金融機関のCXM事例(1) AIG:老舗組織を顧客起点に変える

2020年2月21日


社会のデジタル化が進んだ今、データを通して顧客を理解し、顧客にとって最適な顧客体験を提供する「顧客体験管理(CXM)」が目指すべき方向であるということは、あらゆる業界で認知され始めた。しかし、企業のこれまでの成長の歴史によっては、その変革に大きなハードルが伴うことがある。特に、業界規制の厳しい金融機関にとっては、それをどのように乗り越えるべきだろうか。

そこで、デジタル変革を通じてCXMを実践している金融機関の取り組みを、3回シリーズで紹介する。

まずは、米AIGの取り組みを紹介しよう。

多くの伝統ある金融機関は、その歴史と共に組織を進化させてきた。必要に応じて部門を設立し、プロセスを整え、システム投資を積極的に行うことで、ビジネスを成長させてきたのだ。しかし、その流れは、「デジタル体験のサイロ」という課題を生むことにも繋がってしまう。システム投資は段階的に、その時点で電子化すべき業務から順に電子化が進められたため、部門ごとに異なるシステムが導入されてきたからだ。つまり、システムのサイロ化である。古いシステムは改修しづらく、市場の新しいニーズに対応できないまま、孤立してしまう。よって、顧客体験も従業員体験も、個別最適とならざるを得ない状況となった。

「デジタル体験のサイロ」は、部門や業務をまたいだ情報のやり取りを硬直化させてしまう。顧客体験管理の重要性を理解し、取り組みを進めようとしても、全社が一丸となって顧客に向き合うような体制を作ることが難しくなってしまうのだ。この問題に、米AIGはどのように取り組んだのだろうか。

立場の異なる顧客それぞれに、適切な体験を提供できるwebサイトを

立場の異なる顧客それぞれに、適切な体験を提供できるwebサイトを

AIGは顧客体験管理に向け、金融商品の提供の仕方、サービスのあり方を見直した。その第一歩として、webサイトのリニューアルがある。サイトは組織のサイロを体現しがちだが、これを顧客視点に変えたのだ。同社の顧客はB2C、B2B、B2B2Cが混在する。そこで自社の「顧客」の定義として、既存の保険契約者に、保険契約の見込み顧客、および販売代理店を加えた。それぞれの立場の顧客に対して、適切な体験を届けられるwebサイトを設けることにしたのだ。そのデジタル基盤として、自社のデータセンターとAWSにデータ層、顧客体験層にAdobe Experience Cloudを配置し、顧客の立場に応じて最適なデジタルコミュニケーションを図った。

かつては各担当部門が主導してコンテンツを掲載していたこともあり、万人を対象としたコンテンツが複雑に入り組むサイトだった。これを顧客の立場に応じた設計に改め、立場に応じたコンテンツが提供されるようにしたことで、体験はシンプルながら、それぞれの人にとって適切なものになった。

なかでも力を注いだのが、販売代理店向けサイトの刷新だ。販売代理店の多くは独立した個人のエージェントであり、彼らにとって扱いやすいサイトは収益向上に直結する。そこで、わかりやすいマイページ機能を導入し、ダッシュボードから担当する既存顧客および潜在顧客、滞留商談などを一覧できるようにした。関連する営業支援ドキュメントへのアクセスもスムーズになり、現場からの好評を得ているという。

「このような取り組みを始める際に、それにかかるコストだけを考えてはいけません。『やらないことによる損失』の方がはるかに大きいものです」。

同社のディレクター、クリス カッツ氏はこのように話し、局所的なROIにこだわると一歩を踏み出せなくなると示唆した。

記事「金融機関のCXM事例(2)」へ続く

 

UNITE編集部


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