A3問題解決とは?知っておきたい基礎知識

Adobe Experience Cloud Team

05-12-2025

オフィスの窓から外を見ている女性。重ねて表示されたA3報告書とプロセスチェックリスト

問題を解決するには、まず意思決定が必要です。では、あなたのチームは意思決定にどれくらいの時間をかけているでしょうか? マッキンゼー の調査によると、組織の意思決定が「迅速に行われている」と答えたマネージャーは全体の50%にとどまり、さらに10人中6人は「意思決定に費やす時間の半分は非効率だ」と答えています。

1960年代のトヨタも同じ課題に直面していました。そこで同社は「A3」と呼ばれる新しい問題解決のアプローチを生み出し、その後、世界中に広まりました。では、A3問題解決とは具体的にどのような手法なのでしょうか。そして、それはどのようにしてあなたのビジネスの問題解決に役立つのでしょうか。デジタルコマース変革のヒント:

A3問題解決とは?

リーン生産方式の一部であるA3問題解決は、問題とその解決策をA3サイズ(11×17インチ)の用紙1枚に要約する手法です。この用紙を「A3報告書」と呼び、ビジネス上の課題を解決するために一連の項目が整理されています。

イメージするとわかりやすいのは、A3問題解決が理論であり、A3報告書がその実践的なアウトプットだということです。両者は密接に関連していますが、同じものとして扱うべきではありません。

A3問題解決のアプローチは、トヨタがトヨタ生産方式(TPS)の一環として生み出したものです。その後、世界中のさまざまな業界で採用され、広く知られるようになりました。

A3問題解決の歴史と起源

A3問題解決は、戦後のトヨタで注目されるようになりました。リーンと呼ばれる新しい生産哲学の一部として登場したのです。1960年代のTPSにおいて、A3問題解決は継続的改善と組織全体に問題解決文化を根付かせるうえで重要な役割を果たしました。

大野耐一による提唱

20世紀半ば、トヨタは工場での効率化と無駄の削減を目指していました。大野耐一 のリーダーシップの下、トヨタは 「改善(カイゼン)」「現地現物(Go and See)」 と呼ばれる実践に取り組みました。

現地現物の核心は、問題の根本を素早く突き止めることにあります。大野はマネージャーたちに、問題を簡潔にまとめ、診断できるようにすることを求めました。こうして、問題と解決策をA3用紙にまとめる流れが生まれ、A3問題解決が誕生したのです。

ジョン・シュックによる世界展開

1980年代には、A3問題解決はトヨタに深く根付き、新入社員は全員研修で学ぶまでになっていました。1983年にトヨタへ入社したジョン・シュックもその一人です。彼は吉野勲らの指導の下でA3問題解決を学び、トヨタの外へ、そして世界中の多様な業界へ広めていきました。また、初心者向けにA3プロセスを解説した『Managing to Learn』という書籍も著しました。

「トヨタには、問題を解決することで知識を生み出し、働く人々に学び方を学ぶ力を与える方法があります。経営者はA3というツールを使い、より深い思考法を共有するのです」

ジョン・シュック

MIT Sloan Management Review

A3問題解決を導入する理由

A3問題解決の方法論とA3報告書を活用することで、問題をより効率的に解決できるようになります。事務作業の肥大化を抑え、意思決定のスピードを高めることが可能になります。

マッキンゼーによれば、非効率な意思決定が原因で、年間50万日もの時間が失われているといいます。A3報告書を作成し、自ら現場を観察し、関係者と話をすることで、こうした損失を減らすことができます。

A3問題解決の主なメリット

A3問題解決の主なメリットを表すアイコン。

A3問題解決のプロセスを実践することで、チームは次のようなメリットを得られます。

A3報告書とは?

