プロジェクト管理入門:カンバンとは
カンバン手法とは、反復作業の各工程を細分化して、わかりやすく可視化するプロジェクト管理手法のひとつです。
このガイドの内容:
カンバンとは?
カンバンは、アジャイルフレームワークのなかでもソフトウェア開発で特に人気が高い手法の1つで、ワークフローの可視化が特徴です。カンバンボードは、各タスクの進捗状況と優先度を視覚的に表したものであり、タスクの優先順位を調整できます。チームメンバーは、カンバンボードを活用することで、あらゆるタスクの進捗状況をひと目で把握することができます。
開発チームが使用する場合、カンバンにはユーザーストーリー(ユーザーに視点で必要な機能を簡潔に説明したもの)のバックログが大量に並びます。そして、開発チームが各バックログに対応していくという形になります。バックログのメンテナンスと優先度の設定は、プロダクトオーナーと関係者の責任です。チームはバックログから開発作業をピックアップしていくことになるため、この2つの作業は非常に重要です。
チームのメンバーが新しいユーザーストーリーについて作業を始めるときは、バックログからそのストーリーを取り出し、カンバンボードの「進行中」の列に移動させます。ストーリーはその後も、プロジェクトの進行に合わせてカンバンボードを移動していきます。「完了」まで移動したら終わりです。あるプロジェクトの作業をしているメンバーは、現在のプロジェクトが完了するまで、バックログの別の作業を開始してはなりません。
カンバン手法の目的は、プロジェクトの早い段階でリスクや課題を特定し、各工程でチームの連携を強化することにあります。カンバン手法なら、課題をすばやく把握して修正し、コスト効率の高い運営が可能となります。カンバン手法はソフトウェア開発に用いられることが多いものの、反復作業を伴うほぼあらゆるタスクに適用できます。
カンバン手法の由来
カンバンは、日本語の「看板」から来ています。カンバン手法は、1940年代後半にトヨタ自動車エンジニアの大野耐一氏によって考案されました。同社の製造チームは、食料品店が顧客に必要な量だけの在庫を仕入れることにヒントを得て、部品が必要になった時点で生産ラインの他のチームや施設に納入を依頼するツールとして、カード(カンバンカード)を導入したのです。
このような初期のカンバン手法は、ジャストインタイム(JIT)生産方式に組み込まれていました。そして、各工場が部品を作りすぎ、経営資源を無駄にすることのないよう、必要な時点で必要な量だけの部品を製造できるようにする役割を担っていました。
その後、アジャイル方法論の流行のなかで、ソフトウェア開発者の間でソフトウェア開発用にアレンジしたカンバン手法が生まれました。これが現在、作業フローの最適化に役立つものとしてDevOpsの間で広く知られるに至っています。
ITおよびソフトウェア分野におけるカンバン手法の定義
大野氏の功績に感銘を受けたエンジニアのDavid Anderson氏は、CorbisとMicrosoftでのソフトウェア開発でカンバン手法を取り入れ、のちに自著『Kanban: Successful Evolutionary Change for Your Technology Business(カンバン:テック業界に革命を起こす新たな手法)』を出版しました。
カンバン手法がIT業界で支持される理由のひとつに、継続的な改善を重視している点が挙げられます。大規模なプロジェクトの場合、あらゆる工程を期日までに完了させるには、進捗状況を毎日確認する必要があります。カンバン手法なら、プロジェクトの各工程を管理しやすいよう小さなタスクに細分化して、各タスクの進捗状況を包括的に追跡できます。これにより、課題が発生した場合は瞬時に察知して対処することが可能になり、プロジェクトの最終段階で様々な課題が発覚する、といったリスクを避けることができます。
カンバンボードとは?
カンバンボードとは、各工程を表す列と各タスクを表す移動可能なカードを使用して、作業工程を可視化するプロジェクト管理ツールです。 デジタルボードと物理的なボードのどちらを使用することもありますが、いずれにしても、チームのワークフローの現実を正確に可視化したものでなければなりません。つまり、ワークフローがこうなってほしいという願いや、関係者が考える理想のやり方をベースとしたものであってはなりません。
カンバンボードの列は、自在に調整できます。標準的なカンバンボードでは「未開始」、「進行中」、「完了」の3列のみを使用しますが、「依頼済み」、「バックログ」、「分析中」、「開発中」、「テスト中」など、様々な列を追加できます。反復作業も列として扱うことができます。
あらゆる部門をまたいでカンバンボードを毎日共有し、進捗状況を確認することで、現場の従業員から管理職に至るまで、全社にわたって透明性を高めることができます。さらに、指定された期間における適正な作業量を把握し、進行中の作業の上限を判断するのにも役立ちます。
カンバンカードとは?
