STPマーケティングとは?モデルの概要や活用方法を解説
今日の変化が速く、競争の激しいデジタル環境において、企業はより高いコンバージョンを実現するために、効果的なマーケティング戦略と施策を構築する方法を必要としています。
そこで、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)マーケティングの出番です。STPマーケティングでは、企業がコンバージョン率を高めるために、オーディエンスのセグメンテーション、市場のターゲティング、製品やサービスのポジショニングを活用します。このマーケティングモデルを活用していない場合、効果的なマーケティング施策を構築できず、期待するコンバージョンを達成するのが大変難しくなります。
この記事では、STPマーケティングについて、そのモデルの概要や活用方法について解説します。また、いくつかの事例やベストプラクティスを紹介し、独自のSTPマーケティング施策を構築する方法も解説します。
主な内容:
- STPマーケティングとは?
- STPマーケティングの重要性、目的、利点
- STPマーケティングモデルの活用方法
- STEPフォーミュラ
- オーディエンスをセグメント化する方法
- 市場を絞り込む方法
- 製品をポジショニングする方法
- STPマーケティングの例
- 効果的なSTPマーケティング戦略を構築するためのベストプラクティス
STPマーケティングとは?
STPとは、「セグメンテーション(Segmentation)」、「ターゲティング(Targeting)」、「ポジショニング(Positioning)」の頭文字をとったものです。STPマーケティングとは、企業がオーディエンスをセグメンテーションし、適切な購入層をターゲティングし、最大の効果をもたらすように製品をポジショニングするマーケティング手法です。
従来、マーケターは市場やオーディエンスについて把握することなく、製品を売り込むことに主眼を置いていました。しかし、この手法では、期待する成果を達成することが困難でした。より優れた手法を求め、Philip Kotler氏は、1969年にSTPマーケティングモデルを考案し、これが「戦略的マーケティングの真髄になる」と確信しました。
今日、多くのマーケターは、STPマーケティングモデルに従い、自社製品よりも、顧客のニーズに焦点を当てています。これにより、マーケターが顧客体験の課題や顧客の状況をより詳細に把握できるようになり、コンバージョンを向上させることができます。
STPマーケティングの重要性、目的、利点
STPマーケティングの目的は、企業のマーケティング戦略において、顧客を中心に据えることです。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを活用することなく、優れたマーケティング施策を構築し、消費者の関心を惹くことはできません。STPマーケティングに取り組むことで、顧客の悩みを理解し、その期待に応えるための方法が見つかります。
STPマーケティングに取り組むことで、企業には次のような利点があります。
- 高度にパーソナライズされたマーケティング: どのような企業であったとしても、地球上のあらゆる人をターゲットにする余裕はありません。STPマーケティングでは、対象となる人物を絞り込みます。オーディエンスをセグメンテーション(グループ化)することで、それぞれのニーズに合わせてメッセージをカスタマイズできるようになります。これにより、規模の大きい画一的なアプローチでは不可能な、高度にパーソナライズされた施策を展開できます
- マーケティングミックスの合理化: オーディエンスをセグメンテーションすることで、オーディエンスが利用するチャネルに集中することができます。STPマーケティングでは、コンバージョンに至らないチャネルに時間や費用を費やす代わりに、優れた費用対効果を期待できる可能性が最も高いチャネルに重点を置くことで、マーケティング活動を合理化するのに役立ちます
- より効果的な市場調査と製品イノベーション: 顧客層を把握することで、顧客が抱えている課題に特化して設計された製品を開発することができます。STPマーケティングは、フォーカスグループなどの市場調査に適した顧客を特定するのに役立ち、より優れた製品の販売につながります
- 最も価値のある顧客の特定: 誰もが理想的な顧客ではありません。STPマーケティングモデルは、営業部門が、コンバージョンに至らない、あるいはあまり消費しない、不熱心なリードを追いかけることに疲れているような場合、マーケティングで生成するリードの品質と顧客生涯価値の両方を向上させるのに役立ちます
- マーケティングコストの削減: 多くのユーザーをターゲットにすることは、コストと時間がかかり、通常、それに見合うコンバージョンにはつながりません。しかし、STPマーケティングでは、適切なチャネル、製品、メッセージに注力することができます。それにより、時間と予算を節約しながら、成果を最大化することができます
- マーケティングデータ精度の向上: オーディエンスのセグメンテーションにより、理想的な顧客に関する適切なデータを得ることができます。質の高い情報を入手することで、データ主導の意思決定が可能になり、成果を上げることができます
