開発プロセスだけにとどまらず、ビジネスのあらゆる側面でアジャイル手法を採用する企業が増えています。一連の工程を短期間で繰り返す「イテレーション」という仕組みにより、業種を問わず、プロジェクト管理プロセスをより効率的かつ効果的に進めることができます。
レトロスペクティブはアジャイル導入初期に見落とされがちなプロセスのひとつです。しかし、コミュニケーションを促進し、業務効率を向上するうえで、重要な役割を果たします。実際、レトロスペクティブを実施しているチームは、レトロスペクティブを実施していないアジャイルチームに比べて、応答性が24%、品質が42%向上しています。
この記事では、アジャイルレトロスペクティブとは何か、これらのミーティングが既存のプロセスにどのように役立つか、そしてレトロスペクティブを成功させる方法について説明します。
この記事の内容:
アジャイルレトロスペクティブとは?
アジャイルレトロスペクティブとは、通常スプリントなどの反復作業の終了時に実施されるミーティングです。 これは、チームメンバーがプロジェクトの次のフェーズの計画を立てる際に、成果や改善点を話し合う場です。 チームメンバーが、プロセス、手順、タスクを振り返り、自身の考えを率直に表明できるようにすることで、コラボレーションを促進し、チーム全体で継続的な改善をおこない、より優れた成果を実現できます。
レトロスペクティブは、スクラムフレームワークの一部であり、通常はプロセスの4工程目にあたる最終ミーティングとして実施されます。スクラムは、率直な議論を促進するように設計された一連のミーティングを通じて、チーム内およびチーム間のコラボレーションとコミュニケーションを促進します。 チームのパフォーマンスを最適化するために、成功と障害の両方に焦点を当てます。
アジャイルレトロスペクティブミーティングでは、反復またはスプリント中に完了したタスクに焦点を当てる必要があります。 その目的は、改善点を特定し、次のフェーズに向けて調整するとともに、効果的なアプローチをチーム全員で推進することにあります。スクラムフレームワークの一連のミーティングを通じて、チーム間の連携を強化し、関係者全員で知識を共有できるようになります。
カンバン手法を導入している場合も、レトロスペクティブは効果を発揮します。通常、レトロスペクティブはカンバン手法の一部ではありませんが、ワークフローに組み込むことで、チームメンバーがプロジェクトの進捗に合わせて、より効果的な手法を見出すのに役立ちます。
アジャイルレトロスペクティブと通常のミーティングの違いは?
アジャイルレトロスペクティブが、レビューや事後検討などの他のミーティングと異なる点は、反復的な開発やプロジェクトのプロセスにおける位置付けです。レトロスペクティブは、大規模なプロジェクトの一部であるスプリントや反復の最後に実施されます。
その目的は、より大きな取り組みが進行中の段階で、ワークフローやアプローチを洗練する ことです。 これによって、チームは作業をすべて終えた後ではなく、進行中に対応し効率を高められます。
アジャイルレトロスペクティブとスプリントレトロスペクティブの違い
アジャイルレトロスペクティブとスプリントレトロスペクティブは、一見同じようですが、それぞれ異なる段階とプロセスを指します。
スプリントレトロスペクティブは、スクラムスプリントの終了時に実施されるアジャイルレトロスペクティブの一種で、チームのプロセス改善に焦点を当てたものです。
アジャイルレトロスペクティブは、スクラムやスプリントに限定されない、アジャイルにおけるあらゆるレトロスペクティブミーティングの総称です。
アジャイルレトロスペクティブの重要性
ミーティングを増やすことを躊躇する人もいるかもしれませんが、アジャイルレトロスペクティブは多くのメリットをもたらします。まず、他のプロジェクト管理手法では実現できない、アイデアを立案および共有するための機会を提供します。
レトロスペクティブは、個人が意見を述べ、フィードバックをオーディエンスと広く共有することを促します。 これにより、ワークフローに影響を与えるプロセスを改善し、管理者が設定した目標を達成する力が高まります。
タスクの内容や優先順位は上層部が決めることもありますが、アジャイルレトロスペクティブでは、関係者が自由に意見を出せる場があり、リーダーはその声をもとに実際の改善につなげます。これによって、リクエストを受けて作業する人たちの効率はさらに高まります。