カンバンカードとは、取り組むべき各タスクを表した小さいカードであり、物理的なカード、付箋、デジタルボックスをカンバンカードとして使用できます。カンバンカードをカンバンボードに配置して、各タスクの進捗状況を視覚的に追跡します。
例えば、各タスクに関するKPI(重要業績評価指標)を追跡して、タスクの依頼者、期日、作業担当者などの詳細情報を各カードに記載します。また、タスクの概要、補足資料のリンク、添付ファイル、コメント欄を追加して、共同作業を強化できます。
カンバン手法のその他の重要要素
-
進行中の作業(WIP)上限:カンバンボードができたら、各列の作業の取り扱いについてルールを設定します。このルールは進行中の作業(WIP)上限と呼ばれるもので、チームがカンバンの主目標の1つである「始めるのをやめよう、終わらせるのを始めよう」に則ってプロジェクトを進めていくうえで役立ちます。
カンバンボードの各列とレーンには上限が設定されており、その上限に達すると、レーン内の作業のいずれかが完了し、そのレーンから出て行くまで、そのレーンには新たな作業を入れることができなくなります。例えば、レーンに編集者による「レビュー待ち」のユーザーストーリーが4件あり、そのレーンのWIP上限が4件の場合、4件のうちいずれかがレーンを出るまで、それ以上のコンテンツを同じレーンに追加することができなくなります。
-
バックログ:ビジネスオーナー、プロジェクトマネージャーなど、チームの作業内容の決定権を持つ人がユーザーストーリーを追加する場所です。バックログは、カンバンの機能の1つであり、メンテナンスと優先度の設定を絶えず実施していく必要があります。
-
継続的リリース:純粋なカンバンにはスプリントの概念はなく、一定期間が経過したからといって新たな反復を開始する必要はありません。カンバン手法を採用している場合には、ソフトウェアやマーケティングのプロジェクトが完了した後、できるだけ早くリリースしていくことになります。
-
累積フロー図:カンバン手法でワークフローの全容を視覚化する方法として使われるのが、累積フロー図です。累積フロー図は、ボトルネックの特定、WIP上限の管理、サイクルタイムの削減に有用です。
カンバン手法の利点
カンバン手法には、規模や業界を問わず、あらゆる企業と部門にとって有益な利点がいくつかあります。カンバン手法は、自動車の製造現場から誕生したものではありますが、現在ではソフトウェア開発者から高い評価を得ており、小規模なセールス部門から大規模企業の人事部門、マーケティング部門に至るまで、誰もが目に見える価値を得ることができます。
サイクルタイムの短縮
サイクルタイムとは、ひとつのタスクを完了するのに要する合計時間のことです。カンバン手法において、平均サイクルタイムは作業の効率性を把握するための重要な指標のひとつです。
サイクルタイムの分析は、プロジェクト管理者が課題を見つけ出し、その解決のために必要な人員を配置するうえで役立ちます。カンバン手法では、チームメンバー全員が協力してプロジェクトを進めることが求められます。カンバンボードを活用すれば、誰がどのタスクを担当しているのかひと目で把握できるので、必要なスキルを有した従業員をすばやく特定して、遅れが生じているタスクを割り当てることができます。
実現可能なビジネス目標の設定
新しいカンバンカードをバックログとして追加する場合、そのカードが自社のビジネス戦略と合致している必要があります。バックログとして追加されたカードは、最重要課題として扱われます。ボード上で重要度の高いカードが優先的に渡されるようにすることで、チームは重要なタスクのみに専念できるようになります。
柔軟なプランニング
タスクの優先順位を見直す必要がある場合、カンバンボードなら各タスクの状況を迅速に把握し、重要なタスクをバックログからボードに移動させることができます。これにより、チームのワークフローを妨害することなく、ビジネスニーズや顧客の需要に柔軟に対応できます。
ユーザー満足度の向上
プロジェクト管理者は、サイクルタイムを短縮するためにチームの作業量を増やそうとしますが、品質を犠牲にしては本末転倒です。カンバンボードを活用すれば、タスクのテストと検証に必要な工程を具体的かつ明確に説明し、高い品質を確保できます。これにより、より優れたサービスを顧客にすばやく提供することが可能になり、顧客満足度の向上につなげることができます。
予測可能性の改善
チームの進捗状況を継続的に追跡することで、プロジェクトの完了に要する期間の予測が容易になります。プロジェクト管理者は、リソースの適切な配分、無駄なタスクの削減、ワークフローの合理化を推進し、予測可能性の改善と適切な計画によって各チームのスムーズな作業を支援する必要があります。
