オーストラリアを最も記憶の残る旅先に変えたデータ連携

2018年11月16日



【POINT】

  • デジタル変革するためには、従来の運用モデルを放棄し、顧客のために何をすべきかという視点から再構築   
  • 旅行観光業界各社の匿名データを連係することが、各社のビジネス成果と旅行者の満足を生み出す
  • 満足した旅行者の写真や動画を活用することで、コストをかけずに旅行者目線の魅力的なコンテンツを増やす

「オーストラリアを地球上で最も行ってみたい場所にすること。そして、最も記憶に残る旅行先にすること」――。オーストラリア政府観光局は、こんなビジョンを掲げて外国人旅行者を虜にしようとしている。雄大な自然に恵まれ、コアラやカンガルー、ウォンバットなどのユニークな動物たちにも出会える。都市部では、スポーツの国際大会やフード フェスティバルなど、世界的に注目されるイベントも開催される。

 

彼らのビジョンを実現するのに、「行先を紹介するだけ」のブランディングでは到底到達できない。魅力的なコンテンツが旅行者の記憶に刻まれるまでのすべての課程で、体験をデザインしなければならない。彼らはそれを、デジタルの力でどのように実現したのだろう。

過去にやってきた施策はすべて捨てた

過去にやってきた施策はすべて捨てた

同観光局が本格的なデジタルへの取り組みを開始したのは、2013年にさかのぼる。「テクノロジー活用のやり方や文化を根本から見直しました」と、テクノロジー担当 グローバルマネージャーのポール フレーザー氏は語る。「デジタル変革するには、従来の運用モデルを放棄しなければならなかったのです。そこで、すべて見直しました」(フレーザー氏)。

「観光客を誘致するには」という視点だけにとらわれると、地域情報の発信、という発想から出られない。まだ見ぬ未来の旅行者に、現地の魅力を伝えたうえで、旅を計画してもらう。そして、スムーズな予約、現地での気づきや驚きを経て、旅の良い思い出として感じてもらう。さらに、その感動が再訪問の機会となり、あるいは友人へと拡散していく...そうした「顧客体験を生み出すために何をすべきか」という視点に立つことで、再構築という決断に至ったのだ。

 

情報発信という発想のもとでは、webサイトの数は130にも膨らんでいた。これを顧客体験という発想から見直し、まずは法人向け、個人向けの大きくふたつに統合。見込旅行者にとってはシンプルになった。そうして次に、「現地の魅力」というコンテンツを伝えるため、VRや360度動画など、最新技術の活用へと歩みを進める。

「政府観光局が360度動画をマーケティングキャンペーンに使ったのは世界で初めての試み」と、デジタル、モバイル、UX 担当 グローバルマネージャーのラリッサ ナリー氏は話す。

 

こうして成功体験を積み重ね、いまでも積極的にさまざまな施策を打ち続けている。「人々がオーストラリアでやりたいことは何なのか」を理解しようと努力を重ね、ソーシャルメディアの活用などにも取り組んでいる。デジタルマーケティングにおけるKPIは、トラフィックとリードを増やし、パーソナライズを高度化すること、と至ってシンプルだ。

デジタルで顧客のニーズを知る

デジタルで顧客のニーズを知る

人はなぜ旅先に興味を持ち、訪れたいと思うようになるのだろうか。その動機も、タイミングも、琴線に触れる要素も、人によってまちまちだろう。そこで重要になるのがパーソナライズだ。動機がなければ調べようとせず、時期でなければ行動しない。調べても興味と違えば離脱してしまう。ただ、調べようと思ったときに興味を引くことができれば、チャンスも広がるだろう。

 

たとえば、サイト訪問者がブリスベンに興味があるとわかれば、関連する情報をページ内の上位に表示できる。同地で開催されるイベントや、都市型リゾートが楽しめる人工砂浜があるといった情報に触れることで、訪問者はブリスベンでの体験をより具体的にイメージできる。

 

このようなパーソナライズを実現するには、顧客行動から顧客ニーズを把握しなければならない。そのために、観光局担当者の全員がAdobe Analyticsを自在に扱えるスキルを身につけた。興味深いのは、こうして得た結果を「webサイト全体の改善に役立てる」というアプローチを採らないことだ。

 

