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- 1 B2C/B2B複合型企業のためのコマース基盤の選択肢と3つの利点
B2C/B2B複合型企業のためのコマース基盤の選択肢と3つの利点
2020年11月11日
B2BとB2Cの両ビジネスモデルへの柔軟な対応が成長を支える
企業が成長していくうえで、変化を続ける顧客のニーズと高まり続ける市場競争が、ますます大きな課題となっている。あらゆるオーディエンスやチャネルをまたいで優れた顧客体験を提供することが、今や当たり前になった。限りある経営資源から多くの成果を達成することを求められるリーダーには、自社の顧客が法人か個人かを問わず、デジタルチャネルを通じてあらゆるニーズに応える必要がある。
イノベーションの原動力となるのは、効率性とイネーブルメントだ。そこで企業は、自社の課題解決に役立つテクノロジーの導入と活用に注目している。そして、デジタル変革への注目もますます高まっているが、デジタル変革は手段であり、企業のデジタル化が目的ではない。
その究極の目的は、デジタルの力を活用して、顧客価値を最大化することだ。
顧客は、自分にとって有意義なやり取りを求めている。必要なものや希望するものを効率的に入手するためのリソースや購入機能を必要としている。一方、優秀なビジネスリーダーは、顧客体験こそが、顧客ロイヤルティと全体的な売上の向上に欠かせない差別化要因であることを理解している。そして、投資の最適化、労力の集中、自社のカスタマージャーニーの改善に役立つテクノロジーの導入を、優先事項として取り組んでいる。
しかしそのために、組織、プロセス、テクノロジーをシームレスに統合することは、必ずしも容易ではない。このような状況に迫られ、企業の市場へのアプローチ方法や、社内の戦略や戦術を策定する方法が変化している。
消費者と法人顧客の利便性を超える利点
様々な業界で企業は、B2Bモデル、B2Cモデルの双方に取り組み、あるいは参入しようとしている。ここではB2BとB2Cの双方に取り組む複合型企業のビジネスモデルを「ハイブリッドモデル」と呼ぼう。ハイブリッドモデルの企業には、次のような典型的なニーズが見られる。
・消費者への直販サイトを展開している企業が、法人顧客や販売パートナーに対してオンライン販売を効率的におこないたい
・法人顧客や販売パートナー向けのサイトを展開している企業が、消費者への直接販売をおこないたい
・複数の事業分野を持つ企業が、法人と消費者の双方に向けて販売している
こうしたニーズに対応するテクノロジーが、Adobe Commerce Cloudに代表される、「ハイブリッド型コマース基盤」だ。デジタルコマースはB2Cモデルを対象としたものが先行発展してきた面がある一方、近年とくに注目を集めているのが、B2Bモデルのデジタルコマースだ。B2Bでは法人顧客との取引に固有の要件がみられるため、従来はB2B向け、B2C向け、という個別のコマース基盤が利用されてきた。ビジネスモデルによって担当事業部が異なり、それぞれに異なる基盤を採用しているケースも見られる。しかしここには、非効率が潜む。そこで登場してきたのが、ハイブリッド型コマース基盤となる。その利点は、次のように整理できるだろう。
・柔軟なワークフロー環境で、ビジネスリソースのニーズを簡略化
・優れた顧客体験を創出するための業務プロセスの統合を促進
・顧客一人ひとりの習慣やニーズに対応することで、永続的な顧客を創出
第一の利点:単一のコマース基盤で、任意の状況に対応
B2Bのバイヤー(購買担当者)もB2Cの消費者もシームレスで魅力的なエクスペリエンスを求めているが、それぞれには固有のパターンがあり、無視できない違いがある。そこでコマース基盤に求められることは、オーディエンスの購買パターンにきめ細かく対応すること、担当者が単一のインターフェイスを通じて双方のエクスペリエンスを効率的に制御できること、と言える。
ハイブリッド型コマース基盤は、様々なクリエイティブ担当者の時間、労力、成果を最大化するために役立つ。自社ストア向けに開発された様々なアセットを、異なるオーディエンスをまたいでシームレスに活用することで、重要な要素のカスタマイズに注力し、適切に閲覧および購入できるように差異化できる。これにより、様々なオーディエンスが、そのサイトは自分のための場所であると感じるようになる。コストを節約しつつ、ロイヤルティとリテンションを高めようとする取り組みに大きな付加価値を与える。
