CMS最新トレンドに見る、多様なスキルの協業を加速させる仕組み

2019年6月21日



【POINT】

  • ブランド企業がいま存在するチャネルをすべてサポートするためには、従来の10倍のコンテンツを作成する必要があると試算されている
  • コンテンツを届けるべきチャネルが多様化したいま求められるのは、「チャネルを問わず、相手を問わず、動的に配信できる仕組み」    
  • 従来型CMSとヘッドレスCMSの良いところを組み合わせた「ハイブリッド型CMS」が、最新のトレンドとして注目を集めている

 


CMSの見直しに迫られる企業

CMSの見直しに迫られる企業

リサーチ&アドバイザリー企業の米Gartnerの予測によると、2020年には世界中で208億台のデバイスがインターネットに接続されるようになるという。これは、私たちにとっても実感しやすい数字だろう。PCだけでなく、スマートフォンやタブレット、スマートスピーカーなど、人々は複数のデバイスを日々の生活の中で使うようになった。そして人々は、それらのデバイスを、シーンに合わせて使い分けている。電車での移動中にはスマートフォン、リビングで寛いでいるときにはタブレット、仕事や作業にはPCといった具合だ。

これをブランド企業の側から見てみると、どのようになるだろう。「世界中の、多数の顧客が、さまざまな手段を使って、情報を入手しに来ている」という状況だ。顧客の利用しているデバイスはばらばらで、接触してくるチャネルもさまざま。商品について詳しく知りたい顧客、ブランドコンセプトを楽しむファン、動画でより具体的なイメージをつかみたい購入検討者など、アクセスしてくる人の動機も属性も多岐にわたる。

ブランド企業は、彼らのニーズにこたえ、最適な顧客体験を提供し続けたい。そのためには、一人ひとりに対して的確にコンテンツを届けなければならない。ゆえに、ブランド企業が提供すべきコンテンツ量は膨れ上がる一方だ。ブランド企業がいま存在するチャネルをすべてサポートするためには、従来の10倍のコンテンツを作成する必要がある、とアドビは試算している。そして、チャネルの様相はさらに複雑化するだろう。一方、マーケティングスタッフや予算は、チャネルやデバイスに応じて増やせるわけではない。限られたリソースと予算のなかで、最大限の顧客体験を提供するために、先進的なブランド企業はさまざまな取り組みを始めている。

その中で大きな役割を担うのが、CMS(コンテンツ管理システム)の見直しだ。すでに、多くのブランド企業は何らかのCMSを導入している。しかし多くのCMSは、「コンテンツによって生み出される顧客体験を管理」するためではなく、単に「コンテンツを管理」するに留まっている。何のための、誰のための「管理」を行うべきか、という点が極めて重要だ。これまでのCMS、今求められているCMSの役割について、トレンドを見ていこう。    

従来型のCMSは、単一チャネルへの静的なコンテンツ配信に最適化されている

従来型のCMSは、単一チャネルへの静的なコンテンツ配信に最適化されている

顧客体験は、テキストや画像、動画や音声などの「コンテンツ」を届けること、そして顧客との双方向なインタラクションを行うことから生み出される。CMSの役割は、情報の素材として膨大なコンテンツを保管しておき、顧客からの要求が来たら、それに相応しい情報を組み立て、配信することにある。要求と配信は一回限りとは限らず、一連のやり取りによって成立することもある。つまりCMSには、膨大なコンテンツを扱う能力、必要に応じてコンテンツを組み立てる能力、最適に届ける能力が求められるのだ。

ところが従来型のCMSは、残念ながらそうした能力を持ち合わせていない。webなどの単一チャネルに特化しており、静的なコンテンツを、「webページ」のようなチャネルに特化した形式で保管し、求めに応じてそのまま届けるだけだからだ。しかしコンテンツを届けるべきチャネルが多様化したいま求められるのは、「チャネルを問わず、相手を問わず、動的に配信できる仕組み」である。従来型CMSのデメリットを放置すれば、コンテンツの制作や、配信の仕組みの開発にかかるコストは肥大化の一途となる。

