RACIチャートとは?
RACIチャートとは、各プロジェクトのすべてのタスク、マイルストーン、成果物に対する、プロジェクトチームの役割と責任を識別する方法の1つです。
プロジェクトマネージャーは、複数の部署にまたがって、複数のチームメンバーを管理する傾向があります。そのため、ある部署のチームメンバーと別の部署のチームメンバーそれぞれに対して、責任範囲を明確にするのは難しい場合があります。RACIチャートは、多角的な視点から、共同作業を伴う複雑な取り組みを管理するのに役立ちます。
RACIは、「Responsible(実行責任者)」、「Accountable(説明責任者)」、「Consulted(相談先)」、「Informed(報告先)」の役割を誰が担うのか、各タスクに携わるチームメンバーに割り当てられた役割を頭文字で示しています。

- 実行責任者:実行責任者は、特定のタスクの完了に積極的に関与します。タスクごとに責任者を少なくとも1名選任する必要があります。プロジェクトの範囲によっては、複数人で1つのタスクを実行する場合もあります。ただし、実行責任者の人数は必要最小限に抑える必要があります。
- 説明責任者:説明責任者は、完了したタスクを承認する責任を負います。多くの場合、説明責任者を1名選任することが推奨されます。通常、プロジェクトマネージャーが説明責任者を務めますが、プロジェクトマネージャーが他のメンバーを説明責任者に指名することもあります。
- 相談先:専門知識の提供、情報の検証、成果物のレビュー、成果物がプロジェクト全体の大規模な範囲にどのように適合しているかの確認など、様々な方法でプロジェクトに貢献できます。相談先の人数には、下限と上限はありません。
- 報告先:報告先とは、特定のタスクの進捗状況や完了報告を受ける人のことです。報告を受ける必要がある理由は、多岐にわたります。同時進行中または次のステップで予定されている、その他のタスクとの関連性について報告を受けることが多いです。
この記事の内容:
RACIチャートの作成方法
次のプロジェクトに向けてRACIチャートを作成し、役割をわかりやすく明確に示すことで、プロジェクトの完了に向けたプロセスを合理化できます。RACIチャートは通常、スプレッドシート形式で作成します。プロジェクトに関連するすべてのタスクをリストアップし、各タスクに関与する各メンバーのRACIの役割を指定します。このプロセスは、次の手順に従って進めます。
1. 全体的なプロジェクトの目標と優先順位を決定
最初のステップは、プロジェクトの範囲を特定することです。プロジェクトの主要な目標や成果物のリストを作成し、プロジェクトを完了するための主要なステップを優先順位付けします。
例えば、パンフレットをデザインする場合、最終製品を成果物として指定します。また、顧客とのミーティングを通じたコンテンツに対する期待値の決定、調査の実施、内部コピーの作成、カスタムグラフィックの作成など、サブタスクを特定します。
2. 大きな目標を小さな目的とタスクに分割
プロジェクトの全体的な概要を決定したら、作業分割構造を使用して、各目標を個々のタスクに分割します。先ほどのパンフレットの例では、コピーライティングという目標を、アウトライン作成、執筆、編集、フォーマット設定という4つのタスクに分割できます。
3. すべてのタスクを時系列順にリストアップ
RACIチャートを作成するために、スプレッドシートに情報を入力します。スプレッドシートの最初の列に、完了する必要のあるタスクを順番にリストアップします。特定の順序で完了する必要がないタスクもあるため、最も可能性の高い順序でリストアップします。
タスクを時系列でリストアップすると、役割と責任を可視化しやすくなり、各段階で誰に報告すべきか判断しやすくなります。
4. プロジェクトに関与するすべての関係者を決定
プロセスのすべてのステップを確認し、各ステップに関与する関係者全員のリストを作成します。プロジェクトの範囲に応じて、個人ごとにリストを作成することも、部門やチームごとに役割をリストアップすることもできます。
スプレッドシートでは、これらの個人またはチームを、タスク列の右側にある各列のヘッダーに入力します。最も関与度の高いメンバーを先頭に記載することで、チームメンバーは各タスクにおける自身の役割を容易に把握できるようになります。
5. 各タスクにRACIの役割を割り当てる
最後のステップは、RACIの役割を割り当てることです。各セルに「R」、「A」、「C」、「I」のいずれかを入力して、各タスクにおける特定の役割を誰が担うのかを示します。
例えば、特定の行に「カスタムグラフィックの作成」というタスクが記載されている場合、各個人またはチームの下に該当する頭文字を次のように入力します。
- 「グラフィックアーティスト」列のセルに「R」と入力
- 「プロジェクトマネージャー」列のセルに「A」と入力
- 「顧客連絡担当者」列のセルと「ドキュメントフォーマット設定」の役割に「C」と入力
- プロジェクトの次のステップに関与する各役割に「I」と入力。このタスクに関与しないメンバーのスプレッドシートのセルは、空白のままにします
6. 割り当てられた役割をすべての関係者と確認
最後に、プロジェクトチーム全体と協議し、各メンバーが自身の役割を理解しており、役割の割り当てに誤りがないかどうか確認することをお勧めします。また、各タスクに「R」と「A」が1つ以上、必要に応じて適切な数の「C」と「I」が含まれていることも確認する必要があります。
RACIチャートを使用するタイミング
RACIチャートは、次のような場面で役立ちます。
- プロジェクトの開始: 最初に役割と責任を定義することで、明確な期待値とコミュニケーションチャネルを設定し、問題を回避して、コラボレーションを促進できます
- 多くのチームメンバーが関与する複雑なプロジェクト: 特定の職務やコミュニケーション経路を概説することで複雑さを解消し、混乱を減らしてチームの連携を促進します
