デジタルエコノミーの時代にCXM(顧客体験管理)を加速するために

2020年4月10日



【POINT】

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デジタルは私たちの生活を急速に変えてきた。そして2020年、私たちは予想しなかった形で、デジタル活用を加速させることとなった。COVID-19感染拡大への対応だ。

2020年3月31日(米国時間)、アドビの年次カンファレンス「Adobe SUMMIT 2020」が開幕した。例年米国と英国で開催される大規模なイベントで、日本からも多数の参加者を集めていたが、COVID-19の世界的パンデミックを受け、リアルイベントは残念ながらキャンセル。ライブ配信も困難な状況となり、いずれの講演も、講演者がそれぞれの自宅で収録し、全世界にオンデマンドで配信される。最先端のデジタルについて語るカンファレンスが、初めて純粋なデジタルイベントとして開催されることとなったのだ。

アドビ CEO シャンタヌ ナラヤン
アドビ CEO シャンタヌ ナラヤン

「いま私たちの置かれている状況は、前例のないものです」

キーノートの冒頭で、アドビ CEO シャンタヌ ナラヤンはこう語りかけた。

「会社としても従業員の健康を第一として、出張やイベントなど人に会う行事をすべて取りやめ、全員に自宅勤務を命じました」

オフィスに出社せずに仕事を続けられるのはデジタルの力だ。商談や取引、上長の承認、そして契約から決済まで、すべてデジタルで完結できる。オフィスワーカーだけではない。自宅待機を余儀なくされている生徒たちは、オンラインの教材により、自宅で学習を続けている。

「デジタルは、私たちの生活を変えました。そして、デジタルは常に変化しています」とナラヤン。私たちは、デジタル空間の中でも生きている。仕事も消費もデジタルで行う場面が増え、かつてないほどリアルとデジタルの融合した生活が日常となった。その過程で、デジタル世界にさまざまな痕跡を残していく。アドビは、そうした私たちの行動がもたらすデジタル世界の変化をリアルタイムにつかみ、分析することができる。企業が実体経済を把握し需要を予測するとき、従来の景気動向指数だけでは不足しており、デジタル経済の動向も見逃せない。これまでもAdobe  Digital Insightsを提供してきたアドビは、ホリデーシーズンの消費予測を成功させるなどの実績も得てきた。そこでナラヤンは、対象地域として日本を含むグローバルに拡大したデジタル経済指標「 Adobe Digital Economy Index 」を提供開始したと発表した。レポートは毎月リリースされる。

この新しい経済指標は、COVID-19の災禍で消費者の生活が大きく変わったことも明らかにした。世界はデフレーション傾向にあり、電子機器の価格は下落した。一方、EC売上は米国で25%、英国で33%の増加。食料雑貨のオンライン購入額は2倍になった。自宅で運動するためだろう、フィットネス機器の売上は55%増。オンラインで予約して商品を店頭で受け取る消費者は、以前より62%も増えた。これらはすべて、現実の数字だ。Digital Economy Indexを読み解けば、刻々と変化するデジタル経済のグローバルな最新トレンドをつかみ、ビジネスに生かすことができる。

ナラヤンは、CMOとCIO密に連携してデータドリブンなビジネス運営を推進する意義を説く。CMOは市場とのコミュニケーションを、CIOはビジネス継続性を担うが、両者の連携が欠けていると、変化し拡大するデジタル経済に立ち向かうのは難しい。アドビはCMOとCIOのミッションを達成するため、 Adobe Experience Cloud と Adobe Experience Platform を提供しており、CMOとCIOの連携を強力に支援できると語る。アドビのソリューションは、顧客を中心に据えて組織とITのあり方が再定義される中、大きく進化した。

CXMは顧客を深く理解することから始まる

CXMは顧客を深く理解することから始まる

続いてナラヤンはその詳細な説明を、2020年1月に着任したばかりのデジタルエクスペリエンス部門担当 エグゼクティブ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー アニール チャクラヴァーシーに譲った。

アニールは、データ統合ソフトウェアを提供するインフォマティカのCEOを務めていた人物だ。前職では、パッケージ売りからサブスクリプションモデルのビジネスモデル転換に取り組んできた。アドビのパートナーでもあり、ユーザーでもあった。そしてアドビをサブスクリプションの先駆者として、ロールモデルにしていた。

「アドビのサービスを利用してきた経験は、お客様の立場からアドビのビジネス戦略を俯瞰するのに役立っています。お客様から『アドビはなぜ、どうやって成功できたのか』と聞かれることがよくあるのですが、その1つの答えはデータドリブン型経営モデル(Data driven Operating Model: DDOM) を実装したことです。それが、アドビの長年にわたるデジタル変革を支えてきました」(アニール)

アドビはこの自社におけるCXM(customer experience management: 顧客体験管理)の 取り組みを汎用化した「CXMプレイブック(行動計画)」を提供開始 した。そのノウハウはAdobe Experience Cloudとコンサルティングサービスにも含まれている。

CXMプレイブックの構成要素
CXMプレイブックの構成要素

「CXMは顧客を深く理解することから始まります。アドビの使命は、お客様のチームや組織が共通のビジョンと実行可能な計画にもとづいて結束し、顧客に提供するデジタル体験の向上をサポートすることです」(アニール)

