低コストで適切な人材確保を – 採用マーケティングへの挑戦
カスタマーサクセスチームで定期開催している「Marketo Studio(通称Mスタ)」。本ウェビナーでは、毎回ゲストのユーザー様をお招きし、Adobe Marketo Engageの活⽤実践例を存分に語っていただいています。今回は、Mスタで披露いただいた認定NPO法人フローレンス様の採用マーケティング事例について、アドビ 松井真理子よりご紹介します。
1件1件のリードをもっと大切にするために
Adobe Marketo Engageを導入して約2年が経ったという認定NPO法人フローレンス様。「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」をミッションに、病児保育事業やみらいの保育園事業、障害児保育事業など、様々な事業を展開されています。
そんなフローレンス様では看護師や保育士の採用に力を入れていると言いますが、事業の拡大スピードに合わせて人材を確保するのは容易なことではありません。人材紹介会社を使うほど採用予算がないという課題もありました。
フローレンス様の採用体制は、事業部ごとに配置された採用担当者が1名。こちらは採用イベントの運営に加え、求職者との1対1の対応や後追いも担います。そしてAdobe Marketo Engageを活用する採用マーケティング担当者が2名。1対Nのコミュニケーションを担当しています。
人材紹介会社を使うよりも、Adobe Marketo Engageを活用して採用マーケティングをしたほうが良いとフローレンス様が考えた理由は、何だったのでしょうか?
それは大きく2つの課題があったと言います。
①採用イベント参加からの応募率を高めたかった
採用イベント参加からの応募率は約30〜40%。一般的には悪くない数字ですが、フローレンス様が採用したい人材は、看護師や保育士の中でも病児保育や障害児保育に興味を持つ“レア”な人材です。約60〜70%の未応募の求職者をそのまま放置するのは非常にもったいない状態でした。それを分かっていながらも、限られた採用担当の工数ですべての未応募者までフォローするのは現実的に難しいという課題がありました。
②採用単価を下げたかった
事業の特性上、フローレンス様では緊急かつ必須の採用オーダーが頻発します。認可保育園では、子どもの人数に対する保育スタッフの人数の規定があるため、家庭の事情で急に退職しなければならなくなった人員が出た際に、期限内に補填することが求められるからです。そうしたときは人材紹介会社を使わざるを得なくなり、採用単価が上がってしまうという課題がありました。
これらの課題を解決するために、Adobe Marketo Engageのエンゲージメントプログラムを使って、最適なタイミングで最適なアプローチをすることで、ナーチャリングの過程でさらに好きになってもらい、1件1件のリードを大切にして確実に応募してもらおうと考えたのです。
デジタル×アナログで突破口を開く
しかし、実際にAdobe Marketo Engageを活用し始めてみると、思うような成果を得られない日々が続いたと言います。スコアをトリガーにしたスペシャルオファーを送付してみても、スコアの上昇と応募に相関関係が見られない/スコアの高い人が質の高い人材とは限らないため、面接してもなかなか採用には至らない/応募意欲別にコンテンツを作ってみても、反応に差異が見られない/休眠ステータスになってしまった人を成功パスに戻すのが難しいなど……。
結果に結びつかないまま1年ほど経った頃、データ分析を行ってみたところ、様々な気づきがあったと言います。
・求職者の行動をデータで追ってみると、そもそも リードタイムが非常に長い(平均6カ月)ことを発見。
・応募率に変化はほとんど見られなかったが、スペシャルオファー経由の採用担当者との 個別面談には好反応 が見られ、そこからの応募はちらほら生まれていた。
・休眠リードでも採用担当者が 電話をすれば出てくれる。
看護師や保育士は子どもが相手の仕事のため、転職を考えて採用イベントに参加しても、再び現場に戻ると「この子たちを置いて転職できない」という心境になってしまいます。あるいは、転職はしたいけれど、引き止めにより結局転職する気力がなくなってしまうことも。求職者がこのような心情を持っていることから「すぐに反応が返ってこないのは当たり前」だと認識したと同時に、Adobe Marketo Engageだけで結果を出そうとするのは間違っていたと気づいたそうです。