A3報告書は、A3問題解決プロセスの中核となるアウトプットです。問題の定義から解決策の提示までを、A3用紙1枚に段階的に整理し、思考プロセスを「見える化」します。報告書はグリッド形式で構成され、執筆者が課題に関する情報や行動計画を各ボックスに記入します。

A3報告書で得られる内容:

A3報告書を7ステップで作成する方法

以下の表は、A3報告書の作成方法を理解する助けになります。各要素について、理論と実際の事例を並べて解説し、A3報告書の実例を紹介します。

コンポーネント
客観
1.問題の特定
解決すべき問題や、それに至る過去の経緯を明確に特定します。
当社の新製品に対する顧客クレーム率が、過去3か月間で着実に上昇しています。根本原因を特定し、クレーム率を1%未満に抑える計画を策定する必要があります。
2.背景色
現状を理解するためにデータを収集して分析します。
新製品の発売当初は顧客からの評価も良好でした。しかし、その後3ヶ月で、顧客からの苦情が着実に増加していることがわかりました。カスタマーサービス部門は、寄せられるすべての苦情に対応するよう努めていますが、全体的な苦情率は上昇し続けています。問題の原因を特定し、根本的な解決策を実施する必要があります。
3.目標の概要
目標達成に向けた進捗をモニタリングできるように、具体的かつ測定可能な目標を設定します。
新製品に対する直近の顧客からのクレーム率は2.5%でした。自社の目標は、苦情率を1%未満に減らすことです。クレームの多くは製品不良と配送の不備に集中しています。
4.根本原因の分析
一時的な対症療法にとどまらないように、問題の根本原因を特定します。
問題の根本原因を特定するために、顧客フィードバックと社内データを徹底的に分析しました。その結果、最も多い苦情は、製品の欠陥と配送の問題に関連していることがわかりました。また、品質管理体制の不十分さや配送チームのトレーニング不足などの要因も判明しました。
5. 解決策
根本原因を特定し、可能性のある解決策を構築します。複数の選択肢を比較検討し、最適な対策を決定します。
  1. 品質管理プロセスを改善します。 新製品に対して、より厳格な品質管理プロセスを導入します。
  2. 配送チームへの 追加トレーニングを実施します。トレーニングには、壊れやすい製品の特定方法と取り扱い方法、適切な梱包方法などが含まれます。
  3. カスタマーサービス部門と製造部門の 連携を強化し、不具合や配送問題を迅速に特定できるようにします。
6.実行計画
選定した対策を実行に移し、その効果をモニタリングして問題解決につなげます。

これらの対策を実施するため、以下の計画を立てました:

  1. 次の30日以内に 品質管理プロセスを改善します
  2. 次の60日以内に 追加トレーニングを実施します。(教室での講習と実地訓練を含みます)
  3. 次の30日以内に、カスタマーサービス部門と製造部門間の 新しい連携プロセスを導入します。
7. フォローアップ
解決策の効果を測定し、さらに改善可能な点がないか確認します。
対策が有効に機能しているかを確認するため、新製品のクレーム率を毎月モニタリングします。また、品質管理プロセスと出荷チームトレーニングが正しく実施されていることを確認するため、定期的に見直しを行います。

A3報告書を書く順序

  1. ページの左上 から記入を開始します。問題を記述し、順を追って進めていきます。
  2. ページの左側 には、分析ステップ(最初の4段階)をまとめます。これに紙面と作業時間の半分を割きます。
  3. ページの右側 には解決策(改善案、アクションプラン、評価とフォローアップ)を記入します。

A3報告書で直面しやすい課題と克服法

A3報告書でよく見られる課題を表すアイコンです。

問題定義の不明確さ

問題と目標を明確に定義することは、A3報告書の基盤です。曖昧さや誤った情報に基づいた場合、報告書全体が損なわれる可能性があります。できる限り具体的にし、抽象的な表現は避けましょう。メッセージは簡潔に余分な言葉を削ぎ落とし、すべての文が意味を持つようにすることが重要です。

成果につながらない対策。

対策とは、課題に取り組み、解決策を実行に移すための具体的なステップです。これらを十分に検証し、実行可能性を吟味しなければ、成果は中途半端に終わってしまうでしょう。検討しているステップが、本当に目指す最終ゴールに結びつくのか、自問してみてください。そして、設定した期限内に、今あるリソースで実現可能かどうかも確認する必要があります。