- 市場シェアの拡大: 顧客は、高度にパーソナライズされたメッセージにポジティブに反応します。
その結果、時間とともに市場シェアを拡大し、最終的には業界を代表する企業へと成長することができます。
STPマーケティングモデルの活用方法
STPマーケティングでは、自社製品よりも、オーディエンスに焦点を当てます。このマーケティングモデルは、どのようなマーケティング戦略にも活用できますが、特にデジタルマーケティングで成果を発揮します。
デジタル環境では、オーディエンスのセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングが容易であるため、多くの企業がSTPマーケティングモデルをデジタル戦略に組み込むのは自然なことです。
STPマーケティングモデルをデジタルマーケティングで活用するには、次のような方法があります。
- ランディングページのスプリットテストをおこない、どの要素がターゲットオーディエンスにとってより効果的であるかを確認する
- マーケティングテクノロジーを使って、より詳細にセグメンテーションし、より優れた顧客データを収集する
- メールリストを複数のセグメントに分割する
- ソーシャルメディア向けに高度にターゲティングしたPPC(ペイパークリック)広告を制作する
- オーディエンスが最もよく利用するソーシャルネットワークにコンテンツを投稿する
- 顧客の最大の課題に合致するSEOキーワードを選択する
- 独自のオーディエンスに合わせたブログ、ポッドキャスト、YouTube動画を作成する
STPマーケティングモデルにより、デジタルマーケティングをより効果的に、データにもとづいて実施することができます。デジタルマーケティングの利便性と俊敏性を活かしつつ、STPマーケティングモデルの顧客中心主義を活用することで、ビジネスを優位に進めることが可能になります。
STPマーケティングモデルの導入
STPマーケティングモデルの導入は、3つのステップで進めます。下の図が、そのステップを示し、STEP公式と呼ばれています。実際には「E」に該当するステップはないので頭字語としては間違いですが、覚えやすくするためにこの名前が使われています。
STEP公式
この公式は重要なことを表しています。つまり、セグメンテーションとターゲティングがブランドのポジショニングに影響するということです。実際、ターゲットのセグメントごとにポジショニングは異なります。メッセージングやマーケティングミックスも、相手によって異なることが予想されます。
オーディエンスをセグメント化する方法
STPの「S」はセグメンテーションを表します。マーケティングでは、セグメンテーションにより、企業の一般的なオーディエンスを、共通の特徴にもとづいてカテゴリーに分けます。
セグメンテーションは、オーディエンスを特定の属性にもとづいてより小さなグループに分けたものです。企業は、あらゆる顧客に平等に製品を販売することはできないので、セグメンテーションによって、自社の製品やサービスから最も利点を得ることができる人物像をより明確にします。
たとえば、自動車販売店でマーケティングをおこなう場合、スポーツカー、セダン、SUVに乗る人向けに別々のセグメントを作成します。スポーツカーを購入する人物像と、家族向けのSUVを運転する人物像は異なります。このように、セグメンテーションすることで、ひとつのブランドを、さまざまなタイプの購入者に向けてプロモーションすることができます。
セグメンテーションを始めるには、次のステップに従います。
- オーディエンスの把握:Adobe Audience Managerのような製品は、より充実した顧客データを大規模に収集するのに役立ちます。CRM、ソーシャルメディア、コマースプラットフォームなどからの情報を追加することで、オーディエンスに対する理解を深めることができます
- プロファイルの構築: セグメンテーションは、既存の顧客データから特定の行動、考え方、デモグラフィックなどを見出すのに役立ちます
- プロファイルにもとづくセグメンテーション: 共通の顧客プロファイルをいくつか構築したら、マーケティングソリューションにより、共通の顧客属性にもとづいてコンタクトリストを個別のプロファイルにセグメンテーションすることができます
オーディエンスは、次のような要素にもとづいてセグメンテーションすることができます。
- デモグラフィック: 年齢、キャリア、経済状態、性別などもとづいて顧客をセグメンテーションします
- 地域: 国、州、都市などにもとづいて顧客をセグメンテーションします。都市部、郊外、農村部などでもセグメンテーションすることができます
- 行動: 過去の購入履歴、webサイト訪問履歴、レビュー、コミュニケーション嗜好などのデータから、顧客をセグメンテーションします
- サイコグラフィック: サイコグラフィックは数値化しにくい要素ですが、考え方、ライフスタイル、興味などが含まれます
オーディエンスをセグメンテーションする要素は上記の4つ以外に、ライフステージ、技術特性データ、トランザクションデータなどがありますが、ここに挙げた4つは最も一般的なものです。この4つ以外の独自のフレームワークでセグメンテーションすることに制限はありません。
