広告体験の適用領域を拡大する最新テクノロジー動向

2019年10月31日



【POINT】

  • 消費者にリーチするための新テクノロジーを整理するには、広範な戦略的コンテクストで考えるべき
  • 最新のアドテクに必須なAI領域は、広告体験をより的確に予測、作成、提供するためにも役立つ
  • 精度の高い広告として、ブロックチェーン広告、プログラマティック広告に注目が集まる
 

広告は、常に消費者の望む形で企業と消費者を結びつけてきた。現在、その形が前代未聞のスピードで変化を続けていることは誰の目にも明らかだろう。最新のテクノロジーにより、消費者にリーチするための新たな手法が生まれ、それと同時に、広告展開とやり取りのための新しい方法が生み出されている。

音声から拡張現実、モノのインターネット(IoT)、画像認識技術に至るまで、従来とは異なる世界が姿を現し始めた。

テクノロジーに強みを発揮するフルサービスのクリエイティブエージェンシーであるTrekk.comのエグゼクティブバイスプレジデントを務めるSarah Mannone氏は、次のように語っている。

「地球上には、人類よりも多くのコネクテッドデバイスが存在しています。モバイルデバイスや最新のテクノロジーによる新たなやり取り方法など、広告主はオーディエンスにアプローチする方法を再考する必要があります。顧客のいる場所や行動にもとづいて、価値のあるオファーを提供することが、これまで以上に重要になっています」(Mannone氏)


テクノロジーのルール

新しいテクノロジーを整理するのは、大掛かりな作業になる。デバイスやシステムは進化を続け、新たなテクノロジーの組み合わせが創出される。これらを突き進めていく出発点は、様々なテクノロジーが可能にすることと、それらが意味することに対する基本的な理解から先へ進み、より広範な戦略的コンテクスト、つまりバリューチェーンでそれらを考えることだと、AccentureのExtended Reality Practiceでのイノベーションおよびマーケティング戦略のリーダーを務めるRaffaella Camera氏は述べている。

「広告などの分野において、こうしたテクノロジーを効果的に利用するためには、ほとんどの企業は何らかのデジタル変革をおこなう必要があります」
(Camera氏)

Trekk.comのMannone氏は、webや従来の環境で通用していた手法を新たなテクノロジーに適用しようとすると、組織は壁にぶつかる可能性があると指摘している。例えば、夕食時にレストランの前を通ったときに車載インフォテインメントやペイメントシステムに配信される広告やクーポンは、webブラウザーにランダムに配信される広告とは大きく異なる。

「IoTは、広告の可能性を広げ、多様性を高めています。移動方法、デバイスやチャネルの利用方法、興味を喚起するものなど、消費者の行動を理解することで初めて、魅力的な広告が作成可能になります」(Mannone氏)

Adobe Advertising Cloudのバイスプレジデントを務めるKeith Eadieは、テクノロジーが広告に及ぼす影響に関し、その変化を牽引する2つの主要な要素について言及している。

「ひとつ目は、多様なチャネルとデバイスをまたいで、マーケターが広告の機会をより正確に評価し、より適切に活用するための広告テクノロジー(アドテク)そのものです。ふたつ目は、広告をその他の業務システムやチームと結びつけるテクノロジーです」(Eadie)

適切な顧客体験を効果的に提供するためには、進化を続けるこのふたつのテクノロジーを欠かすことはできない。

「新しいチャネルや形式をまたいで、急速に変化を続ける広告環境に対応できる基盤が必要です。それだけではなく、そうした取り組みが、自社で作成するクリエイティブアセットやオーディエンスのセグメント化、共通のデータソースをもとにしたデータ分析と連携して機能するようにする必要があります」(Eadie)


広告インテリジェンス

広告の新たな領域は、いくつかの主要なテクノロジーが中核を成している。最新のアドテクに必須の人工知能(AI)は、広告プランニング、パフォーマンス向上、パーソナライズされたクリエイティブの拡大に役立ち、広告主に変革をもたらす。また、人工知能は、連続性のある効果的なオンラインの広告体験を、より的確に予測、作成、提供するためにも役立つ。

アドビのシニアプロダクトマネージャーを務めるAlexander Pereは述べる。

「ハイスピードでやり取りされるオンライン取引の世界は、休むことなく迅速に稼働し続け、一日で劇的に変化します。そのペースは、人間が操作するよりはるかに速いものです。機械を利用して変化に適切に対応できれば、市場の変化に対してすばやく反応できるようになります。日々の市場レポートに頼っているようでは、到底成し得ないことです」(Pere)