その課題を解決するためにまず登場したのが、ヘッドレスCMSと呼ばれるシステムだった。

従来型のCMSは、「コンテンツを管理する場所」と「コンテンツを表示する仕組み」をあらかじめ備えていた。そのため、技術的知識がない実務担当者にとっても使い勝手は良かった。一方のヘッドレスCMSは、前者の機能だけ、コンテンツ管理に注力する。表示させる仕組みは、技術者が自由に設計する。使うのは、プログラム言語であっても、フレームワークやライブラリーを用いても良い。配信先に最適なやり方を選ぶことになる。

ヘッドレスCMSの活用には高度な技術知識が必須

ヘッドレスCMSの活用には高度な技術知識が必須

換言すればヘッドレスCMSは、技術者の実装したプレゼンテーション層を、コンテンツと配信先の中間に配置する。このプレゼンテーション層が、チャネルに特有なルールやコードを埋め込み、吸収する。コンテンツの保管は共通化され、異なる配信先を追加したならコンテンツは再利用されることになる。

しかし、ヘッドレスCMSの特色はそのまま弱点にもなる。第一に、使うには専門性が問われる。配信先に関する深い技術スキルと、どう表現すべきかを理解するビジネススキルの双方を備えた、優秀なフロントエンドエンジニアの確保が欠かせない。また第二に、スピード感が犠牲になる。ビジネスの現場で求められる変化に対し、そのたびに発生する開発工数とコストがボトルネックとなるのだ。

そのため、一部のユースケースではぴたりとはまるソリューションになったヘッドレスCMSだが、広く普及するには至っていない。ただし、そのコンセプトが優れていたことは確かだ。その経緯を経て生まれた最新トレンドが、ハイブリッド型CMSだ。

ハイブリッド型のCMSが、技術者と実務担当者の協力体制を築く

ハイブリッド型のCMSが、技術者と実務担当者の協力体制を築く

ハイブリッド型のCMSは、従来型CMSの使い勝手の良さと、ヘッドレスCMSの自由度の良いところ取りをしたようなソリューションだ。マーケターやクリエイターなどの実務担当者にとっての使いやすさは従来通り。技術者の関与は部分的に存在するが、業務フローとしては完全に切り分けることができる。

コンテンツそのものは、企画、制作スキルを持った実務担当者がCMSへ保管する。そのコンテンツは適切にアクセス制御されつつ、CMSの利用者全体で参照し、配信できる。では、技術者のスキルはどの部分を担うのだろうか。CMS環境の構築と運用に加えて、プレゼンテーション層の設計、構築だ。最終的に顧客が目にすることになるコンテンツが共有されるため、最終イメージを確認しながら、任意の新規チャネル向けに配信する仕組みを構築できる。例えばIoTデバイスからのAPIリクエストに対して、JSON(JavaScript Object Notation)形式で自動配信する仕組みなどだ。

ビジネス環境の変化により、新たなチャネルへの対応が必要になったとしたら、プレゼンテーション層を追加すればよい。どのチャネルに対しても、コンテンツは再利用されることになるので、さかのぼって新規チャネル用にコンテンツを調整する、といった個別対応も不要。実務担当者と技術者の業務を切り分けつつ、互いのスキルを持ち寄る、協業関係が生まれる。ハイブリッドCMSの配信先チャネルには、事実上制約がない。体験を届けたいチャネルへ、一貫性を保ちつつ、すばやく対応することができる。これが、ハイブリッド型CMSが大きな期待を集めるポイントだ。

アドビのガイド『コンテンツ管理に柔軟性を:あらゆる顧客体験を最適に保つ仕組みとは』では、いくつかの先進企業の事例を交え、ハイブリッド型CMSのもたらすビジネスインパクトについて紹介している。中には、生産性を40倍に高めた事例もある。ぜひ一読いただき、あるべきCMS像を明確にしてほしい。

 

UNITE編集部


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