展開するには、それを配信チャネルごとに最適なサイズに変えなければならない。これまではデザイナーに依頼するなど作業負荷がかかったが、Adobe Experience Managerに組み込まれたAdobe Senseiは、サイズが変わってもメッセージが正しく伝わり、かつデザインを損なわないよう自動調整してくれる。

自動調整されたデータは、それぞれに最適なチャネルへと配信されていく。会場では電子メールキャンペーンとして、アセットをAdobe Campaignで活用する様子までがデモされた。
手間と時間を費やす作業をAdobe Senseiが行い、人間はよりクリエイティブ力を活かすことに専念できるという近未来が提示されたのだ。

ビジュアルを含めたパーソナライズが可能に
Adobe Campaignを活用した電子メールによるキャンペーンは手軽だ。多くの組織では、同じ顧客に対して、何度もさまざまなキャンペーンを行う。そして、そのすべての結果はシステムにフィードバックされている。「顧客が過去に反応したキャンペーンやテストの結果など、Adobe Senseiがすべてを覚えている」と考えればわかりやすい。
実際に、顧客ごとに反応するポイントは異なるため、一律に同じものを送っても成果は限定的だ。そこで、Adobe Senseiと「相談」しながら、デザインを微修正することができる。ここで、クリエイティブの想定しうる組み合わせを可視化する「Sensei Graph」が披露された。たとえば「アザラシが好きな顧客セグメント」には、「アザラシを目立たせる」、「全体的な色味を調整する」などだ。セグメントに応じてクリエイティブを調整することで、期待成果は変わる。Adobe Senseiは、その予測もしてくれる。


セグメントに応じたクリエイティブ調整の一例。アザラシのみ、顔の角度を変えている
このデモは、近い将来、Adobe Senseiが顧客ごとに最適なデザインを配信してくれる未来を予感させるものになった。修正した結果をある程度正しく予測できれば、ビジュアルの調整を含めてパーソナライズしたコンテンツを自動配信できるようになるはずだからだ。実際に、プレゼンテーションの締めくくりには、Adobe Senseiが基本デザインをもとに、色味を変えたものや特定の動物を目立たせたものなど、膨大なバリエーションを自動的に生成し、会場を沸かせた。

クリエイティブの基本は、人間の発想力に委ねられる。しかし、それがすべての顧客にとって最も心地よいものであるとは限らない。広い世界の中には、アザラシが「大好きな人」、「苦手な人」などさまざま居るだろう。ビジュアルもパーソナライズできるようになるのは、それほど遠い未来の話ではなさそうだ。そして、そうなれば、ブランディング戦略でクリエイティブの果たす役割が変わってくる可能性が高い。近未来に向け、ブランディングとデザインについて、確立すべき部分と変更しても良い部分を切り分け、次世代のパーソナライズ戦術について構想しておけば、将来役に立つだろう。
Adobe Summit 2018における主な発表
■次世代のAdobe Experience Platform
「Experience System of Record(エクスペリエンスのための記録システム)」として、カスタマーエクスペリエンスの向上に必要なあらゆるデータとコンテンツを集約。
- 顧客の統合プロファイルを実現
- EU一般データ保護規則(GDPR)に対応
このプラットフォームがAdobe Experience Cloudをエンタープライズアーキテクチャの中心たらしめる存在となる。
■Adobe Senseiのインテリジェンスサービス
クリエイティブ、コンテンツ、エクスペリエンスの3領域でインテリジェンスを強化。
- 組織が管理するクリエイティブを、Adobe Senseiが学習、加工、提案
- コンテンツそのものを顧客ごとにパーソナライズ
- 顧客の広告への反応や購買行動を予測
- データサイエンティストや開発者向けに組織独自の学習モデルの組み込み機能を提供
なお、Adobe Senseiはアドビ製ソフトウェアにおけるAI機能の総称であり、すでにさまざまな場面でAdobe Senseiが使われている。今後も「ユーザーの作業時間を最小化し、生産性を増やす」ために、Adobe Senseiがサポートしてくれるシーンが増えてくる方向だ。
■広告配信とデザインの連携強化
Adobe Advertising Cloudの広告デザインを、Adobe Creative Cloudからシームレスに展開。クリエイターは優れた基本デザインの作成に注力し、マーケティング担当者は配信するチャネルごとにデザインやコピー要素を調整し、迅速に展開できるようになる。
■接触しているのが「だれ」なのか一目瞭然に
「Adobe Experience Cloud Device Co-op」の一般提供を開始(まずは北米から)。Adobe Experience Cloud利用企業が集めたデバイスグラフを匿名化した上で共同利用することで、デバイスを使用している実際の消費者を認識できるようになる。
■ユーザー向け「Experience League」プログラム
アドビの提供する新たなユーザー向けプログラム。トレーニング資料の提供やエキスパートによる個別のサポート、コミュニティへの参加による事例共有に加え、自己アセスメントツール「Adobe Experience Index」を提供。現在の自組織の進捗具合を知ることができる。
UNITE編集部
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デジタル変革の要諦は、顧客中心への変革と、それを支えるテクノロジースタックの確立。そのあるべき姿を先進企業から探ります。