事実、Econsultancyの調査において、89%のマーケターが、手動による最適化と比較して、テスト済みの広告パッケージのアルゴリズムを使用した方がコンバージョン率が向上したと回答している。また46%の広告主が、今後さらに効果を高めるには人工知能が役に立つと考えていることが明らかになった。

もうひとつの大きなチャンスは拡張現実空間だと、AccentureのCamera氏は指摘する。AR(拡張現実)は、現実世界の中に情報を重ね合わせて配信し、インスタグラムの映像やゲームなどのようなインタラクティブな体験を構築できる。構成のプレビューや、アイテムの3Dビューをレンダリングすることなく、様々な新しい可能性を創出する。

Trekkでは、受信者がスキャンすると動画ポップアップが生成されるQRコードなどのARマーカーの利用を推進している。ARマーカーを利用すると、広告やその他のマーケティングメッセージを表示するためにアプリをダウンロードする必要がなくなる。この手法は、様々なチャネルを結合し、プラットフォームをまたいだメッセージを強化し、利用者を印刷物からデジタルに移動させるのに大いに役立つ。印刷広告をアニメーション化したり、モーションを加えたりして、広告に命を吹きこむことも可能だ。

「QRコードは、その価値の認識不足から利用を見送られていることが多くありましたが、貴重なツールになる可能性を秘めています。マーケターは、ARプログラムの背後にある戦略と、どのようにしてメッセージとコンテンツを送り出すかを理解することが重要です。企業と顧客の継続的なコミュニケーション方法になる可能性があります」(Mannone氏)

例えば、TrekkはInternational Paper向けに、印刷物とデジタルメディアを利用した広告体験を制作し、Adobe MAX 2018で大きな話題となった。ユーザーの体験は、まず1枚のボール紙を折り曲げて、旧式のテレビセットを作成する。作り終えたら、スマートフォンでボール紙のマーカーをスキャンするとポップアップ動画が生成され、スマートフォンの画面で直接視聴できるという仕組みだ。この広告では、ニュースキャスターがデザインの形式と機能や、グラフィックデザインのテクニックと手法を解説するなど、同社の製品がクリエイティブな方法で紹介された。

Camera氏によると、仮想現実(VR)は、ARほど広告主からの採用が進んではいないが、数多くの業種の広告を変革する可能性を秘めていることから、高い将来性が見込まれている。

「どんな場所か、またはどんな製品か、VRは現実的なアイデアを伝えてくれます。まるでその場にいるかのような、また実際に触れているかのような感覚が作り出せます」(Camera氏)

VRの利用には、リゾート地やクルーズ船の旅行体験、車の試乗などが考えられる。また、コンピュータやテレビゲームなどのその他の仮想空間における、プロダクトプレイスメントやレストラン広告にも利用できる。すでに、Atlantis Dubai Hotelなどを始め、VRを通じて特色を宣伝する旅行広告を制作しているホテルもある。今日のwebサイトやモバイルアプリへの広告提供に使用されているのと同じ手法にもとづいて、一連の体験の中で製品や広告を目立ちすぎない程度に表示できる可能性が大いにある、とCamera氏は語る。興味があれば、アイテムを選択したり、タッチしたりすることで、インタラクティブな広告が表示されるのだ。  

音声広告は、マーケティングと広告に革命をもたらしているもうひとつの分野だ。米国の1,025世帯を対象に実施された2019年Adobe Digital Insights(ADI)の調査によると、テレビ、印刷物、オンライン、ソーシャルの広告よりも、音声広告の方が邪魔にならないと答えた回答者の割合が、2019年1月の38%から43%に上昇した。また、音声広告の方が魅力的だと答えた割合は、1月の39%から42%に上昇している。

音声広告が消費者に受け入れられやすいのは、よりパーソナルでターゲティングされたものが多く、高い利便性を提供するからだと、業界の観測筋は見ている。アドビの調査でも、音声広告を聞いた39%が後日その商品を購入し、35%が音声広告をスキップしなかったことが判明している。

関連情報:

  • Adobe Digital Insights: 米国における音声広告が、テレビやオンラインなどの広告より人々の興味を引く結果に
  • アドビ、日本の消費者のモバイル利用に関する調査結果を発表
 