チーム全体のコミュニケーションを促進することで、日々の業務に直接関与していなかったために、関係者が気がつかなかった他の分野で、業務効率の向上を可能にすることもあります。
アジャイル手法では、一定の期間内に一連のタスクを繰り返しおこなうため、プロジェクトの進行中に課題が発生した場合でも、柔軟に対応できます。各イテレーションの完了後にアジャイルレトロスペクティブを実施することで、チームリーダーはプロジェクトが完了する前に課題を特定し、変更を反映できるようになります。
アジャイルレトロスペクティブのその他のメリット
- 各タスクで問題が発生した場合のアラート管理
- アイデアを共有する機会の提供
- フィードバックを通じたリーダーシップの強化
- 共通の目標に向けたチームワークの推進
- プロセスよりも人を重視
- フィードバックをもとにワークフローの次のステップを最適化
- ミーティングにおける上下関係を排除し、チーム全員の貢献を促進
アジャイルレトロスペクティブを導入すれば、開発プロセスやワークフローの柔軟性を向上し、より質の高い成果物を生み出すことができます。アジャイルレトロスペクティブでは、チームリーダーは、深刻化する前に課題や懸念事項を把握し、的確な指示や建設的なフィードバックを提供することで、プロジェクトを予定通りに進めることができます。
アジャイルレトロスペクティブの導入方法
まず、プロジェクトの性質と、開発サイクルや生産サイクルの工程数を考慮する必要があります。タスクの一般的な反復期間をもとに、レトロスペクティブを開催する時期と頻度を決定します。定期的に開催する場合もあれば(2から4週間ごと)、特定のキャンペーンやロールアウト後に、必要に応じて開催することもできます。
開催頻度を決定したら、プロジェクトの関係者全員に対してレトロスペクティブへの参加を呼びかけ、一人ひとりの意見やフィードバックを収集できるようにします。参加者には、チームリーダー(スクラムマスター、プロダクトオーナーなど)、各チームメンバー、チームに有益なインサイトをもたらす可能性があるその他の関係者が含まれます。
スクラムフレームワークの構造を参考にすると、レトロスペクティブを導入しやすくなるでしょう。レトロスペクティブの目的は、タスクの成果と改善点を特定し、チームやプロセスをまたいで最適化できる領域を見つけ出すことです。
まず、反復の成果に焦点を当てることで、ポジティブな雰囲気を創り出すことができます。それを足掛かりに、改善点や、タスクに取り組んでいる際に直面した課題についてフィードバックを求めます。チームリーダーは、一定の期間内のタスク(通常は直近の反復やスプリント)に焦点を絞り、議論がそこから逸脱しないようにする必要があります。
アジャイルレトロスペクティブのステージ
- 準備 まず、ミーティングの議題と目的を参加者全員に明確に伝える必要があります。誰もが自身の考えを共有し、誤りを指摘する場合でも、敬意をもって発言するよう促しましょう。特定のテーマを扱う場合は、ここでそれを表明します(以下参照)。
- データの収集 反復の主要なタスクや目標を説明し、チームメンバー全員に各自の成果や意見を共有してもらいます。これにより、インサイトを収集するための準備が整います。
- インサイトの獲得 参加者が各自の考えを共有できるようにすることで、フィードバックを収集します。議事録を取るだけでなく、ホワイトボードなどを活用することで、チーム全員でアイデアを共有できます。類似のアイデアをまとめることで、特に注意が必要な領域やテーマを特定できます
- 今後の施策の決定 次の反復で成果を向上するために、プロセスを調整するための実践的な手順を定義します。可能な限りチーム全員で意思決定を下すことが重要です。リーダーは、より広範な方向性の課題について関係者と話し合う必要があります。次のイテレーションに向けて既存のプロセスを改善するための実践的な施策を見出すことが、レトロスペクティブの目的であることを念頭に置きましょう。
- まとめ ミーティングのまとめをおこない、次のステップを説明しましょう。参加者全員に感謝の意を表し、引き続きプロジェクトへの貢献を促しましょう
レトロスペクティブは、単に事実確認をおこなう場ではなく、各チームメンバーの意見を共有し、クリエイティブな解決策を導き出すための 共同作業 です。
