デジタル顧客体験(CX)とは?概要とベストプラクティスを解説
近年、多くの企業では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みや、AI(人工知能)などの進化したテクノロジーの活用が進められています。
デジタルの重要性が増すなかでビジネスを成功させるには、あらゆるチャネルをまたいで、パーソナライズされた「デジタル顧客体験(CX)」を提供することが不可欠です。
シームレスでパーソナライズされたデジタル顧客体験(CX)を設計、管理することで、より多くの顧客を獲得および維持し、ビジネスの長期的な成長を促進できるでしょう。
この記事では、デジタル顧客体験(CX)の概要や重要性、デジタル顧客体験(CX)ジャーニーについて解説します。さらに、デジタル顧客体験(CX)のベストプラクティスや、おすすめツールについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
デジタル顧客体験(CX)とは?
デジタル顧客体験(CX)とは、デジタルプラットフォームを通じて企業とやり取りする顧客が、製品やサービスを認知、購入して利用するまでの一連の体験のことです。
これらのプラットフォームには、webサイト、モバイルアプリケーション、ソーシャルメディア、電子メールなど、デジタル接点を伴うあらゆるチャネルが含まれます。
昨今は小売業界や自動車業界など多くの業界が、広告だけでなく、コマースや顧客との関係構築のために、仮想世界(メタバース)にも注目し始めています。
今日のマーケターは、顧客の関心を惹きつけ、売り上げを伸ばすために、利用可能なあらゆるデジタルプラットフォームを検討し、最適なものを選択して使いこなせなければなりません。
ポジティブなデジタル顧客体験(CX)の実現に活用できる接点には、次のようなものがあります。
- 企業のwebサイト
- モバイルアプリ
- ライブチャット
- 電子メールマーケティング
- ソーシャルメディア
- パーソナライズされたアカウント
- プッシュ通知
- eラーニングポータル
- オンラインレビュー
顧客は、デジタル顧客体験(CX)全体を通じて、プロセスの最初から最後までスムーズかつ容易に実行できることを期待しています。ポジティブなデジタル顧客体験(CX)を提供することで、こうした顧客の期待に応え、好意的な印象を与えることができるでしょう。
また、優れた体験を提供すれば、顧客が自身の体験を他者と共有したり、リピーターになったりする可能性が高まります。
デジタル顧客体験(CX)は、マーケティング戦略に不可欠な要素となっています。
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デジタル顧客体験とCXの比較
顧客体験(CX)には、顧客と企業のあらゆるインタラクション(双方向的なやり取り)が含まれます。一方、デジタル顧客体験は、デジタルインタラクションのみを指します。
つまり、CXはより幅広い概念であり、デジタル顧客体験はその一部であるといえます。
多くの顧客は、これらの概念を明確に区別することはありませんが、企業は実店舗での体験と同様に、質の高いデジタル顧客体験を提供する必要があります。そのためには、従来のチャネルとデジタルチャネルを、シームレスに移行できることが不可欠です。
また、企業は、ブランド体験全体に対して高まる顧客の期待に応えるために、デジタル顧客体験の取り組みを強化しなければなりません。
取り組みが成功すれば、顧客はデバイスやチャネル、場所を問わず、最も便利かつ魅力的な方法で、必要なものを入手できます。それらをすべて実現できる優れたプロセスを構築することで、顧客は長期にわたって、何度も自社の製品やサービスを利用するようになるでしょう。
デジタル顧客体験(CX)と関わりの深いマーケティング用語
デジタル顧客体験(CX)と関わりの深いマーケティング用語として、以下の2つが挙げられます。
-
ユーザーインターフェイス(UI)
ユーザーが製品/サービスを利用する際の接点のこと。操作する画面やマウス、キーボードなどが含まれる。
-
ユーザーエクスペリエンス(UX)
ユーザーが製品/サービスの使用で得られる体験のこと。
例えば、ユーザーがアプリを利用する場合、アプリの操作画面はUIに該当し、アプリを通してユーザーが得る体験はUXに該当します。直感的な操作が可能なUIデザインに改善すれば、結果的にUXの向上も見込まれるでしょう。
