「みんなの合意からイノベーションは生まれない」 足立光氏が語る“優れた顧客体験を生み出せない組織“とは

2018年11月14日



【POINT】

  • Experience Makerとは、優れたエクスペリエンスを自ら率先して創造し、実際に行動を起こす人のこと
  • 一貫性を持ったブランドを維持するには、全員がExperience Makerとして活躍しなければならない
  • 「お客様は何を望んでいるか」を起点として、組織全員が動けるようになることが目指すべき姿である
 

「自社が顧客に提供すべき、最適な顧客体験とは」
―顧客体験の重要性が認知されつつあるいま、この問いの答えを日々考え続けるビジネスパーソンも多いことだろう。ここで1つ注意するべきことがある。それは、アイデアを「考えるだけ」で終わらせていないか、ということだ。顧客体験を向上させるには、何をすべきかを考えた後、周囲を巻き込みながら、それを実行に移していかなければならない。

その意義を自身のマーケティング経験にもとづいて語ったのは、元日本マクドナルドCMOの足立光氏(2018年9月28日よりナイアンティック アジアパシフィック プロダクトマーケティング シニアディレクター)だ。2018年9月5日 Adobe Symposium 2018 Day2の基調講演にて、「Experience Maker」のあるべき姿と、その組織について解説した。

全員がExperience Makerとして活躍する組織へ

全員がExperience Makerとして活躍する組織へ

講演の冒頭で足立氏は、「Experience Maker」の定義を整理した。Experience Makerとは、優れたエクスペリエンスを自ら率先して創造し、実際に行動を起こす人を指す。大切なのは、彼らが「役職者とは限らない」ということだ。組織のすべての階層に居る、すべての人がExperience Makerになることができる。また、現場から経営陣まで、すべての人材がExperience Makerになるのが望ましい。そうすれば、顧客とのあらゆる接点で「合格点」を取れる組織になれるからだ。

「多様な接点の中で、1つでも不合格になってしまえば、ブランドの価値が失われてしまいます。もちろん、デジタルな顧客接点もその中のひとつ」と足立氏。

ひとつでも「不合格」があると信頼・ブランドは失われる

「今後、組織が自らの顧客対応力を考える際には、直接的に競合する企業だけでなく、すべての業種をベンチマークしなければなりません」。
目標に置くのは、優れたエクスペリエンスを提供しているテーマパークや、優れたスマホアプリで顧客から高い支持を得ているブランドなど、顧客体験を最大化できているトップ企業だ。なぜなら、それが顧客の期待水準になるからだ。業種や業界の違いは、顧客にとっては関係ない。

トップ企業はブランドの一貫性を保っているため、あらゆる場面で同じブランドイメージで顧客に接している。そうした組織は、まさに足立氏の言う「全員がExperience Makerとして活躍する」ことで、ブランドを維持し、その地位をさらに高めようとしている。

ひとつでも「不合格」があると信頼・ブランドは失われる

ではどうすれば、彼らのように顧客に優れた体験を提供できるようになるのだろう。この問いに対して足立氏は、「逆から考えた方がわかりやすいでしょう。ダメな組織の例から考えてみてください」と語り、組織を動かす役職者に着目して、3つのパターンを紹介した。

優れた顧客体験を生み出しにくい“ダメな組織”の例(1): 過去の遺物上司

優れた顧客体験を生み出しにくい“ダメな組織”の例(1): 過去の遺物上司

役職層や経営陣の中には、過去の成功にとらわれ過ぎている人たちが居る。彼らは成功体験を積み重ねて昇進してきたため、自身の経験に成功のすべてが詰まっていると考えている。しかし、変化の激しい時代に入り、何より「顧客の求めていること」は刻々と変化し、個別化している。そしてExperience Makerは、それに柔軟に対応することが求められている。上司の過去の経験は、今、すべて正解とは限らない。

「『顧客にとって正しいこと』を発見するためには、現場の意見に耳を傾けなければなりません。実際に顧客と話をしているのは彼らですから」と足立氏は語り、顧客のためにならないことは会社のためにもならない、と喝破する。「職務規程には、『会社のために正しいことをやる』と書いています。お客様のために正しいことが、会社のために正しいこと。上司のおかしな命令に従って行動するのは職務規程違反です」。

優れた顧客体験を生み出しにくい“ダメな組織”の例(2): 過度の完璧主義

優れた顧客体験を生み出しにくい“ダメな組織”の例(2): 過度の完璧主義

いわゆる「失敗してはいけない文化」を持っている企業は少なくない。一度の失敗が、永遠に人事ファイルに記録され、将来の出世に響いてくる。そして、事なかれ主義が蔓延してしまう。しかし、この文化はデジタル時代に合わない。デジタルでは、さまざまなアプローチで施策を実行し、失敗を重ねることからノウハウを得る、トライ&エラーが大切になるためだ。失敗を重ねることが、経験になる。ある施策の失敗は、トレンドが変わったりアプローチを変えたりすると、使えるときが来るかもしれない。

足立氏は次のように話す。「減点主義は現場を萎縮させます。チャレンジする人を評価できるような人事評価制度や、新しいKPIの導入といった改革が必要になるでしょう」。

しかし、改革には時間を要することも多い。その場合はどうすればいいのか。

「逆説的ですが、例えばソーシャル施策は、すぐにでも取り組めます。失敗してもバズらないだけなので、見えません。その経験はきちんと蓄積し、成功したところだけ評価するような仕掛けで取り組みましょう」。

優れた顧客体験を生み出しにくい“ダメな組織”の例(3): しがらみや慣習にとらわれる

優れた顧客体験を生み出しにくい“ダメな組織”の例(3): しがらみや慣習にとらわれる

一般に、企業が成熟段階に入ると、新しい取り組みへの抵抗感は増えてくる。斬新な提案を受け入れ、その施策を実行するのはリスクであるという空気が出てきてしまうのだ。組織全体が過去の慣例にとらわれ、それまでやってきたことをマイナーアップデートして繰り返すようになる。足立氏は、それを打破するために役職者側、現場側の双方にヒントを示す。

「マネジメントは、思い切って最も振り切った提案を承認してしまいましょう。そうすることで、『ここまでやっていい!』というハードルがどんどん低くなります。一方の現場は、自分の決裁権限をよく調べてみてください。できることは意外とあります。お客様のためになることをするために、決裁権限を最大限に生かすのです」。

決裁権限の中でできることは結構ある

足立氏は、「みんなの合意からイノベーションは生まれません」と話す。組織のすべての人がExperience Makerになれば、「お客様は何を望んでいるか」を基点として全員が自発的に動けるようになるだろう。いまはその過渡期だ。

Experience Makerを次々に生み出す土壌を作り上げるために、これらの3つのパターンを参考に、組織改革や風土改革のアイデアを練ってほしい。

 

UNITE編集部

※ご案内

足立光氏による初の著書『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を出す 「劇薬」の仕事術』が出版された。こちらも参照してほしい。


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