カンバン手法のベストプラクティス
Anderson氏は、カンバン手法の価値を最大化するためのベストプラクティスを6つ提唱しています。これらのベストプラクティスはソフトウェア開発向けに開発されたものですが、カンバン手法を取り入れたあらゆる事例に適用できます。
1. ワークフローの可視化
カンバンボードをチーム全体で共有し、チームのワークフローを明確に可視化します。これにより、チームメンバーは作業内容とスケジュールをひと目で把握できるようになり、最終目標を達成するためにはどのような取り組みが必要なのか判断しやすくなります。カンバンボードを最新の状態に保ち、日々確認すれば、チーム内の透明性向上に役立ちます。
2. 進行中の作業の上限設定
カンバン手法では、プロジェクト管理者はボード上のカード数が適切かどうか容易に判断できるので、従業員のスキルや稼働状況をより詳細に把握することができます。カンバンボードを毎日見直し、WIP上限を設定することで、プロジェクト管理者とチームメンバーは、作業量が適切かどうか判断できます。
3. フローの管理
カンバン手法における「フロー」とは、プロジェクトの各工程をどのように進めていくのかを表す概念です。プロジェクト管理者は、毎日カンバンボードの見直しを行い、作業スピードとリスクのバランスを取る必要があります。フローの適切な管理によってWIP上限を設定し、課題を明らかにすることで、作業の効率性を高めることができます。
4. 作業方針の明確化
カンバンボードを活用すれば、現在誰がどのタスクに取り組んでおり、どのようなリスクが予測され、各タスクの期日はいつか、といったことを容易に把握できます。こうした作業方針を明確にすることで、プロジェクト管理者は感情に左右されることなく的確な意思決定を行い、プロジェクトを成功に導くことができます。
5. フィードバックループの構築
プロジェクトの俊敏性を確保できるかどうかは、継続的な改善にかかっています。開発者とプロジェクト管理者は、利害関係者との日々のミーティングや会話から得られたフィードバックをもとに、商品やサービスのさらなる改善を追求し続けなければなりません。
6. 共同作業によるパフォーマンスの強化。
カンバン手法の大きな特長のひとつは、チームワークに主眼を置いていることです。従業員全員が、助言や建設的な批判、必要なサポートを提供することが求められます。それを実現するためには、全員が同じ方針に従って作業に取り組み、一致団結して課題に対応することが必須となります。チーム間で情報とスキルセットを共有することで、短期間でより多くの成果を上げることができます。
カンバン手法の原則
Anderson氏は自著の中で、カンバン手法の原則について解説しています。これらの原則は、「プロジェクト管理の変革」と「サービスの提供」の2つのカテゴリーに分類されます。
プロジェクト管理の変革に関する原則
カンバン手法の導入は、決して容易ではありません。他のプロジェクト管理戦略を長年採用してきたチームにとって、その難易度はさらに上がります。カンバン手法の導入を成功させるためには、プロジェクト管理の変革に関する3つの原則に焦点を当てる必要があります。
1. 知っていることから始める
目標が高すぎたり、漠然とし過ぎている場合は、その実現は言うまでもなく、追跡さえも難しくなります。カンバン手法では、チームの稼働状況、能力、可用性を評価し、その結果をもとに簡潔明瞭なタスクを必要な量のみ追加することを推奨しています。こうした慎重なアプローチにより、持続可能な成長を促進し、目標に向かって日々の作業を着実に進めることができます。
2. 継続的なイノベーションを追求する
カンバン手法は、時間をかけて着実にパフォーマンスを改善することを目的としているため、プロジェクトに携わるチームメンバー全員が、そうした段階的なイノベーションに貢献する必要があります。プロセスに慣れるまでは苦労するかもしれませんが、大きな変革を小さなタスクに細分化することで、経営陣からの反発を軽減し、ミスを最小限に抑え、作業を管理しやすくなります。
3. あらゆるレベルのリーダーシップを促進する
カンバン手法を取り入れた職場環境では、発生した問題に対して誰もが当事者意識を持つようになります。Anderson氏は、チームメンバーが意欲に満ち溢れ、問題を解決して最終目標を達成するために助け合うといった、奨励と共同作業を重視する企業文化の醸成を推奨しています。
サービスの提供に関する原則