- 組織改編: 組織再編や人事異動の際に安定性と明確性を提供し、新しいチームメンバーがプロジェクト目標の達成に向けて、スムーズに作業を進められるようにします
- アジャイルへの移行: アジャイル移行中の役割やプロセスを明確にし、スクラムの役割に関する責任を定義するとともに、アジャイルイベントへの参加の概要を提示します
- プロジェクトのレビュー: 説明責任を維持し、ボトルネックや逸脱を特定して、役割の再割り当てを可能にします
- 多くの人が関与するプロジェクト: 多くの人がプロジェクトに関与する場合に、明確性と構造を提供します
RACIチャートの使用に関するベストプラクティス
RACIチャートの効果を最大限に高めるために、次のベストプラクティスを考慮してください。
- 簡潔にする: 過剰な複雑さを避け、重要なタスクや責任に焦点を当てましょう。簡潔でわかりやすいチャートを作成することで、チームメンバーによるチャートの活用や参照を促すことができます
- チームに協力を求める: RACIチャートを作成およびレビューする際に、チームメンバーに参加してもらい、チームの賛同や正確性を確保します。共同作業は、オーナーシップや共通理解を促進します
- 定期的なレビューと更新: プロジェクトの進展に合わせて、範囲や責任の変更を反映するためにRACIチャートを見直し、更新します。動的なRACIチャートは、プロジェクトのライフサイクル全体を通して、その関連性や価値を維持するのに役立ちます
- 変更の文書化: RACIチャートへの変更は、すべて記録します(変更日、変更理由、担当者も含めます)。変更を文書化することで、チャートの変化を明確に記録し、透明性を維持できます
- 一貫性の確保: 混乱を避けるために、プロジェクトやチーム全体でRACIチャートを一貫性のある方法で使用します。RACIチャートの作成や実装において、標準化されたアプローチを採用することで、明確性や理解を促進できます
- 他のツールとの統合: RACIチャートと、ガントチャートや作業分割構造などの他のプロジェクト管理ツールを組み合わせることで、包括的なプロジェクトビューを構築できます。この統合により、プロジェクトを包括的に捉え、計画や実行を強化できます
- 職務とタスクの役割を明確にする: 職務とタスクの役割の違いを理解しましょう。RACIチャートは、タスクの役割に焦点を当て、プロジェクトのコンテキスト内での責任を定義します
- 「実行責任者」の指導: 実行責任者(R)は、タスクの内容とタイミングを理解し、必要なリソースを確保するとともに、説明責任者に進捗状況を定期的に報告する必要があります。こうしたガイダンスは、効果的なタスクの遂行やコミュニケーションを促進します
RACIチャートの例
RACIチャートは、次のような様々なシナリオに適用できます。
マーケティングキャンペーン: RACIチャートは、コンテンツの制作、ソーシャルメディアプロモーション、キャンペーン分析といったアクティビティにおける、マーケティングマネージャー、コンテンツ制作者、デザイナー、アナリストの責任を明確にします。例えば、マーケティングマネージャーは、キャンペーン全体のパフォーマンスに対して責任を負います。一方、コンテンツ制作者は魅力的なコンテンツの制作、デザイナーは視覚的に魅力的な資料の作成、アナリストは主要な指標の追跡とインサイトの提供に対して、それぞれ責任を負います。
ソフトウェア開発: ソフトウェア開発プロジェクトでは、RACIチャートを使用して、要件の定義、コーディング、テスト、デプロイメントといったタスクにおける、開発者、テスター、プロジェクトマネージャー、関係者の役割を概説できます。例えば、プロジェクトマネージャーは、プロジェクト全体の成果に対して責任を負います。一方、開発者はコードの作成、テスターはバグの特定に対して責任を負います。関係者は、設計に関する重要な意思決定について相談を受け、最新の進捗状況について報告を受けます。
イベントの計画: イベントの計画では、RACIチャートを使用して、会場の選定、ロジスティクス、マーケティング、現場管理における、イベントコーディネーター、ベンダー、スポンサー、ボランティアの役割を定義できます。イベントコーディネーターは、イベント全体の成果に対して責任を負う場合があります。一方、ベンダーは、特定のサービス(ケータリングやエンターテインメントなど)の提供に対して責任を負います。スポンサーは、重要な意思決定について相談を受け、イベントの最新情報について報告を受けます。ボランティアは、イベント中の様々なタスクの補助に対して責任を負います。
RACIチャートのバリエーション
従来のRACIモデルは広く使用されていますが、特定のニーズに対応するいくつかのバリエーションもあります。
- RASCI: このモデルでは、タスクの完了を支援するものの、直接の責任者ではない個人に対して、「支援者」の役割を追加します。この役割により、責任者を支援する関係者の貢献を認めることができます
- CARS: このモデルは、コミュニケーションに焦点を当てており、「伝達者」、「承認者」、「責任者」、「支援者」の役割を割り当てます。明確なコミュニケーションチャネルの重要性を強調し、コミュニケーションプロセスや承認プロセスに関与する担当者に対して、具体的な役割を割り当てます
- DACI: この意思決定モデルでは、「推進者」、「承認者」、「貢献者」、「報告先」の役割を割り当てます。意思決定の推進者、承認者、貢献者、報告を受ける担当者に対して、具体的な役割を割り当てることで、意思決定プロセスを明確にします
コラボレーションを促進し、勢いに乗る
RACIチャートは、あらゆる規模のプロジェクトに活用でき、特に複雑な役割分担や部門横断的なプロセスを伴うプロジェクトに役立ちます。役割を明確かつ視覚的に割り当てることで、チームは混乱やトラブルを回避しながら、勢いよくプロジェクトを進めることができます。
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