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- 1 ブランドへの信頼を損なう身近な要因、コンテンツ修正漏れ
ブランドへの信頼を損なう身近な要因、コンテンツ修正漏れ
2019年2月4日
【POINT】
- 顧客の目に触れるコンテンツに不備があると、疑問や不信などの望ましくない感情につながってしまう
- 公開時点では不都合のないコンテンツも、予期し得ない社会的要因、社内的要因によって不備が発生する
- コンテンツの原本管理や修正の仕組みを整備することが、組織全体のメッセージを適切に保つことにつながる
膨大なコンテンツが顧客の印象につながる

顧客が普段何気なく目にする、企業からのメッセージ。それは、店頭を飾る告知ポスター、手にする商品カタログなどの印刷物から、双方向のやり取りを行うwebサイトやモバイルアプリ、デジタルサイネージといったデジタルチャネルまで、様々な情報内容と顧客接点によって成り立っている。このときメッセージを載せて届けるのが、企業が製作会社に発注した、あるいは社内で製作した「コンテンツ」の役割だ。顧客はコンテンツを通じて、そのブランドが提供してくれる価値を理解し、ブランドへの何らかの印象を持つことになる。
では、顧客の目に触れるそうしたコンテンツに、もし不備があったらどうなるだろうか。きっと顧客は、何か変だな、これは本当だろうか、あるいは、こんな間違ったことを伝えているこのブランドは大丈夫だろうか、といったような望ましくない感情を持つだろう。
いまや、顧客接点すなわちチャネルのバリエーションは増える一方だ。対象顧客層、接触シーン、販路、地域、期間、受け手の状況といった条件によって、届けるメッセージも異なってしかるべきだろう。そして、多様なチャネルとメッセージの組み合わせによって、用意すべきコンテンツの総量は膨大なものになる。人海戦術、現場頼りでは、なんとも心許ない。企業の生産性と社員の働き方に対する脅威ともなる。
コンテンツの不備がもたらすリスク

とはいえ、コンテンツは常に望ましい姿で顧客に届けられなければならない。たとえば、このような状況を思い浮かべてみて欲しい。
- 3月末期限の割引キャンペーンを、「割引実施中!」とバナーに記載して掲載
- 商品のチラシに、8%の消費税を加味した内税の希望小売価格を記載
- 住宅ローン控除制度について説明したwebのページに、適用期日として「平成26~33年」と記載
- 豊富な商品ラインナップを訴求する動画を公開。その後業界規制対応のため、一部の商品を刷新
これらコンテンツを制作し公開した「その時点」では、何ら不都合のないメッセージだったかもしれない。しかし時間が経つと、状況は違ってくる。もう有効ではないキャンペーン、存在しない元号、不正確な金額、もう買うことのできない商品訴求を目にした顧客は、どう思うだろうか。表示上の問題だけだ、と見逃せる範囲ならよいが、顧客の便益、利用条件、権利に関わるもの、金銭に関わることであれば、ことはそう簡単ではない。
そして問題の根本は、そうしたコンテンツの不備に気づきにくいことだ。あるコンテンツを公開した際に、どこかの時点で内容が陳腐化してしまうことをあらかじめ予期できる場合は、まだよい。公開後に、棚卸しのタイミングを設定しておき、その時期が来たら点検し、必要に応じて差し替えや取り下げを行えばよいだろう。とはいえ、その数が増えてきたなら、人手には負えないかもしれない。
20XX年問題、予期し得ない要因、想定外の要因

一方で、予期し得ない要因でコンテンツが知らぬ間に陳腐化してしまう場合もある。社会的な要因によるもの、あるいは予定されていなかった社内要因によるものは、コンテンツの不備を発見する術そのものが限られる。頼りは、担当者の記憶と注意力だけかもしれない。
例えば、「平成」に続く新元号は「令和」であると2019年4月1日に発表された。そのため、これが施行となる5月1日以降のコンテクストにおいて、和暦表記している箇所では令和を用いなければならない(※)。また10月には消費税率と税制の変更が予定されている。この記事の表現も、各時点以降は陳腐化することになるので、未来の読者は、あくまで例として捉えてほしい。
ただ、社会的な要因によってコンテンツが陳腐化するという状況は、今後も何らかのきっかけによって発生し、常に起こりえるだろう。2019年にはたまたま元号改正と消費税制変更が重なり、レアケースかもしれないが、法律や税制の変更、業界基準や規制の変更、社会的規範の変化など、あらかじめ予期し備えることのできない事象は、ほかにも様々に挙げられる。コンテンツの不備をコントロールしようとする試みは、人手に頼ったままではいつまでも解決しないのだ。
予期し得ない要因は、発覚時点で迅速に対応するしかないかもしれない。だが、想定しうる要因は、あらかじめセーフティネットを検討し備えておくことができるだろう。
※この記事を公開した2019年2月時点では未確定の事実。新元号の発表された4月1日に、この記事も改訂した
外注コストは圧縮できる