デジタルだけではなく、デジタルとアナログの掛け合わせ、つまり「マーケティングだけでなく、採用担当者と協力してやってみよう」という結論に至ったのです。
「採用担当者と求職者が接触を積み重ねるところをAdobe Marketo Engageでサポートできないか」と発想を切り替え、採用担当者と連携するために工夫したのが、次の3つの施策だったと言います。
- 採用担当者も馴染みがあり、UI/UXがシンプルなkintoneにAdobe Marketo Engageの情報をリンクさせて、CRMとして活用してもらう。
- Adobe Marketo Engageを使っていない人にスコアの話をしてもピンとこない。単に情報をリンクさせるだけでなく、採用担当者が直感的に理解できるよう、情報を加工する(スコアをそのまま見せるのではなくABC)。
- 後追いのニーズに合わせて優先順位を設定できるよう、複合的な判断基準を提供する(タイムリー度や関心度で並べ替えられるように)。
注意したいのは、いきなりこの3つの施策を狙い撃ちで行ったわけではなく、採用担当者に何度もヒアリングを重ねて少しずつチューニングを繰り返した結果、たどり着いたのがこの3つだったという点です。
やっと見えた、大きな成果の兆し
こうして2〜3カ月でAdobe Marketo Engageのデータをkintoneに取り込めるよう、整備を行ったフローレンス様。これら2つのデータを統合するとともに、採用担当がスプレッドシートで自由に管理していた求職者情報や、sonar ATS(採用管理ツール)の情報の整理も行ったそうです。
採用担当者がkintoneを見て求職者の状態を直感的に把握できるようにするため、Adobe Marketo Engageやsonar ATSのデータを加工し、次の3つの指標で管理できるようにしました。
・関心度…各事業部で持っているスコアを加工したもの。上位約20%をA、下位約20%をC、残り約60%をBとして、Adobe Marketo Engageのスマートキャンペーンで定義。
・タイムリー度…サイト訪問やメール開封などによって最後にスコアが変更されてから、1週間以内ならA、3カ月以内ならB、それ以上だとCで表示。
・応募意欲…採用イベントで回収したアンケートや、エンゲージメントプログラムの中で定期的に配信するアンケート項目によって聞き取り調査を行い把握。
図:採用CRM としてのkintone with Adobe Marketo Engage
こうして採用担当者が自ら優先順位をつけて後追いできる仕組みを整えたことで、応募や内定につながるケースが出てきて、採用単価を押し下げる結果となりました。
「もともとリードタイムが長いので、今になって成果が出てきた可能性もあるとはいえ、Adobe Marketo Engageのデータをもとに後追いすべき人がひと目で分かるようになったことで、それぞれに最適なメールを送れるようになり、応募につながる率も非常に高くなりました」(フローレンス様)
加えて、誰がどのくらいの関心度があり、応募意欲がどれくらいあるのか、といった有望リードも把握できるようになり、急な採用ニーズが発生したときでもすぐに対応できるようになったと言います。採用担当者が「この人なら、今アプローチしたら応募してくれるかも」と目星をつけた人に電話で直接コンタクトを取ることで、応募につながった事例も出ているそうです。
最後に、さらなる進化を目指しているというフローレンス様。Adobe Marketo EngageとkintoneをAPIで接続した上で、kintoneをもう少し作り込めば、ATSが不要になることが分かり、鋭意開発を進めているとのこと。データベースの分散をなくすことで、求職者のステータス管理に必要な工数を削減できるからだそうです。
図:採用マーケティング用の収益サイクルモデル
人材獲得競争は激しさを増しており、採用担当者は常に悩みを抱えています。自社にぴったりな人材をマーケティングの力で獲得する採用マーケティングの取り組みは、採用する側も採用される側も幸せな状態を作り上げるチャンスがあります。今回はAdobe Marketo Engageを採用マーケティングに活用され、大きな成果の兆しが見えてきたフローレンス様の事例をご紹介しました。また次回の更新をお楽しみに。
※掲載された情報は2021年2月現在のものです。