ニッチ市場で成果を出すデジタルマーケティングの可能性

「ニッチな市場ではデジタルマーケティング施策を実施するのは難しい」とお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、今回ご紹介するコクヨ株式会社様では、官公庁を主なターゲットとしたビジネスを展開されている事業部でマーケティングオートメーションやwebサイトを活用され、開始から約2年半で新規リード獲得数7,000件という目覚ましい成果を上げています。

具体的にどのような取り組みをされてきたのか、7月13日に行ったユーザー総会「Adobe Marketo Engage User Group Day (通称MUG Day)」にご登壇いただいた、同社 ワークプレイス事業本部TCM本部 TCMマーケティング部 プロモーションGグループリーダーの青柳 由美子氏と、同グループで2023 Japan Adobe Advocatesに選出された芳野 延博氏による「デジマ市民権獲得への挑戦」と題したセッションの内容をご紹介します。

なぜボトムアップでデジタルマーケティングに挑戦したのか

コクヨ様のワークスタイル領域の中で、空間作りを担うワークプレイス事業本部。同事業本部の中でも、青柳氏と芳野氏が所属されているのは、官公庁/教育/医療といった特殊な市場を担当するTCM(ターゲットカテゴリーマネジメント)本部です。

Adobe Marketo Engage導入以前は、フィールドセールス中心にビジネスを動かす文化が根付いており、マーケティングに携わるメンバーは青柳氏と芳野氏に加え、もう一人のメンバーもマーケティング未経験でした。しかも、経営からのトップダウンでマーケティングを始めることになったわけでもなく、全社的な営業改革が行われていたわけでもなかったことから、特別な予算も出ていなかったそうです。

そのような状況でもマーケティングを始めた背景には、「顧客の変化」がありました。具体的には、2005年頃をピークに全国的な市町村合併や老朽化による自治体庁舎の建て替え需要があったものの、昨今は落ち着き、発生件数は鈍化傾向にありました。一方、コロナ禍、デジタル化、少子高齢化といった、行政を取り巻く環境が激変していることから、新たな働き方に合わせたリニューアル需要が生まれています。

営業が把握しきれていない新たな顧客ニーズを素早くキャッチし、効率的かつ効果的に顧客と接点を持つためには、新たな仕組みが必要でした。また、社内の別事業部ですでにAdobe Marketo Engageを導入済みだったことから、官公庁事業でもAdobe Marketo Engage活用にチャレンジしようと考えたのです。

「その道のりは平坦ではなかった」 と語る青柳氏。試行錯誤の過程をご紹介していきます。

ニッチな市場で平均獲得単価2,000円を実現できた3つの理由

マーケティングに取り組み始めた当初、他の事業部ではすでに、Adobe Marketo Engage、Sansan、Salesforceは連携されていましたが、官公庁事業での利用は想定されていなかったため、大量のリードの中から対象となる官公庁のリードを探すところから始めなければならなかったそうです。

「社内外でヒアリングを重ねながら、団体単位で法人番号リストを作成し、官公庁顧客を把握できるようにするとともに、新規でリードが入ってきた際に自動で官公庁顧客だと把握できるよう、Adobe Marketo Engageでスマートキャンペーンを設定していきました。また、ターゲットリストも整理して、団体レベルだけでなくターゲットにしたい5部門を設定。これらの作業に半年間かかりました」(芳野氏)

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他方、デジタルマーケティングにおいて重要な顧客接点となるwebサイトについても、テコ入れが必要な状態でした。それまでのwebサイトのコンテンツは定期的に更新されていたものの、既存顧客に向けた自治体事例や商品情報の発信にとどまっており、大規模改修は約7年間行っていない状態でした。SEO対策や広告も実施していなかったと言います。このままでは新規訪問者数を増やすことができません。加えて、コンバージョンが問い合わせしかなく、新規リード獲得のハードルが高いという課題もありました。

そこで、予算取りから企画/改修まで、さらに半年かけて大々的な改修を実施。工夫された点は次の3つだそうです。

自社webサイト流入増加を狙った工夫

①自治体向けの専門媒体に情報を掲載。

②セミナー資料ダウンロードのカテゴリーを新設し、Adobe Marketo Engageの機能を使って、2回目以降のフォーム入力は省略できるように設定。“ついで買い”しやすい環境を整備。

