急成長B2B SaaSスタートアップが明かすPMF達成に向けたAtoZ
近年、国内でも、上場を果たしたり、ネクストユニコーンとして注目を集めたりするB2B SaaSのスタートアップが増えてきました。これらの企業は、革新的なプロダクトを擁するのは当然ながら、マーケティングを強化することで飛躍的な成長を遂げています。実際に、各社でどのような取り組みが行われているのでしょうか。
アドビでは、2021年10月に「成長企業に学ぶ、B2B SaaSを支えるマーケティング」と題したオンラインイベントを開催しました。本ブログでは、当日行われたセッションの中から、株式会社Leaner Technologies マーケティング & セールスグループ マネジャー 鈴木 貴丸氏による「急成長SaaSスタートアップ 営業マーケティングの戦略と実践」の内容をご紹介します。
セッションの中では、立ち上げフェーズで実践した営業マーケティングのステップを4つに分け、お話いただきました。
もくじ
- ステップ1:CPF顧客ニーズを探るには売りに行くのが一番
- ステップ2〜3:PSFのためにやるべきこと
- ステップ4:PMF達成までのヒト・モノ・カネの分配について
ステップ1:CPF顧客ニーズを探るには売りに行くのが一番
Leaner Technologiesは2019年2月22日に創業したスタートアップです。「Leaner支出分析」「Leaner見積」という2つのサービスを提供しており、現在30〜40社のエンタープライズ企業に導入いただいています。最近ではICCサミットKYOTO2020のスタートアップ・カタバルトで優勝したほか、多数のメディアで取り上げてもらうなど、おかげさまで非常に高い注目を集めています。正直、まだ成功したとは言えませんが、これまでに我々がPMF(Product Market Fit)を目指してどんな取り組みを行なってきたのか、今日は赤裸々にお伝えしたいと思っています。
私がLeanerにジョインしたのは、創業4ヶ月の頃です。当時はサービスをローンチして間もないタイミングだったので、当然、導入社数は0社。売上は0円。社員も3人という状態でした。すべてのスタートアップがまず目指すのはPMFです。市場から製品が求められる状態をつくり上げなければなりません。
以下の図は一般的に言われる、プロダクトのローンチからグロースに至るまでの流れです。リソースに限りのあるスタートアップがいきなりPMFに到達するのは難しいので、一つひとつステップを踏んでいくことがとても大切です。
B2B SaaSの購買活動は、基本的に複数人の合意形成を必要とします。当然、企業の社員としてご検討いただくので、企業のメリットだけでなく、担当者個人のメリット、決裁者のメリットも提示しなければなりません。実際にプロダクトのコンセプトを伝えると、「そんなのあったらいいね」といったカジュアルなお褒めの言葉をいただくことは多々あるのですが、本当に買ってもらえるかどうかは、まったくの別問題。売りに行ってみなければ、お客様のペインの深さはわからないのです。Autifyの近澤さんの言葉を借りれば、「"Burning needs"を突き詰める」のが最初のフェーズでした。
とはいえ、世の中のすべての人を対象に売りに行くのは効率が悪い。課題やコンセプトの仮説に基づいて、企業軸や部門軸でセグメンテーションをしていき、その中で最も筋が良さそうなところ、あるいは最も課題感を強く持っていそうなところに仮説ターゲットを絞ってアプローチをかけていきました。
この時に重要なのは、 "検証顧客を増やすこと"です。そのために、仮説ターゲットの特性に合わせて、コスト・検証期間・リソースのバランスを考えながら、効率の良い顧客獲得チャネルを使うことをオススメします。よく「PMFするまでは広告は出稿しない方がいい」という話も聞きますが、我々の最初のお客様はPRや広告で入ってきたお客様でした。販売を目的に多額の広告費をかけるのはリスクが高いと思いますが、検証顧客を増やすという目的が明確にあるのなら、広告も十分に有効だったという実感があります。
ステップ2〜3:PSFのためにやるべきこと
実際にお客様に売りに行ってみて、お客様の課題を特定できたあとは、その課題解決策として自社のプロダクトが有効かを突き詰めて考えるステップに入っていきます。
ここで非常に重要なのが、セグメントごとにフィードバックをきちんと整理することです。ターゲットの仮説精度を徐々に高めるために、「誰の」「どんな」Burning needsを解決するのかを、日々アップデートしながら明確にしていきました。
仮説精度を高めるために、もうひとつ行なっていたのは、ペルソナをつくることです。営業活動を通じて、営業担当者はお客様に対する理解の解像度が高まっていくものの、それだけでは実際にお客様と接しない開発チームや経営層が置き去りになってしまうからです。したがって、お客様がどんなBurning needsを抱えているのか、きちんとチーム内で共有して、お客様に対する理解を共通化しておく必要がある。そのためにペルソナをつくり、そのペルソナの中でどんなパーセプションチェンジが起こることで導入に至るのか、全社員でワークショップをしながらカスタマージャーニーマップを作成しました。
