訪日観光客を満足させる体験を提供する3つの提案

2018年06月26日



【POINT】

  • 訪日観光客の急増で旅行業界は大きなチャンスを迎えているが、日本人向け前提の体験ではそれに応えられない
  • 訪日観光客のニーズを充たすには、タビナカ(旅行中)へのサービス拡充、デジタル活用が急務である
  • 「想像力」「インサイト」「リアルタイム」という3つの側面からデジタルを活用することで、旅行業者は優れた体験を提案できる

 

【RESOURCE】

 

急増する訪日観光客。彼らを満足させる体験とは 

訪日観光客が右肩上がりだ。2011年段階では622万人にとどまっていたが、2017年には2,800万人へと急増。中でもアジア市場の伸びが著しく、各国の経済成長やビザ要件の緩和などにより、85%をアジアからの訪日ゲストが占めている。オリンピックイヤーの2020年には全体で4,000万人に増え、8兆円規模の消費がもたらされるという予測もある。
これは、旅行業界にとっても大きなチャンスだ。2017年の国内旅行市場に占める訪日観光客の割合は、15%。それが2020年には一気に30%へと拡大する。

一方、訪日観光客に「日本は魅力的な観光地だ」と感じてもらうには、まだまだ課題も多く残る。

国内旅行市場は、「日本人ゲストに快適な“休暇”を提供する」ことを中心に考えられてきた。たとえば日本の一般的な温泉旅館では、宿泊、食事、アクティビティ施設が備え付けられ、お土産も旅館内で買える。しかし海外では、宿泊とコト消費は分離され、自由に組み合わせられることが一般的だ。日本人前提の従来型スタイルでは、旅行者のニーズに応えにくい。

また、国による好みの違いも大きい。アドビのマニッシュ プラブネは、「インド人は、富士山ではなく、日比谷公園に行きたがるのです」と話す。1960年代、東京五輪直後の日本を舞台にした映画『LOVE in TOKYO』がインドで制作され、挿入歌「Sayonara Sayonara」とともに大ヒットしたのだという。その印象的なロケ地が日比谷公園だったのだ。

インドに限らず、日本人が文化的に近いと感じてしまいがちな中国、香港、台湾などでも、その行動に顕著な違いがある。彼らの滞在地をヒートマップ化すると、以下の図のようになるのだ。

マクロレベルでの国別差異

Vpon「アジアツーリズムとモバイル広告統計&トレンドレポート(2018年3月18日)」より引用

もちろん、国籍だけで旅行者個人のニーズを知ることはできないが、国別の傾向を計測できたなら、訪日を検討している顧客向けのキャンペーンに利用する価値が高そうだ。では、どうすれば旅行者個人のニーズをとらえ、彼らにとってすばらしい体験を提供できるのだろう。

…デジタルの活用が、その答えだ。

「旅中(タビナカ)」の市場への注力が急務

「旅中(タビナカ)」の市場への注力が急務

デジタル活用の前段階として、旅行にかかわるすべての事業者も変わらなければならない。従来の“温泉旅館型サービス”も、日本ならではの魅力だろう。しかし、このタイプを求めない訪日ゲストも多い。彼らは個別のサービスから自分好みを選び、自由に食事をとり、自由にアクティビティを楽しみたがっている。このようなニーズにこたえられるよう、サービス提供の方法を細分化する必要が出てくるのだ。

旅行業者は、マーケティングによって消費者の認知を獲得し、検討段階まで持って行く。受注すると手配を代行する。従来、多くの旅行業者はここで利益を上げ、その後はコストという考え方が支配的だった。

しかし、訪日ゲストの多くは、事前にすべてを手配するのではなく、旅をしながら計画を立てる。たとえば、1週間の東京滞在を予定していた訪日ゲストが、「富士山を見て、そのあと京都にも行ってみたい」と、急にプランを変更したとしても、それに柔軟に対応できなければならない。「タビナカ」で複数の計画と手配のプロセスを高速に回すサポートできるような仕組みが求められている。

タビナカ市場を狙うにあたっては、旅行者の行動圏が行政区分をまたぐことにも注意したい。広域地域連携で観光を促進するDMO(Destination Management/Marketing Organization)も生まれている。たとえば、瀬戸内海を囲む7県(兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛)が協力し、瀬戸内全体としての観光ブランドを確立する「せとうちDMO」が注目を集めている。あるいは、中部国際空港を基点に、伊勢神宮、名古屋、犬山、下呂、高山、富山、金沢、輪島を経て小松空港へと至る、「昇竜道(ドラゴンルート)」の取り組みもある。

旅行業者としては、こうした取り組みと連携することに加え、独自の視点で「ゲストの奪い合い」ではなく、広域内での「融通し合い」につながるような提案を行っていくことができるかもしれない。

タビナカ市場において、デジタルができること

タビナカ市場において、デジタルができること

タビナカで、さまざまなものに興味を持ち、計画を立てる訪日ゲストたちに最適なサービスを提案するためには、「カスタマーモーメント」をつかむ必要がある。いまこの瞬間に、訪日ゲストが何をしていて、どんな感情を持っているのか。それをリアルタイムに理解し、何を必要としているのかを想像する。その上で、適切な提案を行い、サービスを提供するのだ。カスタマーモーメントは、時系列に積み上げていけば、そのままカスタマージャーニーになる。訪日ゲストが欲しているサービスや情報をリアルタイムに提供することに加え、類似するカスタマージャーニーから行動予測し、先回りして提案することも期待できる。

「想像力」「インサイト」「リアルタイム」という3つの側面からデジタルを活用することで、旅行業者は優れた体験を提案できる。


  • 「想像力」:すべての体験作りの基本。訪日ゲストの求めていることを想像し、提案する。提案内容は幅広く取りそろえておいた方がよい。絞り込むのはデジタルの得意とするところである。また、宗教や文化の違いなどからくるタブーも避けられる。
  • 「インサイト」:データ分析によって得られる。初めて会うゲストであっても、育ってきた文化や応対の履歴などから、その人個人の嗜好に見当をつけることができる。
  • 「リアルタイム」:カスタマーモーメントそのものであり、そこにインサイトの要素が加わる。デジタルを通して常にゲストに寄り添えば、ゲストが必要とするタイミングで、必要なサービスを提案できる。

これらは、顧客から「行動データ」という極めて個人的な情報を提供してもらうことで実現する。このとき、GDPRに代表される各種規制への対応など、旅行業者のプライバシー保護への取り組みも問われることになるだろう。

個人のライフスタイルに最適な提案を

個人のライフスタイルに最適な提案を

すでに国内市場でも、全体が同じものを楽しむ時代は終わり、個人のライフスタイルが重視される時代に入ったと言われている。マス向けのコミュニケーションが通じにくくなり、個人の状況を把握したうえでパーソナライズして提案することが一般的になってきた。

訪日ゲストへの対応という命題を通して、タビナカにトータルサポートを提供し、そこでも収益を上げられるモデルを構築する。それは、日本人ゲストにとっても魅力的なものを生み出せるだろう。

 

UNITE編集部


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