自動車業界の市場開拓に向けたコンテンツ&データ活用
デバイスの進化に伴い、コンテンツを軸とした顧客コミュニケーションの手段が多様になりました。顧客ライフサイクルが複雑化し、ブランドとの接点の持ち方が顧客の手に委ねられた今、いかにコミュニケーション設計をしていけば良いのでしょうか。今回は自動車業界にフォーカスし、昨今のモビリティ社会に求められる『共創型』コミュニケーション戦略の新たな視点についてご紹介します。
コンテンツ&データで共感や共創を増幅させる
コミュニケーションを語る上で欠かせないのが、顧客接点となるデバイスです。まずは、デバイス発展の歴史を簡単に見ていきましょう。
PCとインターネットの登場、スマートフォン、多様化へ
黎明期のデバイスはPCです。PCはテキストの表示しかできない状態から始まりました。その後の高性能化で、画像やサウンドを活用できるようになり、動画再生もできるようになって、徐々にコミュニケーションの道具として進化を遂げてきました。そこからインターネットが登場し、テキスト、画像、サウンド、動画をネットワーク経由で配信できるようになったことで、コミュニケーションの道具からインフラへと発展していったのです。
そしてスマートフォン、iPhoneやAndroidが登場しました。こちらもまたテキスト、画像、サウンド、動画へと表現の幅が広がっていきました。
さらに、デザインテック業界で著名なJohn Maeda氏が「どうやら我々は永遠に続くループに囚われている」と述べているように、デバイスの多様化も続きます。車内でNetflixを見られるようになったことで、我々は新たに車というデバイスを手にしたと言えるでしょう。
これらの劇的な進化が起きたのは、ここ40年間ほどのこと。アドビも2022年に米本社創業40周年を迎えましたが、デバイス上でコンテンツを正しく表示する技術において、一翼を担ってきたと自負しております。
コンテンツから共感、共創へ
モノ(デバイス)の進化によって情報への接点が増加しました。それだけでなく、SNSの普及などにより、人々が集うマチ(コミュニティ)をデバイス上で表現できるようになり、世の中は大きく変わりました。言うなれば、モノの発展にはマチが必要であり、そこで生まれた“楽しさ”や“感動”に人々が共感することで、市場が広がっていくのです。
それを証明しているのが、日経トレンディと日経クロストレンドが発表した「2021年ヒット商品」で1位を獲った「TikTok売れ」。自分の趣味や嗜好に関するデータをTikTokに渡すことで、自分の欲しい体験が手に入る。この合意形成ができている状況は、パーソナライゼーションの理想形ではないかと思います。共感や共創で回り続けるエンジンがデータをどんどん収集し、さらにそのデータが、共感や共創を増幅していると言えるのではないでしょうか。
共感や供創を増幅させる要素としてのメタバース
今後はSNSの発展形として、メタバースが来ると言われています。もしメタバースが経済ともつながった世界として進化するならば、メタバースの中でコンテンツを作る共創行為そのものに価値が生じることも考えられます。
このようにデジタル社会が進んでいくと、顧客行動も今まで以上に選択肢が増えていくでしょう。過去にあったようなわかりやすいライフサイクルで、企業が指定したチャネルでブランドとコミュニケーションをとる時代は、終焉を迎えているのではないかと思います。いつ、どこで、どのようにブランドと関わるかは、今や顧客の手にかかっているのです。
一貫したコミュニケーションを実現するコンテンツ管理のあり方とは
顧客のライフサイクルが複雑になるなかで、オムニチャネルを通じて一貫したコミュニケーションを提供する重要性は増しています。顧客と接点を持つたびに得られる顧客属性データや顧客行動データを収集し、つなぎ合わせながら、顧客の興味や関心に応じたアクションをとっていく必要があります。
顧客のためのアクションは、データとコンテンツの連携で
アクションをとる際には、必ずコンテンツが伴います。TikTokの仕組みからも分かるとおり、データはコンテンツから生まれるのです。データとコンテンツの連携は、顧客とどのように関係を構築していくかを考える上で、とても重要なポイントとなります。
データとコンテンツを連携するには、コンテンツを一元化、集中管理しなければなりません。それは、社内の異なる事業部門間、メーカーとディーラー、本社と支社など、組織の垣根を越えて、すべてを集約するということです。なぜなら、顧客にとっては、そのような企業側の垣根にまったく意味がないからです。
とはいえ、あらゆるコンテンツを一元管理することは、口で言うほど簡単なことではありません。アドビがライセンス提供だけでなくコンサルティングや導入支援までご提供できるのは、長年にわたる自らの経験によって積み上げたノウハウがあるからです。