ミーティングを通じて、現在直面している課題と、それらの課題を解決するための必要な施策について、参加者全員からアイデアを引き出すことが重要です。類似のアイデアを分類し、平行して取り組めるトレンドやテーマを探りましょう。
レトロスペクティブの種類
あらゆるアジャイルレトロスペクティブは、各チームメンバーからフィードバックを収集する絶好の機会となります。チーム管理やワークフローでは、さまざまな手法でレトロスペクティブを実行できます。
チームリーダーは、チームの個性やニーズにもとづいて、最適な手法を導入したり、既存のレトロスペクティブ手順を調整したりできます。
- 4 L ミーティングを 「良かったこと(Liked)」、「学んだこと(Learned)」、「不足していたこと(Lacked)」、「望んだこと(Longed)」 の4つに分割し、成功と失敗を同等に検証することで、イテレーションの成果について客観的な議論を促進できます。
- 帆船 プロジェクトを帆船に例えて検証します。リスク(岩礁)、良かった点(追い風)、遅延や停滞(アンカー)、目標(目的地)を視覚的に定義することで、深刻度にかかわらず、プロジェクト進行の妨げとなっているあらゆる課題をすばやく把握できます。
- ドット投票 チームメンバーに、関心のあるトピックの横に点を記入してもらい、投票数の多いトピックをミーティングの議題として取り上げます。この手法は、数多くのトピックがあり、優先順位付けする必要がある場合に最適です。
- スタート/ストップ/コンティニュー タスクを「スタート」(開始すべき施策)、「ストップ」(やめるべき施策)、「コンティニュー」(継続すべき施策)という3つのカテゴリに分類することで、目標を明確にし、反復で完了しなかったタスクについて、不足しているリソースを特定できます。
- 質問カード どのようなトピックから話し合うべきかわからない場合、質問カードが役立ちます。チームリーダーは事前に質問項目を作成し、肯定的なフィードバックと否定的なフィードバックに注意しながら、それらの質問を活用して議論を促進する必要があります。
- アフィニティマッピング アフィニティマッピングとは、さまざまなトピックに関する情報を収集および分類し、重要度にもとづいてタスクを優先順位付けするプロセスです。複雑で大きな課題を抱えている場合、アフィニティマップにより、課題を管理可能なタスクに分割し、各タスクについてアクションプランを策定できます。
これらすべての手法に共通している点は、チームメンバー全員がミーティングに積極的に参加できるように、創造的かつ魅力的な環境を構築しようと努めることです。プロジェクトマネージャーやスクラムマスターなどの多くのリーダーは、アジャイルレトロスペクティブの導入を阻む最も大きな課題のひとつとして、チームメンバーの参加を挙げています。
一部の参加者は、自身の意見が尊重されていないと感じたり、成果を上げていないプロセスについて率直に話すと、後で悪影響が出る可能性があると危惧したりするかもしれません。ファシリテーターは、誰もが安心して意見を共有できる機会を提供し、あらゆる提案やアイデアをしっかりと検証してフォローする必要があります。
レトロスペクティブの課題
1. エンゲージメントの低さ
チームがレトロスペクティブに関心を示さず、提案や発言をほとんどおこなわずに静観していることがよくあります。ミーティングへの積極的な貢献を促す ためには、さまざまな学習スタイルを考慮する必要があります。ビジュアルや体を使ったアクティビティは、固定化したパターンを壊し、新しい発想を生みやすくしてくれます。
2. 信頼の欠如
誰もが表面的な会話のみをおこない、否定的な意見を回避しようとするのは、自然なことです。ファシリテーターは、誰もが自身の考えを率直に共有できる機会を提供する必要があります。問題が発生したときにこそ、チームメンバーにインセンティブを与えることで、問題を早期に特定して解決するよう促しましょう。各メンバーに対して個別にアプローチすると、内密なフィードバックが得られて、より深刻な問題を見つけられる可能性があります。
3. 不十分な対応