デジタル顧客体験(CX)はサービスの認知から購入、利用までのあらゆる体験を含むので、UIやUXはその構成要素ともいえます。
デジタル顧客体験(CX)が重要である理由
次に、デジタル顧客体験(CX)が重要である理由について見ていきます。
顧客の購買行動を促進できるため
シームレスなデジタル顧客体験(CX)を提供することで、顧客との信頼関係を構築し、購買行動を促すことができます。
ただし、デジタル顧客体験(CX)のスピードが遅い場合や、信頼性が低い場合は、購買行動に悪影響を与える可能性があります。デジタルの世界では、あらゆる企業がスピード感のある取引を実現するために、激しい競争を繰り広げているからです。
優れたデジタル顧客体験(CX)を実現できれば、潜在顧客から新規顧客への転換や、売り上げの向上にもつながります。企業は、適切なデジタル顧客体験(CX)の提供を最優先課題として取り組む必要があります。
パーソナライズした体験を提供できるため
消費者の66%は、体験がパーソナライズされていない場合、その企業からの購入をやめると回答しています。多くの顧客は、パーソナライズされていない体験を望んでいないことに留意が必要です。
また、顧客の約3/4が、ひとつの取引に複数のチャネルを利用しており、半数以上がプロセス全体でパーソナライゼーションを期待しています。
デジタルを活用して、シームレスで顧客一人ひとりのニーズに沿った体験を提供することで、より多くの顧客を獲得し、売り上げを向上できます。自社との関係を長く維持した顧客が友人や家族に自身の体験を共有し、新規顧客の獲得につながる可能性もあるでしょう。
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デジタル顧客体験(CX)ジャーニー
そもそも顧客が製品やサービスの情報を得て、購入に至るまでのプロセスを「ジャーニー(旅)」に見立てたマーケティング用語として、カスタマージャーニーがあります。
デジタル顧客体験(CX)ジャーニーとは、デジタルプラットフォームにおける顧客のジャーニーにフォーカスしたプロセスのことです。
このジャーニーは「認知」「評価」「購入」「再購入」「支持」の5つの段階で構成されています。
企業は、各段階で優れたデジタル体験を提供することで顧客ロイヤルティを高め、成長を促進できます。ここでは、デジタル顧客体験(CX)ジャーニーにおける各段階の概要や、デジタル顧客体験(CX)とどのように相互作用するかを説明します。
1.認知
デジタル顧客体験(CX)ジャーニーの最初の段階では、自社の製品やサービスで解決可能な課題を抱えている顧客の関心を惹きつける必要があります。顧客は、自身の課題とその解決方法を把握しています。
顧客に自社を認知させるには、コンテンツマーケティングや有料広告のほか、インテントベーストラフィック(ユーザーの意図にもとづくアクセス数)などを活用することが大切です。
2.評価
次の段階では、顧客はリサーチと情報収集を行い、複数の企業を比較検討します。顧客レビューをもとに、自社が品質と費用対効果が最も高い製品やサービスを提供できているか、顧客からどの程度信頼されているのかを確認しましょう。
これは、デジタル顧客体験(CX)の重要な段階なので、あらゆるデジタル接点で顧客の共感を呼ぶ必要があります。デジタル接点とは、製品に対する顧客の理解を促進する接点を指します。以下のように、あらゆる製品マーケティングコンテンツが含まれることが特徴です。
- デモ
- 無料トライアル
- 製品に関するホワイトペーパー
- ケーススタディ
- 製品比較表
顧客は、ソーシャルメディア、検索エンジン、webサイトなどのプラットフォームを通じて、これらのコンテンツを見つけ出します。
3.購入
顧客は、様々な企業の中から、自社の製品を購入することを決定します。しかし、顧客が決定を下した後であっても、技術的な障害が顧客の購入を妨げる可能性があります。この段階での重要なデジタル接点は、決済ページやサブスクリプション登録ページです。
これらのプロセスの有効性を探るため、放棄率を左右するいくつかの指標を注視する必要があります。これにより、購入プロセスを開始したものの、購入に至ることなく離脱したオーディエンスを把握できます。
また、特定の期間内に実行された購入の回数も、デジタル接点の有効性を把握するうえで重要な指標です。
4.再購入
新規顧客を獲得するよりも、既存顧客に売り込むほうがはるかに容易なので、顧客の再購入を促すことは重要です。自社の製品やサービスに対する顧客満足度を高めることで、再購入につなげられます。
