【Adobe Summit 2023 Report】 Vanguard GroupのWebサイト改革

Adobe Summit 2023では、さまざまな業界向けに、製品やソリューション、事例について取り上げる数多くのセッションが開催されました。その中で、金融業界向けのセッションでは、世界で初めてインデックス型投資信託を個人投資家に提供したことで知られるVanguard Groupの事例が注目を集めました。

もくじ

  • 「MarTechプラットフォーム」として基盤を再構築
  • B2B営業の70%は、営業担当者が対応することなくデジタル上で完結
  • 稼働初期1年間で300万ドルのコスト削減効果

「MarTechプラットフォーム」として基盤を再構築

Vanguard Groupは、1975年に設立された歴史ある投資顧問会社です。現在は全世界で2万人の従業員を抱える規模に成長し、投資信託分野で世界トップ、ETF分野で世界2位。運用資産は7兆2000億ドルを超え、3000万人の顧客が同社の金融商品に投資しています。

同社は、MarTech(マーテック。Marketing=マーケティング とTechnology=テクノロジー を合わせた造語)への投資を積極化させています。同社のHead of MarTech PlatformsであるTherron Hofsetz氏は、「最新の優れたMarTechプラットフォームは、タイムリーかつ適切なコンテンツの提供を可能にしてくれます。これにより、顧客体験を効率的に改善し、収益性をより高めることができます」と話します。

3年間をかけたMarTech投資は、マーケティング活動をサポートするプラットフォームを完全に再構築する大掛かりなものでしたが、それにより同社は最先端の技術を手に入れ、ドラスティックにマーケティング活動を進化させることができました。

同社におけるMarTechプラットフォームは、マルチベンダー構成を基本としています。具体的には、キャンペーンやSNS管理のための「オーケストレーション」、Webコンテンツを充実させる「エクスペリエンス」、データを統合管理する「データプラットフォーム」という3つのカテゴリを有機的に連携させるシステム構成とし、それぞれに最適なアプリケーションを配置しています。

オーケストレーションでは、すべての顧客/潜在顧客に対して、正しいチャネルかつ最適なタイミングで効果的にメッセージを届けることを主眼に、DMP とAdobe Workfrontのワークフロー機能を採用。Adobe Marketo EngageのB2B Automation機能もこの領域で役立てています。

エクスペリエンスでは、自動化とパーソナライゼーションによって顧客のWeb体験を大幅に改善し、さらにセルフサービス化を加速することを狙いとしました。中心となるコンテンツ管理システムにAdobe Experience Managerを据え、パーソナライゼーション機能をAdobe Targetで提供。マルチベンダー環境における柔軟なタグ管理にAdobe Experience Platform Launchを活用しています。

データプラットフォームは、本格的にマーケティングDXを実現しようとする上で、拡張性および柔軟性に富んだものを選定する必要があります。Adobe Experience PlatformのCDPを採用してシステムの中心的な存在となるAdobeのソリューション群とのシームレスな連携を実現し、Adobe Analyticsでデータサイエンティストに強力な分析機能を提供することになりました。

B2B営業の70%は、営業担当者が対応することなくデジタル上で完結

プロジェクトは2020年にスタートし、1年をかけて環境構築に取り組みました。十分なテストを重ね、2021年から順次ロールアウト。カナダから切り替えをスタートし、世界中へと展開していきました。レガシーなコンテンツ管理システムからの移行も、段階的に行い、たとえば個人投資家向けサイトは、同年中に3分の1を切り替えています。コーポレートサイトのリニューアルなども行い、新たなMarTechプラットフォームへ切り替える土台が出来上がりました。

翌2022年にはすべてを新しいMarTechプラットフォームへと切り替えました。Adobe Targetを全面的に利用できるようにし、レガシーなパーソナライゼーションの仕組みと専門家に依存していたプロセスを撤廃。それにより、年間280万ドルのコストを削減しました。現在は、すでに定着した新MarTechプラットフォームを日々ブラッシュアップし、より良い仕組みへと進化させるフェーズに入っています。

同社のB2Bビジネスにおいて、70%は営業担当者が対応することなく、デジタル上で完結します。そのため、同社はWebサイトを極めて重要な存在であると位置づけています。Aimee Civera氏は、「以前のWebサイトはひどいものでした。デザインの統制が取れておらず、ユーザーは直感的に使えません。顧客行動情報を得られなかったことも致命的でした」と話します。「今回のプロジェクトは、単にコンテンツ管理システムを移行するものではありません。ユーザーの感情に訴えかけられるようなデザインを目指したものでもあるのです」。

稼働初期1年間で300万ドルのコスト削減効果

新MarTechプラットフォームでは、Adobe AEMを採用したことで、まとまりのあるレスポンシブデザインが実現しました。同時に、半年で150ページ以上を更新する制作能力を得ることもできました。ページ制作スピードは、以前の6倍です。また、検索エンジンを最適化したことで、オーガニック検索からのトラフィックは80%向上しました。

海外拠点における独自コンテンツ展開でも、サイトの構想からデリバリーまでの期間を大幅に短縮しました。欧州初めての事例になったイタリアでわずか12週間。一部のテンプレートを流用できるその後のスイスでは6週間、フランスで5週間、オランダでは4週間と、シングルプラットフォームでグローバル展開するメリットを十分に生かすことができました。

個人投資家向けサイトでは、コンポーネントとコンテンツの再利用率を95%へと高めるなどの成果で、80%の生産性向上を達成。24時間×365日の運用を求められる可用性についても、99.993%という極めて高い数値を叩き出しました。

「Adobe Experience Managerにより、ページのオーサリングなどに費やしていた業務時間は3分の1になりました。2021年から2022年の1年間で削減したコストは300万ドルに及びます」

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