在庫管理:プロセスと手法
在庫管理は、バランスが重要となります。顧客に商品を提供し、売上につなげるためには、適切な在庫量を確保する必要があります。在庫が多すぎると、キャッシュフローの問題、材料の無駄、リスクの増大、課税につながる可能性があるからです。在庫管理者は、在庫不足や過剰在庫を避けるために、適切な戦略を策定する必要があります。
本記事では、在庫管理のプロセスと改善方法を解説します。
在庫管理の重要性
在庫管理とは、材料や商品の発注、保管、追跡、販売の需要を把握し、処理する仕組みです。 その目的は、過剰在庫を抱えることなく、顧客にを提供するのに十分な商品を確保することにあります。
在庫管理が不適切な場合、すぐに混乱につながります。例えば、Walmartは2022年、新しい自動再発注システムを導入しました。しかし、在庫があるにもかかわらず商品を発注し続けたことで、店舗の通路に放置しなければならないほど大量の過剰在庫が発生しました。サプライチェーンの混乱に伴う在庫不足を解消するために、同社は在庫量を32%増加させました。しかし、インフレが加速したことで、人々の購買力が低下しているという事実を見落としていました。同社が適切な在庫レベルを維持していれば、この事態を回避できたはずです。
優れた在庫管理システムは、次のようなメリットをもたらします。
- 追跡効率の向上:商品を仕入れてから顧客が購入するまでの流れを監視することで、正確な在庫量を把握できます
- 発注時間の短縮:正確な在庫レベルを維持することで、サプライチェーンの混乱、商品や顧客体験の質の低下を回避しながら、需要の変化に対応できます
- ビジネス上の意思決定の改善:質の高い在庫データを利用することで、数量、価格設定、再発注に関して適切な意思決定をおこない、コストを削減し、売上を増加させることができます
在庫管理プロセス
在庫管理プロセスとは、商品を注文して在庫状況を更新し、商品を補充するまでの一連の流れを指します。各ステップでは、重要な意思決定をおこなう必要があります。
1. 注文
適切な商品をタイミングよく注文するには、業界に関する多くのデータとインサイトが必要です。特に、次の項目を把握する必要があります。
- 商品の需要:マーケティングと売上に関する予測をおこない、商品の需要を正確に判断します。その際、季節の変化と大規模な経済的要因を考慮しましょう
- 在庫コスト:在庫をどのくらい確保できるかを判断するには、各商品の発注、保管、配送にかかる費用を調査します
新商品を発注する場合は、少量から始めることが重要です。セールスサイクルを経て再発注する時期が来ると、それまで収集したデータをもとに、商品の需要と運用コストのバランスを取る方法を見出しやすくなります。
2.保管
在庫の保管は、単に商品を棚に並べることではありません。商品を整理するには、効率的な収納システムが必要です。
まず、発注内容と配送スケジュールが正確であることを確認し、適切に保管できるように仕分けするためのワークフローを確立します。在庫のカタログを作成し、商品が棚に収納された時点でシステム上のデータが更新されるようにします。
SKU(在庫保管単位)とUPC(ユニバーサルプロダクトコード)を使用して、包括的な追跡システムを構築します。サプライヤーはUPC、ベンダーは英数字で構成されるSKUをそれぞれ作成し、各商品とその保管場所を特定します。
最後に、保管施設内に在庫エリアを整備し、商品を仕分けて追跡用のラベルを添付し、棚に並べます。商品の保管場所を時計回りに整理すると、効率的に管理できます。各ゾーンにアルファベットを振り分けて、ゾーン内の各棚に番号を付けます。
3.販売
顧客が商品を注文した際、その商品の在庫があることを確認します。優れた在庫ソフトウェアを利用すれば、在庫量を最新の状態に保ち、在庫状況を自動的に確認できます。商品を準備する際、各ステップで商品のSKUを追跡する必要があります。
- ピッキング:SKUを利用すれば、商品を容易に見つけることができます。1回のピッキングで複数の商品をまとめて取得できるように、在庫を整理しましょう。ベストプラクティスは、入庫日の古い商品からピッキングすることです。これにより、商品にほこりがたまらなくなり、損傷や腐敗のリスクが生じることもありません
- 梱包:商品を梱包し、出荷できるようにします。十分な作業スペース、論理的で一貫したワークフロー、商品を保護するためのしっかりとした梱包システムが必要です