顧客の再購入を何度も促すには、以下の施策を強化するとよいでしょう。
- デジタルカスタマーサポート
上記施策の具体例として、既存顧客をターゲットとする、24時間年中無休のカスタマーサポートチャットや、メールマーケティングキャンペーンの導入が該当します。
加えて、ロイヤルティ化やセールスの強化、顧客ごとに最適化した情報やサービスを提供する「パーソナライゼーション」の強化も行う必要があります。
また、指標の追跡も引き続き行いましょう。企業の44%が、顧客維持率を把握できていません。指標を施策の改善に活用できれば、差別化につながります。
出典:Customer Gauge「Average Customer Retention Rate by Industry (Updated for 2025)」
5.支持
この段階では、リピート顧客がロイヤル顧客へ転換します。これらの顧客は、ソーシャルメディアを通じて家族や友人に企業を宣伝したり、適切なチャネルで製品のレビューを投稿したりしています。
また、紹介プログラムを通じて、新規顧客を積極的に紹介してくれるケースも少なくありません。
この段階では、紹介率、つまり購入総数に対する紹介購入の比率を追跡できることもポイントです。
多くのロイヤル顧客を獲得している企業は、デジタル顧客体験(CX)ジャーニーにおいて、適切なタイミングで優れた施策を実践しているといえます。
デジタル顧客体験(CX)のベストプラクティス
イタリアの経済学者Vilfredo Pareto氏が提唱した「パレートの原理」に則ると、既存顧客の20%によって、売り上げの80%が生み出されていることになります。
このことを踏まえると、シームレスなデジタル顧客体験(CX)を提供し、既存顧客のリピート購入などを促す重要性は高いといえるでしょう。ここでは、優れたデジタル顧客体験(CX)を実現でき、成果の測定にも役立つベストプラクティスを紹介します。
オーディエンスの特定
優れたデジタル体験を提供するには、様々な顧客タイプを理解する必要があります。「顧客セグメンテーション」という手法を活用すれば、購買行動にもとづいて顧客を分類し、メッセージやオファーをパーソナライズするのに役立ちます。
多くのオーディエンスをセグメンテーションする際は、次のような質問に対して回答しながら分類していきましょう。
- 顧客は、どのくらいの頻度で自社と接触したいと考えているか(毎日、週1回など)?
- カジュアルではなくフォーマルな表現を好むセグメントはどれか?
- 自社の全製品に関心を持っているセグメントはどれか?
- 自社の一部の製品のみに関心を持っているセグメントはどれか?
デジタル顧客体験(CX)の中核を担う要素は、ターゲットオーディエンスによって異なることに留意が必要です。自社の製品やサービスを利用する顧客像である「ペルソナ」を作成することで、様々な顧客セグメントに柔軟に対応できます。
ペルソナの構成要素には、性別や年齢といった基本的なデモグラフィック情報のほか、動機や行動が含まれます。
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カスタマージャーニーの追跡
最適なデジタル体験を生み出すには、顧客が自社といつどこでやり取りするのかを把握する必要があります。ペルソナごとにカスタマージャーニーを構築することで、顧客接点の追跡が可能です。
データの抽出も、顧客接点をより詳細に理解するのに役立ちます。具体的な方法として、顧客から情報を直接収集したり、分析ツールを使用したりして、ジャーニーがどのように進行しているのかを把握しましょう。
万一、自社の用意した顧客接点がジャーニーの進捗を妨げている場合は、顧客がスムーズに購買できるように調整し、デジタル顧客体験(CX)を強化する必要があります。
オムニチャネル体験の創出
包括的なオムニチャネル体験を構築するには、コンテンツ戦略が重要です。具体的には、オンラインとオフラインの接点をまたいで単一のシームレスなジャーニーを構築し、オーディエンスが自社とスムーズにエンゲージメントできるようにしましょう。
この取り組みを行う際は、まずカスタマージャーニーの潜在的な接点を、すべて把握する必要があります。把握すべき項目として、以下が挙げられます。
- プラットフォームとデバイスをまたいで容易に移動できるか
- 過去のやり取りを反映したメッセージを配信できているか