企業の運営は、数百もの独立したサービスによって成り立っています。カンバン手法では、組織の安定した運営を維持するために、サービスの提供に関する3つの原則を遵守することを推奨しています。
1. 顧客のニーズを第一に考える
カンバン手法によってプロジェクト管理を推進するには、顧客が求めているものとその理由、企業に期待していることを把握する必要があります。バックログの優先順位付けから予算の配分、問題の解決に至るまで、プロジェクトのあらゆる面で常に顧客の利益を第一に考えなければなりません。
2. 従業員の自主性を尊重する
開発チームが作業の内容と方法を決定できるようにすることで、フローの管理を強化し、開発チームのリーダーシップを促進すると共に、適切な作業量を割り当てることができます。
3. サービスネットワークと方針を定期的に見直す
数百件ものプロジェクトを遂行すると、チームの傾向や利害関係者のニーズが明らかになってくるはずです。顧客満足度のさらなる向上と持続的なビジネス成長を実現するためには、自社の方針を定期的に見直して調整する必要があります。
カンバンとスクラムの違い
カンバン手法とスクラム手法は、共通する概念もいくつかありますが、プロジェクトの管理方法は全く異なります。
スクラム手法では、1週間から4週間までの期間内で(一般的に「スプリント」と呼びます)一定量の作業を遂行します。「セレモニー」と呼ばれる4つの主なミーティング(スプリント計画、スプリントレビュー、レトロスペクティブ、デイリースタンドアップ)を実施して、プロジェクトの進捗状況を追跡します。各スプリントの最初の工程では、チームはそれぞれのタスクに取り組みます。各スプリントの最後の工程では、タスクの成果を評価し、問題の再発防止策について話し合います。
カンバン手法とは異なり、スクラム手法ではプロジェクト管理者は存在しません。顧客への対応を行う「プロダクトオーナー」、チームにおけるアジャイル方針の遵守を徹底する「スクラムマスター」、作業を遂行する「開発チーム」の3つの役割で構成されています。
スクラム手法とカンバン手法は類似点も数多くありますが、両者の相違点を理解することで、自社の開発チームのスキルと戦略に最適な手法を選ぶことができます。
スクラムの厳格さがなじまなかったチームの場合、カンバン手法の自由度を強く感じられる可能性があります。当初はスクラムで始めてみたものの、ミーティングやプロセスに関して問題が聞かれるようなら、カンバンの方が良いかもしれません。
ビジネスの俊敏性を高める鍵に
カンバン手法は、組織のプロジェクト管理の成熟度を問わず、商品やサービスの迅速な提供に役立ちます。カンバン手法を活用しているチームは、リーダーシップと顧客からのフィードバックを常に重視し、具体的な目標をもとにタスクの優先順位を決定し、確実に成果を上げる方法を追求し続けています。カンバン手法は、ビジネスの複雑さや規模にかかわらず、常に俊敏性を確保するための鍵となります。スクラム手法などの他のアジャイル手法を採用している場合でも、カンバン手法を知ることでプロセスの見直しや改善を促進し、パフォーマンスや顧客満足度の向上につなげることができます。
アドビがお手伝いします
カンバン手法には、エンジニアと顧客を結び付け、社内の共同作業と透明性を促進し、従業員への負担を軽減しながら複雑なプロジェクトを遂行するために必要な、あらゆる要素が凝縮されています。その優れた柔軟性により、開発者とプロジェクト管理者は、独自の方針を定め、進捗状況に応じて調整し、さらなる成長を遂げるための機会を見つけ出すことができるようになります。
カンバン手法を導入する前に、まずは複雑なワークフローを統合して簡素化する必要があります。既にプロジェクト管理の経験があったとしても、さらなる高みを目指し続けることが、成功への鍵となります。Adobe Workfront には、プロジェクト管理の成熟度にかかわらず、業務効率を高めるために必要なあらゆる機能が揃っています。
ワークフローの自動化とカスタムフォームの作成により、カンバン手法の導入プロセスを合理化し、プロジェクト管理戦略を成功へと導きます。優先順位の変更に応じたカンバンカードの調整、人員配置の変更、ダッシュボードの設定を単一の基盤で管理し、チーム全体の進捗状況をひと目で確認することができます。Adobe Workfrontは、様々なエンタープライズアプリケーションと連携して、開発作業を自在に調整し、進捗状況をリアルタイムで追跡することができます。
Adobe Workfrontの機能やメリットをさらに詳しく知りたい方は、製品ツアーをご確認ください。