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- 1 2020年に向けた、アドテクに関する5つの予測
2020年に向けた、アドテクに関する5つの予測
2019年10月30日
【POINT】
- プライバシーとセキュリティを重視し、クリエイティブをもう一度コンピテンシーの中心に据える
- 広告に関わるチームを結び付け、データを最大限に活用するために、テクノロジーが広範な役割を果たす
- CDPとDMP両方の役割を果たすシステムの構築は困難だが、いずれ統合が実現することを想定しておく
広告テクノロジー(アドテク)は、今後、2023年までに飛躍的な成長を記録することが見込まれている。しかし、規制の変化や流動的な市場を考慮すると、業界がどのように揺れ動いていくのかを予測することは困難だとアナリストは指摘している。
2020年が間近に迫った現在、新たな10年を迎えるにあたり、アドテクに何が起きるのかについて専門家の意見を求めたところ、5つの予測と、2020年以降の企業への影響に関する知見を得た。
予測1:
プライバシー規制により、1stパーティデータの重要性が増大
企業は、いわゆる「ダーティーデータ」が原因で、自社の顧客から獲得する1stパーティデータの収集と理解に苦慮している。不適切な顧客情報の取得、整理および保管方法により、データベースの精度が欠け、情報を活用することができていない。この問題の解決には時間と費用を要するため、多くの広告主は、代わりに3rdパーティデータの使用を始めた。問題は、3rdパーティデータの大半が、オンラインで利用者の同意なしに収集されたものであることだ。
近年、3rdパーティデータの利用は、特にソーシャルメディアサイトにおいて、予期せぬ問題を引き起こしている。そのため、ユーザー情報を収集する方法を再検討し、改善することが求められている。また、EU一般データ保護規制(GDPR)や、2018年カリフォルニア州消費者プライバシー法などのプライバシー規制の高まりにより、トラッキングcookieなどのツールを使用して、オンラインの視聴履歴にもとづいて広告をターゲティングしたり、パーソナライズしたりすることが難しくなっている。
eMarketerの主任アナリストであるNicole Perrin氏は、この傾向は「3rdパーティデータへの信頼が薄らぎ、1stパーティデータを頼りにする大きな変化」に拍車をかけていると語っている。その結果、1stパーティデータにもとづいて、単一の顧客像を構築するのに役立つデータと分析製品の活用が広がっている。
「プライバシー規制の強化により、企業がマーケティングに使用しているデータが、利用者の同意を得たものであると自信を持って言えることが、さらに重要になりました。正確で信頼できる1stパーティデータの使用は、消費者のエクスペリエンスを大きく向上させる力になります」(Perrin氏)
1stパーティデータの使用を望む声は、規制によるものだけでなく、顧客企業やパートナーからも聞こえると、CMO Councilのマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるLiz Miller氏は補足する。
「企業は、データの収集方法や収集プロセス、運用、倫理、使用する可能性のあるパートナーについて、顧客から寄せられる厳しい質問に、あらかじめ備えておくべきでしょう。今日のデータ、プライバシー、セキュリティを重視する時代において、適切かどうかわからない情報源から得たデータを利用することは、あまりにリスクが大きすぎます。リスクを抱え続ければ、企業は信用を失い、顧客から取り引きを停止されるでしょう。そのような事態を見過ごすわけにはいきません」(Miller氏)
予測2:
クリエイティブが、顧客獲得に代わる最優先事項
2019年はバナー広告誕生から25周年にあたる。Hotwired.comのwebページの四角い一区画を、AT&Tが購入したことが始まりだった。それ以来、広告は変化を続けている。
オンライン広告は爆発的な成長を遂げた。しかし、その目的ができるだけ多くの顧客ビューとアクセスを獲得するものであったため、やがて単なるノイズと化してしまった。次々と登場したデジタル広告は、見た目や印象が似たり寄ったりだったことから、時間が経つにつれ、ほとんどの視聴者にとって効果が薄れ始めた。