- 各段階で適切な量の情報を提供して、オーディエンスを正しい方向へ導いているか
顧客からのフィードバックループの構築
デジタル顧客体験(CX)の効果やその改善方法を把握するには、顧客の満足度を確認する必要があります。アンケートやシンプルな評価ボックスを活用して、全体的な顧客満足度を判断しましょう。
また、顧客から質問や課題に関する問い合わせがあったり、カスタマーサービスに電子メールが寄せられたりした場合は、必ず回答、返信を行うことが重要です。
さらに、自社が提示した回答や解決策が、顧客にとって有益であるかも確認しましょう。必要に応じて、製品チームにユーザーテストを依頼して、改善点の洗い出しなどを行うことも有効です。
デジタル顧客体験(CX)のパーソナライゼーション
顧客は、企業から直接気にかけてもらえることを期待しています。顧客が企業を信頼しており、最適な体験を創出するために自身のデータを使用すると考えていれば、顧客は積極的にデータを提供するでしょう。
そのためには、製品やサービスの情報、レコメンデーションをタイミングよく提供して、自社が顧客の好みを把握していることを示し、デジタル顧客体験(CX)をパーソナライズする必要があります。
例えば、自社のECサイトにおける会員登録プロセスで、顧客に生年月日を提示してもらうのも手です。これにより、顧客の誕生日に、ショッピングカートに追加されている製品の割引キャンペーンなどをスムーズに案内することができます。
データ分析の活用
データ分析は、顧客の行動パターンに関するインサイトを得るための優れた方法です。Adobe AnalyticsやGoogle Analyticsなどのデータ分析ツールは、ビジュアルレポートやカスタマイズされたダッシュボードを通じてデータを可視化し、データの真の価値を引き出すのに役立ちます。
Adobe Analyticsの場合、あらゆるチャネルからデータを収集/統合して、顧客の全体像にもとづくリアルタイムのインサイトを提供できることが特徴です。AIとマシンラーニング(機械学習)を活用することにより、複雑な予測分析も容易に行えます。
改善策の模索
企業は常に、CXとデジタル顧客体験の両方を向上させるように努力する必要があります。顧客のフィードバックとデータトレンドを活用して、試行錯誤しながら継続的な施策を展開し、その成果を測定しましょう。
これらの取り組みを通じて経験を積めば、望ましい顧客の感情や行動を促進するためのインサイトを獲得できます。
デジタル顧客体験(CX)を進化させる「Adobe Experience Manager」
デジタル顧客体験(CX)を進化させるには、アドビの「Adobe Experience Manager」が適しています。
Adobe Experience Managerには、デジタルコンテンツの一元管理が可能なデジタルアセット管理(DAM)と、webコンテンツのスムーズな作成/管理を行えるコンテンツ管理システム(CMS)の機能が搭載されています。
これらの機能が搭載されていることにより、顧客一人ひとりに合わせてパーソナライズされた適切な体験を、タイミングよく提供できます。
また、AIを利用した最先端の自動化ツールにより、webサイトやIoTなどのあらゆるチャネルをまたいで、1対1のデジタル顧客体験を大規模に構築、最適化、配信できることも魅力です。
クラウドサービスの利点を備えたAdobe Experience Managerなら、最新状態が常に維持されるので、コンテンツを最大限に活用し、高まり続ける顧客の期待に応えることができます。
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ツールを活用して優れたデジタル顧客体験(CX)を実現
シームレスなデジタル顧客体験(CX)を実現することで、顧客ロイヤルティを維持し、顧客を通じた自社の宣伝を促進できます。カスタマージャーニーの追跡やオムニチャネル体験の創出といったベストプラクティスを採用し、自社の取り組みを強化しましょう。
多くの企業は、顧客管理ツールやデータによって、デジタル顧客体験(CX)を推進するための基盤を既に確立しています。DAMとCMSの機能を組み合わせた「Adobe Experience Manager」を活用すれば、パーソナライズしたデジタル顧客体験(CX)を強化できます。
優れたデジタル顧客体験(CX)を提供し、顧客ロイヤルティや売り上げの向上につなげたい方は、ぜひ導入をご検討ください。
(公開日:2023/8/10)