医療/ヘルスケアにおけるデジタル変革:健康のために人々は何を求めているか

2020年3月23日



【POINT】

  • 医療/ヘルスケアサービスに対して、人々は「ブラックボックス化」に不満を抱えており、さらなる透明化を図ることが求められる
  • 約4分の3の人は、ヘルスケア分野においても、他の分野と同様の顧客体験を提供してほしいと考えている
  • ヘルスケア業界へのディスラプターの参入によりデジタルシフトが加速しており、顧客を主人公にするヘルスケアサービスの実現が問われている
     

さまざまな業界においてデジタル変革が進むなか、ヘルスケア業界も大きな転換期を迎えている。ウェアラブルデバイスやIoTの普及により、取得できるデータを健康増進サービスに活かそうと、業種を超えた多くの企業が参入を図っている。

他方、デジタルの興隆は、ヘルスケアに対する人々の考え方や行動の変化にも影響している。人々が自らの健康のために、情報を調べ、自身で医師を選択し、セカンドオピニオンを得るといったことは、すでに一般的になった。

「医師の診断や治療」が中心だった時代から、人々が自らの健康増進や病気の予防に向けて行動し、「ヘルスケア」を行う時代への移行は、止まらない流れと言えるだろう。

だからこそ、ヘルスケアに携わる企業は、データにもとづいて優れた顧客体験を提供する体制への変革を迫られている。

医療サービスへのロイヤルティを保つ、人々とのコミュニケーション

医療サービスへのロイヤルティを保つ、人々とのコミュニケーション

国民皆保険制度の整う日本と異なり、自己責任が重視される米国では、民間のヘルスケアサービスが活発であり、GDPの3分の1を占める大きな市場を持つ。そうした米国の人々は、医療/ヘルスケアサービス業界に対し、どのような意識を持っているのだろうか。

アドビでヘルスケア業界の戦略マーケティングを主幹するトム スワンソン氏によると、人々は「自分に対して為された処置がブラックボックス化していること」に不満を抱えているという。

医療サービスへのロイヤルティを保つ、人々とのコミュニケーション

医療サービスに関するアドビとEconsultancyの調査によると、自らの主治医に対してロイヤルティを持たないとする人は、全体の32%にのぼる。うち45%は現在のサービスに不満を持っており、39%は費用の透明性が不足していると感じている。31%は、予約を取りにくいことを含め、予約を取るプロセスへの不満を訴えている。約3分の1は、離反予備軍であり、彼らの不満を解消しなければ、積極的なリテンションを維持できないことがわかる。

人々にとって「乗り換え先」となる医師やサービスは多く存在するため、チャーン(サービスの解約)は起こりうるリスクだ。そのため医療を提供する側は、リテンションレートを高く維持するために、情報を正しく人々に伝え、費用についてもさらなる透明化を図る努力をしなければならない。人々とのコミュニケーションを改善する必要も出てくるだろう。

利用したい医療/ヘルスケアを、ネット上の情報で選択

利用したい医療/ヘルスケアを、ネット上の情報で選択

医師を含む医療従事者(health care professional: HCP)を探すにあたって、「オンラインで検索する」と答えた人の割合も興味深い。18-34歳の92%、55歳以上でも73%がネットで検索すると答えている。これらの数字は、病院や薬局などの医療施設を訪問する層を上回った。どちらも実行する層も存在するが、若い世代の92%という数字は際立つ。オンライン検索と医療施設訪問の差分は、「オンライン検索だけで医療従事者を選ぶ層」が少なからず存在することを示している。

利用したい医療/ヘルスケアを、ネット上の情報で選択

そして、約4分の3の人は、ヘルスケア分野においても、他の分野と同様の顧客体験を提供してほしいと願っている。

高品質なサービスを受けるため、人々は健康情報の提供を求めている

高品質なサービスを受けるため、人々は健康情報の提供を求めている

ヘルスケア業界のデジタルシフトは、新興企業の市場参入によって加速している。

「Amazon、Google、Apple、Microsoftの4社が代表例でしょう。彼らは、伝統的なヘルスケア企業が差別化要素として重視せず、全く注意を払っていなかった領域を主戦場と設定しています」

スワンソン氏はこのように語る。

新興企業の狙うエリアは、最先端のテクノロジーを使った医療であり、個人情報を活用した医療情報の提供だ。

さまざまな業界へ投資するGoogleは、ヘルスケアのスタートアップに対して最も大きな投資を行っている。Appleは、パートナー企業と組んでApple Watchを無償提要する代わりに、リアルタイムのフィットネスおよび健康に関するデータを提供してもらうプログラムを実施した。新しい取り組みを始めようとする魅力的なスタートアップは資金を得て研究を加速し、業界参入を狙うディスラプターは、人々の健康データを押さえようとしている。

高品質なサービスを受けるため、人々は健康情報の提供を求めている

顧客側のマインドも変わってきている。これまでは長く、「健康データはセンシティブな個人情報であり、人々は他者に渡したがらない」と考えられてきた。しかしその潮目は変わり、いまや半数を超える人々が、血圧、心拍、睡眠量、運動量、ダイエット活動といった健康情報を提供することで、「ヘルスケア業界からより高品質かつ低価格なサービスを受けられる」とポジティブにとらえている。対して、位置情報の提供は40%と半数を下回る。位置情報は、感染症の罹患リスクなどに有効に働きそうだが、血圧や心拍数は提供しても位置情報の提供に抵抗感を感じる人が多いようだ。

米国では、HIPPA(Health Insurance Portability and Accountability Act)のプライバシールールにより、特定の情報をPHI(Protected Health Information:保護すべき医療情報)と見なす。PHIには、住所や氏名などの個人情報に加え、過去に提供した医療や現在、過去、未来の精神状態、健康状況などの情報が含まれる。このPHIについても、注目すべき調査結果が見られた。

高品質なサービスを受けるため、人々は健康情報の提供を求めている

多くの人々は、ヘルスケア企業やヘルスケア関連のwebサイトに対して、個人情報を提供しても良いと考えている。政府には提供したくないと考えているにも関わらずだ。スワンソン氏は、「ヘルスケア業界は、政府以上に信頼に足る存在と認められているのです」と話す。

スワンソン氏は、他の業界に比べてヘルスケア業界のデジタル化は5年遅れていると指摘する。今後のさまざまな課題を乗り越え、ディスラプターに勝つため、ヘルスケア業界が果たすべきデジタル変革のアジェンダは多そうだ。ヘルスケアのプロセスをデータドリブンな顧客中心のものへと作り変え、顧客を主人公にするヘルスケアを実現しなければならない。ただ、そのためのハードルとして最も高そうな個人情報の提供については、人々は政府以上にヘルスケア企業を信頼していることがわかった。セキュリティとプライバシーに気を配りながら、ヘルスケア業界がどのように変化していくのかに注目したい。

 

UNITE編集部


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