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- 1 デジタルコマース戦略で考慮すべき3つの競争圧力
デジタルコマース戦略で考慮すべき3つの競争圧力
2020年11月5日
デジタルコマースを取り巻く今日の環境は、ますます複雑さを増し、競争が激しくなっている。マーチャントは常に、限りある予算と人員で最大限の成果を出すという圧力にさらされている一方、ビジネスの成長を維持しつつ、競合差別化を進め、顧客ロイヤルティを向上させなければならない。
一方、人々が手にすることのできるテクノロジーの進歩により、買い物客の期待は高まり続けている。顧客は最適な取引を望むだけでなく、自身の生活の状況に見合ったオファーを、モバイルでシームレスに受け取ることを求めている。
このトレンドは、次第に多くのマーチャントの認識するところとなっている。こうした顧客のニーズに応えることが、どれほど困難なことであっても、それが競争を勝ち抜くために役立つことであると理解されている。非常に厳しい状況に見えるが、一部のマーチャントはこれを挑戦の機会と捉え、あらゆる顧客接点において価値を提供できる、革新的で顧客中心型のブランドへと変革しようとしている。
こうした課題をよく理解しているアドビのコマース担当の専門家は、現代の小売業界の状況を踏まえたうえで、一見すると手に負えないような急激な変化、期待、トレンドを精査し、あらゆる状況の企業の競争に役立つ基本的な要素を絞り込んできた。その知見から、小売事業者が競争に勝ち抜くために検討すべき、3つの競争圧力について見ていこう。
第一の競争圧力:トップクラスの顧客体験を描く
Salesfloorによると、デジタルでの買い物客の84%は、安定性が高く魅力的なデジタル体験を小売事業者に望んでいるという。
現在のショッピング環境は断片化している。そのためマーチャントは、テクノロジーのトレンドを把握し、タブレットのような多様なデバイス、ソーシャルのような様々なチャネルの変化に対応しなければならない。今日の買い物客は、オムニチャネルのフルフィルメントを期待している。オンラインで購入した商品を店舗で受け取る、商品を店舗で返品する、別の店舗に発送する、といったサービスが得られるものと考えている。
こうした顧客体験(CX)の良し悪しは、マーチャント次第だ。マーチャントは、顧客にとって有意義な方法で、個々の顧客接点と自社ブランドをつなぐ必要がある。顧客のニーズに左右される競争の激しい市場では、魅力的で便利なサービスの提供やショッピングの案内をおこなう際に、ミスを許容する余地がない。チャネルを問わず、買い物客との様々なやり取りの場面で、一貫した、相手の興味関心に即したエクスペリエンスを提供しなければならない。
顧客一人ひとりに向けて
一人ひとりの顧客に合わせた体験の提供は、今日のコマース市場における究極の競争手段となる。しかし、変化を続けるデジタルコマースでは、新しい検索方法や購入手段などが次々に生み出されており、目を離さずにいることはなかなか難しい。
Infosysのレポートによると、消費者の86%が、購入の決定にはパーソナライゼーションが何らかの影響を及ぼしている、と考えている。また消費者の31%以上は、ショッピング体験がよりパーソナライズされることを望んでいるという。現在の買い物客は、マーチャントが自分のことを覚えていて、自分のために調整されたショッピング体験を提供してくれることを期待している。そこでマーチャントは、自社の取り組みが、パーソナライゼーションのどの段階にいるのかを把握しておくべきだ。そして、顧客のニーズを把握し、それに対応するためには、買い物客の興味や様々なデジタル行動から得たインサイトの活用を進める必要がある。
顧客はブランドに、自分は誰で、何を好きで何を嫌いかを覚えていてくれることを期待している。買い物のたびに一から説明しなければならないとしたら、とても面倒だからだ。また、単に自分に必要なものを提供するだけでなく、自分のことを予測して、ますます忙しくなる日常生活を楽にしてくれたら、とも考えている。しかしこれは、50年前に近所の商店で一対一の付き合いが行われていた時代なら成り立った関係だが、購入までの潜在的な経路が720を超えるような現代では、困難なことだ。
買い物客の興味やデジタル行動から得られたインサイトを活用したコマース、すなわち「コンテクスチュアルコマース」を提供しようとすると、より有意義でパーソナライズされたオファーをすばやく大規模に提供できる仕組みを、マーチャントは手にしなければならない。
新興チャネルの活用
