スマートスピーカーの真価とは?新たなタッチポイントとしてどう活かすか:識者に聞く

2019年4月23日



【POINT】

  • スマートスピーカーを、「目新しい孤立したデバイス」ではなく、「顧客を取り巻くタッチポイントの1つ」と捉える
  • 顧客にとって「自然」で「有益」なコミュニケーションであるべきなのは音声においても同様であり、相手の反応を次に生かすことがパーソナライズにつながる
  • カスタマージャーニーのどの部分に、音声によるインタラクションを組み込むとよいのかを明確化し、体験全体のデザインを組み立てる
 

スマートスピーカーの国内動向

スマートスピーカーは、音声による双方向の応答機能を備え、クラウド上にある人工知能(AI)と連携して使用するデバイスとして登場し、IoTとの連携など、さまざまな活用の可能性に注目が集まる。そのスマートスピーカーが国内でも販売開始されたのが、2017年10月。そして2019年2月時点での国内普及率は約6%(※1)。一方で米国では、2019年末までに所有率が50%になると予測されている(※2)。国内での動向は今のところ、黎明期と言える。

スマートフォンやウェアラブル端末に続く、“新たなデバイス”として注目されるスマートスピーカーを、企業はどのように自社のビジネス機会として活かせるだろうか。すでに検討を始めている企業は多く、実際にさまざまな音声アプリケーションが登場し、スマートスピーカーと連携した消費者サービスを提供している。

この分野に詳しい、小樽商科大学副学長で同大学ビジネススクールにおいてマーケティング論を指導する近藤 公彦氏に話を聞いた。

※株式会社電通デジタルスマートスピーカー利用実態調査」より
※アドビ「音声アシスタント調査 (ADI 2018 US Voice Assistant Survey)」より

スマートスピーカーは、消費者と企業の新しいコミュニケーションチャネル

スマートスピーカーは、消費者と企業の新しいコミュニケーションチャネル

――先生は「スマートスピーカー」の現状をどのように捉えていらっしゃいますか?

近藤:私はデジタル マーケティングについて研究しており、スマートスピーカーは、消費者と企業の新しいコミュニケーションチャネルとして注目しています。

実際に使用してみると、たとえばECならば、『いつもの決まったもの』を買う際には便利ですね。情報も「明日の天気」など、ピンポイントで情報を取得するのは現状でもスムーズです。ただ、本当に期待されるのは、もっと高度な使い方でしょう。

対話によって、「たくさんの候補から欲しい商品を比較検討して絞りこんでいく」「たくさんの情報の中から必要な情報にたどり着く」といった高度な操作ができるには、まだ至っていません。しかし、この部分はテクノロジーの進化によって早晩、改善されてくるでしょう。音声認識精度も、自動翻訳ツールがどんどん賢くなったのと同様に、今後急速に進化すると考えられます。

――近い未来、スマートスピーカーとの「対話」が、もっと自然な形で行えるようになるということですね。

近藤:顧客の聞きたいことがある程度不明確であっても、それを対話によって誘導し、明確な回答に導くようなコミュニケーションツールとして、スマートスピーカーの可能性は大きいのではないでしょうか。

音声領域でもパーソナライズが進む

音声領域でもパーソナライズが進む

――その可能性を感じ、スマートスピーカー向けのアプリケーションを開発する企業も数多くあります。企業がスマートスピーカーをコミュニケーションツールとして活用するにあたって、心がけるべきなのはどのようなことでしょう。

近藤:スマートスピーカー“だけ”を考えないことです。単なる目新しい「孤立した」デバイスと見るのではなく、消費者を取り巻くタッチポイントのひとつと位置付けるのです。消費者の生活シーンに極めて溶け込みやすいコミュニケーションチャネルとしての優位性を活かしながら、ほかのチャネルとも連携を図った運用をすることだと思います。

将来は、音声領域でもパーソナライズが進むでしょう。現状は、顧客からの問い合わせを受けてプル型で情報を提供したり、商品を購入したりするチャネルとして活用されていますが、パーソナライズが進めばプッシュ型の使い方も有効でしょう。