複数のオーディエンスに対応できる単一のサイトを構築することで、サイト制作とコンテンツ制作の効率が高まる。多くの企業では、まず主となる消費者向けサイトを開設し、その後、B2B顧客向けにカスタマイズされたプロモーションやメッセージ、コンテンツ、購入オプションなどを追加している。ただしこの方法では、B2B顧客の数が増えることで、少しずつ作業負荷が高まる。
複数のサイトを構築するという方法もある。この場合は、戦略や対象オーディエンスに応じて、ビジュアルアセットやコンテンツを共有することができる。
ハイブリッド型コマース基盤は、それぞれの顧客のニーズに応えるために、次のような機能を備えている。
・カタログおよび価格リストのカスタマイズ機能
・異なるブランドや商品ライン、地域に対応するためのマルチサイト管理機能
・それぞれの顧客に適切なレコメンデーションやプロモーション、コンテンツを提供するための、顧客セグメンテーションとターゲティング機能
・ビジネス担当者による魅力的なサイト(多くの場合、B2Bバイヤー向けの詳細な情報を含む)の構築を支援する、マーチャンダイジングとコンテンツ管理の包括的な機能セット
・個別出荷と大量出荷の異なる要件を満たすフルフィルメント機能
またハイブリッド型コマース基盤は、B2B顧客とB2C顧客の双方に魅力的なエクスペリエンスを提供することができる。
・B2Cの顧客はログインなしでチェックアウト可能にし、B2Bの顧客にはログインを求める
・様々な訪問者に対して表示する商品を管理する
・個人または顧客グループに応じて、異なる価格体系を設定する
・プロモーション、カタログ、買い物かごにルールを設定してカスタマイズする
・単一のインターフェイスからバナー、ブロック、ウィジェットをカスタマイズして、コンテンツの質を向上させる
事例:世界中の顧客接点をパーソナライズ
ここで、ハイブリッドモデルを展開している企業のデジタルコマース事例を見ていこう。
Brown-Forman Corporation
同社は、スピリッツやワインを扱う米国最大の企業のひとつで、ジャックダニエルやフィンランディア、コーベル、シャンボールといった代表的な銘柄を有している。これらのブランドは数世代におよぶ職人芸と伝統に根ざし、160ヶ国で販売されている。そのため、世界規模での販売活動が重要な課題になる。同社は以前まで、法人顧客となる代理店や小売パートナーを介して独占的に商品を販売してきた。それに加えて消費者向けにも、たとえ蒸留所を訪れることができなくても、手軽に同社のブランドに触れられるようにしようと考えた。
そこで同社は、Adobe Commerce CloudのグローバルエリートソリューションパートナーであるVaimoと協力し、ブランドストーリーとコマースが融合する、豊富なコンテンツを有するレスポンシブなサイトを構築をした。店舗では見ることのできない特別なヴィンテージのウィスキーや限定版のボトル、ギフトセットなどを提供している。このwebストアは、Adobe Experience Cloudに含まれるAdobe Commerce Cloudによって構築されている。決済ソリューションを備えた注文管理機能により、ジャックダニエルのボトルに独自の刻印を施すサービスなども提供している。また、マルチサイトおよびマルチブランドに対応する注文管理機能は、同社のドイツおよびオーストラリアへの進出を容易にした。
オーストラリアの市場では、同社は自社のブランドを前面に打ち出し、バー、クラブ、レストランのオーナーといった法人顧客の注文体験を、近代化することに取り組んだ。オーストラリアでは、酒類販売に厳しい規制が課せられており、酒類販売権の数が限られている。そうした酒類の注文をめぐる競争は激しく、法人顧客は旧式のやり方で注文を入れることにうんざりしていた。それは、営業担当者がスポーツバーに足を運び、サッカーについて雑談をしたうえで、ようやく注文を取るような方法だった。これでは忙しいオーナーの時間をあまりにも多く費やすことになるので、モバイルを利用した注文が望まれていた。
そこで同社は、ハイブリッド型コマース基盤を採用し、消費者と小規模な法人バイヤーの双方に対応することで、高い俊敏性と効率性を手に入れた。同社は最近、ドイツでも、同じ基盤を使用して、直販サイトを開設した。Adobe Commerce Cloudの注文管理機能を使用して、単一の基盤からプロセス全体を管理し、既存のERPシステムとの連携を実現している。
同社のグローバル展開は容易に進んでいる。様々な国や地域において、既存の基盤を使用して、商品の種類や価格、画像、オファーなどを現地のニーズに合わせてカスタマイズして提供することが可能だからだ。さらに、注文管理機能を使用してオンラインで注文を受け、それらを国や地域によって異なるフルフィルメントを担当する物流パートナーに渡し、ERPシステムに沿って処理する。これで、注文者全員にジャックダニエルが届く。
