顧客体験管理のためのAI-アドビ エバンジェリストに聞く、Adobe Senseiの未来像

2019年11月28日



【POINT】

  • AIを使うにあたって最も多くの人がつまずいてしまうのは、機械学習を使ってAIに「教える」プロセス
  • 「お客様のプライバシーをきちんと考慮している」という企業姿勢は、テクノロジーの使い方の中にも表れる    コンポーネント単位でコピー&ペーストしてもよい
  • アナリティクスにAIを加えると、リアルタイムに顧客の変化を追え、正確な将来予測が可能になる    
 

CXM(顧客体験管理)という複雑になりがちな取り組みを効率化するため、AIの活用に企業は興味を寄せている。CXMを推進するためのAI としてアドビは、Adobe Experience Cloudと共に提供されるAdobe Senseiを展開し、強化を続けている。では顧客体験管理のためにAIはどのように活用でき、どんなメリットをもたらしてくれるのだろう。
主にAI分野を担当するアドビのエバンジェリスト、Julian A. Kramer(以下ジュリアン)に、AIの現状やプライバシーに対するスタンス、そして予測されるAIの未来像について聞いた。

AIは既に身近に浸透したテクノロジー

小見出し下の画像

――今回は、大使館での講演をするために来日したと聞きました。国内の政府関係者、学者、企業幹部たちとAIについて議論したそうですね。さっそくですが、AIの現状についてどう見ていますか。

ジュリアン:AIは「敷居が高い」と感じるかもしれませんが、実は意識していなくても、だれもが使っているテクノロジーなのですよ。検索エンジンでもAIが使われていますし、FacebookなどSNSのフィードに表示される投稿も、ユーザーの好みをAIが判断して選んでいます。

ほんの数年前には、「自動運転技術は極めて複雑。実現までどれだけの期間が必要なのか」などの議論がなされていました。しかし、もうすでに部分的運転自動化の「レベル3」は実用化され、条件付運転自動化の「レベル4」も「ほぼ可能」なところまで来ています(編集部注:レベル定義はJSAEが和訳版公開。レベル4は国土交通省でガイドライン策定中)。データを利活用するなら、AIはあらゆる分野でパワフルな存在になるでしょう。

――アドビの製品にもAIであるAdobe Senseiが組み込まれていますね。これはどのようなAIなのでしょうか。

ジュリアン:Adobe Senseiは、オールインザボックス型のAIです。すでに多くの企業でAIの活用が進んでいますが、市場にあるテクノロジーの中でも、活用までの期間が短く済み、だれもが簡単に使えるのが特徴です。

小見出し下の画像

アドビ製品に組み込まれているAIであるAdobe Sensei

AIを使うにあたって、最も多くの人がつまずいてしまうのは、機械学習、つまりAIに「教える」プロセス。このプロセスなしに使い始められることが、Adobe Senseiの価値でしょう。アドビに集まる膨大な体験データやコンテンツデータが、企業や個人のプライバシーに最大限配慮しつつ、Adobe Senseiの学習に活用されています。また、アドビのソフトウェアを使う人の目的は類似していますから、Adobe Senseiの機能は「学習済みAI」としてすぐ使えるのです。また、インテリジェントサービスであるAdobe SenseiサービスやAdobe Senseiフレームワークといった、より高度にAIを活用するための機能群の提供も予定しています。

使い方を誤らなければ、AIはプライバシーを侵さない

小見出し下の画像

――企業の中には、AIに懐疑的な声もあります。そうした企業に対してどのようにAdobe Senseiのメリットを伝えていますか。

ジュリアン:懸念材料があることは確かです。判断の過程が人間から見えず、ブラックボックスになってしまうからです。私の住むドイツでは、プライバシーについて厳格ですから、「顧客データ分析にAIを使うのは問題ではないか」というところから議論することもあります。そのような方には、テクノロジーをきちんと説明して、不安を取り除くところから始めます。一方、AIの能力そのものに懐疑的な方もいます。その場合はシンプルに、今なにが実用化されているか、実例を見せてあげるのが早いです。画像やコンテンツのタグ付けなどは、AIの得意な仕事です。人間には面倒な作業をAIに実行させ、そのメリットを実感してもらうのです。

――これまで多くのエグゼクティブに会った中で、国や地域によって「AIに対する温度差」を感じることはありますか。

ジュリアン:プライバシーについての考え方は、国によってかなり違っていますね。日本はGDPRのある欧州に近いと感じます。「AIは社会にとって有益だけれど、取扱注意」というイメージでしょうか。一方、米国は商業的な考えが先に出ます。「AIを使って儲かるのならやりたいし、やるべきだ」という感覚です。中国は、もっと積極的ですね(笑)。

個人的には、日本や欧州のように、「取扱注意」というスタンスで臨むのは良いことだと考えています。Adobe Experience CloudにおいてAdobe Senseiはさまざまなマーケティングの場面で使われます。なので、「お客様のことをきちんと考えている」という企業姿勢は、テクノロジーの使い方の中にも出てくるものです。また、便利だからと飛びついて失敗すると、顧客から信用をなくしてしまいます。