チームメンバーがミーティングに参加する意義を見出せない場合、エンゲージメントの低下や信頼の欠如につながります。そして、最終的には誰も発言しなくなります。こうした事態を回避するには、問題やアイデアをしっかりと検証し、対処することが重要です。次のスプリントで必要な調整をおこなうか、実行可能な目標を設定し、進捗状況を全員に報告しましょう。
成功のためのヒント
1. チームメンバーに準備を求める
ミーティングに参加する前に、どの程度の準備が必要で、どのように準備すればよいかを明確にします。例えば、参加者に自身の考えを共有ドキュメントに記入するように依頼します。1行から2行程度または1段落のテキスト、例の提示など、具体的な形式を指定しましょう。意見を共有するための代替オプションを用意することで、ミーティングで発言することが苦手なメンバーからも意見を聞き出しやすくなります。
2. タスクに焦点を当て、時間を有効活用
レトロスペクティブミーティングは、問題を深く掘り下げる絶好の機会ですが、一部のメンバーやひとつの問題がミーティングを独占し、他のメンバーが蚊帳の外に置かれてしまうというリスクあります。アジェンダと時間配分を明確にし、ミーティングをスケジュール通りに進めることが重要です。
3. 新しい手法を試行錯誤
従来のアプローチでは、成功点、失敗点、次回の施策を話し合いますが、これらの質問に詳細かつ有益な方法で回答することは、容易なことではありません。新しいアクティビティや手法を積極的に導入し、より具体的で焦点を絞った議論を促進しましょう。いくつかの例を示します。
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PMI法 チームメンバーは、良い点(PLUS)、悪い点(MINUS)、気になる点(INTEREST)にもとづいてイベントを分類します。
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シックスハット法 この手法では、時間をかけて前回のタスクを詳細に検証します。次の6つの観点からタスクを振り返ります。
- 管理
- 客観
- 良い点
- 悪い点
- ブレーンストーミング
- 感情
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3 L 上記の4 Lと同様、このアクティビティでは、全員が「良かったこと」「学んだこと」「不足していたこと」を書き留めます。 デジタルホワイトボードなどのツールを使用して回答を分類し、共有します。
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アフィニティマッピング アフィニティマッピングとは、さまざまなトピックに関する情報を収集および分類し、重要度にもとづいてタスクを優先順位付けするプロセスです。複雑で大きな課題を抱えている場合、アフィニティマップにより、課題を管理可能なタスクに分割し、各タスクについてアクションプランを策定できます。
アジャイル手法を始めるには。
レトロスペクティブでは、チームが建設的な方法で成果と課題を振り返ることができるため、スクラム方式やアジャイル方式のプロジェクト管理プロセスに不可欠な要素です。
チームリーダーは、フィードバックを収集し、リアルタイムで変更を適用することで、次の反復の成果を最適化し、プロジェクト全体のパフォーマンスを向上させることができます。一連のミーティングを通じて、チームメンバーの生産的かつポジティブなコラボレーションを促進し、フィードバックをもとに関係者がプロセスを詳細に検証できるようになります。
アジャイル手法なら、顧客とマーケットのニーズに合わせて、より優れた製品を提供することができます。
アジャイル手法では、タスクを小さいイテレーションに細分化し、明確に定義された指標にもとづいて、一定の期間内で各イテレーションに取り組むため、より迅速かつ効率的なプロジェクト管理が可能になります。これにより、質の高いコンテンツ、製品、サービスを反復的に生産し、より迅速かつ効率的にマーケットに投入できるようになります。
アジャイルレトロスペクティブは、プロジェクト管理を成功に導くための要素のひとつにすぎません。チームリーダーは、アジャイルレトロスペクティブをスムーズに導入するために、最適なツールを活用できます。そこで、Adobe Workfront が役立ちます。
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