パナソニックの「グローカル化」から学ぶ、多様化するニーズに応える顧客体験の実現
- 海外市場を含む多様な顧客ニーズに応じて適切な顧客体験を提供する「グローカル化」のアプローチは、全体としての効率性と個別の柔軟性を両立しなければならない
- 効率性は、統一プラットフォームと共通化できる中央組織の組み合わせが、柔軟性は、プラットフォームを利用するメンバーの全員参画とスピード感を持った実装計画がカギを握る
- 全体最適の視点から基盤を整えることにより、企業は、あらゆる接触機会において「顧客の期待に応える」体験を提供することに集中できるようになる
「顧客体験」が企業経営における重要な戦略課題となっている。実際、デジタルにおける「不適切な顧客体験」(例えば、必要な情報が見つけにくい、リンクが切れているなど)は、売上の低下に直接影響を及ぼすことが明らかになっている。そのため企業は、顧客とのあらゆる接触機会において、「顧客の期待に応える」体験を提供することが求められている。
顧客ニーズの多様化により、それに合わせて企業もビジネスの粒度を合わせていく必要がある。グローバル企業の場合には、海外市場のニーズに合わせて最適な活動を行わなければならない。そこで、デジタルマーケティングで「顧客体験最適化」を実現していくにはどうしたらよいか。グローバル企業がデジタル領域での「グローカル化」に取り組む事例から紐解いてみよう。
あらゆる顧客接点における顧客体験がブランド価値を決める
消費者の情報源は、テレビをはじめとする従来のマスメディアからデジタルメディアと広がり、顧客がブランドと接触する機会は、オンライン、オフラインで多様化している。その両者を問わず、膨大な情報が溢れる中で、企業は消費者とどのように向き合うべきか。そこで注目される課題が「顧客体験」だ。
とくに、グローバル企業においては、統一されたブランドの一貫性を各地域で保つことと、各地域において異なる市場性やニーズに応えた施策の独自性を両立していく必要がある。グローバル化とローカル化の「グローカル化」を実現していくには、デジタル施策における「顧客体験」の最適化は不可欠だ。
アドビが、消費者の商品情報の収集におけるWebの役割を把握するために行った「消費者行動調査2016」の調査結果をひも解いてみると、Webに求めている情報として「わかりやすい情報」を挙げた消費者は71.6%にのぼっている。さらに、「他の商品との違いがわかる情報」(40.9%)、「新しい情報」(33.9%)、「客観的な情報」(29.8%)、「詳しく掘り下げた情報」(27.9%)と続き、顧客はWebに様々な期待を持っていることがわかる。
一方、7割以上の消費者が、「探している情報を見つけにくい」「モバイルとデスクトップで情報に矛盾がある」「詳細な情報へのリンクが切れている」など、問題があるサイトの遭遇体験があると回答し、そうした体験をしたとき、62.9%の消費者が購入または情報収集を途中でやめてしまうと回答している。
こうした結果から、「顧客体験」とりわけデジタルでの体験を企業が軽視していると、売上の損失に直接つながってしまうことがわかる。企業は、顧客とのあらゆる接触機会において、いかに「顧客の期待に寄り添う」体験を提供するかが重要なのだ。
パナソニックの取り組みに見る、グローバル企業における多様な顧客体験の提供
では実際にグローバル企業は、各市場の多様なニーズに応えるため、どのようにグローカル化に取り組んでいるのか。パナソニックの事例を見てみよう。
同社では、2012年ころからデジタル顧客体験の最適化に取り組んできた。それまで同社のWebサイトでは、コンテンツの量や質にばらつきがあるという問題を抱えていたが、これは、それぞれの国や地域で異なるプラットフォームを使い、異なるコンテンツを配信していたことが原因だ。
たとえば、日本では新商品発売の際には発売日にサイト上に情報が掲載されるが、海外では発売後も商品ページに情報が載らないということがあった。このほかにも、モバイルサイト最適化への対応や、グローバルで高いレベルのセキュリティを保つ面でも課題を抱えていた。
そこで第1段階の取り組みとして、顧客との最も重要な接触ポイントである「商品ページ」の体験の最適化に着手した。それまで地域ごとにバラバラだったプラットフォームや運用体制だったが、統一されたデジタル戦略を打ち出し、グローバルで統一されたコンテンツ管理システム「Adobe Experience Manager」に統合した。
これにより、「戦略」「プラットフォーム」はグローバルで一貫しつつ、具体的なマーケティング活動は各地域のニーズを尊重することで、ローカルに最適化された施策を継続して行えるようにしたという。
