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- 1 CXM(顧客体験管理)を再定義する:パーソナライズを極限まで進め、顧客体験の包括的な管理を実現するには
CXM(顧客体験管理)を再定義する:パーソナライズを極限まで進め、顧客体験の包括的な管理を実現するには
2019年4月5日
【POINT】
- 顧客をビジネスプロセスの中心に置き、その行動やニーズに対して自社が最適に反応するという視点から、カスタマージャーニーをとらえ直す
- 顧客にとって望ましい体験を提供するためには、顧客データのリアルタイムな統合が必要になる
- 顧客はカスタマージャーニーのあらゆる段階、あらゆるタッチポイントで、自分にとって価値ある体験を期待している。それを常に満たすことがCXMである
次世代のCXM

顧客体験がビジネスの最重要事項である時代。顧客中心をどのように実現し、顧客から選ばれる存在になるか。多くのマーケター、ビジネスリーダーの注目が集まるなか、世界最大級のデジタルエクスペリエンスカンファレンスAdobe Summit 2019が米ラスベガスで開催された。3/26~3/28の3日間、およそ17,000人が集まった今回、最大のテーマは、顧客体験の管理手法である次世代のCustomer Experience Management(顧客体験管理 以下、CXM)であった。
CXMという概念は以前から広く知られていたが、デジタル変革のトレンドの進展を受けて、アドビはそれを再定義した。その背景とは何か、初日の基調講演の模様から紐解く。
アドビは、以前はパッケージ販売のソフトウェアメーカーだったが、デジタル変革によってサブスクリプション企業へと変貌を遂げた。デジタル変革を加速させる経営アプローチとして、アドビの会長、社長兼CEOであるシャンタヌ ナラヤンは、CXMの4つの要素が重要であると指摘した。
カスタマージャーニーを軸に、組織を顧客中心に作り変える

1つ目は、カスタマージャーニーを組織の軸に据えること。
「顧客をビジネスプロセスの中心に置き、彼らの行動やニーズに対して私たちが最適に反応するという視点から、カスタマージャーニーをとらえ直しました。サブスクリプションモデルにおけるカスタマージャーニーは、認知、試用、購入、活用、契約更新という流れになります。それに、アドビという組織が抱えるマーケティング、営業、ITなどの各機能を割り当てていったのです」(ナラヤン)
カスタマージャーニーは、単に顧客の行動を図解するモデルと考えられがちだが、価値はそこに留まらない。想定しうる範囲のあらゆる典型的な顧客行動が含まれてこそ、真価を発揮するものだ。そして、顧客がカスタマージャーニーのどの段階にいたとしても、企業は即座に対応できるのが理想だろう。
アドビは、自社のビジネスモデルに即したカスタマージャーニーを定義したうえで、それに対応できる組織へと自社を作り変えた。顧客の行動のほとんどを、デジタルデータとして把握し、だれもがデータを使って意思決定できるようにした。いわゆるデータの民主化だ。たとえば、顧客が実際に製品をどう使い、どこに不満を感じているのかという情報も取得できる。そうした情報を日々の施策改善に役立てるのだ。
データドリブンで、リアルな顧客ニーズをつかむ

2つ目は、デジタルビジネスを効果的に運営すること。
顧客の期待に応えるには、まず、顧客のことを理解しなければならない。幸いデジタルを活用すれば、あらゆるビジネス活動をデータ化できる。そのデータを民主化することは、組織全体が顧客と向き合うことにつながる。データを通じて顧客ニーズを把握し、自社が顧客のためにすべきことを実施する。これがデータドリブンな組織だ。こうしたデータにもとづく組織運営を、アドビではDDOM(Data Driven Operating Model)と呼んでいる。
ナラヤンは、アドビが実際に活用しているDDOMダッシュボードを披露した。
「アドビの従業員のうち数百名は、毎日ここにアクセスし、銀河系に住んでいるすべての顧客から集まってくるリアルタイムデータを使って、判断や意思決定を行っています」(ナラヤン)
Microsoft Power BIで実装したこのダッシュボードでは、多様な情報源から得られる顧客体験のデータを、カスタマージャーニーの段階毎に整理している。
たとえばアドビ製品の試用段階にいる顧客なら、インストールの仕方、はじめての操作チュートリアルなどを見て、気に入れば契約するかもしれない。そこで社内の担当者は、その顧客をジャーニーの次の段階へと促す施策として、メールやアプリ内通知などを通じて適切なコンテンツを紹介する。さらに、その成果もデータとして測定される。ダッシュボードでは、試用顧客の契約率など、数百に及ぶ経営指標を充たせているかどうかが一目瞭然となる。
顧客プロファイルをリアルタイムに更新