プラットフォーム層:イノベーティブな技術基盤

プラットフォーム層:イノベーティブな技術基盤

Adobe Experience Cloudのテクノロジースタックの初めに紹介するのが、プラットフォーム層だ。デジタルとリアルを問わず、企業が収集できるすべての顧客データを、顧客一人ひとりの単位で「統合顧客プロファイル」として集約。POSデータやCRMデータ、サードパーティデータなどを一元的に管理しつつ、プライバシーを保護し、各種規制にも準拠する。

統合顧客プロファイルの分析と活用には、AIとマシンラーニングのフレームワークである Adobe Sensei を適用できる。Adobe Experience Cloudを構成するソフトウェア群に組み込まれていたAdobe Senseiだが、より広範なソリューションとしてAdobe Experience Platformに位置づけられるようになった。

Adobe Experience Platformは、外部のソフトウェアやデータを取り込む機能も備える。アドビはソリューションをオープンにすることに注力しており、オープンなデータ仕様の XDM を公開し、オープンデータイニシアチブ(ODI) を設立している。さまざまなソフトウェアやwebサービス、サードパーティデータと連携して顧客プロファイルを強化することを可能にする。

Adobe Experience Platform Edge Network

アニールは、新機能Adobe Experience Platform Edge Networkについて次のように紹介した。

「Edgeは、データ転送を整理して加速させるイノベーションです。世界中から関連する情報を顧客プロファイルに統合し、オーディエンスセグメントをリアルタイムに把握します。迅速な意思決定とエクスペリエンスの提供を可能にすることで、パーソナライズされ、関連性の高いエクスペリエンスをミリ秒以内に提供できるようにします」

サービス層:AIエンジンを備えたサービス基盤

サービス層:AIエンジンを備えたサービス基盤

次の層が、顧客プロファイルと各アプリケーションの仲立ちをする役割を担うサービス層だ。大きく、Application ServicesとIntelligent Servicesから構成される。

Application Services

Application Services

Application Servicesは、3つの構成要素からなる。

  1. Real-time Customer Data Platform (CDP): 匿名の顧客プロファイルと既知の顧客プロファイルをどちらもシンプルに管理できる
  2. Customer Journey Analytics : Adobe Analyticsによるデジタル分析に加え、オフラインを含む多様なデータソースも組み合わせ、顧客の行動を可視化する
  3. Journey Orchestration: 顧客の行動をイベントとして認識し、自動的に、かつインテリジェントにそれに対応したアクションを実行するエンジンとして機能する

Intelligent Services

Intelligent Services

Intelligent Servicesも、今回発表された新機能となる。Adobe Senseiを活用し、顧客体験の最適化を支える役割を担う。これまでAdobe Senseiは、行動データから異常値を見つけ出す、重要顧客層と類似したセグメントを探す、メールの開封率の高いキーワードを提案するなど、定められたタスクを賢くこなすために、アドビの各アプリケーション に組み込まれていた。いわば「閉じたAI」だ。これに対して Intelligent Services は「開かれたAI」を提供する。誰もがAIを活用できるようにするための、「AI-as-a-Service」なのだ。

Customer AIとAttribution AI
Customer AIとAttribution AI

Intelligent Servicesは、先行して2つのサービスから提供開始される。1つ目は、Customer AI。顧客セグメントを特定し、セグメント別のキャンペーンの実施などに役立てる。2つ目は、Attribution AI。メディア別のコンバージョンを可視化することで、広告予算やコンテンツ制作予算の割り振りにあたり、てこ入れが必要な部分などを特定できる。さらに、アニールは、2020年後半に、3つのサービスが追加される予定であることを明かした。Summit メインステージ の「Experience Cloud Strategy」講演で確かめて欲しい。

アプリケーション層:広範なビジネスアプリケーション群

アプリケーション層:広範なビジネスアプリケーション群

最上位は、アプリケーション層。ここには、Adobe Marketing Cloud、Adobe Analytics Cloud、Adobe Advertising Cloud、およびAdobe Commerce Cloudが位置づけられている。つまり、ビジネスユーザーが日々活用する Adobe Analytics や Adobe Experience Manager などが含まれる。2018年に買収した Marketo Engage と Magento Commerce もここに加わっている。

このように、Adobe Experience Cloudはプラットフォーム層からアプリケーション層までを統合する巨大なテクノロジースタックとして成長した。いまでは1日に14兆を超えるセグメントをアクティベーションし、150億のWebページを処理する。そして、年間に1500億ドルの取引が、Adobe Experience Cloudで実行されている。

「Adobe Experience Cloudは、お客様に安心してビジネスをできる環境を提供します」とアニールは話す。膨大な処理を難なくこなし、顧客プロファイルというセンシティブなデータも安心して扱える。そして、新たな機能が日々追加される。Adobe Senseiによるインテリジェント化も加速する。2019年にアドビが出願した400件を超える特許のうち30%はAIとマシンラーニングに関連するものだった。アドビのユーザー企業がビジネスを成長させてきたことと歩調を合わせ、Adobe Experience Cloudもより大きな存在になっていくのだろう。

 

UNITE編集部


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アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。