同社は世界的規模での投資を通じて、効率性を高め、自社ブランドを地域的に成長させる方法を手に入れた。消費者も法人顧客も、同じ方法で同社とやり取りし、代表的な銘柄であるジャックダニエルが体現する職人芸と伝統を体験できる。
第2の利点:テクノロジーをチームで活用
デジタルリーダーは、ビジネスを進めるために、数多くの人員やツール、組織運営上の考慮事項などを管理しなければならない。心配事を増やすテクノロジーは使用せず、いくつかの懸念事項を多少は軽減してくれるものを採用するべきだろう。
自社ストアのSystem of Record(SoR)として単一のコマース基盤を活用するだけでなく、その基盤をCRMなどの基幹システムと統合する利点を考えよう。
多くの場合、統合基盤を利用することで、次のように複雑性を軽減できる。
・人員配置の要件を簡素化する。2種類の基盤に対応できる人材を探す必要はなく、また、それぞれのコマース基盤に対して担当チームを編成する必要もない。これは機動性の高い組織を作ることにもつながる。例えば、特定のチームの作業負荷が増大したときに、他のチームメンバーに仕事を適切に割り振ることが可能だ。複数の基盤を運用している場合は、他の基盤の担当チームに作業を割り当てることはできない
・外部パートナーに依頼すべき要件を最小限に抑える。ひとつの基盤に関するソリューションパートナーとだけ連携すればよく、様々な基盤の専門知識を持つ複数のパートナーは必要ない
・教育とトレーニングのコストを削減する。保守、統合、運用に関するトレーニングを、ひとつの基盤に関するものに限定でき、時間をかけて幅広く学習する必要がなくなる
ハイブリッド型コマース基盤を使用すると、B2B向けコマースとB2C向けコマースのそれぞれのシステムをリフト&シフトする必要がなく、管理責任が軽減されるので、コマース体験の刷新と強化に必要な活動やコンテンツといった、より重要度の高い作業に注力できるようになる。
事例:大手ブランドのAdobe Commerce Cloudを利用した差別化
Sigma Beauty
同社の公式メインサイトは消費者向けに構築されている。しかし、B2Bバイヤーがログインした場合にも、カスタマイズされた適切なコンテンツと価格が表示され、豊富な商品カタログや正式に認められた適切なアカウント管理機能を利用することができる。
Steelcase
B2BとB2Cに対応する一部の企業では、顧客層ごとにまったく異なるエクスペリエンスを構築し、個別のサイトを作成することを選択している。同社の管理担当者は単一プラットフォームで管理する方式の利点を活かして、複数のソリューションを細かく使い分けることに時間を費やす代わりに、よりターゲットに狙いを定めたエクスペリエンスを作り込むことに注力している。
第3の利点:顧客との良好な関係を構築
より多くの法人バイヤーが、オンラインでセルフサービスの情報を参照し、ベンダーから直接商品を購入することを好むようになっている。今日の競争の激しいB2B市場において、法人バイヤーはB2Cのような、馴染みやすくて手軽に利用できるコマース体験を求めている。このような要求に応えられない場合は、競合相手に取り込まれてしまうだろう。
最近のシームレスなコマース体験では、各種の作業をセルフサービス方式で実行できるようにする必要がある。顧客は必要な情報を他の場所で参照することを好まず、webサイトで手続きをおこなうときにコールセンターや販売員に電話することも望んでいない。次のような施策は、ビジネスの成長に役立つ。
・サイトを見て回る必要がなく、すぐに使える注文画面
・過去に注文した商品の速やかな再注文
・迅速かつ頻繁に購入するための要求リスト
・ウィッシュリスト(B2C向け)
・オンラインの幅広い製品情報(マニュアル、インストールガイド、製品安全データシート、高品質画像、商品レビューなど)
・サイトからの見積もり依頼(電話での依頼が不要)
・クレジット残高、過去の注文、配送情報の表示
・オンラインでの請求書決済(ERPとの連携および多少のカスタマイズが必要になるが、一般的に普及している)
事例:Adobe Commerce Cloudで顧客体験を再定義したグローバルブランド企業
CakeSupplies
40ヶ国に顧客基盤を持つ同社は、単一の統合デジタルコマース基盤を利用して、コンテンツ制作に割り当てるリソースを削減しつつ、適切なコンテンツを求める多様なオーディエンスに向けて的確にカタログを提供している。
Australian Pharmaceutical Industries
同社は、統合されたコマースを活用して、複数のサイトとインスタンスの運用に伴う難しさを効果的に管理しながら、B2BとB2Cの顧客の双方に等しくシームレスなエクスペリエンスを提供している。
