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- 1 三井住友カード:データを中心に据えた意思決定で顧客体験を推進
三井住友カード:データを中心に据えた意思決定で顧客体験を推進
2020年1月30日
【POINT】
- データを重視することで意思決定が明確化され、施策の優先順位も客観的に納得しやすいものになる
- 顧客体験向上の意識を社内に浸透させ、カスタマージャーニーを全社全部署で議論する取り組みを行う
- マーケティング統括部は「顧客体験を管理する部署」という位置づけで機能している
2020年のビックイベントなどを背景に、国内の「キャッシュレス化」が急速に進んでいる。政府も「キャッシュレス・消費者還元事業」で推進を後押し、異業種プレーヤーのサービス参入も相次ぐなど、動きに目が離せない状況だ。
そのようななか、「No digital , No Cashless」という戦略を掲げ、キャッシュレス化への阻害要因を顧客視点で解決する、という顧客体験管理(CXM)に取り組んでいるのが、三井住友カード株式会社(以下、三井住友カード)だ。同社は2012年よりデジタル変革を加速させ、顧客体験の向上に取り組んできた。CXM推進の鍵はどこにあるのだろうか。
意思決定にデータを活用し、各部門との連携を深める

三井住友カード 執行役員マーケティング統括部長 佐々木 丈也氏によると、同社のデジタル変革の歩みには、いくつかのポイントがある。
CXMの本格化は、2012年の「web最適化」から。
ネットビジネス事業部(当時)では、各部門からの依頼をそのまま受け入れ、webページを量産していた。そのためターゲットがあいまいで、導線は複雑化。掲載する情報も企業視点のものだったという。
そこで、コンテンツの掲載権限とwebプロモーションの決定権をネットビジネス事業部へと移管。Adobe AnalyticsとAdobe Targetを採用し、意思決定にデータを活用する体制にシフトした。データとして可視化されることで、各部にとっても施策の優先順位付けが納得しやすくなったという。顧客が訪問すると、その顧客がだれなのかがわかり、サイト内の遷移も俯瞰して把握できる。それらの情報を組み合わせて顧客の関心を判断し、それに合わせてバナーを出し分けることができるようになった。
適切な人へ適切にプロモーションすることで全体的なビジネスパフォーマンスも最大化できるようになったという。
あらゆるチャネルで顧客体験を追求し、統合的に運用

webを軸とした顧客体験向上施策は一定の成果を得たが、同社は次に進む。あらゆる接点での「顧客体験向上」だ。
「お客様から見れば、webもコールセンターも等しく私たちのサービス。webだけではなく、お客様との接点をすべて洗い出して、カスタマージャーニーを適切なものに管理したいと考えました」と佐々木氏。CX向上の意識を社内に浸透させ、カスタマージャーニーを全社全部署で議論する取り組みを行った。
たとえば新規の顧客なら、検討から入会、カードの受け取り、そして初回利用というプロセスを辿る。そこにMAを活用し、カード利用への理解を深めてもらうアプローチを採用した。
「カードが届いてから10日間は、メールで基本的な情報をお伝えし続けるフェーズにしました。その後、どこでお使い頂けたかによって、コミュニケーションが変わります。すでにお使い頂いた方には、サンキューメールを送りますし、未使用のお客様には最適な提案をします。新規のお客様とのコミュニケーションを見直すことで、大きな成果を得ることができました」(佐々木氏)
かつての「使ってほしい」というアプローチからの転換には不安もあったというが、新施策の実施後、利用率、平均利用単価も大きく上がった。そして、メール拒否率も大きく低下した。いまでは100シナリオが用意され、SMSやオリジナルアプリなどのチャネルも含めて統合的に運用できるようになった。
さらに半期に一度、効果検証を取りまとめ、経営会議にて報告することで、社内認識の共通化を図っているという。
AI活用と、そのための人材育成に取り組む

さらに、2017年からは「AI活用」にも積極的に取り組んでいる。潜在的なカード至急発行ニーズの捕捉をはじめ、不正使用検知、コールセンターの入電量予測など、AI活躍が期待される場面は多い。一方、市場には、データサイエンティストを名乗れるレベルのAI人材は少ないのが現状だ。そこで、同社は人材育成にも力を入れている。たとえば社内でAI活用についてのビジネスコンテストを実施。有望なアイデアを表彰することで、社内においてデータを身近なものとして捉えることにも寄与している。
このような取り組みを通じ、過去に2名だったデータサイエンス人材は、AIが必要な知識やスキルを補完してくれるため、30人以上に増えつつある。それに伴いAI活用部署も増加し、いまでは13の部署で機械学習を利用したデジタル変革が推進されているという。
なかでも、顕著な成果を得ることができた事例は「住所変更の予測」だ。現在、web明細書の利用者が増えたことで、住所情報を更新しない顧客が増加しているという。しかし正しい住所が更新されていなければ、カード切り替えの送付時に未達となるなど不便をかけてしまうため、住所を捕捉しておくことは大切な業務だ。この部分にAIを適用し、web行動や利用地域の変化などから住所が変わっていそうな会員を特定。タイムリーにコミュニケーションを取ったところ、ランダムに選定した層に比べて210%の精度で顧客が最新の住所情報へ更新してくれた。
同社の顧客は、消費者だけではない。同社のカードを取扱う店舗もまた、同社の顧客だ。2019年には、一連のデジタル施策によって集めた顧客行動を軸に、有効なプロモーションを検討できるようにする分析サービス「Custella(カステラ)」の提供も開始した。これにより、同社の加盟店は、それぞれのビジネス課題やマーケティングニーズに合わせ、顧客の消費行動データにもとづいて打ち手を考えられるようになる。
同社のCXM推進の道程においては、マーケティング統括部が他部門とうまく協調しながらリーダーシップを発揮している。顧客体験を統括する部署という位置づけになり、デジタル変革が進むにつれてさまざまな機能を統合。いまではデータ分析とweb戦略だけでなく、マス広告を主管し、広範な顧客体験を担っている。
「顧客体験重視の姿勢やお客様第一主義というメッセージは、単なる社外へのアピールではありません。最も大切なのは社内の意思統一」と佐々木氏。
最適な顧客体験を提供するには、部門を横断した意思の統一と意思決定が不可欠だ。その実現にはいくつもの壁が生じ、常に課題は発生する。しかし「それは必ず乗り越えられる」と佐々木氏は言う。CXMにおいては、顧客の反応や行動から得られたデータが、その壁を越える共通言語として機能するだろう。
UNITE編集部
関連資料
デジタル時代の先進企業と従来型企業の間にあるもっとも重要な違いは、「顧客体験管理をいかに実践しているか」です。従来型のシステム基盤と、顧客体験のための基盤との要件の違いは何か、既存システムへの投資を活かしながら、企業の成長に欠かせない新たなレイヤーをどのように構成したらよいかを解説します。
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作者 UNITE 編集部
アドビがお手伝いします
企業のデジタル変革は、組織横断の幅広い取り組みとなります。これには、新たな経営戦略、組織編成と人材育成、ビジネスプロセスの刷新、そして「顧客体験のための企業システム基盤」の構築などが含まれます。
アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。