- 配送:顧客に商品を届けます。配送の進捗状況を追跡し、商品の出荷と到着を顧客に通知します
4.報告と監査
正確な在庫記録を維持することは、サプライチェーンを成功に導く鍵となります。これは、適切な在庫量の確保、損失の特定、キャッシュフロー全体の改善に役立ちます。商品が倉庫に到着した時点から、保管、出荷、処理、配送、購入に至るまで、商品がセールスプロセスのどの段階にあるのかを記録しましょう。
監査とは、実際の在庫量が記録データと一致することを確認するために、在庫を物理的に数えるプロセスです。在庫を監査する頻度は、在庫量、従業員数、実店舗の規模によって異なります。手作業で数えることもできますが、バーコードスキャナーなどを使用して自動化することで、時間を節約し、精度を向上させることができます。
5.再発注
発注サイクルが進むほど、意思決定の指針となる情報量が増加します。次の3つの指標は、再発注の適切なタイミングを判断するのに役立ちます。
- 在庫レベル:在庫量の変化を表します。このデータをもとに、再発注すべきタイミングを把握できます
- 回転率:一定期間に商品がどれくらい販売されたのかを示す指標です。商品の仕入れから販売までの速さを表します
- サイクルタイム:商品を仕入れてからフルフィルメントに至るまでの時間を表します
また、自社のニーズに応じて、次の再発注プロセスをすべて、またはいずれかひとつを導入しましょう。
- 再発注点:トリガーとして機能する制限を設定します。必要な在庫レベルの最小値と最大値を決定します。在庫が最小値に達すると、それが再発注点となり、最大値まで補充されます。最小値と最大値の両方を設定することで、在庫不足と過剰在庫を回避できます
- 定期補充:設定した時間に在庫を再発注します。例えば、在庫レベルを毎月確認し、在庫が少ない場合は再発注できます。次回の再発注までに在庫がなくなった場合でも、再発注スケジュールを遵守しましょう。この手法は、大規模な倉庫の管理に適しています
- トップオフ補充:特定の商品の需要が通常よりも低い場合は、その機会を利用して在庫レベルを見直し、在庫を最大レベルに戻します。この手法は、回転率の高い商品に最適です
在庫管理の手法
在庫管理は複雑なプロセスです。ここでは、可能な限り簡潔かつ正確な在庫管理を実現するための、実証済みの手法を紹介します。
JIT(ジャストインタイム)
JITは、在庫を最小限に抑えることを目的としたプル型の在庫管理手法です。必要な在庫量のみを確保することで、顧客のニーズに対応しながら在庫を最小化できます。
JITを導入するメリットとして、不要な在庫の回避、需要への迅速な対応、商品の移動の効率化が挙げられます。ただし、この手法を実践するには、サプライヤーとの良好な関係と正確なデータが不可欠です。
JITによる適切な在庫管理を実現するには、次のことをおこなう必要があります。
1.オーディエンスと需要パターンの把握:JITでは、顧客のニーズを詳細に把握することが不可欠となります。在庫データと販売データを常に確認しましょう
2.サプライヤーとの柔軟な連携:JITでは、少量の在庫を厳しい時間枠で納品する必要があります
3.在庫レベルと需要予測の関連付け:在庫レベルと需要予測のデータをもとに、補充量を調整しましょう
4. AI(人工知能)を搭載したソフトウェアの利用:需要が急増した場合、それに対応できるだけの十分な在庫が残っていない可能性があります。AIを搭載したソフトウェアを利用すれば、在庫の需要をより正確に予測できます
EOQ(経済的発注量)
EOQは、商品を発注するときに利用できるもうひとつの手法です。一定期間内の需要を満たすために必要な在庫量を計算することで、過剰在庫のリスクを軽減します。次のEOQ式を使用して、最適な在庫量を特定できます。
例えば、アパレル小売企業が、次のデータを用いて手袋のEOQを計算するとします。
- 年間必要量(D)=手袋2,000組
- 1回あたりの発注費用(S)=1組当たり2ドル
- 年間在庫保管費用(H)=1組当たり2ドル
EOQ式は次のようになります。
この計算は、一度に64組の手袋を発注することで、在庫のトラブルを回避しながら需要に対応できることを示しています。64組は、予測される年間需要の2,000組をはるかに下回っているため、需要を満たすには、年間31回発注する必要があります。
EOQにより、発注と保管のコストを最小限に抑えることができます。ただし、EOQ式は、需要とコストが一定であり、季節限定の商品、売上、インフレーションを考慮していないことを前提としています。