実際のところ、企業が提供したものは、「同じ顧客ニーズに対し、同じテクノロジー基盤を使用し、同じユースケースを利用して構築した、同じようなデジタルエクスペリエンスだった」と、Forresterの主任アナリストを務めるJay Pattisall氏は、6月に発表したレポート「The Cost of Losing Creativity: The ROI Model for Agency Creativity(クリエイティビティ損失のコスト:広告代理店向けクリエイティビティのROIモデル)」の中で説明している。
「デジタルを利用して、あらゆる顧客のニーズ、嗜好、要求に応えようと、顧客中心のマーケターへの道を追求するうちに、我々はある重要な要素、すなわちクリエイティビティを忘れ去ってしまっていたのです。ほとんどのエクスペリエンスは、見た目や雰囲気、機能が似ています。どの航空会社のアプリでも、旅行客はチェックインとフライトの管理が可能です。どのクイックサービスレストラン(QSR)アプリでも、事前に予約して行列を避けることができます。ファッション業界のエクスペリエンスはどれも同じに見えます。消費者はどのようにしてブランドを区別するのでしょうか。企業に必要なものは、ブランドを差別化するクリエイティビティです」(Pattisall氏)
同氏によると、多くの広告主がこの問題を認識しており、クリエイティビティをもう一度コンピテンシーの中心に据えようという傾向が高まっている。例を挙げると、Accenture Interactiveはここ数年立て続けに買収をおこない、Droga5、The Monkeys、Karmarama、Fjordを獲得して、自社のクリエイティブとブランドコミュニケーション機能の強化を図っている。また、Deloitte Digitalも、クリエイティブの引き出しを広げるために、AcneとHeatを獲得した。この傾向は2020年まで続き、顧客獲得数や指標の数値よりもクリエイティブを重視する広告代理店が増えるだろうと、Pattisall氏は述べている。
「これらの企業はクリエイティビティの価値を理解しており、顧客企業と同様に、自社の文化を変革するためにクリエイティビティが必要だということも理解しています」(Pattisall氏)
予測3:
テクノロジーがチャネルのみならずチームの結びつきを向上
マーケターと広告主は、顧客が頻繁に利用する、あらゆるデジタルと物理的なチャネルをまたいで広告コンテンツを配信し、顧客体験を統合することが重要であることを認識している。オムニチャネルマーケティングは、この数年、最も重要なマーケティング戦略であると考えられており、この先も変わることはないだろう。
しかし、マーケターと広告プロフェッショナルの間のオムニチャネルコミュニケーションについてはどうだろうか。
今日、広告の制作と配信には様々なチームが関わっており、それぞれ独自に作業していることが多い。プロジェクトに関わる場合だけ共同作業をおこなうが、そのための様々なツールは、コミュニケーションと共同作業の効率を最大化するために最適化されているとは言えない。さらに、既存のアドテク製品の多くは、この最も必要とされるやり取りを可能にするための基本的な機能が欠けている。
ただし、この状況は変わる可能性がある。マーケティングと広告プロフェッショナルに、より一般的なツールの使用を求めるのではなく、広告を中心に共同作業するための機能を自社の製品に搭載するベンダーが現れ始めているからだ。
「効率化のためには、あらゆるメディア、デバイス、データ、大規模なクリエイティブを統合して自動化する機能が必須です。しかし、ほとんどのアドテクには、それが欠けています。個々の顧客に対して適切な広告を提供するためには、デザインチームから、データチーム、広告取引チームに至るまで、広告プロジェクトに関与するあらゆる関係者をつなぐソリューションが必要です。2020年には、これがアドテクの大きなトレンドになると考えています」(Adobe Advertising Cloud プロダクトマーケティングリーダー Ryan Fleisch)
予測4:
データを最大限に活用するために、自動化テクノロジーを採用する企業が増加
人工知能(AI)やマシンラーニング(機械学習)など、テクノロジーに関する業界の話題はほとんどが、広告自動取引や入札の最適化に関するものだ。これは、広告キャンペーンの自動化により、チャネルをまたいでよりターゲットを絞りつつ、広範囲に展開できると考えているからだ。
しかし、業界の観測筋は、2020年には、人工知能とマシンラーニングに対する関心は、顧客データの理解と活用の自動化という、より価値のある領域に向かうと考えている。
マーケティングと広告プロフェッショナルがまったくの無力というわけではない。しかし、日々、250京バイトに及ぶデータが生成されている現在、その情報をタイムリーに使用するために、迅速に獲得して理解することは、もはや人の手に負えるものではない。人工知能とマシンラーニングはプロセスの自動化に役立ち、適切なメッセージをチャネルをまたいで的確な顧客に提供するための推奨行動とトレンドのスナップショットを提供する。