その後、これらの過程で得た発見や、我々が伝えたい価値やメッセージを落とし込んで、ブランドブックを作成。キャッチコピーやカラーチップスなどを整備していきました。
ここまでくると、どのお客様のどんなBurning needsを解決するのかが決まり、それに対するソリューションとして我々のプロダクトがヒットしそうだと確信を得られるようになります。
ステップ4:PMF達成までのヒト・モノ・カネの分配について
次に、ようやくPMFを目指すプロセスに入っていきます。ここからは我々も試行錯誤している最中なので、PMFに向けた取り組み例としていくつかご紹介します。
PMFを目指すには、そもそもPMFとは何なのかをメンバー全員がきちんと理解しておくことが重要です。PMFの定義にはいろいろなものがありますが、我々はALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロさんがブログに書かれていた、次の4つのFitを達成することがPMFにつながるという説明が最もしっくりきたので、こちらを採用しています。
これらの4つのFitは一朝一夕で実現できるものではありません。特にエンタープライズ向けのB2B SaaSであれば、1〜2年の時間がかかります。なので、それまでの間、ヒト(組織)・モノ(ツール)・カネ(投資)の資源をいかに分配したり調達したりしていくか、戦略を立てる必要があります。それぞれ具体的に見ていきましょう。
ヒト(組織)
PMFを達成するために重要なのは、顧客理解における解像度のばらつきをできるだけ無くし、全社一丸となってスピード感のある開発体制を築くことです。そこで、もともと役割ごとに分かれていたチームをまとめて、「1プロダクト=1チーム」で協働できる体制を整えました。
モノ(ツール)
我々は2つの目的のために、どんどんツールを活用するよう、心がけています。目的の1つ目は、オペレーションの効率化を図り、スピードアップすること。2つ目は、タッチポイントで得られた情報を蓄積して活用することで、精度の高い意思決定を行うこと。そのために、すべてのオペレーションを網羅しながら、速報性の高い情報とストックで積み重なる情報を連動させられるツールを採用するようにしています。
我々がAdobe Marketo Engageを導入したのは、創業から1年経った頃です。「商談機会を最大化して、コンセプトの検証速度を上げること」、そして「そのために必要なオペレーションを可能な限り自動化・最適化して、少ないリソースでも戦える組織をつくること」という2つの目的で導入しました。
MAとSFAの導入にあたり、重要だと思ったポイントは次の3つです。
① "WHY(なぜやるのか)":目的を明確にする
MAもSFAも導入してすぐに価値が出るものではなく、中長期で運用を徹底して初めて価値が出るものです。だからこそ、導入の意思決定者が目的を明確にした上で、チーム全員が理解している必要があると思います。
② "HOW(どう実現するのか)":適切な人をアサインする
MAとSFAで担当者を分けてしまうと、担当同士のコミュニケーションが難しくなると聞きます。我々は横断して扱う人間を、私を含めて2人アサインしており、全体最適を考えながらツールを活用することができています。
③ "WHAT(何をするのか)":目的から逆算して決め、無理のない導入プランを組む
ここは反省点でもあるのですが、プロダクトのローンチに向けて3ヶ月しか期間がない中で、私一人でMAとSFAの導入プロジェクトを進めたために、とてもつらかった過去があります。Adobe Marketo Engageの導入コンサルタントに入ってもらい、オンボーディングのサポートを受けながら、無理のないスケジュールを組むことは、とても大切だと実感しています。
カネ(投資)
私の考えなので正解は分かりませんが、PMF前のコストの使いすぎはオススメしません。特に固定費をみだりに上げるのは、できるだけ避けたほうがいいと考えています。コロナ禍のような外部環境の変化も含め、想定外のことは必ず起こるものとして捉えておくべきだからです。自分たちのフェーズに応じて、バランスを図りながら、適切な投資でPMFを目指すことも、マーケターの大切な役割の一つ。できるだけ長くチャレンジし続けるためにも、お金の使い方は慎重に考えましょう。
最後に、我々の取り組みについては「激闘の記録--あるシリーズAスタートアップのセールス全史」としてnoteにまとめていますので、ぜひこちらもご参照ください。
激闘の記録ーあるシリーズAスタートアップのセールス全史 https://note.com/takamaru_s/n/nafb0de886380