
- 1 明らかになった日本企業のデジタル活用の現状と課題
明らかになった日本企業のデジタル活用の現状と課題
2018年10月31日
【POINT】
- デジタル化に対応した組織の設置は過半数を超えており、デジタル時代へのコミットを示唆する専任役員の設置も一部見られる
- 年間1,000万円以上のデジタル基盤投資を行っている企業は全体の4割
- 幅広いチャネルを活用している先進企業は、チャネル統合とそれを可能にする基盤を重要視している
【RESOURCE】
デジタルが可能にする顧客とのコミュニケーションの姿について思いを巡らせている企業は多いだろう。一方で、どの程度の日本企業がデジタル変革に着手しているだろうか。その現状と課題について、日本の大手企業4,400社の経営企画責任者およびマーケティング責任者を対象に調査したレポート『Adobe Digital Survey 2018 デジタル変革実態調査』から解き明かしていこう。
Adobe Digital Surveyは、アドビが調査会社との協力によって実施している日本市場の実態調査で、今回は本格的な企業調査を行った。調査対象はB2C企業に絞り、直接的に顧客と向き合う企業のリアルな姿をデータ化した。
調査の狙いは、企業のデジタル変革の今を描き出すこと。「顧客コミュニケーションと組織の実態」、「顧客コミュニケーションのデジタル化予算と投資」、「デジタルコミュニケーションの現在と未来」の3つのテーマを通して、企業の取り組みに迫った。
以下、それぞれの内容について考えていこう。
顧客コミュニケーションと組織の実態

企業が顧客とコミュニケーションを取るために、いまやデジタルは欠かせない。一方、デジタルの範囲は広く、以前から運用してきた企業のwebサイトもデジタルの一部に含まれる。そして多くの企業は、次々に登場する新チャネルについて、どう取り組むか悩まされている。チャネル毎に取り組み方も異なるため、すべてをカバーするのは困難だ。
このように、デジタルを使うにあたって、「どこから手をつけて、どんなコミュニケーションを図ればよいのか」について、漠然とした課題を抱いている企業も多いのが現状だろう。

デジタル化におけるマーケティング課題
企業の抱えている課題に関する調査項目では、「デジタル化に対応した組織の整備」が最重要課題であることが浮き彫りとなった。これは、「既存の組織が既存のやり方で業務を回していては、デジタル変革による果実を得られない」と回答者の多くが考えていることを示している。「顧客体験を高めるために、自社がデジタル変革すべきであり、自分の仕事のやり方を変えても良い」というところまで踏み込んでいるかどうかはわからないが、少なくとも具体的な課題を明確に把握している企業が半数を超えることは好意的にとらえたい傾向だ。
一方、先行する企業はすでに組織整備に着手している。現状では、着手済み/着手計画あり、予定なし、不明がそれぞれ約3分の1ずつに分かれた。チーフマーケティングオフィサー(CMO、マーケティング担当役員)だけでなく、チーフデジタルフィサー(CDO、デジタル担当役員)を任命している企業も出てきている。実務を担う組織を設置するだけでなく、経営の観点から権限と責任を持ってその組織を率いる専任役員を設置することは、デジタル時代に対するその企業のコミットを示唆している。それは日本企業の全体からするとまだ一部に留まるが、経営課題としての取り組みの萌芽とも言えるだろう。
顧客コミュニケーションのデジタル化予算と投資

あらゆる企業は、ビジネスへの寄与に対する期待の高い分野に投資する。これに対して、予算はすでに実績のある分野に割り当てられるものだ。デジタル活用が加速すると、投資だけでなく予算が割り当てられる割合も増えるため、デジタルの果たした役割の多い企業ほど、多くの資金がデジタル分野に投入されることになるはずだ。

マーケティング予算の割合と、ネット経由売上高構成比のクロス集計
今回の調査では、それが裏付けられた。ネット経由の売上げの高い企業は、広告予算をより多くデジタル広告に割いている。また、先進企業はデジタル基盤への投資を怠らない。デジタル基盤は、顧客情報の宝庫になり、すべてのデジタル施策の基幹システムとして機能する最も重要なファクターだ。
実際に結果を見てみよう。IT予算に占めるデジタル基盤投資が2割を超える企業は、7%も存在する。割合でなく投資規模だけで見れば、年間1,000万円以上のデジタル基盤投資を行っている企業は全体の4割。多くの報道やレポートなどから「日本企業は遅れている」と見られがちだが、実態としてはむしろ改革への取り組みを積極的に進めていると見てよさそうだ。
デジタルコミュニケーションの現在と未来

デジタルコミュニケーションによって顧客体験の向上に取り組むことの重要性は、かなり理解が進んできたようだ。一方、デジタルコミュニケーションにおける優先施策として最も回答の多かったものは「戦略の立案」。明確な戦略を作るためには「やってみて反応を見る」というフェーズは極めて大切で、試行錯誤の段階にある企業が多いようだ。

顧客体験の向上に向けた施策の実施状況
そこで、より具体的に顧客体験向上に向けた施策の実施状況について見てみよう。すでに成果を挙げているか、試行している段階の企業は、全体の約2割弱に留まる。試行錯誤の段階にあるか、今後何らかの施策を実行に移したいと考えている段階の企業まで含めると、約4割弱となる。検討段階まで含めれば、87%の企業が顧客体験の「重要性を認識」しているとも言えるが、踏み出せていない企業の方が過半数を占める。実践しようとしているか、検討しているだけか、という企業姿勢の差は実に大きい。前者を「顧客体験を創る人々(エクスペリエンスメーカー)」と呼び、対する後者を「顧客体験について考える人々(エクスペリエンスシンカー)」としたとき、踏み出せているかどうかの差はそのまま、企業間の競争力の差につながり兼ねない(関連記事:企業調査から顧客体験と経営指標の関係を解き明かす)。
最後に、企業の投資動向についてもおさえておこう。
デジタル基盤への投資傾向に関する調査項目からは、デジタル基盤整備に投資している企業が多いことが明らかになったが、そうした企業は、コミュニケーションチャネルの統合ニーズも高い。web、メール、SNS、スマホアプリなど幅広いチャネルを活用している先進企業にとって、チャネル統合とそれを可能にする基盤の強化は、経営的観点での重要な効果が期待できる。統合コミュニケーションはそのまま顧客の利便性に直結するため、効率化やコスト削減だけでなく、顧客とのコミュニケーションを促進することで顧客を引き付け、それが競合との差別化につながるからだ。
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今回の調査では、顧客とのコミュニケーションを円滑にし、顧客体験を向上させる経営的な打ち手として、日本企業がデジタルに高い期待を持っていることが明らかになった。投資動向を見ても、約4割の日本企業はデジタル活用に積極的だ。
一方、デジタル化において明確な戦略を立案できていない企業は約6割あり、施策の策定から実行を経て成功/失敗から学び、次なる施策化へ、といったサイクルをスムーズに回せている企業も少ないことも明らかになった。
詳細な数値は、調査レポート『Adobe Digital Survey 2018 デジタル変革実態調査 企業におけるデジタル活用の現状と課題』にまとめられている。ぜひ自社の現状と照らし合わせて参考にしてほしい。
UNITE編集部
関連資料
既にデジタル化を遂げたと言える市場環境のなか、企業は自社のデジタル変革といかに向き合い、どの程度の進展を見せているのでしょうか? 「デジタル変革実態調査」では、調査から見えてきた「組織の実態」「予算と投資」「デジタルコミュニケーションの現在と未来」について解説します。