――そうなると、消費者の選択肢を絞り込む広告展開が実現できるのではないかという議論もあります。「いつものミネラルウォーターを買って」と話しかけると、「Bという商品ならいつものAより5%安く、いまならポイントキャンペーンも実施中ですが、どうしますか?」などと答えるやり方です。こうしたプロモーション活動は有効でしょうか。

近藤:確かにそのような論調はありますね。ただ、やり方を間違えるとブランドを毀損するリスクもあります。音声による操作は、メニューなど他の選択肢がなく、「対話」による順を追った操作になりますから、その他の操作手段(インターフェイス)よりも、「自分を理解してくれているかどうか」を顧客が感じやすい。あくまで、顧客にとって「自然」で「有益」なコミュニケーションでなくてはなりません。

これは、企業のあらゆるマーケティング活動についても言えることです。企業は顧客とワンツーワンの関係を築きたいと考え、さまざまなチャネルを通じて顧客にアプローチするわけですが、それが押しつけや過剰になってしまっては、顧客にとって不快なコミュニケーションとなりかねません。相手の反応を把握し、次のコミュニケーションに生かすことが、パーソナライズにつながるのです。

現在、オムニチャネルマーケティングを上手く回している企業は、顧客の視点に立ち、その差配を上手に行っています。もちろん音声でも同様の取り組みが必要ですし、ほかのチャネルと合わせて、一貫した体験を提供できるようにデザインする必要があるでしょう。

カスタマージャーニーに音声を組み込む

カスタマージャーニーに音声を組み込む

――複数チャネルとの連携はどのように考えればいいのでしょう。

近藤:「音声」は人間にとって日常的で自然なコミュニケーション手段ですが、得られる情報は限定的です。たとえば、「青い」と言っても、どれくらい深みのある青なのかはわかりませんよね。ECを音声だけで行うことを想像してみてください、商品の仕様や形状が複雑になればなるほど難しくなります。顧客は、音声をきっかけに商品に興味を持ってくれるかもしれませんが、実際にはwebサイトで写真や詳細情報をチェックしたり、実際に店舗で商品を見たりしたいと考えるでしょう。

つまり、カスタマージャーニーのどの部分に、音声によるインタラクションを組み込むとよいのかを明確化し、体験全体のデザインを組み立てる必要があります。音声は、その大きな枠組みの中の一部を担うことになります。スマートスピーカーに限って言えば、その特性に注目しましょう。家庭のリビングやキッチンなど、生活シーンの中心に置かれる状況を想定したとき、普段は音楽を流しているようなスピーカーを通して、顧客にどのような体験を提供できるか、顧客がそのときに自社とどのように関わりたいか、と想像を巡らせるのです。

「音声が提供する顧客体験」に目を向ける

「音声が提供する顧客体験」に目を向ける

――これからスマートスピーカーを活用したい企業に対して、どのようにアドバイスしますか。

近藤:音声だけで完結する世界は、音楽配信や情報提供サービスなどがありますが、一定の制約があります。画像も必要であれば、スマートスピーカーにテレビを起動させて、音声と視覚情報を合わせたコミュニケーション形式が採られることも予想されます。既にスマートスピーカーにモニターが搭載されたモデルも登場していますね。

スマートスピーカーはテクノロジーの進化を受けてより使い勝手の良い存在になり、普及率を高めていくでしょう。ただ、本質的には、「音声を使って顧客体験を高めるために何をできるのか」と構想すること。スマートホームやコネクティッドカーのようにIoTの領域へと拡張させることで、「音声」がインターフェイスとして活用される領域は今後ますます広がるはずです。スマートスピーカーはオムニチャネルを構成する1つのデバイスととらえ、カスタマージャーニーの中に音声を生かせる領域を組み込むことが大切でしょう。

――本日は、ありがとうございました。

 

【取材協力】

近藤公彦教授

小樽商科大学副学長 兼 大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻 
近藤公彦教授

1997年小樽商科大学商学部助教授、2003年同教授、2004年同大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻(専門職大学院)教授。2010年より現職。この間、2005年~2006年米国ノースウェスタン大学大学院IMC学科客員教授 就任。日本マーケティング学会リサーチプロジェクト、オムニチャネル研究会リーダーを務め、その成果を2019年秋、同研究会編『オムニチャネル時代の顧客戦略』(千倉書房)として出版予定。

 

UNITE編集部

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