事例:コマースを一元化
Intelligentsia Coffee
同社は自社のwebサイトから、消費者への直接販売を実施している。また、Whole Foods MarketやPete’s Fresh Marketなどの高級スーパーで小売り用の商品を販売している。さらに、レストランを顧客とする流通チャネルを持ち、全米のコーヒーショップチェーンや個人店への販売をおこなう複雑な卸売事業も展開している。
同社は、B2BとB2Cのコマース体験を統合したことで、以下のような成果を上げている。
・複数のカタログを管理する時間を節約
・フロントエンドとバックエンドの重複作業を削減
・モバイル向けに最適化されたエクスペリエンスの提供
同社では、B2BとB2Cの双方の顧客が同じ画面から注文、設定、カートへの商品追加をシームレスに実行できるwebサイトの構築に注力した。特に重要だったのは、ターゲットオーディエンスの要望、すなわち、スマートフォンから注文してくるコーヒーショップやレストランの多忙なオーナーの期待に応えることであった。
同社は、アドビのグローバルエリートソリューションパートナーであるGorilla Groupと共同で、法人バイヤー向けのオプションとして、速やかな注文と再注文が可能なクイックオーダー機能を導入した。同社はさらに、Subscribe Proを利用して、顧客が定期的な発送を登録できるサブスクリプションオプションも導入した。特別注文の期限日時を設定すると、顧客は季節商品やプロモーション商品を容易に予約注文することができる。
アドビは、同社の複雑な製品カタログを簡略化する課題に取り組んだ。同社のハウスブレンドだけをとっても、数種類のサイズで販売されるために、60種類ほどのバリエーションが生まれる。しかしアドビは、商品オプションを設定可能にすることで、カタログの簡略化を実現した。これにより、同社では、顧客セグメントをまたいで単一のカタログで対応しながら、カスタマイズされた価格設定と商品提供をおこなえるようになった。例えば、同社は購入量にもとづく割引区分を設け、どの顧客層に特定の値引きが適用されるかを細かく制御している。また、再販売免税証明書を持つ卸売顧客の購入に税金を上乗せしないという処理にも対応している。
新しいサイトが公開された後、同社の顧客や従業員から賞賛の声が上がっている。新しい季節商品の追加やランディングページの作成といったコンテンツ管理タスクの成果も、近く公開されるだろう。さらに、顧客にアカウントや自動送信メールを介して追跡情報を提供する機能により、電話での問い合わせが減少し、より良いサポートを提供したり、コーヒーのおすすめを充実させたりすることに時間を使えるようになった。
全体的に、このサイトに対する利用者の声は良好だ。消費者と法人顧客の双方に優れたコマース体験を提供しており、同社の卸売販売の90%はAdobe Commerce Cloudで管理されている。
Adobe Commerce CloudによってIntelligentsia Coffeeが達成した成果
・タブレットだけで、トラフィックが16%増大
・取引が40%増加
・コンバージョンが20%向上
・モバイルセッションが41%増加
・モバイル全体のコンバージョンが34%向上
あらゆる面で顧客を満足させる
企業が価格や商品だけで競争する時代は終わりを迎えた。その代わりに、使いやすくてパーソナライズされたエクスペリエンスを提供することで差別化を図り、顧客のロイヤルティと持続的な成長を獲得している。エクスペリエンスで競争するということは、第一印象から購入やフルフィルメント、その後も続くサポートやエンゲージメントに至るまで、あらゆる顧客接点やカスタマージャーニーの各段階で魅力的なやりとりを提供することを意味する。情報に長け、トレンドに敏感な企業は、ハイブリッド型コマースを活用してサービス競争を効果的に戦い、効率よく成長しようとしているのだ。
関連資料
B2C専用、B2B専用のコマース基盤では、ビジネス拡大が制約されます。取引形態を問わないコマース基盤とは何か、解説します。
アドビがお手伝いします
企業のデジタル変革は、組織横断の幅広い取り組みとなります。これには、新たな経営戦略、組織編成と人材育成、ビジネスプロセスの刷新、そして「顧客体験のための企業システム基盤」の構築などが含まれます。
アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築、あらゆる場面を販売機会に変えるコマース基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。