効果的なKPI共通化と可視化 - Chatworkの事例から学ぶ戦略
2022年12月5日に開催したAdobe Marketo Engageのオフラインユーザー総会「MUG Day」の中から、Chatwork株式会社様の事例をご紹介します。ご登壇いただいたのは、「2022 Adobe Marketo Engage Champion」に輝かれた北川峻氏です。「Chatworkが実現した3つのモデルとSales-ops」と題したセッションでは、22年に刷新したという同社のビジネスモデルを、Adobe Marketo Engageを活用して、どのように具体策へと落とし込んだのか、詳しくお話しいただきました。
もくじ
- 新たなビジネス戦略をAdobe Marketo Engageで具現化
- KPIの共通化/可視化で部門間の垣根を越えろ
- 架電のタイミングを逃さない
- ユーザーコミュニティに参加するメリット
新たなビジネス戦略をAdobe Marketo Engageで具現化
2011年にリリース後、41万社以上(2023年6月末時点)が導入しているビジネスチャットのChatwork。北川峻氏は、主にChatworkユーザーのグロースを担当する部門に所属されています。
同社は、24年までにシェアを拡大し、中小企業No.1ビジネスチャットのポジションを確立。25年以降であらゆるビジネスの起点となるビジネス版スーパーアプリとして、プラットフォーム化していくことを目指しておられます。
それにともない、中期経営計画では、中心となる3つの戦略を策定。そのうちの1つである「Product-Led Growth戦略」(2022年12 月時点)について見ていきましょう。
Product-Led Growth戦略とは、プロダクト自身が事業成長を加速する戦略のこと。Chatworkの強みである紹介を通じたユーザー拡大を加速させ、強力なカスタマーサクセス体制を構築することで、有料プランのユーザーを増やしていく狙いがあります。
ちなみに21年以前の同社では、いわゆるTHE MODEL型の「Sales-Led Growthモデル(インサイドセールスを中心に直接販売)」と「フリーミアムモデル(完全にオンラインのみでユーザーが自身の意志で有料化する)」の2つのビジネスモデルが柱となっておられました。
そこから、まずはプロダクトのフリープランを利用してもらい、プロダクトを通じて価値を伝え、有料化へとつなげるProduct-Led Growth戦略に切り替え、次の3つのモデル体制へと変更したのです。
SLGモデルは、従来のTHE MODEL型と同じです。Chatworkの特性上、セールスからのハイタッチがどうしても不可欠なユーザーが一定層いるため、セールスを通じてChatworkの価値を直に伝えるモデルを残しているそうです。
PLSモデルは、Sales-Led GrowthとProduct-Led Growthのハイブリッド。プロダクトで価値を伝えるだけでなく、セールスのハイタッチを掛け合わせることで、有料化への検討を加速させるモデルです。
CSQLモデルは、既存の有料プランユーザーの活用度を高め、ライセンス追加や周辺サービスのクロスセルを促進するモデルです。このモデルでは企業規模と現在のライセンス数の差分を常に把握することが重要なポイントとなります。
これらのモデルを併存させ具体的な運用オペレーションに落とし込むために、同社ではAdobe Marketo Engageの収益サイクルモデラーを活用されています。Chatworkの有料化前後でリードのステージ管理が大きく異なるため、SLGモデルとPLSモデルは共通のファネル管理をして、CSQLモデルは別のファネル管理をする設計になっているそうです。
「SLGモデルとPLSモデルから、CSQLモデルへと移行する流れがシームレスになるように意識して構築しました」と語る北川氏。これら3つのモデルを併存させることにより、「ハイタッチすべきリードが明確になる」「ハイタッチしなくてよいリードが明確になる」「フェーズに合わせたナーチャリングができる」という効果を得られたそうです。
そして具体的な成果として、SAL数(インサイドセールスの架電対象となるリード数)が1.2倍、SALからのパス数が2.5倍、パスからの有効商談数が3.1倍になり、なんと受注契約数が8.8倍にも増加したと言います。さらに、有料化後のライセンス追加数も1.7倍に、1契約あたりのライセンス数も1.4倍に増加するという目覚ましい結果を出されています。
KPIの共通化/可視化で部門間の垣根を越えろ
次に、マーケティング部門とセールス部門でKPIを共通化/可視化されたお話に入ります。