これまでの10年間と同様に、今後も、デジタル化によってショッピング体験は変革し続けるだろう。マーチャントは、マーケットプレイスやモバイル、ソーシャル、今後登場するインテリジェントな支援テクノロジーなど、あらゆるデジタルチャネルに備えて戦略を最適化する必要がある。また、新たなチャネルが登場するたびに、すぐに対応できるプロセスとテクノロジーを実装することも重要だろう。
Sprout Socialによると、消費者の75%は、ソーシャルチャネルで見たという理由で商品を購入しているという。そのためマーチャントに必要なのは、ソーシャルチャネルを通じ、潜在顧客とシームレスにやり取りして、顧客になってもらう、という取り組みだ。小売事業者がソーシャルチャネルで競争する際に役立つ中核的な機能には、ほかにも、商品カタログからの情報抽出、ソーシャルストアの構築、広告の制作と運用の簡素化、コンテンツの統合などがある。
Criteoによると、2015年におこなわれた全コマース取引の40%は、複数のデバイスが用いられたという。このことから、効率的なモバイルファースト戦略が不可欠なのは明らかだ。顧客に合わせたレスポンシブなエクスペリエンスが、エンゲージメントの差別化につながるため、小売事業者は、ブラウザーからアプリのようなエクスペリエンスを利用できるプログレッシブwebアプリ(PWA)のような、様々なチャネルの活用を検討すべきだろう。
第二の競争圧力:競争から抜け出し、成長する
テクノロジーの進歩は急速であり、以前に比べて利用しやすく、また手に入りやすくなっている。この変化に伴って、次の強大な競争相手がどこから現れてもおかしくない状況になり、市場の競争が激化している。
デジタル変革は、人々に大きな便益を生み出した。そうした人々の行動変容が、業界再編をもたらし、企業に様々なチャネルやテクノロジーへの対応を促す要因となっている。すなわち、デジタル変革に取り組まない企業は、顧客と向き合わないことと等価だ。よって、企業がこの競争から一歩抜きん出るには、顧客の期待にどれだけすばやく効率的に対応できるかが鍵になる。
新たな可能性の追求
競争の激化を前にして、ビジネスの持続や成長を目指す圧力は、しばしば新たなビジネスモデルやチャネルを見出すことにつながる。Forresterは、米国のB2B領域におけるデジタル市場が、2020年には1.1兆ドルという膨大な額に達し、米国のB2B総売上の12.1%を占めると見ている。
B2Cマーチャントの領域に目を移すと、このB2B市場におけるブームは、成長の機会を示すと同時に、そこに現れる行動の変化から、ショッピング環境における顧客の期待を読み取ることのできる興味深い現象でもある。例えばソーシャルセリングは、カスタマーサービスのにおける迅速な対応の意味を変えた。National Retail Federation(NRF)の報告では、Amazon Primeの影響で、オンライン買い物客の10人に4人が、小売事業者に2日で無料配達してもらうことを期待している。
グローバルへの展開
チャネルの追加のほか、多くの企業は成長を持続するために新しい市場への参入を検討している。Pitney Bowesが実施した調査では、自国内のデジタル取引を利用したことがある消費者の66%は、他国のデジタル取引の利用経験もあることが明らかになった。こうした行動が、企業に新たな市場への進出を促す圧力となっている。ブランドは競争力を得るために、グローバル展開を通じて商品のリーチを拡大しようとしているが、そのためには、現地向けのカスタマイズも必要となるだろう。
競争に立ち向かう
Forresterは、81%の企業が、クラウド型の業務アプリケーションを利用しているか、利用予定であると報告している。また、77%は主要アプリケーションをクラウドに移動する主な動機として、俊敏性の向上を挙げた。
企業の顧客データ管理をどのように効率化するか、という観点でクラウドを検討しているとしたら、まさに理にかなった考え方だといえる。iVend Retailによると、92%の消費者は、複数のチャネルをまたいで買い物をしている。それは、データが複数の顧客接点から生成されることを意味する。顧客データを包括的にアクセスできるようになれば、グローバル展開が加速され、新しい環境をより容易かつ迅速に立ち上げることができるようになり、競争優位に立てるだろう。
ロイヤルティ顧客の育成
新規顧客の獲得には多大な労力が払われているが、ビジネスの生命線はリピーターが握る。そのため、買い物客とつながり、継続的にロイヤルティを獲得し育成する新たな方法を見つけることが、長期的成長のための重要な要因となるだろう。
