ソフトバンクのB2Bブランド戦略 - AIと内製化で収益に貢献

誰もが知るあの会社は、「通信だけじゃない」価値をどのように訴求したのでしょうか。今回は、アドビとビジネス・フォーラム事務局が共催するイベント「MARKETING FOR SUCCESS」シリーズの中から、「ソフトバンクのブランド価値向上のためのマーケティングの現在地」の内容をご紹介します。

ご登壇いただいたゲストは、ソフトバンク株式会社 法人マーケティング本部 本部長の上野邦彦氏。そして私、アドビ株式会社 DXインターナショナルマーケティング本部 フィールドマーケティングマネージャー 松井真理子がお話を伺いました。

「ソフトバンク=通信キャリア」のイメージを払拭したい

白い犬が「お父さん」役を演じるテレビCMでおなじみのソフトバンク株式会社。通信会社として抜群のブランド認知度を誇っていますが、同社 法人事業のマーケティングとコミュニケーションを統括する上野邦彦氏は、「『通信だけじゃない』ブランド価値をお客様に訴求することが、B2Bマーケティングにおける積年の課題でした」と明かします。

ソフトバンクでは、法人向けにも高品質な通信/ネットワークのサービスを提供されていますが、それだけでなく、企業の業務効率化や生産性向上、社会課題の解決などに役立つ多彩なDXソリューションも提供しています。近年では、生成AIなどの最先端テクノロジーを使ったソリューションもいち早くリリースし、その商材数は700種類以上にものぼります。

ところが、「コンシューマー(個人向け携帯電話事業)のブランドイメージに引きずられ、法人向けに通信以外の様々なソリューションを提供していることは、十分に認知されていませんでした。そこで、「『Beyond Carrier(通信キャリアを超える)』という当社の成長戦略を明確に打ち出し、『社会課題に、アンサーを。』というメッセージを大々的に発信することにしました」と上野氏は説明します。2024年には、俳優でシンガーの福山雅治さんをパートナーに起用し、このメッセージを強く訴える企業広告も制作しています。

上野氏は、「企業広告によって一定の認知は得られましたが、未だ『ソフトバンク=通信キャリア』というイメージが拭いきれていないのは事実です。現在取り扱っている製品やソリューションだけでなく、未来に向けて取り組んでいくことも含め、法人事業の実際の取り組みとブランドイメージがしっかり重なり合うようにしたいと思っています」と語ります。

「認知」「実感」の両面で、デジタルとリアルのコミュニケーションを駆使

では、ソフトバンクの法人事業は、具体的にどのようなブランド認知獲得の施策に取り組んでいるのでしょうか。

上野氏によると、事業内容とブランドイメージがしっかり重なり合うようにするため、「認知」と「実感」の両面でアプローチを行っているそうです。

「認知」を促すための施策として主に取り組んでいるのは、メールマーケティングやSEO、web広告、SNSなどを使ったコミュニケーション。これらのデジタルによるコミュニケーション手段の他、テレビコマーシャルやタクシー広告、書籍、新聞/雑誌などのトラディショナルなコミュニケーション手段も活用していると言います。

コミュニケーションによって、法人事業が取り扱う製品/ソリューションを認知してもらった上で、その使い勝手や利便性を「実感」してもらうというのが、次のステップです。「実感」を促すための接点としては、デジタルではwebサイトやウェビナー、リアルでは営業やイベントなどを利用されています。

また、ソフトバンクは東京 竹芝の本社と名古屋にExecutive Briefing Center(EBC)という体験型施設を設けており、お客様がこの施設で実際の製品やソリューションに触れることができるそうです。

このように、「認知」「実感」のそれぞれの施策で、デジタルとリアルのコミュニケーションを巧みに使い分けている同社ですが、デジタルによるコミュニケーションでは、アドビ製品の活用によって作業工数の削減や反響の改善を実現しています。

グラフィカル ユーザー インターフェイス 自動的に生成された説明

例えば、「認知」のためのバナー広告制作では、生成AIによって広告の文言や画像を作成できる「Adobe Firefly」を活用されています。

「試しに同じ内容で、人間がすべてを制作したバナー広告、人間が文言を生成AIが画像を制作した広告、生成AIがすべてを制作した広告の3つを打ってみたところ、人間が文言、生成AIが画像を制作した広告がクリック数、クリック率ともに最大でした。生成AIがすべてを制作した広告は、それに次ぐクリック数、クリック率でしたが、作業工数は最も少なく、短時間で広告を量産 できることが分かりました」と上野氏は評価しました。

内製化によってwebページの大量制作が可能に

同社はwebサイトなどのコンテンツを管理(CMS)できる「Adobe Experience Manager」も導入されています。

導入の主な狙いは、webサイト運用の内製化を進めることによって、製品/ソリューションごとにバラバラだったページデザインのトーン&マナーを統一することにありました。

「従来は、各製品/ソリューションのプロダクト担当者から伝えたい内容や素材データを受け取り、その都度、外部に制作を委託していました。その結果、ページごとのデザインに統一感がなくなってしまったのです。ブランドガバナンスを高めるためにも、全体のトーン&マナーをそろえる必要があると考え、内製化に踏み切りました」

内製化により、ページの更新作業にかかる時間も大幅に短縮。以前はプロダクト担当から修正依頼を受け、ページを更新するまでに15日以上かかっていましたが、いまでは最短即日に更新が可能になったと言います。

「外注費用を大幅に削減できており、web制作コストはAdobe Experience Manager を導入した2年前に比べて 80%も削減。ページの新規作成数や更新数は 2年前の3倍 になっています。結果的にページビューも増え、web起因の変動利益も4倍になりました」と上野氏。

700種類以上もの商材を扱うソフトバンクの法人事業にとって、いかに効率良く、大量のページを作成、更新できるかということは収益に直結します。その意味でも、内製化で大量、かつ迅速にwebページ制作ができるようになったのは、大きな成果だったと言えるでしょう。

上野氏は、今後のソフトバンク法人事業のブランド戦略について、「Z世代を意識してSNSによる認知獲得を強化する一方で、AIの活用もさらに推し進めていきたい」と語ります。これからの取り組みにも、ぜひ注目していきたいですね。