CMS刷新プロジェクト – セキュリティ強化とガバナンスの両立
グローバルに展開されている企業では、各国ごと、事業部ごと、製品ごとなど、様々なwebサイトが至る所で立ち上がり、セキュリティ面やブランドガバナンス面でお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、webサイト構築、配信に欠かせないCMS(コンテンツ管理システム)のAdobe Experience Manager(以下、AEM)ユーザーが集う「Adobe Experience Manager User Group Day」で披露されたユーザー事例の中から、「グローバルにおけるブランドガバナンス強化活動〜完全分散型から選択的集中型ウェブサイト運営へのシフト〜」 と題した、株式会社マクニカ マーケティング統括部 DXマーケティング部 塚本祐子氏によるセッションの模様をお届けします。
コーポレートサイトはどう生まれ変わったのか
1972年に設立され、グループ売上1兆円超、従業員4,200名、23カ国81地域に拠点を持つマクニカ。半導体商社としてスタートした同社は、徐々にサービスソリューションモデルへとシフトしていく中で、半導体、セキュリティ、CPSセキュリティ、ネットワーク、スマートシティ/モビリティ、サービスロボットなど事業ポートフォリオが複雑化しており、これがwebサイトの課題につながっていると言います。
同社のマーケティングの組織体制は、主にグローバルの主要な拠点にマーケティング部門があり、また国内でも事業部ごとにマーケティング部門を設けています。塚本氏を含む3名で、それらの部門と連携を取りながら、webサイトの運営をはじめとするコーポレートのマーケティングを統括されているそうです。
以下の画像は、AEMを導入する以前のコーポレートサイトです。世界地図があり、各拠点にある子会社へのリンクが貼られている形となっています。各国のwebサイトにアクセスするためのゲートウェイ型で、マクニカについての情報は限定的でした。「初めて見たときは、簡素な作りに驚きました。マクニカにはグローバルで共通した自社製品がなく、各国によってフォーカスポイントがまったく違うという背景があるとはいえ、社内でも『ユーザーに使いやすい状態になっているのか?』という会話がある状態でした」(塚本氏)。
そこからAEMを導入して生まれ変わったのが、以下のwebサイトです。「情報を取捨選択しマクニカの強みを強調することで、横断的なコンテンツを充実させました」と塚本氏は語ります。
「達成したかったこと」と「できたこと」
では、ここからwebサイトのリニューアルプロジェクトの中身について見ていきましょう。
これまでプロジェクトマネジメントの経験を積まれてきた塚本氏は、まず本社と子会社それぞれにとってのベネフィットを考えるところから始めたと言います。「マクニカはM&Aで大きくなってきた歴史があり、子会社には子会社のDNAがある。彼らには彼らの意思がある中で、私たち本社だけでなく、子会社にもベネフィットがあるようにしないと、絶対にプロジェクトは頓挫してしまうからです」(塚本氏)。
これらのベネフィットを生み出すために、採用いただいたのがAEMでした。「まだこのプロジェクトは終わっておらず、ようやく2つのリージョンが軌道に乗り始めたところですが、すでに達成できたことはたくさんあります」と語る塚本氏は、できるようになったこととして、具体的に以下の項目を挙げました。
現状の問題から課題を抽出→アクションへ
以前はwebサイトの担当者が1人しかおらず、その人が辞めたらおしまいという状態。誰もが使いやすいAEMを採用したことで、リージョンでもコンテンツを作ってアップデートできるように。
・属人化のリスクの排除:グローバルで統一された運用体制にすることで、属人性を解消する。
・シングルプラットフォーム化:コスト/時間を低減し、運用効率を改善。
・セキュリティ強化:既存の脆弱性が高いシステムから脱却。企業の信頼性担保のため、セキュリティリスクを低減する。
ガバナンス
どこかのリージョンで、コンプライアンス上懸念のあるコンテンツがアップされることが理論上なくなった。
・メッセージを伝達/実装するプロセス:AEMの標準コンポーネントを使用することで、メッセージ、イメージの見た目や印象を統一化。
・モニタリングの仕掛け:グローバルの承認プロセスを経由することで、モニタリングを可能にする。
トランスナショナル
子会社ごとにフォーカスポイントが違う中でも、多様性を受け入れられる。
・本社からのガバナンスとローカル市場の多様性への適応
1st Step:各リージョンの状況に応じて必要なサポート。
2nd Step:①グローバル展開に有用なコンテンツの展開を開始。②各リージョンの市場/戦略に応じたローカルコンテンツの展開。
3rd Step:翻訳ツールと連携することで、コンテンツ展開をさらにスピードアップ。
「ブランドガバナンスを図りながらも、本社から押しつけることはしたくありませんでした。AEMを使ったコミュニケーションプロセスによって、『コーポレートの意向』と『ローカルの気持ち』 を両立させながら、バランスを取れるようになってきています」(塚本氏)
対面で会って話すことの大切さを実感
「実はデジタルにあまり強くない私でも使いこなせるくらい、AEMはとにかく簡単。各リージョンのマーケターは兼務の人が多く、これまでのようにHTMLが書けないと管理が難しいシステムでは、厳しいものがありました」と語る塚本氏。AEMによってwebサイト運営のハードルがグッと下がったことで、グローバルでオペレーションできる人が増えてきたと言います。
そうは言っても、当然、AEMを導入するだけで、勝手にうまく回り始めるわけではありません。ここまでたどり着くまでに、様々なリージョンの方々と、どのように合意形成をされてきたのでしょうか。
「やはり重要なのは 『直接会うこと』 です。マクニカは、アジア圏が最も売上が大きいですし、声も大きい。このプロジェクトはコロナ禍にスタートしたこともあり、何度もオンラインミーティングで激論を交わしていました。やっと直接各リージョンに会いに行けるようになった際『あれだけ時間をかけていたことが、対面で話したら30分で解決した』という出来事がありました。会って話して、目を見て、想いを伝えることが、合意形成を図る上では大切だと思います」(塚本氏)
加えて、「こちらから出向き、『みんなの気持ちを聞かせてほしい』という姿勢を見せることが、子会社の方々にとっては重要だと分かりました」と言い、本社の権威を振りかざさないことの重要性についても語られました。
AEMの導入を機にスタートした本プロジェクトは、グローバルの「macnica.com」から着手を始めており、まだ日本の「macnica.co.jp」のwebサイトは未着手の状態です。日本が本社ということもあり、後者の方が断然規模が大きいと言います。また、ホールディングスの「holdings.macnica.co.jp」やオウンドメディアの「met.macnica.co.jp」といった関連サイトもAEMに移行する必要があり、「まだまだ大仕事が残っている」と話す塚本氏。
「日本はステークホルダーが多く、今後どう進めていこうか悩んでいる」とした上で、「ぜひユーザーの皆さんと意見交換させていただきたい」と語り、セッションを締めくくりました。