市場を絞り込む方法
STPの「T」はターゲティングを表します。ターゲティングの目的は、自社のセグメントを調査し、最もコンバージョンの可能性が高いセグメントはどれかを判断することです。一度に複数のセグメントをターゲットにしたくなるものですが、それでは各セグメントが手薄になってしまいます。最適なセグメントを特定し、施策ではこの単一のオーディエンスに絞ることをお勧めします。
単一のセグメントをターゲットにすることは、制限があるように聞こえるかもしれませんが、マーケティング活動を効果的に測定するのに役立ちます。施策で最適なセグメントを選択することで、理想的な顧客からの関心やコンバージョンをより多く獲得できます。
また、規模の拡大に不安を感じるかもしれませんが、適切なマーケティングソリューションを利用すれば、さまざまなセグメントを迅速にターゲティングできるため、容易に規模を拡大することが可能です。
適切なターゲットオーディエンスを見つけるには、次の要素を評価します。
- 規模: セグメントの規模は、大きなトラフィックを生み出すことができるほど十分大きくなければなりません。たとえば、20人しかいないセグメントは小さすぎます
- 費用: 投資に対するリターンを確認する必要があります。マーケティング施策に費やした費用が、どのようなリターンを生むのかを確認しましょう
- アクセシビリティ: 対象のオーディエンスにアプローチするのは容易でしょうか?また、特定のオーディエンスをターゲティングする際に、法的または技術的な障壁がないことも確認する必要があります
競合他社や業界全体の安定性など、ターゲットオーディエンスを見出す方法は他にもありますが、上記の基準は最も一般的なものです。自社ビジネスにとって意味のある要素をしっかりと評価してください。
製品をポジショニングする方法
STPの「P」はポジショニングを表します。ポジショニングとは、顧客が自社製品をどのように見ているかということです。
STPマーケティングモデルの最後のステップでは、セグメンテーションとターゲティングから得たインサイトを活用して、選んだオーディエンスに製品をどのように伝えるかを決定します。たとえば、コスト意識の高い顧客がターゲットであることがわかれば、製品を高価値帯の商品として位置付けることができます。
多くのブランドは、STPマーケティングモデルのこの段階の補助として、ポジショニングマップを作成します。ポジショニングマップは、2つの選択肢を軸として分布を比較するものです。
たとえば、子供向け玩具メーカーであれば、一方の軸に天然素材と合成素材を、もう一方の軸に手頃な価格帯と高価格帯を配置して比較することができます。次に、競合他社の製品をこのグラフに配置します。競合他社は天然素材の子供用玩具を高価格で提供しているかもしれません。目標は、市場の未開拓のオポチュニティであるポジショニングギャップを見つけることです。もしかしたら、手頃な価格の天然素材の子供用玩具を提供している企業がないことに気づくかもしれません。
商品をポジショニングする方法はいくつかありますが、一般的に利用する要素には次のようなものがあります。
- 象徴的: この要素は、製品を所有することで得られるステータスに依存しています。高級ブランドは、影響力、高級感、限定感など表現するために、象徴的なポジショニングをとっています
- 機能的: このタイプのポジショニングは、課題を解決するためのものです。顧客の悩みに寄り添い、その最大のニーズを解決する製品として位置付けます
- 体験的: 自社製品を使うとき、人々は何を感じるでしょうか?FolgersやHallmarkのような企業は、体験型のポジショニングにより、顧客の企業に対する感情的な結びつきを利用しています
このように、自社のビジネスに最適な要素でポジショニングをカスタマイズすることができます。
STPマーケティングの例
STPマーケティングのアプローチには、次のようなさまざまな種類があります。
- 垂直市場: ひとつの垂直市場の複数のセグメントをターゲットにすることで、業界内のより小さなセグメントにリーチすることができます。特定の製品やサービスを、ひとつ市場のさまざまなセグメントにアピールできます
- 水平市場: ひとつの垂直市場に絞るのではなく、共通の特徴を持つ、いくつかの業界のセグメントをターゲットにするマーケティングアプローチです。小規模なビジネスによく見られる手法です
- 製品ラインの拡大: リーチを拡大したい場合、新しい顧客を見つける方法として、製品ラインを拡大して新製品を追加します。新製品を追加することで、市場の別のセグメントのニーズに合わせた製品やサービスを提供することができます
- ポジショニング: このタイプのSTPマーケティングは、単一の製品またはサービスのポジショニングに注力します。顧客の課題と、それを解決するためのソリューションに注目します
自社ビジネスで選択すべきアプローチは、目標、マーケティング能力、競合他社などによって異なります。
STPマーケティングを利用して、ビジネスを成長させた3つの例をご紹介します。
Pepsi-Cola