かつては部門ごとに異なる指標責任を持っていたという同社。以下の図の上段を見ると、受注に至るまでのKPIが部門ごとにきれいに分けられていることが分かります。「見るべきKPIが部門ごとに異なると主張が食い違うことがあり、各部門での認識が合わないことが多かった」と北川氏は振り返ります。
そこで22年に指標の分け方を、以下の図の下段の形に変更されました。多くの指標が3つの部門でオーバーラップしていることが分かります。「このように共通の指標を追うことで、同じ数字を見て話ができるので、各部門で同じ目線と意見を持って質と量を追えるようになりました」(北川氏)。
同社ではKPIを共通化することに加えて、達成状況の可視化も実現されました。
それまでは、リード数やSAL数、パス数などの様々な指標を、月ごと、日ごと、チャネルごとに様々な切り口で追いかけていたそうです。さらに、アウトプットに使っているツールもバラバラだったと言います。そのため、同じ指標でもメンバーによって報告する数値が異なっていたり、部門間で食い違いが発生したりすることもあったそうです。
そこから、Adobe Marketo EngageやSalesforce、Chatworkのプロダクト情報など、あらゆるデータをTreasure Dataに集約し、BIツールであるredashからSQLでスプレッドシートに抽出できるようなデータベース構造を実現。30分ごとに自動でデータが更新されるようにしたことで、スプレッドシートで誰もが簡単に最新のデータを可視化できる状態にすることができました。
こうしてKPIを共通化し、達成状況を可視化したことで、数々のポジティブな効果を生み出すことができたと言います。中でも、常にマーケティングとセールスが共通の数値を見ながら会話できるようになったことで、セールスからマーケティング施策のアイデアが出てくるほどコミュニケーションが活発になったというのは、特筆すべき点ではないでしょうか。
架電のタイミングを逃さない
続いては、即架電を実現するためのセールスオペレーションの話に移ります。
「即架電によってコンタクト率が上がり、パス数を増やせること」や、「顧客属性的に即時のハイタッチコミュニケーションが最も効率が良いこと」から、Chatworkでは、即架電をとても重要視していると言います。
即架電をするにはセールスへのリアルタイムの通知が不可欠です。メールだとアラートに気づくのがどうしても遅くなりますが、チャットツールであるChatworkであればそれが実現できます。必ず対応すべきものは「タスク」、そうでないものは「メンション付きの通知」で区別することができ、セールスの即時アクションを強力に支援できます。
現在、同社で稼働中のチャット通知は20種類以上。一例を挙げると、「Salesforceで送ったメールが開封/クリックされたら、そのリードの所有者にメンションをつけて通知」「優先度の高いフォーム通過があれば、リード所有者を割り振って通知」「セールスが保持しているリードが特定のwebページを閲覧したら、そのリード所有者にメンションをつけて通知」などです。
ここでタギングに関するTipsが紹介されました。
Adobe Marketo Engageでリードのオンラインアクティビティをトラッキングするには、Adobe Marketo Engageで作成したフォームにコンバージョンさせるか、Adobe Marketo Engageから配信したメールのリンクをクリックさせて、あらかじめタギングしておく必要があります。
しかしChatworkではAPIを活用して、Chatworkへログインや新規登録をするタイミングでタギングできる仕組みを実装。これにより、Chatworkのアカウントを保有するアクティブなユーザーは、ほぼタギングしている状態にすることができているそうです。
ユーザーコミュニティに参加するメリット
最後に、北川氏からAdobe Marketo Engageのユーザーコミュニティに参加するメリットについてお話がありました。
「私はSFKETO(セフケト)というAdobe Marketo EngageとSalesforceを活用しているユーザーのコミュニティに参加していますが、Adobe Marketo Engageの強みは、このような強力なユーザーコミュニティが多数存在していることだと思っています。
ユーザーの話を聞いてモチベーションが上がったり、他社の事例を聞いてすぐに自社に反映するなど、コミュニティで流れてくる質問や議論を見ているだけでもとても勉強になります。ユーザーコミュニティにはたくさんのメリットがありますので、まだ参加されていないユーザーの方は、ぜひ参加してみてください」
https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.live/jp/blog/fragments/customer-success-chatwork