3つ目は、パーソナライズを追求すること。
一人ひとりの顧客がみな、決まりきったジャーニーを辿るとは限らない。どのような動機を持っているか、いつ、どこで、何をするか、興味や関心はどう変わっていったのか。たとえば家電や金融商品のような低頻度商材で、購入した翌日に商品の販促情報を見せられたとしたら、よい体験とはいえないだろう。顧客にとっての最適な体験を届けること、すなわちパーソナライズの重要性は、増すばかりだ。
パーソナライズに欠かせないのが、顧客行動をデータとして把握することだ。しかも、リアルタイムであるほど顧客体験の向上に有利となる。そのためには、顧客を一人ひとりの粒度で捉えることに加えて、あらゆる顧客接点から最新データを集約しなければならない。
さらに、対象とすべきはカスタマージャーニーのすべての段階だ。「既存顧客」すなわち購入段階を経て顧客の個人情報を取得した後だけが対象ではない。自社のことを認知したばかりの「潜在顧客」の段階から、きちんと把握できるかどうかが、勝負の分かれ目となる。
このように、カスタマージャーニーのあらゆる段階で、あらゆる顧客接点からデータを集約し、一人ひとりの顧客プロファイルを常に維持することが、本当に顧客の求めている体験を届けるうえでの基盤となるのだ。
信頼のサイクルを醸成する

4つ目は、プライバシーに最大限配慮すること。
デジタルは顧客データを集める手段として便利だが、データそのものは当然ながら顧客のものだ。データの収集や範囲、用途についての選択権は、顧客にある。その顧客の権利を最大限尊重し、丁寧に同意を得なければならない。また「顧客は企業の収集したデータの利用停止を求める権利も有する」とする動きも加速している。企業は一方的に、強引に顧客データを収集してはならない。顧客が安心して利便性を得られることの対価として、顧客からデータを「預かる」のだ。
アドビの場合、「プライバシー バイ デザイン」と呼ばれる思想を製品設計として組み込んでいる。そのため、顧客に関わるデータを収集、一元的に保管しつつ、顧客からのオプトアウト要請に即座に対応できるなど、GDPRをはじめとする各国のプライバシーポリシーを順守できる仕組みが備わっている。これによって、顧客は安心して企業にデータを開示できる一方、企業からは開示されたデータに応じた適切な対応が提供される、という関係性が生まれる。企業がデータを活用してパーソナライズし、より良い体験を提供することで、顧客からの信頼も醸成されていくのだ。
CXMを実現する技術はすでにある

ここまで取り上げた4つの要素は、以前であれば、理想的ではあるものの、現実には極めて実現が難しいことばかりであった。組織は自社プロセスのためにあり、ビジネス活動や顧客行動を示すデータはバラバラで、それらをビジネス活動にすぐ活かせるように整理することは容易ではなかった。よって顧客からのプライバシーへの要求にも、個別に対応するのは困難であった。
しかしアドビは、長年のイノベーションの最新の成果として、この4つの要素を満たすテクノロジー、史上初の「顧客体験のためのシステム」を具現化した。それが、Adobe Experience Platformだ。これまでのあらゆる企業情報システムは、企業の業務プロセスを主語にしてデザインされていた。しかしCXMのための企業情報システムは、顧客を主語にしてデザインされていなければならない。顧客が誰なのか、いつ、どこで、何を求めているかを知り、顧客の期待に応えるためにデザインされたシステムだ。
ナラヤンは、顧客が商品だけでなく、体験に価値を認めるようになってきていることを強調する。カスタマージャーニーのあらゆる段階、あらゆるタッチポイントで、顧客は自分にとって価値ある体験を期待している。企業は、その期待を常に満たせるよう、組織と活動を管理する。そして当然、顧客には満足を、企業には利益をもたらさなければならない。それこそが顧客体験をマネジメントすること、すなわちCXMなのだ。
ナラヤンは、「顧客をデジタル戦略の中心に位置づけなければなりません」と話す。「私たちはAdobe Experience Cloudによって、B2BとB2Cを問わずあらゆる企業に、顧客体験を最適化するさまざまな機能を提供してきました。Adobe Experience Platformは、Adobe Experience Cloudの各機能を支えるための、共通プラットフォームです。最適な顧客体験を実現するために必要なすべての情報を統合できるのです」。
アドビは、企業がCXM戦略を推進するテクノロジーを用意した。ただテクノロジーは実現手段であり、それだけでCXMを遂行できるものではない。戦略、組織、プロセスのすべてにわたる改革は大がかりで、企業が長く育んできた文化を抜本的に変えるものだからだ。
ナラヤンは、「私たちも、アドビのソフトウェアやサービスに投資してくれたお客様を成功させるために、全力を尽くしています。皆様がビジネスで成果を出してくれることが、私たちにとっての成功なのです」と会場に語りかけた。
UNITE編集部
関連資料
優れた顧客体験が競合差別化要因になると気付いている企業は、それを実現すべくエクスペリエンス投資に注力している。その投資はどのような経営価値をもたらすか、企業調査とForresterのモデルから導出する。