1980年代、ライバルブランドであったCoca-Colaとの主導権争いにおいて、Pepsi-Colaはセグメンテーションを駆使して理想のオーディエンスを追い求めました。Pepsi-Colaは、市場の3つのセグメントを特定しました。
- Coca-Colaだけに忠実な顧客
- Pepsi-Colaは好きだが、やはりCoca-Colaが好きな顧客
- 両方のブランドから同じように購入する顧客
Pepsi-Colaは、よりオープンマインドな3番目のセグメントに注力しました。しかし、1985年にCoca-ColaがNew Cokeを発売し、多くのCoca-Colaファンを失望させ、顧客ロイヤルティが低下した際に、Coca-Colaに忠実だったセグメントをターゲットにしました。これにより、Pepsi-Colaの売上は14%増加しました。
Apple
AppleがSTPマーケティングを成功させたのは、全世界をターゲットにしなかったからです。デザイン、性能、高級感に関心のある裕福なセグメントを狙いました。象徴的で体験的なポジショニングを活用することで、プレミアムブランドとしてのマーケティングを実施しました。
Appleのマーケティング部門は、ハイエンドのテクノロジーブランドを築くために、革新性と限定性に注力しました。今日でも、Appleのユーザーは、有名ブランドのテクノロジー企業に対して強い忠誠心を抱いています。
McDonald’s
McDonald’sは、Appleとは異なり中低所得者層をターゲットにしています。「I'm Lovin' It」や「We Love To See You Smile」といったスローガンを掲げ、食事を手軽に済ませたい人たちにとって、身近で家族向けの選択肢であると自社を位置づけています。
国際的なブランドであるMcDonald’sは、商品調査のためにセグメンテーションとターゲティングに重点を置いています。たとえば、現地料理を調査し、ターゲットオーディエンスの味の好みにもとづいて、現地に合わせたメニュー(カナダのプーティンなど)を考案しています。
効果的なSTPマーケティング戦略を構築するためのベストプラクティス
STPマーケティング戦略を導入することで、ターゲット市場でより強力な足場を築くことができます。次の実践的なステップに従って、STPモデルによるマーケティング戦略を構築してください。
- 市場の明確化: 最初に、TAM(獲得可能な最大市場規模)、SAM(サービス可能で利用可能な市場規模)、サービス可能で獲得可能な市場規模を求めます。これらのパラメータは、市場全体に何人いて、そのうちのどの人が顧客になりうるか、そしてそのうちの何人に合理的にアプローチできるかを示すものです
- オーディエンスのセグメンテーション: この記事のヒントに従って、地域、デモグラフィック、行動などにもとづいてオーディエンスをセグメント化します。この段階では、セグメントをいくつか作成することになるでしょう
- 最も有望なセグメントのプロファイルの構築: マーケティング施策に最適なセグメントを特定します。各セグメントがビジネス上どの程度発展性があるかを評価し、最も有望なものを選びます
- 競合の評価: 競合の脅威を見過ごさないようにしましょう。自社の製品やサービスを競合企業と比較して評価します。ライバルが自社よりも優れている点、劣っている点を調査します。自社の製品やサービスが市場ギャップを埋めるものであることを確認し、オーディエンスに自社と関わる説得力のある理由を見つけましょう
- ポジショニング戦略の策定: 象徴的、機能的、体験的なポジショニングで製品やサービスを位置付けます。価格、競合、高級感などにもとづくポジショニングも可能です
- マーケティングミックスの決定: マーケティングの4つのP(Product[商品]、Price[価格]、Place[流通]、Promotion[プロモーション])と連携させてマーケティングミックスを決定します。製品の特徴、価格戦略、利用可能なチャネル、プロモーション方法などを検討し、施策を完成させます。
インサイトを行動につなげ、顧客を中心に据える
企業は、STPマーケティングモデルを活用することで、より効果的なマーケティング戦略や、より高いコンバージョン率を実現する施策を策定できるようになります。
STPマーケティングに取り組むには、まず市場を明確化し、オーディエンスをセグメンテーションします。続いて、施策に最適なセグメントを選び、競合他社を評価し、戦略的なポジショニングをおこない、マーケティングミックスを決定する必要があります。
しかし、STPマーケティングモデルの導入は、特に大企業にとっては大きな手間がかかる可能性があります。そこで、Adobe Audience Managerの出番です。
Adobe Audience Managerは、あらゆる情報源からデータを収集し、統合することができる業界最高峰のデータ管理基盤です。顧客の全体像を把握できるインテリジェントなオーディエンスセグメントを構築し、属性ベースのオーディエンスや類似モデリングなどの機能により顧客体験を管理し、リーチをこれまで以上に拡大することができます。
Adobe Audience Managerについて詳しくは、製品ツアーをご覧ください。