循環棚卸
年に1回、すべての在庫を数えることで、在庫を正確に把握できます。しかし、そのためには多くの労力が必要となり、その他の期間は在庫を把握しないことになります。循環棚卸では、通常のワークフローを中断することなく、在庫を場所や種類ごとに細分化し、複数回に分けて在庫量を確認します。これにより、最新の在庫量を把握し、高リスクまたは高価値の商品を追跡できます。
循環棚卸には、3つの基本的な手順があります。
1.対象商品の決定:自社にとって最も重要な要素に応じて、戦略を決定します
- 消費量:移動が速い商品の在庫数を調べます
- 場所:一度にひとつの倉庫、実店舗、部門に焦点を当てます
- 機会:一定数の売上を登録するたびに、または季節の在庫を変更するたびに調査します
- コントロールグループ:ひとつの商品グループを選択し、短期間で調査を数回おこなます。この方法では、改善すべき慣行を明らかにし、他の商品グループで是正できます
- ランダムサンプル:在庫バッチをランダムに選定し、調査します。これにより、従業員による盗難やその他の不審な棚卸差異を特定できます
2.頻度の決定:棚卸を実施する時期と頻度は、人員と勤務スケジュールによって異なります。例えば、開店前の毎朝、閉店後の毎晩、または週に1回実施します。少なくとも年1回、在庫量の合計を確認できるように頻度を調整しましょう
3.プロセスのドキュメンテーション:従業員が何をどのように実施する必要があるのかを、容易に把握できるようにします
ABC分析
ABC(Always Better Control)分析は、在庫の保管段階に役立ちます。この手法では、在庫を3つのグループに分類します。
- 重要度が「高」の商品(高価値かつ少量)
- 重要度が「中」の商品(中程度の価値および数量)
- 重要度が「低」の商品(低価値かつ大量)
ABC分析では、パレートの原理(80:20の法則)を利用します。価値の80%は、在庫のわずか20%(グループA)によってもたらされることを前提としています。グループCがもたらす価値はごくわずかなため、グループCは重視されません。
ABC分析を実施するには、次の手順に従います。
1.商品データの収集:売上履歴と売上予測は、ABC分析の重要なデータポイントです
2.在庫の分類:総売上、粗利益、保管コストなどの指標をもとに、商品の価値を判断します。その価値に応じて、グループA、B、Cに分類します
3.在庫ルールの定義:グループAの商品は、一定の在庫レベルを維持する必要があります。一方、グループCが特定の在庫レベルを下回ったとしても、ビジネスに大きな影響を与えることはないでしょう。それらを踏まえたうえで、各グループの最小値を決定します
4.監視および再評価:商品を適切に分類するために、データを追跡し、必要に応じて調整します
FIFO(先入れ先出し)
名前のとおり、FIFOは、最も古い在庫を最初に販売する手法です。これにより、商品の陳腐化、腐敗、販売期限切れ、倉庫での損傷を回避できます。
FIFOの欠点は、古い商品を販売する際に、商品や原材料のコストの上昇を考慮していないことです。例えば、100個の商品を1個100ドルで仕入れ、1個200ドルで販売した場合、商品1個当たりの利益率は100ドルになります。在庫が残り3個になったときに在庫を補充する際、価格が1個125ドルに値上げされていた場合、100ドルで仕入れた3個の商品は、実際よりも低い利益率が反映されることになります。
在庫管理システムをさらに活用
優れた在庫管理システムは、多くのメリットをもたらします。顧客の需要を満たす十分な在庫の確保、コストの適切な管理、ビジネス上の的確な意思決定を実現するための、必要なデータを提供します。
在庫管理を強化するには、既存のプロセスの改善点を把握することから始めましょう。まず、発注の意思決定プロセスを見直しましょう。
続いて、複雑な在庫管理プロセスに対応し、必要なデータを管理できるソフトウェアを導入していることを確認しましょう。Adobe Commerceなら、B2BとB2Cを問わず、あらゆる企業はAIと高度なデータ能力を利用して、より効率的に在庫を管理できます。リアルタイムの在庫データとソーシングアルゴリズムを利用して、フルフィルメントを強化するなど、広範な能力を備えています。
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