「人工知能とマシンラーニングによる影響は、今はまだ見られません。しかし、来年には、人工知能とマシンラーニングは広告代理店に実用的なレコメンデーションを提供し、より広範な役割を果たすだろうと考えています」(Fleisch氏)
予測5:
CDPとDMPの統合に取り組むベンダー
カスタマージャーニーを完全に理解するために、一元的な顧客像を構築することは、マーケターと広告主にとって、長年にわたる究極の目標だった。しかし、現在のテクノロジーをもってしても、その実現は依然として困難であると言えよう。顧客データプラットフォーム(CDP)は既存顧客の情報を保管する堅牢な仕組みで、データ管理プラットフォーム(DMP)は匿名データをつなぎ合わせるのに役立つ。これらを組み合わせて、単一の顧客情報リポジトリーにすることが有益であることに、多くのマーケターが同意するだろう。しかし、それを実際におこなうことは技術的にも法的にも課題がある。
その理由は、このふたつが非常に異なったシステムで、異なるデータ構造を持ち、それぞれが特定の目的を果たすために設計されたものだからだ。その上、DMPデータは匿名化されているため、匿名化されていないCDPデータと統合することは、プライバシーに影響を及ぼし、規制の準拠に関わってくる。
CDPがオーディエンスをDMPへ送り、DMPが分析用にマーケティング結果をCDPへ送り返すことによって、ふたつのシステム間で同期できるデータがあると、Raab AssociatesのCDPアナリスト兼創設者のDavid Raab氏は指摘する。そうであったとしても、CDPとDMP両方の役割を果たす統合システムの構築は困難だ。
それでもベンダーはあきらめていないと、DMP業界の動向を観察しているForresterのアナリストのTina Moffett氏は言う。
「2020年には、大手マーテクベンダーが必要な投資をおこない、競合他社に先駆けて実現すると予測しています。CDPとDMPのデータを統合するという構想は、大手マーテクベンダーが、匿名データと既存顧客レコードを統合しつつ、ユーザーのプライバシーと同意管理のハードルにも対処する方法を探し出せれば、現実味が出てきます」(Moffett氏)
企業は、CDPとDMPの統合が最終的に実現することを想定し、計画を立て始めるべきだと、Moffett氏は指摘する。競合他社の1歩、2歩先を行くには、従来のデジタル広告取引の枠を超え、DMPのオーディエンスインサイトを電子メールキャンペーンやTVターゲティング戦略に活用するなど、新たな取り組みが必要になると、同氏は語っている。
また、Moffett氏は、競争を一変させるテクノロジーで競合他社をリードする可能性があるため、永続的な顧客IDを使用してCDPとDMPを統合しようとするベンダーの動きには、とりわけ注意を払うべきだと述べている。
まとめ:方向転換の準備
1stパーティデータの利用、よりクリエイティブなコンテンツの活用、プロジェクトに関わる広告プロフェッショナルをより緊密に結びつける必要性、顧客体験の向上に役立つ人工知能とマシンラーニングの利用拡大、顧客データの効果的な一元的リポジトリーの作成という、これらの予測が的中するかどうかはわからない。しかし、あらゆる兆候が、来年それぞれの領域で何らかの変化が起こることを示している。
マーケティングコミュニケーション担当者と広告担当者は、これらの変化を注意深く観察し、自らのケースに当てはめ、隠れた機会の発見に努めよう。それにより、アドテクを利用して、来たるべき新しい年に最大限の価値を顧客に提供することが可能になるだろう。
CMO.com "5 Adtech Predictions for 2020"より
関連資料
複雑化するデジタル広告運用の領域。日々様々なメディアに接する消費者に対し、これまでの企業の広告運用では、必ずしも適切な体験にはなりません。求められているのは、オムニチャネル型の広告取引。あるべき姿に向けたステップを解説します。
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企業のデジタル変革は、組織横断の幅広い取り組みとなります。これには、新たな経営戦略、組織編成と人材育成、ビジネスプロセスの刷新、そして「顧客体験のための企業システム基盤」の構築などが含まれます。
アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。