優れた顧客体験の提供に向けた企業のあり方 vol.1
メタバース時代に欠かせない企業が備えるコミュニケーション力とは?
近い将来、メタバースの時代が来ると言われています。しかしその実像は、まだ曖昧です。だからといって、企業は何もしないで良いというわけではありません。従来のコンテンツ形式に加え、メタバースの中心となる3D技術を取り入れ、総合的に管理できる仕組みを持つことで、顧客とのより効果的なコミュニケーションが可能になると考えられます。これから3回にわたり、メタバースに代表されるデジタル体験の新局面において、企業に求められる新しい業務プロセスや組織のあり方、そしてテクノロジーについて、アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 市場開発の阿部成行よりご説明していきます。
もくじ
- メタバースは進化するデジタルコミュニケーションの延長線上にある
- 企業と顧客の接点は、間違いなく3D化していく
- パーソナライズに欠かせないデータとコンテンツの連携
メタバースは進化するデジタルコミュニケーションの延長線上にある
近頃、メタバースが話題となっており、皆さんもVR(バーチャルリアリティ)ゴーグルを使った仮想空間での買い物やイベントなどの体験を想起される人が多いかと思います。しかし、その体験によってどんな効果があるのか、あるいはビジネスにはどのように活用できるのかという情報は、ほとんど見えていないのが現状です。
改めて、今、メタバースはどう語られているのかを見てみましょう。まずは、その定義や社会にもたらすものについてまとめたいと思います。
メタバースとは、「3次元の共有没入型体験で、人々が集まり、リアルタイムで交流することができる場所」と定義されます。未来的な話に聞こえるかもしれませんが、私たちはすでにVRのゲームやアプリケーションなどで体験しています。
また、ほとんどのメタバースでは、共有経済を持ち、体験の中での売買や取引ができるようになります。同時に、それらの体験はすべて測定され、パーソナライズされていきます。
これらの体験を進化させるキーテクノロジーが、3D機能です。近年、3Dの技術は飛躍的に向上しており、今後は現実世界との融合が進んでいくのは間違いないでしょう。
この進化はメタバースという世界に限ったものではありません。メタバースは、ある日突然現れるものではなく、デジタル化が地続きで進展する流れの先にある世界の一つなのです。
企業と顧客の接点は、間違いなく3D化していく
メタバースの実現は2030年を一つの目標としていますが、それを待たずに、すでに3Dコンテンツの活用で成功を収めている企業があります。ここで2社の例をご紹介していきましょう。
1社目はAmazon.com, Inc.です。同社は社内に3Dスタジオを設置して、400人以上のデザイナーが日々家具や家電製品の3D化を進めています。そのデータを活用し、ECサイト内のバーチャルショールームで商品を様々な角度から検討できる仕組みを公開しています。また、顧客がスマートフォンで自宅の部屋を写して、その中に商品を置いたイメージを重ね合わせるAR体験もできます。このような3D技術を活用したことで、同社は売上が向上しただけでなく、返品率を下げることにも成功しています。
もう1社はカシオ計算機株式会社です。同社は「MY G-SHOCK」という腕時計のカスタマイズサービスを始めました。顧客に約190万通りの部品の組み合わせを提供し、3Dツールを使って自由に選んでもらうことで、どこにも存在しない自分だけの仮想的な商品を組み立てて、それをオーダーして買うことができるのです。それと同時に、SNSで発信する仕組みも組み込んでいます。まったく新しい「作る」という体験を提供し、パーソナライズした商品による満足度も向上させる優れたサービスとなっています。
他にも様々な企業が、3Dをビジネスに本格的に取り入れ、成功しています。今後、小売やサービスの場で顧客との接点が3D化していくことにより、魅力的なコンテンツがキーになっていくというのは間違いないでしょう。そして、コンテンツとデータは、今まで以上にビジネスの領域で中心的なトピックとして扱われるようになるはずです。
当社では、ユーザーとのコミュニケーションを行う顧客接点を構築する3Dコンテンツのプラットフォームと、そこから出てくるデータのプラットフォームの両方を提供することにより、企業が各バリューチェーンのポイントで顧客と一対一でつながることを可能にしています。
これはどういうことかと言いますと、例えば、開発で作られたCADデータを、企業のマーケティングや営業部門が顧客との接点においてそのまま使うことができるようになります。上記のカシオ計算機の例でも利用されていますが、さらに進めることで、企業は一度も作ったことのないプロトタイプの3DモデルをSNSで公開し、顧客の反応を知ることができるようになるでしょう。
3Dはメタバースのためだけでなく、リアルビジネスを進化させるために、あらゆる場面で活用が始まっているのです。
コンテンツのフォーマットは文字から画像、音声、動画へと進化してきました。そしてメディアは、印刷物からweb、モバイルへとこの40年間で広がりました。
これからの3Dコンテンツを中心としたメタバースの世界でも、優れたコンテンツが成功のカギを握ることは間違いありません。3Dコンテンツは未来のテーマではなく、すでに効果の出るアプローチであり、取り組んでいくべき課題なのです。
パーソナライズに欠かせないデータとコンテンツの連携
3D体験をビジネスとして活用するには、大量のコンテンツを効率良く作成し、アセットとして管理する環境が不可欠です。将来、人々がメタバースの中で多くの時間を過ごすことになれば、より多くの3Dコンテンツを消費し、カスタマイズすることになっていきます。
これまで企業は、3Dコンテンツを作る際に、都度制作会社へ発注していたかと思います。しかし、それでは大規模なパーソナライゼーションには対応できず、間に合わなくなるでしょう。
また、1つのコンテンツを複数のチャネルに向けて配信することも必要になります。ここでも効率化が求められ、アプリ用なのか、web用なのかなどによって、自動的にバリエーションを作成することができなければいけません。そのため、顧客のニーズやチャネルに対応したコンテンツを自動的に作り分けるシステムが必要です。
こうしたコンテンツの自動生成の起点になるのが、顧客の行動データです。メタバースの定義でも触れた通り、3Dとパーソナライズは、これからの企業のサービスにとって欠かせない要素になります。どんなに美しい3Dコンテンツでも、自分にまったく関係ないものでは、興味を引きません。そこに没入していくためには、パーソナライズされたコンテンツであることが極めて重要です。そしてパーソナライズのためには、顧客の行動データを収集し、コンテンツ提供に指令を与える仕組みが必要になっていきます。
企業はこれまで、顧客の性別や年齢など、属性情報の収集と管理に力を入れてきました。しかしメタバースの時代には、男女といった性別が関係ないアバターが活動することもあります。大事なのは、何に興味を示し、何を目的にどう行動したか。この情報を集め、コミュニケーションしていくことが最も重要です。
このような顧客のアクションを起点にした情報分析と、それに連動するコンテンツ作りや管理がそろうことで、メタバースの時代にも優れた顧客体験を提供できる企業になれると思います。
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次回は、優れた顧客体験の提供に欠かせない、企業のコンテンツ管理と顧客データ基盤の連携についてお話しいたします。