AIは、アナリティクスを強化する存在

小見出し下の画像

――AIを使うためには、データが不可欠になります。これは、BIや統計解析でアナリティクスと呼ばれる分野と同様ですが、アナリティクスとAIの違いを端的に説明するとどうなりますか。

ジュリアン:アナリティクスは、「データをキャプチャーするツール」です。データを視覚化するイメージです。一方、AIは機械学習などを使ってより深い分析をします。データに埋もれていて人間には気付けなかった真実を、圧倒的な機械の力が見つけてくれるのです。アナリティクスを否定しているわけではなく、両者は役割が違います。アナリティクスをAIと併用することで、より深い理解を得られます。たとえば顧客分析なら、リアルタイムにどんどん変わっていく顧客を追い続けることができます。アナリティクスだけでは、過去の顧客をキャプチャーできるレベルにとどまりますが、それにAIを加えると、リアルタイムに顧客の変化を追えるようになるわけです。そして何より、正確な将来予測もできます。

――Adobe Senseiもアナリティクスと併用できますね。

ジュリアン:オープンデータイニシアチブのデータ標準「XDM」に即していれば、どんなデータでも扱えることは大きな強みでしょう。これは、アドビがマイクロソフト、SAPと共同で進めているオープンな仕様のデータ標準ですから、多くの企業でも標準として採用できます。そのデータモデルを使えば、任意のデータソースからデータを集約できるので、アナリティクス機能をAdobe Senseiで発展させ、データに隠されたインサイトをより鮮明にできます。セグメンテーションやパーソナライゼーションも、より高度になります。機会は仕事も早いので、すべてがリアルタイムになります。もちろん、プライバシーやデータガバナンスも前提として運用されます。

――適切なデータとアナリティクスがあれば、Adobe Senseiは何を実現できますか。

ジュリアン:学術的に言うと、「傾向スコアを用いたモデリング」が可能になります。わかりやすいビジネスケースは、顧客維持でしょうか。企業にとって大切なのは、新たな顧客をつかむこともそうですが、顧客を失わないようにすることです。そのために、アナリティクスによって顧客をセグメント化して群として把握する企業は多いのですが、それを一歩進めて顧客には個人として相対するべきです。メールを送るにしても、その人にとって最適な内容のものを、最適なタイミングで送るようにします。この施策だけで、購読拒否率は明らかに下がります。

小見出し下の画像

Adobe Sensei利用者と主な構成要素

カスタマージャーニーのすべての場面で 人間の意思決定を支援できるプラットフォーム

小見出し下の画像

――いまのAdobe Senseiは、個別のAI機能が大量に含まれている印象です。それがAdobe SenseiというAIの全容を掴みにくくしている印象があります。

ジュリアン 現状は、小さく始めて活用を広げていくために、個別のAIをさまざまな場面で活用したいというニーズにこたえられていると判断しています。ただ、先は見ています。数百、数千に及ぶ顧客接点から得られる情報は、すべてAdobe Experience Platformに蓄積されます。Adobe Creative Cloudで作ったコンテンツを広告として顧客に見てもらうところから、顧客が商品やサービスを使い続けてくれるまで、Adobe Senseiは、そのすべての顧客体験をリアルタイムに分析できる横断的なプラットフォームへと成長します。つまり、カスタマージャーニーのすべての場面で人間の意思決定を支援できるプラットフォームになるのです。

小見出し下の画像

Adobe Senseiによって実現できること    

――最後に、Adobe Senseiという日本語のソフトウェア名についてはどう感じていますか。

ジュリアン :Senseiは、teacher=先生という意味ですよね。これは、アドビのAIに対するスタンスをうまく表現している言葉だと感じています。意思決定にしてもクリエイティブにしても、最終的には人間の能力に依存するものであって、AIはそこまで代行しません。先生は教えてくれるけど、新しいスキルを学んで身につけるのは生徒です。ただ、極めて複雑なことや、面倒なところは先生が交通整理してくれます。AIは、そういう意味で「先生」なのです。Adobe Sensei。すごくいい名前だと思います(笑)。

――本日は、ありがとうございました。

 

UNITE編集部


この記事を共有する: 

 RSS配信中:

Adobe Insights: RSS配信中

関連資料

関連資料

ビジネスを成長させるには、顧客の期待を理解し、それに応じて体験を最適化させる必要があります。人工知能は、膨大な顧客データを紐解き、多彩なコンテンツをすばやく適切に選び、提供するという領域で活躍してくれます。具体的にどのような価値が導かれるのか、ご紹介します。


おすすめ情報

アドビがお手伝いします

企業のデジタル変革は、組織横断の幅広い取り組みとなります。これには、新たな経営戦略、組織編成と人材育成、ビジネスプロセスの刷新、そして「顧客体験のための企業システム基盤」の構築などが含まれます。

アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。