③コンテンツの掲載/削除をしやすいよう、新たなCMSを導入。LPのフォーマットも用意しておくことで、情報を更新しやすくする。

このようなweb改修を進めると同時に、コンテンツの作成も進めていたと言います。「我々の顧客である自治体や中央省庁は、次年度の予算を決めるタイミングが毎年9〜10月と決まっています。そこに向けて情報収集されるため、我々にとっては4〜9月までが勝負。ここで集中して多くのコンテンツを出すようにしています」(芳野氏)

図:コンテンツ×集客手段(チャネル)の例

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こうした取り組みの結果、2年半で約7,000人の新規リードを獲得を実現。しかも平均獲得単価は、一般的な相場の5分の1である2,000円だったそうです。なぜそんなに獲得単価を抑えられたのか、芳野氏は次の3つの理由を挙げました。

①効果測定をしながら「スモールスタート」にしたこと。

流入元経路をパラメーターで把握するなど、ツールの機能を使いこなして、細かく効果測定を行う。A/Bテスト機能を活用し、最適解を見つけていく。

②「内製:外注=7:3」にすることで、効果的かつ効率的なコンテンツ作成を行えたこと。

企画や内容は、お客様のことを一番よく理解している自分たちで考える。オペレーションはなるべくAdobe Marketo Engageに任せる。例えば資料ダウンロードに関しては、Adobe Marketo Engageで「資料URL」と「タイトル」の2つのトークンを変更するだけでコンテンツを掲載できるようにしておく。

③「地道な振り返り」によって知見を蓄積していったこと。

コンテンツの一覧表を作り、計画フェーズの際には「5W1H」「費用」「連携先」などを、振り返りフェーズのときには「効果(定量・定性ともに)」「工数」などを、各担当者が入力。同じ施策を来年もやりたいかどうかを月1で必ず議論し、次のコンテンツ計画に生かす。

図:最適解を導くためのプロセス例

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デジマ市民権を得る“仲間作り”で売上貢献を目指す

こうしてマーケティング部門は顧客にダイレクトにアプローチできるようになったものの、デジタルマーケティングの最終目的である売上貢献には 「営業部門の理解と連携」 が不可欠でした。

「もともとインサイドセールスの組織は存在せず、営業活動をデータで可視化する文化もありませんでした。『マーケティング部門が何かやっているな』という雰囲気があるだけで、営業部門の理解と連携はなかなか進んでいませんでした。獲得したリードの情報や顧客の行動情報を提供するくらいしかできなかった、というのが正直なところです」(青柳氏)

この突破口となったのが、お客様からのwebサイト経由でのお問い合わせでした。この小さな成功体験を営業と共有していくことが大切だと考えた青柳氏は、営業に向けた勉強会を開きました。

「とにかく 当事者意識を持ってもらう ために、タイトルには『営業が使う!』と付けました。勉強会では、顧客のアクティビティログや生のデータを一緒に見ながら事細かに説明し、データの裏にお客様がいることを実感してもらえるようにしました」(青柳氏)

図:営業向け勉強会テーマの例

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勉強会と合わせて、若手を取り込んだワークショップも実施。「アクティビティログを読み取ってみよう」「読み取った事実を基に提案ストーリーを作ってみよう」「行動情報の提供タイミングと内容の話し合い」といったプログラムに取り組んでもらう中で、マーケティング部門だけでは気付かなかった視点を得ることができ、情報共有の方法や送客方法の見直しにもつながったそうです。

「まだまだ胸を張れるような成果は出せていませんが、ボトムアップのナイナイ尽くしでスタートしたからこそ、失敗を恐れずにトライ&エラーを重ねることができました。我々のような特殊な市場でも知恵と工夫次第で可能性は広がるのではと思っています。これからも売上貢献という最終目的を見据えながら、地道な努力と仲間作りを続けることで、高みを目指していけたらと考えています」と語り、青柳氏はセッションを締めくくりました。

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