「以前は1つの優れたwebサイトをすべての人に見てもらおう、という考えでやってきました。いまは違います。顧客体験ごとにセグメントを切り、さらに個人のニーズに合わせて訪問者ごとにコンテンツを提案するようにしています」(ナリー氏)。

あらゆる角度から顧客を捉えるためのサードパーティデータ連携

あらゆる角度から顧客を捉えるためのサードパーティデータ連携

オーストラリア政府観光局では、デジタル変革を通じてさまざまな学びを得てきた。そのひとつが、顧客理解に欠かせない重要な要素、データに関する課題だ。

 

旅行観光業界は多岐に渡る。世界各国の航空会社、ホテル、旅行代理店、旅先となる州や地方自治体、施設やイベント事業者、あるいは旅行携行品も、旅行者を取り巻く事業者だ。こうしたパートナーと旅行者を結びつけるのが、オーストラリア政府観光局の使命となる。

 

様々な事業者の発信する情報の中から、旅行者が自分に適した情報を探すのは、容易ではない。一方で事業者の視点から様々な事業者を見ると、横並びで旅行者の興味を取り合う関係に映る。各社のサイト訪問者データは顧客ニーズの宝庫だが、競合関係にある事業者同士では連携するという発想に至らない。その結果として旅行者には、もう航空券を予約したのに別の航空会社のバナーに追いかけられ、行先とは違う地域のイベント情報が届く。最適な体験とはほど遠い。

 

ここに、旅行観光業界を横断した存在であるという、オーストラリア政府観光局の真価が発揮される。彼らがハブとなり、パートナー各社のサイト訪問者のデータを、個を特定しない状態で共有する取り組みだ。これが、データ管理プラットフォーム(DMP)の「サードパーティデータ連携」として知られる仕組みである。

 

たとえば、彼らのサイトで人気の観光スポット情報を見た訪問者に、航空会社のサイトでは、興味がありそうな都市へのフライトを提案できる。人気のアクティビティのある地域のホテルサイトへ送客し、訪問者をストレスなく回遊させることもできる。逆に、広告の無駄うちも防ぐことができる。

 

こうした取り組みは、パートナー企業各社のビジネス成果に直接貢献するため、パートナー間でのシナジー効果も出やすい。デジタルを活用し、データを共有することが、旅行者の満足を生み出している。結果としてオーストラリアという国全体での旅行体験が、旅行者にとって最適なものになっていくという仕掛けなのだ。極めて戦略的である。

満足した旅行者が次の旅行者を生み出す仕掛け

満足した旅行者が次の旅行者を生み出す仕掛け

多様な人々の興味をつかまえるには、魅力的なコンテンツは多いほうがよい。しかし、コンテンツを揃えるにはコストがかかる。このパラドックスを解く方法も、オーストラリア観光局は見いだしている。

 

旅に満足した旅行者は、自身の体験を人に伝えたいと考えるものだ。その動機の受け皿に、ソーシャルメディアはうってつけとなる。自分と同じような目線で投稿された景勝地の写真やアクティビティの動画は、他者の共感も得やすい。ソーシャルメディアでの満足した旅行者が発信するコンテンツは、次の新たな旅行者の呼び水として最適なのだ。

「ソーシャルメディアでのやりとりは、友人と会話をするようなトーンの方が受け容れられやすい」とナリー氏。

 

一般の人々の生み出す写真や動画は、ユーザー生成コンテンツ(UGC)と呼ばれる。もちろんそれらの版権は発信者に帰属するから、そのままでは企業は利用できない。オーストラリア観光局では、ソーシャルメディアでハッシュタグ「SEEAUSTRALIA」の入ったコンテンツをモニタリングしている。ハッシュタグを使うユーザーは、自らの投稿を拡散してほしいと考えている人たちだ。そしてUGCを利用する際、投稿者から同意を得る仕組みを利用している。これで、旅行者目線の親しみやすいコンテンツを膨大に集め、活用することができるのだ。

 

「私たちは、webサイトに使う写真を一切加工していません。リアルな海の色や空の色、シドニーで新年を祝う花火。すべてをそのまま伝えています。そして、旅行者がソーシャルメディアに投稿してくれたすばらしい体験も、リアルなものです。私たちは、デジタルプラットフォームを提供する存在という位置づけ。ヒーローはオーストラリアを訪れ、すばらしい体験をしてくれた旅行者たちであるべきなのです」(フレーザー氏)。

 

UNITE編集部


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