サイトの運用体制にもグローバルな効率化の取り組みが見られる。共通機能は「Webオペレーションセンター」と呼ばれるグローバルな組織に一元化。Adobe Experience Managerを用いてコンテンツ(アセット)を制作、管理することで、ローカル拠点での運用負荷の軽減と、運用性の向上を図った。
また、ページ構成やフォント、文字サイズなどもAdobe Experience Managerの「テンプレート化」する機能を活用することで、ローカル拠点のマーケターのニーズにも配慮がなされている。拠点ではアセットをテンプレートにレイアウトし、細かい調整を行うだけで、デスクトップもモバイルも多言語に最適化されたページが簡単に制作できる。
さらに、動画など、多様な表現を可能にするページ部品を「コンポーネント化」した。このように、「数種類の基本テンプレート」と「コンポーネント」を組み合わせることにより、リッチで多彩なページ表現を、マルチデバイスで、多言語で容易に展開できたという。2016年3月時点で、73サイト、31言語に展開している。
パナソニックは続いて第2段階として、ECサイトとの連携強化や、パートナーの商品販売サイトへの送客強化(顧客体験の最適化)に取り組んだ。具体的には、Adobe Experience Managerで作成したコンテンツを、パートナーが運営するサイトに半自動的に掲載される仕組みを構築。これにより、自社サイトだけでなく、提携するパートナーのサイトにおいても、一貫した顧客体験の提供を実現している。
そして、第3段階ではパナソニック独自戦略としてCCDM(カスタマー セントリック デジタル マーケティング)を掲げ、顧客一人ひとり(個客)に合わせてパーソナライズされたコミュニケーションの実現に取り組んでいる。
従来のWebサイトでは、テレビの商品情報を閲覧した人にも、冷蔵庫の商品情報を閲覧した人にも同じコンテンツが表示されていた。そこでページをダイナミックに変更するためにAdobe Experience Cloudを活用し、ページ内の行動や顧客の嗜好にあわせた情報が表示されるようになっている(パーソナライズ)。また、顧客の興味が高そうな商品情報や、期間限定のキャンペーン情報などを、タイムリーに提案し、商機を最大化している(ダイナミックポップアップ)。
これらの施策は、高いコンバージョン率を示しており、他地域へも展開を進めているところだ。今後は、より深く顧客を理解し、一人ひとりに対してさらにタイムリーなマーケティングを展開できるようにするため、DMP(Data Management Platform)も活用していく予定だ。
グローカル化は、「全員参画」で「スピード感」をもって進めていくのがポイント
同社がこうしたグローカル化を進めていく上で、2つのポイントがある。1つ目は、「全員参画」だ。日本本社の決定事項を各国に押し付けないためにも、目指している方向性を各国の関係者と共有することに注力した。その目に見える仕掛けとして、コンセプトを可視化する動画を制作し、関係者間で意識の統一を図ったという。また打ち合わせには海外の責任者が一同に会し、同じテーブルで議論を交わす機会を設けることで、ヨコの連帯も強化している。
2つ目は、「スピード感」だ。これについては、経験値を高めつつ、長期化のリスクを回避できるような実装計画を立てた。同社の場合、言語数と商品数の限られる米国市場から展開し、その後、米国とエリアが近く、言語が複数のカナダで多言語の経験を積み、その次に商品数の多いアジアに展開。最後に、商品も言語も多いヨーロッパ地域に展開したという。このように、一つひとつの成功と学習を段階的に積み上げていくことが成果につながった。
まとめ
多様な顧客ニーズに応じて適切な顧客体験を提供するには、柔軟性が欠かせない。しかし、個別最適を進めると全体の効率性や一貫性が保てない。つまり、「グローカル化」のアプローチは、全体としての効率性と個別の柔軟性を両立させる必要がある。
効率性は、統一プラットフォームと共通化できる中央組織の組み合わせによって、柔軟性は、プラットフォームを利用するメンバーの全員参画とスピード感を持たせる実装計画がカギを握っているといえるだろう。
全体最適の視点で統一されたデジタルプラットフォームを活用することにより、企業は、「正しい人に」「正しいコンテンツを」「正しいときに」「正しい場所へ」届けていくための、一貫した取り組みに集中できるようになるのだ。
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顧客体験を生み出すコンテンツ。顧客の期待に応えるには、バリエーションを用意する効率化と、適切なタイミングの特定が重要です。