バナー画像、webページ、商品パンレット、訴求動画といったコンテンツは、自社内の製作部門や専門の関係会社より、社外の製作会社や広告代理店に発注し、成果物を納品してもらい、それを利用するという流れの企業が多いだろう。もしすべてを内製していたなら、コンテンツの不備を発見してから修正し公開するまで、社内リソースだけで完結する。しかし外注していたなら、当然ながら、都度コストが発生し、かつ、発注から納品までの時間が内製よりも多くかかるかもしれない。
デザイン性の高いコンテンツの製作や修正であれば専門家の手に委ねざるを得ないが、場合によってはひと工夫で、社内のビジネスパーソンでも修正できる。
- 素材にテキストを載せる形でPhotoshopにより製作したバナーの、テキスト部分を書き換える
- 直観的な操作で編集できるCMSで製作したページの、テキスト部分を書き換える
- Wordで製作してPDF化したチラシの、テキスト部分を書き換える
前述の不備が発生している状況のうち、動画はやや敷居が高そうに思えるかもしれないが、それ以外は、ちょっとしたスキルとツールさえあれば、担当者でもすぐに修正できるだろう。いわば、部分内製化だ。
原本はどこに

部分内製化には、ちょっとしたスキルとツール以上に、大事なことがある。それは、コンテンツの原本をきちんと管理することだ。各個人のPCやクラウドストレージ、各部門のファイルサーバーといった個別バラバラな保管方法のままでは、あいかわらず属人的で、非効率だ。部門や人によって管理方法がバラバラということは、会社全体のどこかにコンテンツ不備のリスクを抱えていることになる。
例えば、上司があるコンテンツの制作を部下に指示し、部下が代理店に発注し、代理店が原本ではなく最終成果物だけを納品していたとしよう。その事情を知っているのは、発注した部下だけだ。その発注者が異動してしまえば、もはや原本は行方不明になりかねない。当初の時点で、上司がその部下の代理店発注を決裁しており、当時の発注先代理店が判っていれば、後で取り寄せることができるかもしれない。しかし時間が経過した後で、代理店側で保存してくれているかは判らない。
組織全体のメッセージを適正に保つために

このようにコンテンツにまつわる作業フローは、制作し公開することが完了ではなく、公開後の不断のメンテナンスも欠かせない。産まれてから役割を終えるまでの「コンテンツライフサイクル」という視点が重要なのだ。しかも、承認ルールや保管ルール、点検ルールなど、部門や個人の裁量や努力だけに任せていては、統制力として極めて脆弱だ。人がすべきこと、システムによる自動化が望ましいことを組み合わせ、想定しうる限りの要因に対する防止策を、省力化しながら実現することが肝要だろう。そうすることで、修正漏れによる企業のブランドリスクを低減させることができる。定型作業は、人工知能の発展によってますます自動化が進むだろう。定型作業はシステムに任せ、人は意思決定とクリエイティブな仕事に注力すべきだ。
そしてこの仕組みこそ、デジタルアセット管理(DAM)と呼ばれるものだ。DAMは、あらゆるコンテンツを集約して管理する。コンテンツを顧客接点に届けるとき、コンテンツの不備を修正するときも、DAMに保管されたコンテンツを利用するだけだ。
ファイルサーバーやクラウドストレージとは異なり、DAMはコンテンツライフサイクルを適正に管理するためにデザインされている。そのため、原本やそれを構成する素材、完成した成果物、チャネル毎のバリエーションや世代を問わず、全社でコンテンツの保管方法を統一できる。保管する際には、社内であらかじめ決めたルールに従って分類できるよう、「タグ」と呼ばれる目印(メタデータ)を付与する。想定しうる不備に備えるためには、例えば、日付や元号が使われている、金額や消費税額が記載されている、特定の商品名や固有名詞が使われている、利用期限の定められた素材を利用している、といったタグを定義し付与しておく。そうすれば、点検したいときにはいつでも容易に探すことができる。
メッセージの不備につながる要因、コンテンツ修正漏れのリスクをもたらす検討課題と対策については、アドビのガイド『ブランドリスクの罠』も、ぜひ参考にして欲しい。
UNITE編集部