コンテンツを一元管理できる仕組みが整ったら、さらに市場を広げるために、コンテンツや体験を分散、共有、共創する方法について考えてみましょう。なぜなら、中央集権的なモデルの場合、もともと車に興味や関心のある顧客にしかリーチすることができないからです。車に興味や関心のない顧客と接点を広げるためには、コンテンツの解放を通じて“楽しさ”や“感動”を提供しながら、マチ(コミュニティ)を活用していくことが大切です。
コンテンツでエンゲージメントを高める方法
実現例のひとつとして、アドビのテクスチャー技術を使った、バイクのオンラインコンフィギュレーターがあります。こうしたものは、従来メーカーのサイト内でしか体験できませんでした。しかし、これをエンターテインメントのコンテンツとして解放し、「自分のペットの写真をバイクのタンクに貼り付けたデザインをSNSでシェアしてもらう」といった楽しみ方をしてもらってはいかがでしょうか。いっそのこと3Dデータを顧客にお渡しして、メタバース空間で楽しめるようにすれば、多くの人々のエンゲージメントを高める触媒として活用できるはずです。
別の実現例として、自動車に設置されたカメラの映像を共有することで、同乗していない人ともドライブ体験を共有しよう、という“体験を通じた市場創造のアプローチ”があります。さらに、マルチカメラの映像データをリアルタイムでAIが編集して、ドライブが終わる頃にかっこいいロードムービーのような作品がスマホに送られてきたら、とても素敵な体験になると思いませんか。このようなデバイスと連携したコミュニケーション設計は、今後さらに重要性を増していくと考えられます。
テクノロジーが支える共創型コミュニケーション
体験を通じて新たな市場開拓を図るには、コンテンツの波及を進める必要があります。しかし、そこには多くの課題が伴うことも事実です。
コンテンツを波及させることの課題
たとえば、「拡散されたコンテンツの統制」をどうするのか。フェイク情報が出回ったり、ブランド毀損につながったりするリスクがあることは否めません。あるいは「行動データ(利用履歴)の取得」をどうするのか。せっかく拡散されても、顧客の利用動向をデータとして取れなければ、次のアクションに活かすことはできません。さらに、「プラットフォーム間の品質管理」についても考える必要があります。特に3Dの場合、表示品質は顧客の利用環境に依存するため、たとえば「本当は鮮やかな赤色なのに、人によってはワインレッドに見えてしまう」といったことが起きてしまうからです。
こうした課題を解決し、供創型コミュニケーションの推進に役立つと期待できるテクノロジーが次々と登場してきているので、いくつかご紹介していきましょう。
供創型コミュニケーションのためのテクノロジー(1):CAI
まず、コンテンツの拡散と真正性の確保という課題です。これに対応した「Content Authenticity Initiative(CAI)」は、データの改ざんを防止するためのネットワークです。この活動の一環として、「Content Credentials」という機能が発表されました。これは、コンテンツの改ざんを防止するために、コンテンツの著作者と変更履歴の情報を暗号化してコンテンツに組み込むものです。さらにブロックチェーンを応用することで、拡散された先で何が起きているか確認できるようになるという期待もできるようになっています。この分野はまだまだ発展途上ではありますが、有望な技術として注目が集まっています。
供創型コミュニケーションのためのテクノロジー(2):3Dコンテンツの再現品質の確保
次に、3Dコンテンツの品質管理に関する課題です。現状は、表示するシステムごとにコンテンツを作成する、という対処法しかありませんが、それではコンテンツ制作に、コストも時間も余分にかかってしまうのが問題です。そこでアドビは、3Dテクスチャー技術に投資し、クロスプラットフォームで汎用的に使えるテクノロジーの開発に取り組んでいます。アドビでは創業当初から文字や画像の情報をデバイスから独立させ、どのようなデバイス環境でも同等の品質で再現できるクロスプラットフォームの価値を提供してきました。これを、3D表現でも実現していこうとしているのです。
アドビの顧客体験管理基盤
この図は、アドビの考える顧客体験管理基盤の構成となります。顧客を中心に据えて、それぞれの段階で適切な体験を届けていきます。大切なのは、購入前と購入後の顧客を、共感や共創によるコミュニケーションによって、どのようにつなげ、顧客体験の価値を増幅させていくのか、という視点です。これを具現化するためにアドビは、データとコンテンツの両方を組み合わせた顧客体験管理基盤(CXM)をご提供します。デジタルを通じた体験で、ワクワクする社会を実現するお手伝いをさせていただければと思いますので、Adobe Experience Cloudの導入をぜひご検討いただけると幸いです。
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