ステークホルダーとの連携不足。

A3報告書を実行に移すには、ステークホルダーの合意を得ることが欠かせません。必要なメンバーがそろっていますか?チームが特定した課題や、その解決アプローチについて、メンバーは同意していますか?ステークホルダーとの交渉に臨む覚悟を持ちましょう。外交的かつ説得力をもって臨みつつ、相手の立場に共感する姿勢も忘れないでください。心と信頼を勝ち取りましょう。

真因を突き止められない。

問題を定義すること自体は簡単ですが、徹底した原因分析を怠れば、1年後にまた同じ課題に直面する可能性があります。そもそもなぜその問題が起きたのかを理解することが、より効果的で現実的な対策づくりにつながります。

フォローアップが不十分。

一連の対策を実施しました。これで終わりでしょうか? まだ終わりではありません。フォローアップは、A3報告書の重要なプロセスのひとつです。適切にフォローアップしなければ、せっかくの計画も水の泡です。導入後の進捗をモニタリングする明確なアクションを設定しておきましょう。

A3問題解決に関連する有用な概念

リーン手法。

20世紀半ばに誕生したリーンマネジメント理論は、生産効率を高め、ムダを減らすことを目的としていました。ワークフローを継続的に見直し、非効率を特定して解消するという考え方です。これにより、顧客により大きな価値を提供できると考えられています。A3問題解決は、このリーンマネジメント手法の一つとしてトヨタで生まれました。

なぜなぜ分析(5 Whys)

なぜなぜ分析」は1930年代にトヨタ創業者の豊田佐吉が経営管理に取り入れたのが始まりです。その後1960~70年代にかけて、他業界にも広がり広く普及しました。この手法は、問題の根本原因を突き止めるために、「なぜ?」を5回繰り返し問いかけるシンプルながら強力な手法です。A3報告書を作成する際にも、よく用いられます。

PDCAサイクル。

リーンマネジメントやA3問題解決の重要な構成要素である PDCAサイクル は、継続的改善の文化を育むことを目的としています。目標を設定し、達成に向けた計画を立て、進捗を監視し、必要に応じて改善策を講じるプロセスです。

SMARTゴール

SMARTゴール は、A3問題解決に活用できるもう一つのフレームワークです。SMARTは、現実的かつ達成可能で、測定でき、学びにつながる目標を設定することを重視します。A3報告書で対策を実行する際に、SMARTゴールを設定すれば、進捗を管理し、軌道に乗せやすくなります。

シックスシグマ

シックスシグマは、リーンマネジメントのもう一つの要素です。製品欠陥を最小限に抑え、ブランドへの信頼を高めることで収益性を向上させることを目的としています。返金や顧客不満といった欠陥のコストを可視化することで、継続的改善を促進します。

ケーススタディ — 医療現場におけるA3活用事例

A3問題解決は自動車業界で生まれましたが、20世紀後半から21世紀にかけて他の業界にも広がっていきました。その一例が医療分野であり、イギリス王立病理学会 が発表した事例研究に示されています。

2014年2月、ロンドンのGuy’s & St Thomas’ NHS財団トラストは、GPからの紹介か他ルートかに関わらず、肺がん患者全員に同じ水準のケアを提供するためにA3問題解決を導入しました。

A3報告書を作成したPaul Cane医師は、ケアの質に差が生じていた根本原因を特定しました。そして、対策とアクションプランを策定し、「2014年12月までにすべての肺がん患者が同一水準のケアを受けられるようにする」ことを目標とする「単一の有効ながん診療プロセス」を構築しました。

まとめ — A3を使う準備ができていますか?

A3問題解決は過去75年以上にわたって磨かれ、リーンマネジメントの重要な要素となってきました。トヨタにおける自動車製造を大きく変革しただけでなく、いまではさまざまな業界や分野のマネジメントに活用されています。企業の意思決定が停滞しているときこそ、A3は問題の真因に素早くたどり着き、なぜ発生したのかを理解し、効果的な解決策を導き出す助けとなります。

ただし、A3報告書を最大限に活用するには、プロジェクト管理ソフトの導入も検討すべきでしょう。それにより、レポートやインサイトを通じて課題を把握し、対策を計画して実行し、必要なメンバー同士をつないで協働を促進できます。

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