精度の高い広告

その他にも、ジオフェンシングやジオロケーションといった新しいテクノロジーが台頭してきている。位置情報にもとづくこれらのテクノロジーを利用して、リゾート地やクルーズ船を始め、特定の地域に関係するマーケターや広告主は、顧客の行動をより詳細に把握し、関連性の高いプロモーションや広告を提供できる。一例を挙げると、2017年のUrban Outfittersのキャンペーンでは、地域に密着したジオフェンシング(訳注:位置情報を利用した特定領域内への施策展開)を利用することで、75%のコンバージョンを獲得した。

ブロックチェーンも広告に活用できると、PwCでテクノロジー、エンターテインメント、およびメディアプラクティスの主任を務めるC.J. Bangah氏は述べている。PwCは、ブロックチェーンテクノロジーは、消費者との信頼を向上させることで、現状を最高で年間190億ドル上回る売上を生み出すことができることを明らかにした。多くの場合、デジタル広告エコシステムには20を超える参加企業と仲介業者が存在し、それによって不正確な情報や詐欺行為などの潜在的な不正につながりかねないとPWCは指摘する。その結果、消費者は期待とは異なるメッセージを受け取り、失望することになるのだ。

「正確なデータは、デジタル広告の中核を成すものです。正確なデータなしに、テクノロジーを活用した広告を提供することはできません」(Bangah氏)

注目に値するもうひとつの分野はプログラマティック広告だ。市場調査企業のeMarketerのレポートによると、現在、デジタル広告のおよそ80%が、オンライン広告の売買を自動化したプログラマティックシステムと接点があり、その割合は上昇を続けている。しかし、テクノロジーを数百万件の入札や広告機会を計算するためだけに利用するのでは、もはや十分とは言えない。また、企業はテクノロジーを利用して、プレミアム広告在庫のオーディエンスを特定し、魅力的なストーリー形式の広告でつながる必要がある。

「多種多様なデジタルの顧客接点をまたいで、ブランドがターゲティングしたオーディエンスに効果的にリーチするためには、これまで以上にソフトウェアを活用した広告への取り組みが重要になります。企業は、プログラマティックテクノロジーから最大限の利益を上げるために、独自の広告機会を追求する必要があります。そのためには、最も重要なデータやオーディエンスや、クリエイティブアセットを活用し、リアルタイムで意思決定と広告取引をできるようにしなければなりません」(Eadie)

例えば、Economist誌はプログラマティックなアプローチを利用して、ターゲティングした65万人の見込み客の50%にリーチするなど、成功率の高いキャンペーンを展開している。その結果を見れば、新たな潜在顧客にリーチすることや、認知度やROIを向上させることの重要性は明らかだ。


価値の勝利

デジタル広告の新しい時代が幕を開けようとしていることに、疑いの余地はない。広告主は総合的な体験と価値の提供に注力しなければならないと、Camera氏は言う。テクノロジーと広告が進む道を正確に予測することは困難だが、モビリティが中心となることは明白だ。実験と学習を重ねながら進んでいけば、成果を上げることができるだろう。

「新しいテクノロジーを利用して、ストーリーを拡大する方法を見つけ出す必要があります。テクノロジーの専門知識とクリエイティブ戦略を融合させることが重要です。エキスパートの力を効果的に結集させることで、たいていの場合、より優れた結果が生まれます」(Camera氏)

Mannone氏は、テクノロジーを組み合わせると、飛躍的に優れた広告と結果を生み出せると考えている。顔認識機能、分析、拡張現実および仮想現実、ジオロケーションなどのテクノロジーに対する理解が必要になるだろう。それはまた、人々が商品を購入する頻度や、実際に購入するタイミングを知ることを意味する。

最後に、基本的な事実を忘れないようにしたい。それは、どれだけ高度な技術を活用したとしても、消費者の購買を促す鍵は感情的なつながりが握っているということだ。

「あらゆる組織にとって、新しいテクノロジーを認識し、それに備え、顧客とのつながりを向上するための利用方法が学べる枠組みを作ることが不可欠です。差別化した顧客体験を提供する能力こそが、企業が顧客の期待に応えながら成長し続けることを可能にするのです」(Bangah氏)

 

CMO.com "How Technology is extending the advertising experience"より


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