Constellation Researchは、小売業者がエンゲージメントの向上に注力することで、クロスセルは22%向上、アップセルの売上は13%から51%向上、注文量は5%から85%増加する、と推定している。消費者から注目を得るための争いは、激しさを増している。Amazon Primeの影響により、コマースに関する顧客行動が変容して以来、その「定着度」を高めるには、ロイヤルティ育成が欠かせなくなった。
信頼できるwebサイトセキュリティ、送料に関する完全な透明性、利用しやすいカスタマーサポート、商品情報の可視性など、顧客が期待する水準は高まるばかりだ。また、チャネルにしばられることなく、便益を得られることを求めている。iVend Retailが明らかにしたところでは、調査対象となった買い物客の実に50%以上が「デジタルと実店舗において同等の便益を得られた」と感じていたのに対し、1年前の調査で同様の回答をした人の割合は40%に過ぎなかった。業界内での競争が激しい現状にあって、顧客の期待に応えることは、ロイヤルティを高めるうえで何より重要な施策となる。
第三の競争圧力:変化への迅速な適応
コマースを取り巻く状況が急速に変化し、予測することが困難なのは言うまでもない。そのため、適切な情報をタイミングよく獲得するための準備が必要になる。さらに、顧客と市場の需要へと、迅速かつ柔軟に対応することも欠かせない。データの細部に気を配り、アプローチに問題がないか注意することで、これからの成功に向けた準備が整うだろう。
データの理解
Forbesによると、毎日250京バイトものデータが生み出されており、今日この世界にあるデータの90%は過去2年のうちに生成されたものだという。顧客を理解して対応するためには、この膨大なデータを使わない手はないが、それを分類するだけでも大変な作業になる。有効なものとそうでないものを見分けることは難しく、情報をすばやく手に入れる手段を把握することも困難だ。
そこで大切なのが、ビジネスインテリジェンスツールだ。用途に応じてカスタマイズ可能なダッシュボードとKPIを利用した統合ビューがあれば、まったく異なる種類のデータソースから得られた情報を、多角的に分析することができる。そこから得られたインサイトにもとづいて、購入頻度、注文量、コンバージョンを向上させ、カスタマージャーニーを最適化し、パーソナライズするのだ。データソースに対して最適化されたビューは、変化に機敏に対応するために必要なインサイトと透明性を、マーチャントにもたらしてくれるだろう。
組織の強化
マーケターとマーチャンダイザーは、顧客セグメントに合わせてコンテンツを調整することで、顧客の期待にすばやく対応しなければならない。そのためには、買い物客が接することになる様々なエクスペリエンスの微調整を簡素化し、複数のデータソース、部門、組織をまたいでインサイトを容易に獲得する仕組みが求められる。
そうした要件を満たしたツールを利用できれば、IT部門の開発リソース不足がボトルネックとなるような事態を避けつつ、サイトの更新、プレビュー、スケジュール設定を容易に実行できる。そうした管理ツールが、バックエンドのプロセスを管理する時間を減らし、魅力的なキャンペーンの企画実行と検証に時間をかけ、売上促進に集中できる環境をもたらしてくれるだろう。
その中核となるのが、コマースに関わる業務を担う、柔軟なクラウド基盤だ。クラウドを中心に据えることで、担当者は各自の業務に集中でき、開発者の作業負荷を軽減し、効率を最大化することが可能になる。
真価の発揮
重要なことは、ショッピング体験にほかならない。確かな喜びや価値が感じられ、期待に沿った体験が提供されるかどうかによって、買い物客はマーチャントの印象を形作る。
俊敏なプロセス、顧客体験中心型の経営戦略、統合コマース基盤はいずれも、成功の機会をより多く見出すために欠かせない。良質なショッピング体験の創出を通じて、競争力を最大化することに注力すべきだ。コンバージョンと効率性を向上することで、ビジネス成果に反映されるだろう。
関連資料
顧客は商品そのものではなく、体験を買っています。コマースのあり方を変革し、顧客との新たなつながり方を生み出しましょう。
アドビがお手伝いします
企業のデジタル変革は、組織横断の幅広い取り組みとなります。これには、新たな経営戦略、組織編成と人材育成、ビジネスプロセスの刷新、そして「顧客体験のための企業システム基盤」の構築などが含まれます。
アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築、あらゆる場面を販売機会に変えるコマース基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。